物損事故には自賠法(自動車損害賠償保障法)が適用されない

物損事故には自賠法(自動車損害賠償保障法)が適用されない

物損事故(物件事故)は、自賠法(自動車損害賠償保障法)が適用されず、自賠責保険から保険金(損害賠償額)の支払いを受けられません。物損事故と人身事故の損害賠償請求権の違いについてまとめています。

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物損事故には、自賠法(自動車損害賠償保障法)が適用されません。自賠法が適用されないと、損害賠償請求はどうなるのか、人損と物損の損害賠償請求権の違いについて、具体的に見てみましょう。

 

物損に自賠法が適用されないことの意味

自賠法(自動車損害賠償保障法)は、自動車の運行によって人の生命・身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立し、被害者の保護を図るのが目的です(自賠法1条)

 

そのため、自賠法が適用されるのは人損についてのみです。物損については、自賠法が適用されません。つまり、人的損害と物的損害の損害賠償請求権には、次のような違いがあります。

 

人的損害 物的損害
賠償請求の法的根拠

自賠法3条
民法709条

民法709条
請求の相手方

運行供用者
運転者

運転者
自賠責保険への請求 できる できない

 

自賠法が適用されないということは、次のことを意味します。

  • 運行供用者に対し、損害賠償請求できない。
  • 自賠責保険から保険金(損害賠償額)の支払いを受けられない。
  • 加害者の過失(損害賠償責任)を被害者側が立証しなければならない。

 

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

物損事故は、自賠法にもとづく損害賠償請求ができない

交通事故による人的損害については、自賠法3条(運行供用者責任)にもとづき、運行供用者に賠償請求できます。そのほかにも、民法709条(不法行為責任)により相手の運転者に賠償請求できるほか、相手の運転者が業務中に起こした事故であれば、運転者の雇用主に対し、民法715条(使用者責任)により損害賠償請求することもできます。

 

最も効果的に損害賠償を受けられる相手を選んで請求できます。自賠法3条と民法709条・715条の違いはこちらをご覧ください。

 

それに対し、物損には自賠法が適用されないので、運行供用者に対する損害賠償請求ができません。民法にもとづく損害賠償請求ができるだけです。

 

例えば、A運送会社の従業員が、A社所有のトラックを運転して商品を運送していたときに、人身事故を起こし、人損と物損の両方が発生したとします。

 

人損については自賠法が適用されます。この場合、A社が運行供用者に該当し、被害者は、A社に対して自賠法3条にもとづく損害賠償請求が可能です。運転者に対しては、民法709条にもとづく損害賠償請求ができます。

 

もちろん、二重に損害賠償請求できるわけではありません。たいていは、自賠法にもとづき運行供用者に損害賠償請求します。その方が十分な賠償金額を受領でき、相手の過失責任の証明も不要だからです。

 

物損については自賠法は適用されません。運転者に対し、民法709条にもとづく損害賠償請求ができます。この事例では、業務中の事故ですから、A社に対し、民法715条にもとづく使用者責任を追及することもできます。

 

損害賠償の関係条文をまとめておきます。

 

自賠法3条(運行供用者責任)

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

 

ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

民法709条(不法行為責任)

故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

民法715条1項(使用者責任)

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

物損事故は、自賠責保険に請求できない

自賠責保険(自賠責共済を含む)は、自賠法にもとづ強制保険であり、自賠責保険がカバーするのは、人的損害のみです。物損事故の場合、自賠責保険から支払いは受けられません。自賠責保険に対し、直接請求もできません。

 

物損に対する損害賠償を補償するのは、任意自動車保険の対物保険(対物賠償責任保険)です。

 

そのため、物損については、相手が任意自動車保険に加入しておらず、相手に賠償資力がなければ、自分の車両保険を使って修理せざるを得ません。

物損事故は、相手の過失を被害者が立証しないといけない

自賠法にもとづく損害賠償請求は、加害者が自分に過失がなかったことを立証しない限り、損害賠償責任を免れることができません(自賠法3条ただし書き)。被害者は、損害額を算定して、賠償請求すればよいのです。

 

しかし、物損については、自賠法の適用がなく、民法709条にもとづく損害賠償請求となりますから、賠償請求する被害者の側が、相手に過失があり損害賠償責任があることを立証しなければなりません。

 

なお、損害額がいくらになるかについては、民法にもとづく場合でも、自賠法にもとづく場合でも、請求する側に立証責任があります。

まとめ

物損事故には、自賠法の適用がありません。そのため、人身事故で人損と物損の両方が発生した場合には、損害賠償請求の相手方が、人損と物損で異なる場合があります。

 

また、物損については、自賠責保険からの損害賠償額の支払は受けられません。物損について損害賠償請求するには、相手に過失があり、損害賠償責任があることを、請求する側が立証しなければなりません。

 

その他にも、物損についての損害賠償請求権の消滅時効は人損より短い、などの違いもあります。物損特有の問題について詳しくはこちらをご覧ください。

 

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【参考文献】
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 426~429ページ
・『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ』ぎょうせい 332~334ページ

公開日 2021-11-20 更新日 2024/02/23 14:21:12