物損事故(車両・建物の損壊、ペット死傷)で慰謝料を請求できるか?

物損事故(車両・建物の損壊、ペット死傷など)で慰謝料を請求できるか?

交通事故による物損(物的損害)については、原則として慰謝料請求は認められませんが、特別の事情がある場合には、建物の損壊やペットの死傷に関する慰謝料が認められる場合があります。

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物損の慰謝料請求は認められない

民法の規定によれば、論理的には、物損であっても慰謝料の請求は認められるのではないか、と考えられます。民法710条は、こう規定しています。

 

民法710条(財産以外の損害の賠償)

他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

この規定によれば、「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず」とありますから、財産権の侵害(物損)についても、慰謝料請求が認められそうです。

 

財産権侵害のみの場合には、慰謝料の請求は認められない

現実には、財産権の侵害のみの場合、慰謝料請求は認められません。

 

それは、被害者が財産的損害について適正な損害賠償を受けることができれば、財産権侵害にともなう精神的損害も同時に回復されると解されるからです。

 

物損で慰謝料の請求が認められる場合とは?

財産権だけでなく、別の権利・利益が侵害されたと評価し得る特別の事情が存在する場合には、物損であっても慰謝料請求が認められる余地があります。

 

特別の事情が存在する場合とは、次のようなケースです。

 

  • 被害物件が、被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有する場合
  • 被害物件の損傷にともない、生活の平穏を害され、人格権が侵害された場合
  • 加害行為が著しく反社会的であるなど、加害者側に悪質な事情がある場合

 

こうした特別の事情が存在する場合には、単に財産的損害に対する賠償だけでは、被害者の甚大な精神的苦痛を償えないとして、慰謝料が認められる場合があります。

 

なお、1つ目の「被害者にとって特別の主観的・精神的価値」というのは、被害者個人の特殊な感情まで保護するものではなく、社会通念上相当と認められるものであり、一般人の常識に照らして判断されます。

車両損傷に対する慰謝料請求

車両の損傷についての慰謝料請求は、認められません。たとえ被害車両がクラシックカーで、被害者にとって愛着のあるものであっても、認められていないのが実情です。

 

車両の損傷については、評価損に慰謝料的な側面がありますから、評価損として交渉するのが現実的でしょう。評価損について詳しくはこちらをご覧ください。

建物などの損壊に対する慰謝料請求

交通事故による建物などの損壊も、物損ですから、基本的に慰謝料は認められません。

 

ただし、建物など被害物件に対する侵害が、被害者の生活の平穏を侵害するような場合には、慰謝料が認められる場合があります。

 

建物の損壊で慰謝料請求が認められた裁判例

建物の損壊で慰謝料が認められた裁判例としては、次のようなものがあります。

 

居酒屋の店舗兼住居に自動車が突入した事案で、まかり間違えば人命に対する危険も生じた上、家庭の平穏を侵害したとして、30万円の慰謝料を認めました。
(大阪地裁判決・平成元年4月14日)

 

深夜に大型トラックが民家に激突した事案で、50万円の慰謝料を認めました。
(岡山地裁判決・平成8年9月19日)

 

大型貨物自動車が、被害者の家屋に衝突して損壊した事案につき、高齢者の身で住み慣れた家屋を離れ、半年間アパート暮らしを余儀なくされた心労や借財による修復工事等の事後処理に奔走した苦労等の諸事情を考慮して、被害者2名分計60万円の慰謝料を認めました。
(神戸地裁判決・平成13年6月22日)

 

このように、建物損壊に対して慰謝料が認められていますが、これらは、生活利益・人格的利益など財産権以外の利益も侵害されているケースです。建物損壊について、常に慰謝料が認められるわけではありません。

 

建物以外で慰謝料請求が認められた裁判例

建物以外では、次のような場合に慰謝料請求が認められています。

 

墓石

霊園内で墓石等に衝突した事故で、墓石が倒壊し、埋設されていた骨壺が露出した場合に、墓地等が先祖・故人の眠る場所として、通常その所有者にとって強い敬愛追慕の念の対象となるという特殊性に鑑み、10万円の慰謝料を認めました。
(大阪地裁判決・平成12年10月12日)

 

陶芸作品

加害車両が陶芸家の敷地に突っ込み、屋外に置いてあった陶芸作品を壊した事案で、破損作品の財産的価値を確定できないとして、物の価格賠償は否定しつつ、慰謝料の算定で斟酌するとし、陶芸作品の破損により陶芸家に精神的苦痛を生じたとして100万円の慰謝料を認めました。
(東京地裁判決・平成15年7月28日)

ペットの死傷に対する慰謝料

ペットは、法的には「物」ですが、生命があり、単なる物と同じように扱うことはできません。家族の一員としてかわいがっている人もいます。財産的損害の賠償だけでは、償いきれない場合があります。

 

そのため、ペットの死傷につき、飼主が受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求できる余地があります。

 

ただし、ペットが受傷したという程度では、慰謝料は認められません。慰謝料が認められる可能性があるのは、交通事故でペットが死亡した場合、もしくは、ペットが重篤な傷害を負った場合に限られます。

 

ペットの死傷に対する慰謝料が認められる場合、5万円から数十万円とする裁判例が多いようです。ペットの死傷に関する損害賠償請求について詳しくはこちらをご覧ください。

まとめ

財産権のみの侵害の場合(物損のみの場合)には、慰謝料(精神的損害に対する損害賠償)は認められません。財産的損害については、その損害が賠償されることによって、精神的苦痛も原則として回復されると解されるからです。

 

ただし、財産権だけでなく、それとは別の法益もあわせて侵害されたといえる場合には、慰謝料請求が認められる余地があります。

 

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【参考文献】
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 240ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 445~446ページ
・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 204~205ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 251~253ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 345~346ページ
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 220~222ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 305~308ページ
・『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ』ぎょうせい 340~342ページ
・『要約 交通事故判例140』学陽書房 276ページ
・『交通事故事件の実務』新日本法規 106~107ページ
・『物損交通事故の実務』学陽書房 90~95ページ
・『Q&Aと事例 物損交通事故解決の実務』新日本法規 137~139ページ

公開日 2021-10-19 更新日 2023/04/27 14:16:50