交通事故被害車両の積荷・積載物の損害額算定と損害賠償請求

交通事故被害車両の積荷・積載物の損害額算定と損害賠償請求

交通事故により被害車両の積載物・積荷が損傷した場合、修理が可能なら修理費、修理不能なら時価額を損害賠償請求できます。修理費の上限は、時価額です。

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被害者の携行品が事故の衝撃で破損した場合

被害車両内に置いてあったスマホやパソコンなどの積載物が事故で破損した場合、修理可能なら修理費を、修理不能なら時価相当額を、損害賠償請求できます。修理費が時価額より高額となる場合は、時価相当額が賠償額の上限となります。このことは、車両の修理費の損害賠償と同じです。

 

では、損傷した積載物の時価額は、どうやって算定するのでしょうか?

 

損傷した積載物の時価額の算定方法

自動車であれば、事故車両と同等の中古車両の価格でもって車両時価額を証明できますが、多くの場合、かならずしも中古品の流通市場が確立されているわけではないので、同等の中古品で時価額を証明するのは困難です。

 

そのため、購入からの経過期間に応じて、その物の状態もふまえ、購入価格から減価償却の方法により減額した額を時価とするのが一般的です。

 

その際、購入年月や購入金額の証明が必要です。領収書等がなく、購入時期や購入価格がはっきりしない場合は、記憶にもとづいて、だいたいの購入時期や価格を申告したり、同種の商品の新品価格を示して証明することになります。

 

ただし、記憶にもとづくおおよそのものに過ぎないため、そのまま認められるとは限りません。その一定割合を損害認定した裁判例があります(神戸地裁判決・平成27年1月29日)

 

購入年月や購入金額については、領収書等がない場合、クレジットカードの購入履歴や購入店で確認する方法もあります。

 

楽器の損傷

被害車両に積載していた楽器が損傷した場合、楽器については、「年数の経過によって価値が減少するものではない」という理由から、減額を免れる場合があります。

 

名古屋地裁判決(平成15年4月28日)

購入から1年半程度経過したバイオリンとバイオリン弓の破損につき、その価格は、その作者、音質、制作方法等で決められるものであり、年数の経過により価値が減少するものではないとして、購入価格(バイオリン700万円とバイオリン弓200万円の合計900万円)を損害と認定しました。

 

PCのデータ復旧費用

被害車両に積載していたパソコンが損壊し、データが毀損した場合に、パソコン本体の時価額に加え、データ復旧費用も損害と認められる場合があります。

 

東京地裁判決(平成17年10月27日)

被害車両に積載していたノートパソコンが損傷し、ハードディスク内のデータが毀損した事案において、ノートパソコン購入価格の半額とデータ復旧費用11万円余りについて、事故と相当因果関係のある損害と認めました。

 

積載物の損害賠償請求が否定された例

事故との相当因果関係が認められなければ、当然、損害賠償請求は否定されます。

 

東京地裁判決(平成25年11月8日)

交通事故によりパソコンが故障したとして、購入費・検査費を請求した事案です。検査をしたのが事故発生から2年7ヵ月経過した後であったため、事故後に故障した可能性が否定できないこと等を理由に、購入費・検査費用を損害と認めませんでした。

 

名古屋地裁判決(平成29年5月12日)

トランペットを収納したセミハードケースが、事故の衝撃で、車両の後部座席から床に落ちたことにより、トランペットに変形・陥没が生じたという被害者の主張に対し、被害者の説明する通りの積載方法、落下状況であったとしても、それでトランペットが損傷するのか明らかでないこと等を理由に、損害と認めませんでした。

積荷が商品の場合の損害算定

積載物が商品の場合は、損害の発生について、被害者の携行品の場合とは異なる考慮がなされます。

 

被害者の携行品の場合は、使用するのに特段の支障が生じていなければ損害として認められませんが、積荷が商品の場合は、商品価値の毀損が考慮されます。

 

具体的に見てみましょう。

 

損傷の有無に関わらず積載していた全商品が損害となるケース

事故による外観上の破損の有無に関わらず、積載していた商品の全部が損害と認められる場合があり得ます。

 

大阪地裁判決(平成24年3月23日)

事故により被害車両の冷凍冷蔵機能が停止した事案です。破損していないものを含めて、積荷の豆腐全部の品質を保持することができなくなったとして、荷主から請求された金額を積荷損害としました。

 

大阪地裁判決(平成28年4月26日)

カップ麺入りの段ボール製ケース1,344個が積載されていた貨物自動車が追突され、外箱に明らかな破損がなくとも、中身の商品が破損している可能性があることから、運送委託契約にもとづき、被害車両所有者が、積荷を全て買い取った上で廃棄処分したことは、事故との間に相当因果関係があるとし、全積荷の買取価格での賠償を認めました。

 

商品の検査費用が商品価格を上回る場合の損害算定

被害車両に積載していて破損しなかった商品も、販売するためには検査が必要です。その検査費用が、商品の価格よりも高額となる場合は、商品の価格に相当する金額が損害となります。

 

大阪地裁判決(平成24年3月23日)

エアコン60セットを積載していたトラックが衝突され、その一部が路上に散乱した事案です。再び販売ルートにのせるために必要となる検査等の費用が、積荷の時価額と破棄費用の合計額を大きく上回ることから、積荷の時価額と廃棄費用の合計額を損害と認めました。

 

名古屋地裁判決(平成29年9月8日)

エンジンポンプ376台を積載していたトラックが追突され、積荷が大きな衝撃を受けた事案です。商品を出荷し品質に責任を負うエンジン製造業者が、内部に不具合が生じている可能性を懸念し、積荷の全部について検査を求めたことは合理性があり、検査費用が、積荷の価格よりも高額となることから、積荷価格を損害賠償の対象として認めました。

高額の積荷が事故により損壊した場合

発生した損害を何でもかんでも請求できるわけではなく、相手に負担させることが公平といえる範囲でなければ認められません。

 

事故で高額の積荷が損壊し、損害額が著しく高額になった場合、このことを社会通念から通常予見できないときには、「特別な事情によって生じた損害」として、加害者は損害賠償責任の全部または一部を負わないことになります。

 

民法の規定する損害賠償の範囲

加害者が、被害車両の積荷に関する損害賠償の責任を負うか、どの範囲で責任を負うかは、一般的には予見可能性の問題とされています。

 

民法は、損害賠償の範囲について、次のように定めています。

 

民法416条(損害賠償の範囲)
  1. 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
  2. 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

民法416条は債務不履行についての規定ですが、不法行為にも類推適用されます。

 

第1項は、損害の範囲の基本についての規定です。損害賠償の範囲は、通常発生する範囲内の損害(通常損害)で、これが事故と相当因果関係にある損害のことです。特別の事情によって生じた損害(特別損害)は、原則的に、加害者は損害賠償の責任を負いません。相当因果関係を超えた損害となるからです。

 

ただし、第2項が規定するように、特別損害であっても、当事者がその特別の事情を予見すべきであったときは、被害者は損害賠償を請求できます。これも、事故と相当因果関係のある損害に含まれることになります。

 

民法416条2項は、2017年の民法一部改正の際に改正され、2020年4月1日に施行されました。

 

改正前は「当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」が要件だったのですが、改正後は「当事者がその事情を予見すべきであったとき」となりました。「予見していたとき」または「予見できたとき」から、「予見すべきであったとき」と変わりました。

 

この「予見」に関する要件は、もともと、債務者が現実に予見していたかどうかという事実の有無を問題とするものではなく、債務者が予見すべきであったかどうかという規範的な評価を問題とするものです。

 

このことが条文上明確でないとの問題があったことから、改正により、予見可能性が事実のレベルの問題ではなく、規範のレベルの問題であることを明らかにしたのです。したがって、従来の解釈論・判例法理に変化をもたらすものではありません。

 

参考:法制審・民法(債権関係)部会資料 79-3 民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その1)補充説明 12ページ

 

1億円を超す積荷の損害賠償を認めた裁判例

被害車両の積荷が高額な場合、加害者側から、特別事情による損害であり、予見することができなかったから、賠償義務を負わないとの主張がなされることがあります。

 

しかし、次のように1億円を超す積荷の損害賠償を認めた裁判例もあり、積荷が高額というだけでは、予見可能性がなく賠償義務を負わないということにはなりません。

 

大阪地裁判決(平成23年12月7日)

トラックの荷台に1億円を超す精密装置が積載されていた事案で、「積載物が超高額品であることもあり得る」「一般人の社会通念から通常予見できないものということはできない」として、当該積荷の新規製作費用と輸送費の合計1億円余について、損害賠償責任を負うとしました。

 

高額品を積載している車両もあり得るわけで、そういう車両に衝突すると著しく高額の損害となることは、自動車を運転する以上、予見すべきなのです。

 

なお、次のような場合は、特別損害と認められ、加害者が損害賠償義務を負わないことがあります。

積載量オーバーの積荷の損傷

積載量を超過して積載されていた積荷が事故により破損したときは、積載量オーバー分については特別損害であり、加害者は損害賠償義務を負いません。

 

仙台地裁判決(平成8年1月26日)

事故により、積荷の10トンの石鹸材料が損傷した事案で、積載量オーバー分については特別損害であり、加害者はこれを予見できなかったとして、被害車両の所有者が荷主に賠償した一部に限って、加害者の損害賠償責任を認めました。

まとめ

事故により被害車両の積載物が損傷した場合、修理可能であれば修理費を、修理不能であれば時価相当額を、損害賠償請求できます。修理費は、時価額が上限となります。

 

なお、被害者の携行品か、商品かによって、損害算定が異なります。商品の場合は、商品価値の毀損が考慮されます。

 

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【参考文献】
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 217~218ページ
・『物損交通事故の実務』学陽書房 80~83ページ
・『Q&Aと事例 物損交通事故解決の実務』新日本法規 118~119ページ、229~236ページ
・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 187~190ページ
・法制審議会 民法(債権関係)部会資料 79-3 民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その1)補充説明 12ページ
・『口語民法』自由国民社 第416条解説部分

公開日 2021-11-07 更新日 2023/03/18 13:28:15