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  • 保障事業への請求手続
    政府の自動車損害賠償保障事業に対する請求手続と消滅時効
    ひき逃げや無保険車による事故に遭い、自賠責保険による救済すら受けられない場合には、政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)に対し損害の填補を請求することができます。その手続と、請求できる期間(請求権の時効消滅)について、見ていきましょう。政府保障事業に対する請求手続ひき逃げ事故や無保険車による事故など、加害者が不明であったり、加害車両が自賠責保険にも加入していないような事故の場合、あるいは、加害車両を運転していたのが自賠責保険の被保険者でないため、自賠責保険の支払い対象とならないような事故の場合、被害者は、政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)に対して損害の填補を請求することができます(自賠法72条1項)。請求は損害保険会社(共済)で受付政府保障事業に対する請求は、窓口を委託されている損害保険会社(共済)の全国各支店等へ、必要な書類を提出することにより行います。保険代理店では受付していませんから、ご注意ください。自動車損害賠償保障事業は、自賠責保険と異なり、国が運営していますが、実務上は、損害の填補額の決定以外の業務(請求受付、損害調査、支払)は、自賠責保険を取り扱っている保険会社(共済)に委託しています。損害調査業務については、保険会社(共済)が損害保険料率算出機構に再委託しています。保障事業の流れ政府保障事業の流れは、次の通りです。STEP損害の填補を請求保険会社の窓口に備え付けてある必要書類に記入し提出。STEP損害の調査保険会社は、損害保険料率算出機構に損害調査を委託。損害保険料率算出機構は、調査業務が完了すると、調査結果書類を国土交通省に送付。STEP填補額の審査・決定国土交通省は、損害保険料率算出機構の調査結果にもとづき審査を行い、填補額を決定。保険会社に填補額決定通知書を送付。STEP填補額の支払保険会社は、国土交通省の決定にもとづき、填補額を支払う。STEP賠償責任者へ求償国土交通省は、賠償責任者に填補額の範囲で求償し、弁済を求める。請求に必要な書類提出するのは、次の事項を記載した書面です(自賠法72条3項、同施行規則27条)。請求者の氏名・住所死亡した者についての請求にあって、請求者と死亡した者との続柄被害者の氏名・住所、事故の日時・場所保有者に運行供用者責任が発生しない事故の場合には、加害者の氏名・住所政府に対し損害のてん補を請求することができる理由当該自動車の自動車登録番号等が判明している場合は、それらの情報他の法令に基いて損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合は、その給付の根拠・金額請求する金額・算出基礎(診療報酬明細書等の立証資料)この書面には、次の書類を添付します。診断書または検案書上記②から⑤までと⑦の事項に関する立証資料上記⑧の算出基礎に関する立証資料被害者から填補請求を受けた政府は、必要があれば、請求者に対し、指定する医師の診断書の提出を求めることができます。この場合の費用は、政府が負担します。請求できる期間政府保障事業に対する損害の填補の請求は、被害の状況により傷害・後遺障害・死亡に区分され、それぞれの請求できる期間は次の通りです。請求区分いつからいつまでに(時効完成日)傷害治療を終えた日事故発生日から3年以内後遺障害症状固定日症状固定日から3年以内死亡死亡日死亡日から3年以内政府保障事業に対する被害者の填補請求権は、行使することができるときから3年を経過したときには時効により消滅します(自賠法75条)。消滅時効の起算日は、傷害に関する損害は事故日から、後遺障害に関する損害は症状固定日から、死亡に関する損害は死亡日からです。自賠責保険の被害者請求権と同じ運用がされています。なお、傷害に関する損害につき、政府保障事業に填補金(保障金)の請求ができるのは、治療を終えた日からです。治療が終了しないと損害が確定しないからです。消滅時効の起算日は事故発生日とされていますから、注意してください。政府保障事業に対する請求は、自賠責保険に対する請求と異なり、時効の更新はできません。政府保障事業が、被害者に対する必要最小限の救済措置であることから、保障事業への請求を長らくしない場合には、いつまでも権利を存続させておく必要がないこと、さらに、時間の経過により事故状況の把握が困難となるというのが理由です。加害車両の保有者が不明な場合の保障金請求権(自賠法72条1項前段)について、保有者と疑わしい者がいたため、この者に対して訴えを提起したところ、保有者でないとして請求棄却となった場合、保有者と疑わしい者に対する請求棄却の判決が確定した日の翌日から、保障金請求権の時効が進行するとした最高裁判例があります。最高裁第3小法廷(平成8年3月5日)自動車損害賠償保障法72条1項前段による請求権の消滅時効は、ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって、右の者と当該交通事故の被害者との間で同法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合においては、右損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から進行する。最高裁判決は、その理由として次の点を挙げています。民法166条1項にいう「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要と解するのが相当である交通事故の被害者に対して損害賠償責任を負うのは本来は加害者であって、本件規定は、自動車損害賠償責任保険等による救済を受けることができない被害者に最終的に最小限度の救済を与える趣旨のものであり、本件規定による請求権は、自賠法3条による請求権の補充的な権利という性質を有する交通事故の被害者に対して損害額の全部の賠償義務を負うのも加害者であって、本件規定による請求権は、請求可能な金額に上限があり、損害額の全部をてん補するものではないそうすると、交通事故の加害者ではないかとみられる者が存在する場合には、被害者がまず右の者に対して自賠法3条により損害賠償の支払を求めて訴えを提起するなどの権利の行使をすることは当然のことであるというべきであり、また、右の者に対する自賠法3条による請求権と本件規定による請求権は両立しないものであるし、訴えの主観的予備的併合も不適法であって許されないと解されるから、被害者に対して右の二つの請求権を同時に行使することを要求することには無理があるしたがって、交通事故の加害者ではないかとみられる者との間で自賠法3条による請求権の存否についての紛争がある場合には、右の者に対する自賠法3条による請求権の不存在が確定するまでは、本件規定による請求権の性質からみて、その権利行使を期待することは、被害者に難きを強いるものであるからである。まとめ政府保障事業に対する損害の填補請求は、自賠責保険を扱っている損害保険会社(共済)に必要な書類を提出することにより、手続開始となります。保障事業に対する請求権は、行使することができる時から3年を経過したときは、時効によって消滅します。消滅時効の起算日は、傷害・後遺障害・死亡によって異なりますから、ご注意ください。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『自賠責保険のすべて 13訂版』保険毎日新聞社 176~180ページ・『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 226~227ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 229~230ページ・『交通事故事件の実務―裁判官の視点―』新日本法規 152~154ページ・国土交通省 自賠責保険ポータルサイト https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/nopolicyholder.html
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  • 損害賠償請求権の消滅時効
    交通事故の加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効と起算日
    交通事故の加害者(相手方保険会社を含む)に対する損害賠償請求権は、時効により消滅します。時効が完成すると損害賠償金を受け取れなくなりますから、注意が必要です。2020年4月1日の改正民法施行により、消滅時効の期間が一部変更になりました。ここでは、改正民法の内容もふまえ、交通事故の加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効、時効の起算日(時効がいつから進行するか)について説明します。加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効交通事故で被害を被ったときの損害賠償請求権には、「民法による請求権」と「自動車損害賠償保障法(自賠法)による請求権」があります。両者の違いはこちらをご覧ください。損害賠償請求権の時効については、民法の規定にもとづき判断します。自賠法による損害賠償請求権の消滅時効も、民法の規定が適用されます(自賠法4条)。それでは、損害賠償請求権の消滅時効について、民法一部改正の内容をふまえて見ていきましょう。人身損害は5年、物件損害は3年不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、改正前の民法では、人損も物損もどちらも「損害および加害者を知った時から3年」でした(旧・民法724条)。改正後の民法では、人身損害については「損害および加害者を知った時から5年」に延びました(民法724条の2)。物件損害については、従来のままです。損害消滅時効旧民法新民法人損3年5年物損3年3年※人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効が、3年から5年に延びました。損害賠償請求権の消滅時効についての規定が、民法一部改正でどう変わったのか分かるように、改正後の民法とともに、改正前の民法もあわせて抜粋しておきます。民法724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。二 不法行為の時から20年間行使しないとき。民法724条の2(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは「5年間」とする。改正前の民法724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。「不法行為の時から20年」は除斥期間でなく消滅時効改正後の民法724条2号は、不法行為による損害賠償の請求権は「不法行為の時から20年間行使しないとき」には時効によって消滅する、と規定しました。改正前の民法724条は、「不法行為の時から20年を経過したとき」という期間制限が、消滅時効なのか、除斥期間なのか、条文上明らかでなく疑義が生じていました。判例では、除斥期間と解されてきたのですが(最高裁判決・平成元年12月21日)、民法一部改正により、除斥期間でなく、時効期間であることを明確にしたのです。最高裁第一小法廷判決(平成元年12月21日)民法724条後段の規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当である。けだし、同条がその前段で3年の短期の時効について規定し、更に同条後段で20年の長期の時効を規定していると解することは、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の規定の趣旨に沿わず、むしろ同条前段の3年の時効は損害及び加害者の認識という被害者側の主観的な事情によってその完成が左右されるが、同条後段の20年の期間は被害者側の認識のいかんを問わず一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間を画一的に定めたものと解するのが相当であるからである。除斥期間と解しながらも柔軟な解釈で被害者を救済してきた除斥期間とは、その期間内に権利を行使しないと権利がなくなる期間のことです。除斥期間は、消滅時効と異なり、中断や停止がありません。被害者の側にいかなる権利行使上の困難な事情があっても、20年を経過すると損害賠償請求権は消滅します。そうなると、被害者にとって酷な結果となる場合があり得ます。そのため、これまでの裁判では、民法724条(改正前)後段の期間制限を除斥期間としながらも、事案ごと柔軟に解釈し、除斥期間の適用を制限し、被害者の救済を図ってきたのです。例えば、次のような裁判例があります。最高裁第二小法廷判決(平成10年6月12日)不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6ヵ月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から六箇月内に右不法行為による損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。最高裁第三小法廷判決(平成21年4月28日)被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において、その後相続人が確定した時から6ヵ月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。この平成21年の最高裁判決には、民法724条後段の規定を時効と解すべきであり、そのように解しても不法行為法の体系に特段の支障を及ぼすとは認められないとの田原睦夫裁判官の意見が付されています。長期期間制限の性質の見直し民法724条(改正前)後段の20年の期間制限を除斥期間と解しながら、除斥期間の適用を排除して被害者の救済を図るのであれば、20年の期間制限の法的性質を端的に消滅時効とすることにより、具体的事案での適切な解決を図るべきであるとの指摘がありました。また、同条の立法過程に照らし、起草者は20年の期間制限を消滅時効であると考えていたものと理解されています。こうしたことから、民法一部改正により、「不法行為の時から20年間」の規定は、除斥期間でなく、消滅時効について定めたものであることが明確にされたのです。改めて、改正前後の民法724条を比べてみてください。改正前の民法724条は、[不法行為による損害賠償請求権の期間の制限]でしたが、改正後の民法724条は、[不法行為による損害賠償請求権の消滅時効]と、消滅時効について定めた条項であることを明記しました。その上で、新民法724条は、第1号で短期消滅時効期間(主観的起算点)、第2号で長期消滅時効期間(客観的起算点)について、区別して定めています。こうして、不法行為から20年が経過して損害賠償請求権が時効消滅する場面で、時効の更新や完成猶予(旧民法における時効の中断や停止)の手続を行い、権利を維持することが可能となったのです。[参考]法制審議会民法(債権関係)部会資料 69A「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(4)」9~11ページ消滅時効の起算点(起算日)次に、時効の起算点(起算日)です。いつから時効が進行するか、です。民法724条・724条の2の規定によれば、損害賠償の請求権は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から3年(人損は5年)、「不法行為の時」から20年で消滅します。「損害を知った時」「加害者を知った時」が、短期消滅時効の起算点で、主観的起算点といわれます。「不法行為の時」が、長期消滅時効の起算点で、客観的起算点といわれます。「加害者を知った時」とは?「加害者を知った時」とは、加害者に対し損害賠償請求ができる程度に、加害者の住所氏名を知った時を指します。最高裁は、次のように判示しています。最高裁第二小法廷判決(昭和48年11月16日)加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であり、…被害者が加害者の住所氏名を確認したとき、初めて「加害者ヲ知リタル時」にあたるものというべきである。賠償義務者が複数の場合運転者と運行供用者が異なる場合や、相手が会社の車を運転していて使用者責任を問える場合は、相手の運転者だけでなく、運行供用者や雇用主も賠償義務者となります。賠償義務者が複数いる場合、時効は賠償義務者ごとに進行するので、損害賠償請求する相手によって、時効の完成する時期が異なるのです。例えば、事故が発生した日に加害運転者の住所氏名を確認し、後日、運行供用者が別にいたことを知ったとしましょう。この場合、運転者に対する損害賠償請求権の時効は、事故日から進行しますが、運行供用者に対する損害賠償請求権の時効は、運行供用者を知った時から進行します。運転者に対する請求権が時効消滅していても、運行供用者に対する請求権は時効になっていない場合もあるのです。「損害を知った時」とは?「損害を知った時」について、最高裁は「民法724条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう」(最高裁判決・平成14年1月29日)としています。最高裁第三小法廷判決(平成14年1月29日)民法724条は、不法行為に基づく法律関係が、未知の当事者間に、予期しない事情に基づいて発生することがあることにかんがみ、被害者による損害賠償請求権の行使を念頭に置いて、消滅時効の起算点に関して特則を設けたのであるから、同条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当である。同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解すべきである。交通事故で受傷すると、一定期間治療を継続し、治癒もしくは症状固定に至り、損害額の全体が確定します。その過程のどの時点を「損害を知った時」と捉えるかが問題です。従来、交通事故による損害の賠償請求権の消滅時効は、受傷時に予見可能な損害の賠償請求については事故時から進行し、受傷時に予見し得ない後遺障害に関する損害の賠償請求権については、後遺症が顕在化した時や症状が固定した時から進行すると解されていました。しかし、近時の下級審裁判例では、人身損害については治療終了時点(治癒時・症状固定時)を主観的起算点とする見解がほぼ定着しています。すなわち、後遺障害が残存しない場合には、傷害の治療が終了した時から、傷害に関する全ての損害につき消滅時効が進行する後遺障害が残存する場合には、その症状が固定した時から、後遺障害にもとづくものを含む傷害に関する全ての損害につき消滅時効が進行するという解釈運用が、近時の下級審裁判例の傾向です。具体的な消滅時効の起算日は、次の通りです。損害消滅時効の起算日傷害治療終了の翌日が起算日です。後遺障害症状固定日の翌日が起算日です。複数の後遺障害があって症状固定日が異なるときは、直近の症状固定日を起算日とします。死亡死亡日の翌日が起算日です。請求権者が、被害者の死亡を知らなかったことに関し合理的な理由があるときは、請求権者が被害者の死亡を知った日の翌日を起算日とします。物損事故発生の翌日が起算日です。事故発生が午前0時の場合は、事故発生の当日が起算日となります。起算日を「翌日」とするのは、初日不算入原則によります。民法では「期間の起算」について、次のように定めています。民法140条(期間の起算)日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効は3年自賠法(自動車損害賠償保障法)は、自賠責保険に対する被害者請求権(自賠法16条1項)と仮渡金請求権(自賠法17条1項)、すなわち、被害者が相手方自賠責保険に損害賠償額の支払いを直接請求できる権利は、「損害および保有者を知つた時から3年を経過したときは、時効によって消滅する」と定めています(自賠法19条)。人身損害について、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効は5年ですが、自賠責保険に被害者が直接請求する場合の消滅時効は3年であることに注意してください。物損は、自賠責保険の対象外です。自賠責保険は、そもそも、人身事故を起こして損害賠償責任を負うことになった加害車両の保有者が、被害者に損害賠償金を支払ったことにより発生する損害を填補する保険です。加害者が、自身の加入する自賠責保険に保険金の支払いを請求(加害者請求)する場合は、保険法95条が適用され、保険金の請求は、加害者が被害者に損害賠償金を支払った日から3年で時効となります。自賠法は、保険法の特別法ですから、被保険者である加害者からの自賠責保険に対する請求は、保険法の消滅時効の規定が適用されます。保険法では、保険会社に保険給付を請求する権利は、「行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する」と定めています(保険法95条1項)。政府保障事業に対する請求権も、3年で時効消滅します(自賠法75条)。自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効について、詳しくは次のページをご覧ください。自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効改正民法施行前に発生した事故の消滅時効は?改正民法の施行日(2020年4月1日)よりも前に発生した交通事故については、新民法の規定が適用となるかどうかは、被害者にとっては重大な問題です。新民法の消滅時効の規定が適用となる区分について、経過措置がどのように定められているのか、見ておきましょう。長期消滅時効の経過措置上で見たように、旧民法724条後段の「不法行為の時から20年」は、除斥期間と解されてきましたが、新民法724条2号では、長期消滅時効期間と位置づけられました。新法が適用されるか、旧法が適用されるかにより、損害賠償請求権を維持できるか否か大きな違いがあります。どちらが適用されるかは、旧民法724条後段の「不法行為の時から20年」の期間が、改正民法の施行日(2020年4月1日)までに満了しているか否で決まります。2020年4月1日に、不法行為の時から20年が経過していなければ、新民法の規定が適用され、時効の更新や時効の完成猶予の手続きが可能となります。経過措置について、新民法の附則で、次のように定めています。附則35条1項旧法第724条後段に規定する期間がこの法律の施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については、なお従前の例による。短期消滅時効の経過措置人身損害(人の生命または身体を害する不法行為)による損害賠償請求権の短期消滅時効は、旧民法724条前段では3年でしたが、新民法724条の2では5年に延びました。改正民法施行のとき(2020年4月1日)に、旧民法724条前段の3年の時効が完成していれば、新民法の規定は適用となりませんが、3年の時効が完成していなければ、短期消滅時効の期間は5年となります。経過措置について、新民法の附則で、次のように定めています。附則35条2項新法第724条の2の規定は、不法行為による損害賠償請求権の旧法第724条前段に規定する時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合については、適用しない。まとめ交通事故の加害者に対する損害賠償請求権には時効があり、それを過ぎると損害賠償請求できなくなりますから、注意が必要です。損害ごとの賠償請求権の消滅時効と起算日をまとめておきます。損害短期消滅時効傷害治療終了の翌日から5年後遺障害症状固定の翌日から5年死亡死亡日の翌日から5年物損事故日の翌日から3年時効にかかり、損害賠償請求権を失うことのないよう、早めに弁護士に相談して、時効の更新(時効の中断)の手続きをとるなど、適切な対応をすることが必要です。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通事故損害賠償保障法 第2版』弘文堂 369~374ページ・『交通関係訴訟の実務』商事法務 447~454ページ・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 435~441ページ・『交通事故判例解説』第一法規 192~195ページ・『別冊Jurist交通事故判例百選 第5版』有斐閣 180~181ページ
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  • 自賠責保険に対する被害者請求権(直接請求権)の消滅時効と起算日
    自賠責保険に対する被害者請求権は、行使できる時から3年を経過すると時効により消滅します。行使できる時とはいつの時点からか(消滅時効の起算日)は、損害ごとに異なります。ここでは、被害者請求権の消滅時効が、自賠法(自動車損害賠償保障法)で、どのように規定されているのか、見ていきます。被害者請求権(直接請求権・仮渡金請求権)の消滅時効自賠責保険に対する被害者請求権には、直接請求権(自賠法16条1項)と、仮渡金請求権(自賠法17条1項)があります。直接請求権は、自動車の運行によって他人の生命・身体を害し、保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、自賠責保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払を請求することができる、とするものです。仮渡金請求権は、保有者の損害賠償責任が確定する前でも請求できる、とするものです。支払うべき賠償額の一部前渡しの意味合いがあります。ただし、実際の損害賠償すべき額よりも多かったときは、後で返還を求められます。自賠法では、被害者請求権(直接請求権・仮渡金請求権)の消滅時効について、次のように規定しています。自賠法19条(時効)第16条第1項および第17条第1項の規定による請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年を経過したときは、時効によって消滅する。※第16条第1項は直接請求権、第17条第1項は仮渡金請求権です。被害者請求権の消滅時効期間は3年自賠法の規定にあるように、被害者請求権の消滅時効期間は3年です。直接請求権・仮渡金請求権は、被害者保護のために特別に法定され、速やかに行使することが想定されているため、合理的な期間内に行使しない被害者に権利を認める必要はないとの判断から、短期消滅時効が採用されています。改正民法(2020年4月1日施行)では、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は5年とされました。自賠責保険に対する被害者請求権は、加害者に対する損害賠償請求権よりも先に消滅時効が完成しますから、注意してください。旧民法では、人損も物損も消滅時効期間は同じ3年でしたが、生命・身体は重要な法益で、 これに関する債権は保護の必要性が高いこと、治療が長期間に渡るなどの事情により被害者にとって迅速な権利行使が困難な場合があること等から、改正民法では人損の消滅時効期間が5年となりました。自賠法の消滅時効の規定は、民法改正後も変わりません。被害者請求権の消滅時効の起算日は損害ごとに異なる被害者請求権の消滅時効の起算点は、「被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から」です(自賠法19条)。従来は、消滅時効の起算点について自賠法に規定がなかったので民法の規定が適用されていましたが、民法改正にともない明記されました。「損害を知った時から」の損害は、損害の発生の事実を知れば足り、損害の内容・程度・額まで知る必要はないものと解されています。したがって「損害及び保有者を知った時」とは、原則として事故発生日です。損害ごとに起算日が異なるので要注意事故当時に予想し得なかった損害については、その損害の存在が明らかになった時点が起算点となり、当初から明らかであった損害とは別個に消滅時効が進行します。被害者請求権の消滅時効の起算日は、損害ごとに異なりますから、注意が必要です。自賠責保険の実務では、傷害による損害は事故発生の翌日から、後遺障害による損害は症状固定日の翌日から、死亡による損害は死亡日の翌日から、消滅時効期間が進行するという取扱いです。損害別の消滅時効の起算日傷害事故発生の翌日※事故発生が午前零時の場合は、事故発生の当日を起算日とします。後遺障害症状固定日の翌日※後遺障害が複数あり、それぞれの症状固定日が異なる場合は、直近の症状固定日の翌日を起算日とします。死亡死亡日の翌日※請求権者が、被害者の死亡を知らなかったことに合理的な理由がある場合は、死亡した事実を請求権者が知った日の翌日を起算日とします。※時効の起算日が「翌日」になっているのは、初日不算入原則(民法140条)によります。消滅時効期間は同じ3年でも、損害ごとに時効の起算日が異なりますから、当然、損害ごとに時効の完成する日が異なります。そのため、例えば、後遺障害等級が未確定だからと治療費などを被害者請求しないでいると、後遺障害以外の請求権が時効消滅してしまうこともあり得ます。また、後遺障害が複数認定され併合等級として取り扱われる可能性のある場合、各後遺障害ごとに消滅時効が進行するので、一部の後遺障害については消滅時効が完成し、被害者請求できないこともあり得ます。そうならないように、時効の更新(中断)の手続きを忘れずに行うことが大切です。損害賠償請求権の消滅時効の起算日と異なる場合がある後遺障害による損害につき加害者に損害賠償請求する場合は、「後遺障害以外の損害も含めた全損害について症状固定時から消滅時効が進行する」と解する裁判例が多数になっています。一方、自賠責保険の被害者請求権は、損害ごとに時効の起算日が異なります。自賠責保険に対する被害者請求権と加害者に対する損害賠償請求権とでは、消滅時効の起算日が異なる場合がありますから、注意してください。任意保険会社による一括手続きが進められている場合任意保険会社による一括払い手続きが進められている場合は、自賠責保険に対して直接請求ができません。自賠責保険に直接請求(被害者請求)をする場合は、任意一括手続きを解除する必要があります。自賠責保険の実務では、任意一括手続きが先行している間は被害者請求権の消滅時効は進行せず、任意一括手続きが解除されてから消滅時効が進行する取扱いです。まとめ自賠責保険に対する被害者請求権は、被害者等が「損害及び保有者を知った時から3年」で時効により消滅します。時効期間の起算日は、傷害・後遺障害・死亡による損害ごとに異なります。原則として、傷害による損害は事故発生日の翌日から、後遺障害による損害は症状固定日の翌日から、死亡による損害は死亡日の翌日から、3年を経過すると、被害者請求権は時効により消滅します。なお、被害者請求権は、自賠責保険会社に時効更新(中断)申請書を提出することにより、時効の更新(中断)が可能です。手続は難しくありませんから、時効消滅しないように注意してください。被害者請求権が時効にかかっているとしても、加害者請求権の差押転付命令を得れば、自賠責保険に損害賠償額の支払いを請求することができます。自賠責保険に対する直接請求権の消滅時効と時効起算点は、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効・起算点と異なる場合があるので注意が必要です。被害者請求権の時効が心配な場合は、急いで弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・北河隆之著『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 376~377ページ・『自賠責保険のすべて 12訂版』保険毎日新聞社 103~104ページ・国土交通省自動車局保障制度参事官室監修『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 155~156ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 166~169ページ・日弁連交通事故相談センター編『Q&A新自動車保険相談』ぎょうせい 138~140ページ・東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編集『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 24~25ページ
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  • 被害者請求権が時効消滅
    被害者請求権が時効消滅したときの加害者の保険金請求権の代位行使
    損害賠償請求訴訟で請求認容判決が出たのに、加害者に資力がなく損害賠償金が支払われない、自賠責保険への被害者請求権も時効のため請求できない、という場合でも、自賠責保険から損害賠償額の支払いを受けることができる方法があります。加害者に対する損害賠償請求訴訟の請求認容判決にもとづき、自賠責保険の被保険者の保険金請求権(加害者請求権)の差押転付命令を得れば、被害者が加害者の自賠責保険金請求権を行使できます。被害者請求できないなら、加害者の保険金請求権を行使するここで紹介するのは、被害者請求権(自賠法16条)が時効で行使できない場合に、加害者請求権(自賠法15条)を行使して、自賠責保険に損害賠償額の支払いを請求する方法です。まず、加害者請求権(被保険者の保険金請求権)について、ポイントを押さえておきましょう。被害者請求権が時効でも、加害者請求権は、たいてい時効にかかっていません。消滅時効期間は、どちらも3年ですが、時効の起算日が異なるからです。重要なのは、加害者請求権がいつ発生するかです。加害者請求権の消滅時効被害者請求権の消滅時効は、自賠法(自動車損害賠償保障法)で、被害者等が「損害及び保有者を知った時から3年」(自賠法19条)と定められています。一方、加害者請求権の消滅時効は、自賠法に定めがなく、保険法の規定が適用されます。保険金請求権の消滅時効は「行使することができる時から3年」(保険法95条1項)です。ポイントは、この「行使することができる時」とはいつの時点か、ということです。加害者請求権の時効の起算日自賠責保険は、被保険者(加害者)が損害賠償金を支払ったら、保険金を請求できる仕組みです(自賠法15条)。先履行主義を採っています。自賠法15条被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。つまり、保険金請求権を「行使することができる時」とは、被保険者(加害者)が、損害賠償金を支払った時となります。厳密には、賠償金を支払った日の翌日が、消滅時効の起算日です。請求権消滅時効の起算点被害者請求権損害を知った時加害者請求権損害賠償金を支払った時被害者請求権は「損害を知った時」から時効が進行しますが、加害者請求権は、損害が確定し「賠償金を支払った時」から時効が進行するので、時効期間は同じ3年でも、時効の完成は加害者請求権の方が後になるのです。なお、自賠責保険が「先履行主義」を採っているのは、被害者に賠償金の支払いがないまま被保険者に保険金を支払うと、被保険者が保険金を被害者に支払わず着服してしまう危険があるので、被害者を保護するため、とされています。ただし、先履行主義は、加害者に賠償資力がある場合は妥当でも、加害者に賠償資力がない場合は、被害者請求権が時効消滅したケースで、被害者を保護できなくなる矛盾も抱えています。加害者請求権は損害賠償金を支払うまで「未発生の権利」自賠責保険の保険金請求権(加害者請求権)は、被保険者(加害者)が損害賠償金を支払った時に発生する権利ですから、それまでは「未発生の権利」です。つまり、加害者請求権は、損害賠償金の支払いを停止条件とする債権です。停止条件というのは、それが成就するまで法律行為の効力の発生を停止する条件です。自賠責保険は、被保険者(加害者)が、被害者に損害賠償金を支払うことで停止条件が成就し、保険金請求権が発生するのです。どうすれば加害者の保険金請求権を被害者が行使できるか?さて、どうすれば被害者が加害者請求権を行使できるかですが、それは、加害者の保険金請求権を差押え、転付命令を得ることで可能となります。転付命令とは、差押債権者の申立てにより、差押えられた金銭債権をその券面額で差押債権者に移転させる裁判所の命令です(民事執行法159条1項)。ただし、一般に「停止条件付債権は転付命令の対象とならない」と解されます。加害者の保険金請求権を「未発生の権利」と解せば、転付命令があっても、債権移転の効力が発生しないことになります。そこで、保険金請求権が転付命令の対象となるか(被転付適格を有するか)が問題になります。これについて最高裁は、損害賠償義務の履行(賠償金の支払い)によって発生する被保険者の自賠責保険金請求権につき転付命令が申請された場合には、自賠責保険金請求権は被転付適格を有する、と判示しました。自賠責保険金請求権の被転付適格を肯定した最高裁判例最高裁判例に沿って見ていきましょう。最高裁判決(昭和56年3月24日)自賠責保険契約に基づく被保険者の保険金請求権は、被保険者の被害者に対する賠償金の支払を停止条件とする債権であるが、自賠法3条所定の損害賠償請求権を執行債権として右損害賠償義務の履行によって発生すべき被保険者の自賠責保険金請求権につき転付命令が申請された場合には、転付命令が有効に発せられて執行債権の弁済の効果が生ずるというまさにそのことによって右停止条件が成就するのであるから、右保険金請求権を券面額ある債権として取り扱い、その被転付適格を肯定すべきものと解するのを相当とする。最高裁は、自賠責保険金請求権は「被保険者の被害者に対する賠償金の支払を停止条件とする債権」であることを明確にした上で、転付命令が有効に発せられ弁済の効果が生じるという、まさにそのことによって停止条件が成就するから、保険金請求権は被転付適格を有するとしました。最高裁判例の論理構成最高裁判決の理論構成はこうです。自賠責保険金請求権についての転付命令が有効に発せられ、保険金請求権が被害者に移転すると、賠償がなされたという効果が生じ、そのことによって同時に停止条件(賠償金の支払い)が成就するから、「保険金請求権を券面額ある債権として取り扱い、その被転付適格を肯定すべき」としました。ただし、転付命令の有効性が問題になっているのに、転付命令の有効性を条件とすることは、循環論法であるとの批判もあります。とはいえ、そもそも自賠法15条が先履行主義を定めているのは、加害者による保険金の着服を防ぎ、被害者保護する趣旨からです。この最高裁判決は、自賠法の被害者保護の観点から、自賠責保険金請求権の被転付適格を認めて差し支えないという実質的な考慮によるものと考えられています。まとめ被害者請求権(自賠法16条)の消滅時効期間経過後であっても、加害者に対する損害賠償請求訴訟の請求認容判決と、加害者の自賠責保険金請求権(自賠法15条)の差押転付命令を得ることにより、被害者が自賠責保険の加害者請求権を行使し、自賠責保険金の範囲で支払いを受けることができます。これは自賠責保険の実務でも定着しており、損害賠償請求訴訟の内容が妥当と判断された場合は、支払を受けることが可能です。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・損害保険料率算出機構・植草桂子「自賠責保険金請求権の被転付適格」『交通事故判例解説』第一法規 168~169ページ・別冊ジュリスト№152『交通事故判例百選・第4版』有斐閣 190~191ページ・『逐条解説 自動車損害賠償保障法・第2版』弘文堂 137ページ
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  • 政府保障事業に対する請求権の消滅時効
    政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効と起算点
    政府保障事業に対する填補金(保障金)の請求権は、行使することができる時から3年間を経過すると、時効により消滅します。行使することができる時(消滅時効の起算点)は、基本的に自賠法の被害者請求権の消滅時効と同じですが、填補金請求権に独自の起算点もあります。政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効と起算点自動車損害賠償保障法(自賠法)では、政府保障事業に対する填補金請求権の時効について、次のように定めています。自賠法75条第16条第4項若しくは第17条第4項(これらの規定を第23条の3第1項において準用する場合を含む)又は第72条第1項の規定による請求権は、これらを行使することができる時から3年を経過したときは、時効によって消滅する。条文の中の第16条4項と第17条4項は、自賠責保険を取扱う保険会社の補償請求権で、第23条の3第1項は、自賠責共済の準用規定です。第72条1項が、いま考えている被害者の填補金請求権です。政府保障事業には、被害者に対する損害の填補と、自賠責保険を取扱う保険会社に対する補償があります。消滅時効については、どちらの請求権も同じです。填補金請求権の消滅時効期間自賠法の規定にあるように、政府保障事業に対して填補金を請求できる期間は3年です。それを過ぎると、請求権は時効により消滅します。政府保障事業に対する請求権が短期消滅時効を定めているのは、この請求権が、被害者を保護するため法律によって特別に定められたもので、事故後すみやかに行使されることが想定されているからです。合理的な期間内に権利を行使しない者には、国による保護の必要はないというわけです。なお、政府保障事業に対する請求権の消滅時効の完成には、時効の援用を要しないとされています(会計法31条1項)。填補金請求権の消滅時効の起算点填補金請求権の消滅時効の起算点は、「行使することができる時から」とされています。これは、改正民法の施行(2020年4月1日)にともない、自賠法75条に明記されました。従来は、消滅時効の起算点について自賠法75条に規定はなく、民法の一般原則である「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」(旧民法166条1項)が適用されると解されてきました。「行使することができる時」とは、原則として、傷害による損害は事故発生日、死亡による損害は死亡日、後遺障害による損害は症状固定日と解され、初日不算入原則(民法140条)により、それぞれの翌日が消滅時効の起算日となります。傷害事故発生の翌日後遺障害症状固定日の翌日死亡死亡日の翌日この起算日は、自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効と同じです。ただし、こうした実務上の消滅時効の起算日を適用すると、被害者が自分の権利を行使しながらも、政府保障事業によって救済されないケースが出てきます。そういうときは、「権利を行使することができる時」の解釈の仕方が重要になります。政府保障事業に対する填補金請求権の時効問題は、特に、加害者と疑われる人物を相手取って損害賠償請求訴訟を提起し、被害者が敗訴した場合に生じます。次に、そういう場合の消滅時効の起算点について考えてみましょう。ひき逃げ事故で民事上の争いがある場合の消滅時効の起算点ひき逃げ事故に遭った場合、加害者が全く不明な場合は、政府保障事業に填補金を請求するしかありませんが、加害者と見られる人物がいる場合は、その人物を相手取り損害賠償請求訴訟を提起することができます。加害者と疑われる人物を相手に損害賠償請求訴訟を提起し、裁判で負けた場合、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効が「事故時」から進行するとすれば、裁判が終わった時点で、填補金請求権が時効消滅していることがあります。そうなると、被害者は権利を行使したばかりに、損害賠償も受けられない、政府保障事業の保障も時効で受けられない、最悪の結果を招きます。そこで、ある者が加害自動車の保有者であるか否かをめぐり、自賠法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合は、被害者の敗訴が確定した時から、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効が進行する、とされています。もちろん初日不算入原則により、厳密には「被害者の敗訴判決が確定した日の翌日から」です。政府保障事業に対する填補金請求の前提そもそも政府保障事業に対する填補金請求権は、加害自動車の「保有者が明らかでないため、被害者が自賠法3条の規定による損害賠償の請求をすることができないとき」に行使することができます(自賠法72条1項前段)。そのため、ある者が加害自動車の保有者であるか否かをめぐって争いがある場合は、自賠法3条による損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から、政府保障事業に対する填補金請求権の消滅時効が進行する、ということです。最高裁判例最高裁は、次のような判断を示しています。最高裁判決(平成8年3月5日)自賠法72条1項前段による請求権の消滅時効は、ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって、右の者と当該交通事故の被害者との間で同法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合においては、右損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から進行する。最高裁は、「権利を行使することができる時」とは、単にその権利を行使するのに「法律上の障害がない」というだけではなく、その権利の行使が「現実に期待のできるものであることも必要」と解するのが相当であるとし、次のように指摘しました。「交通事故の被害者に対して損害賠償責任を負うのは本来は加害者」であり「損害額の全部の賠償義務を負うのも加害者」です。政府保障事業は、「被害者に最終的に最小限度の救済を与える趣旨」の制度ですから、「請求可能な金額に上限があり、損害額の全部をてん補するものではない」という限界があります。そうすると、加害者とみられる者が存在する場合、被害者が、まずその者に対して「自賠法3条により損害賠償の支払を求めて訴えを提起するなどの権利の行使をすることは当然のこと」です。「自賠法3条による請求権と本件規定による請求権は両立しない」ので、「2つの請求権を同時に行使すること」はできません。こうしたことから、「加害者ではないかとみられる者との間で自賠法3条による請求権の存否についての紛争がある場合には、右の者に対する自賠法3条による請求権の不存在が確定するまでは、本件規定による請求権の性質からみて、その権利行使を期待することは、被害者に難きを強いるものであるからである」としています。※「 」内が判決の引用部分。「本件規定による請求権」とは填補金請求権です。まとめ政府保障事業に対する被害者の填補金請求権の消滅時効は、行使することができる時から3年です。時効の起算点は損害ごとに異なり、傷害は事故発生日、死亡は死亡日、後遺障害は症状固定日です。これについては、自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効と同じです。ただし、ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって、自賠法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合は、損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から、填補金請求権の消滅時効が進行します。政府保障事業に対する填補金請求権には、時効の更新(中断)の取り扱いはありません。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
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  • 物損の損害賠償請求の注意点
    物損の損害算定の方法、損害賠償請求権と消滅時効の注意点
    物損は自賠法が適用されないほか、損害算定の方法や損害賠償請求権に物損特有の考え方があり、人損の損害賠償請求とは異なる点があります。人身事故の場合は、人損と物損の両方が発生しますから特に注意が必要です。物損の損害賠償請求権と消滅時効人身事故では、たいてい人損と物損の両方が発生します。同一の事故であっても、人損と物損は、損害賠償の請求権は別個のもので、消滅時効も異なります。物損の賠償請求権の方が、先に時効が完成します。気が付いたら、物損について損害賠償請求権が時効で請求できない、ということにならないよう、注意が必要です。交通事故被害の損害賠償請求権の消滅時効は、物損が3年、人損が5年です。時効起算点も異なります。消滅時効について詳しくはこちらをご覧ください。さらに、物損の損害賠償請求権は、侵害された財産権ごとに生じます。複数の財産権が侵害された場合は、財産権ごとに損害賠償請求権が別です。ちなみに、人損には財産的損害(治療費や逸失利益など)と精神的損害(慰謝料)がありますが、損害賠償の請求権は、1個とされています。人損の賠償請求権は1個同一事故により生じた同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害とは、原因事実および被侵害利益を共通にするものであるから、その賠償の請求権は一個であり、その両者の賠償を訴訟上あわせて請求する場合にも、訴訟物は1個であると解すべきである。(最高裁第一小法廷判決 昭和48年4月5日)人的損害物的損害消滅時効5年3年請求権1個財産権ごと物損特有の損害算定の論理物損は、財産権の侵害による損害ですから、その損害賠償は、財産上の損害を事故前の状態に回復させることです。したがって、修理をするにしろ、買替えをするにしろ、損害賠償額は、事故時における時価額の範囲となります。車両損害で考えてみましょう。被害車両が修理可能の場合は、修理をして、かかった修理費を損害賠償請求するのが原則です。修理可能であるのに、買替えを求めても認められません。修理不能の場合は、全損(物理的全損)と判断され、車両の買替えが認められます。ただし、損害として認められるのは、被害車両の時価相当額です。なお、修理可能でも、修理費が被害車両の時価額を上回る場合は、経済的全損と判断され、買替が相当となり、損害賠償額は被害車両の時価相当額です。修理費のうち、車両時価額を上回る部分は、相当因果関係のある損害と認められません。このように、物損の場合は、修理費もしくは時価額のいずれか低い方の額が、損害賠償額となります。原則は修理による原状回復ですが、買替える方が安いなら、その方が経済的に合理的というわけです。実況見分調書がなく事故状況を立証する客観的資料が乏しい物損事故の場合には、警察に事故の届出をしたとしても、通常、実況見分調書は作成されず、簡易な物件事故報告書が作成されるだけです。しかも、事故後、車両を修理し、車両の損傷状況が証拠として保存されていないこともあります。そのため、後日、過失割合が争いとなったとき、事故態様を客観的に証明する資料を欠く場合が少なくないのです。ですから、事故後、記憶が鮮明なうちに、事故現場の道路状況や双方の車両の動静などをできる限り正確に記録した図面を作成しておくことが大切です。双方の車両の損傷状況を写真撮影し、どのように衝突・接触したのかの資料を確保しておく必要があります。最近は、ドライブレコーダーを搭載している車両も多くなってきています。事故時のドライブレコーダーの動画がある場合は、動画のデータを確保し、保存しておくことが大事です。物損事故の場合、軽く考え、警察への届出をしないこともあります。しかし、警察へ事故を届出していないと、後日、交通事故証明書の発行を受けられず、事故の発生自体が争いとなりかねません。必ず事故の届出をしておくことが大切です。交通事故の初期対応で被害者がやっておくべき3つのこと損害賠償額が比較的少額にとどまる物損事故は、人身事故に比べて損害賠償額が比較的少額にとどまります。物損には、人損における逸失利益や慰謝料がなく、損害項目が限られます。車両の損害であれば、原則は修理ですが、修理費は車両の時価額までしか認められません。修理費が時価額を超える場合は、時価額までしか損害賠償を受けられません。そのため、想定した修理ができないような賠償額にとどまることも多く、お詫び的な金銭の支払いもないので、法的には適正な賠償額であったとしても、被害者の心情的には、納得できないケースも少なくありません。損害賠償額に納得できないからといって、弁護士に依頼しても、時価額を大幅に超える損害賠償を受けることは期待できません。物損の場合は、人損のように損害算定基準が、保険会社と弁護士とで違うということがないからです。物損の場合は、そもそも受け取れる損害賠償額が多くはなく、弁護士が介入することで増額できる余地も少ないため、弁護士に依頼しても、弁護士費用の負担を考えると、費用対効果の点でメリットがないのです。最近は、弁護士保険に加入している方も増えています。弁護士保険を利用すれば、法律相談料を含め、弁護士費用が保険から支払われますから、弁護士保険を利用するのであれば、物損であっても弁護士に相談・依頼するメリットはあります。まとめ物損は財産権の侵害に係る損害であるため、修理でも買替でも損害賠償額の上限は時価額です。慰謝料や逸失利益は認められません。そのため、物損の損害賠償額は、一般的に少額にとどまります。また、人損であれば、保険会社と弁護士とで損害算定基準に大きく差がありますが、物損には、そういった違いもありません。なので、物損のみの場合、弁護士費用の負担を考えると、弁護士に相談・依頼するメリットは、あまりありません。弁護士に依頼する場合は、費用倒れにならないよう注意が必要です。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通関係訴訟の実務』商事法務 426~429ページ・『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ』ぎょうせい 332~334ページ・『物損交通事故の実務』学陽書房 2~7ページ・『Q&Aと事例 物損交通事故解決の実務』新日本法規 3~6ページ
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