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  • 交通事故が業務災害・通勤災害だったときの労災保険給付・補償の内容
    労働者が業務中や通勤中の交通事故で負傷したときは、労災保険を使えます。労災保険は、治療費だけでなく様々な補償を受けられます。ここでは、どんな場合に労災保険を使えるのか、どんな補償を労災保険から受けられるのか(労災保険給付の内容)について、見ていきましょう。なお、労災保険を使うメリット・デメリットはこちらをご覧ください。労災保険を使えるケース・使えないケース労災保険(労働者災害補償保険)は、業務災害または通勤災害が発生した場合に、被災労働者と遺族に所定の保険給付を行う保険制度です。業務災害・通勤災害とは、次のものです。業務災害労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡(労災保険法第7条1項1号)通勤災害労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡(労災保険法第7条1項2号)したがって、労働者が業務中・通勤中に交通事故で負傷したときは、基本的には業務災害・通勤災害として、労災保険給付の対象となります。ただし、就業時間中や通勤途中の交通事故が、全て業務災害・通勤災害として認められるわけではありません。業務災害・通勤災害となるケース、ならないケースについて、もう少し具体的に見てみましょう。業務災害となるケース、ならないケース業務災害となりうるのは、次の3つの場合があります。事業主の支配・管理下で業務に従事している場合事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合それぞれのケースにつき、業務災害と認められるか認められないか、基本的な考え方は、次の通りです。事業主の支配・管理下で業務に従事している場合事業主の支配・管理下で業務に従事している場合は、特段の事情がない限り業務災害と認められます。ただし、就業中の私的行為により被災した場合や天災により被災した場合などは、業務災害とは認められません。事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合出勤して事業場施設内にいれば事業主の支配・管理下にありますが、休憩時間や就業前後は業務をしていないので、この時間に私的な行為によって発生した災害は、業務災害とは認められません。事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合事業主の管理下を離れてはいるものの、事業主の命令を受けて仕事をしているときは、事業主の支配下にあります。この場合、積極的な私的行為を行わうなど特段の事情がない限り、業務災害と認められます。例えば、仕事で会社の車を運転していた場合の事故や、取引先に送金するため銀行に行く途中の事故は、業務災害となりますが、昼の休憩時間に昼食を食べに行く途中の事故は、業務災害になりません。出張中は、基本的に出張過程の全般について事業主の支配下にあり業務行為とみなす取扱いがされていますが、積極的な私的行為の間(空き時間に観光地を訪ねるなど)は業務との関連性が失われ、そのとき交通事故に遭っても業務災害と認められません。通勤災害となるケース、ならないケース通勤災害に該当するかどうかで注意が必要なのは、通勤の定義です。通勤災害の「通勤」とは、労働者が、就業に関し、次の移動を合理的な経路・方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除きます(労災保険法7条2項)。住居と就業の場所との間の往復就業の場所から他の就業の場所への移動単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動ただし、移動の経路を逸脱・中断した場合には、逸脱・中断の間およびその後の移動は通勤とはなりません(労災保険法7条3項)。例えば、通勤途中や帰宅途中の事故は、通勤災害となりますが、帰宅途中に私用で通常の通勤経路を外れているときに交通事故に遭った場合は、通勤災害と認められません。事業主が労災保険の加入手続きをしていなかったとしても、労災保険の給付を請求することができます。被災労働者が故意に事故を起こした場合や酒酔い運転の場合などは、労災保険給付を受けることができません(⇒支給制限)。交通事故で労災保険を使うには「第三者行為災害届」が必要交通事故で労災保険給付を受けるには、所轄の労働基準監督署へ「第三者行為災害届」の提出が必要です。第三者行為災害とは?第三者行為災害とは、①労災保険給付の原因である事故(業務災害・通勤災害)が第三者の行為によって生じたもので、②労災保険の受給権者である被災労働者または遺族に対し、第三者が損害賠償の義務を有しているもの、をいいます。ここで、第三者とは、労災保険関係にある当事者(政府・事業主・労災保険の受給権者)以外の人のことです。第三者行為災害の場合、被災者は、国に労災保険給付を請求できると同時に第三者に対して損害賠償請求ができます。しかし、同一事由につき重複して損害の填補を受けることはできません。二重填補を防ぎ支給調整をするために、第三者行為災害届の提出が必要なのです。労災保険法では、保険給付をしたときは、その給付額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得し、保険給付を受けるべき者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、その価額の限度で保険給付をしないことができる、と定めています(労災保険法12条の4)。なお、労災保険給付と損害賠償金のどちらを先に受けるかは、被災労働者や遺族が自由に選ぶことができます。労災病院・労災保険指定医療機関で治療する労災保険を使って治療すると、本人負担はゼロです。ただし、労災病院や労災保険指定医療機関にかかるか、それ以外の医療機関にかかるかで異なります。労災病院や労災保険指定医療機関で治療する場合は、窓口での負担もありませんが、労災病院や労災保険指定医療機関以外で治療を受ける場合は、窓口でいったん立て替えて支払い、あとで労災保険に請求することになります。ですから、労災保険を使って治療する場合は、労災病院か労災保険指定医療機関にかかることをおすすめします。労災保険給付の内容労災保険制度は、労働基準法の使用者の災害補償義務(労基法第8章)にもとづき、被災労働者の死傷により生じた損害を補償するものなので、不法行為による損害の積算項目と共通する部分が多くあります。ただし、労災補償には社会保障的な性格があるため、法令により定められた損害項目についてのみ給付の対象となり、金額的にも上限があります。したがって、事故と相当因果関係のある損害を全て賠償の対象とする民事の損害賠償と比べると、カバーしきれない部分もあります。例えば、労災保険には慰謝料はありません。休業補償は、特別支給金を含めて賃金の8割です。労災保険給付の内容と損害賠償費目との対応関係労災保険から受けられる給付には次のようなものがあります。労災保険給付の内容と、損害賠償における損害項目との対応関係を一覧表にまとめておきます。損害項目労災保険給付内容治療費療養補償給付(療養給付)治療費、入院費用など。診療を無料で受けられる。※労災病院・労災保険指定医療機関の場合は、療養の給付。※それ以外の医療機関の場合は、療養の費用の支給。休業損害休業補償給付(休業給付)療養等で欠勤して給料を得られなかった場合に、給料の一部に相当する金額を給付。休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%相当額。休業損害休業特別支給金休業4日目から1日につき給付基礎日額の20%相当額を支給。休業損害傷病補償年金(傷病年金)療養開始から1年6ヵ月が経過しても治癒(症状固定)せず、傷病による障害の程度が傷病等級に該当するとき、その状態が継続している間、休業補償給付(休業給付)に代えて支給。休業損害傷病特別支給金傷病特別年金障害の程度により一時金を支給。障害の程度により年金を支給。後遺障害逸失利益障害補償給付(障害給付)障害等級に応じて年金や一時金を支給。自賠責保険の後遺障害等級と同様に1級から14級に分類。将来の賃金喪失分を補償するもの。※障害等級7級以上は年金、8級以下は一時金。後遺障害逸失利益障害特別支給金障害特別年金障害特別一時金障害の程度に応じ一時金を支給。障害の程度に応じ年金を支給。障害の程度に応じ一時金を支給。将来介護費介護補償給付(介護給付)障害補償年金(障害年金)や疾病補償年金(疾病年金)の受給者が介護を必要とする場合に支給。死亡逸失利益遺族補償給付(遺族給付)死亡した場合には、年金・一時金を支給。死亡による将来の賃金喪失分を補償するもの。※扶養家族ありは年金、扶養家族なしは一時金。死亡逸失利益遺族特別支給金遺族特別年金遺族特別一時金遺族の数に関わらず一律300万円を支給。遺族の数等に応じ年金を支給。一時金を支給。葬儀費用葬祭料(葬祭給付)原則、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額。慰謝料なし―※労災保険給付の内容に関しては、厚生労働省「労災保険給付の概要」を参考。※損害賠償の損害項目との対応関係に関しては、高野真人「労災保険給付の実務と交通事故損害賠償」判例タイムズ№943号 114ページ、北河隆之『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 254ページを参考。業務災害は「補償給付」、通勤災害は「給付」労災保険給付のうち、名称に「補償」の2文字が付くのが、業務災害に対する給付です。「補償」と付かないのが、通勤災害に対する給付です。表中の( )内の保険給付名が、通勤災害の場合の名称です。なぜ、業務災害は「補償給付」で、通勤災害は単に「給付」なのかというと、業務災害は、使用者に労基法上の災害補償義務があるのに対し、通勤災害は、使用者に労基法上の災害補償義務が存在しないからです。労働基準法は、業務によって労働者が被災した場合、使用者に無過失責任として、被害の程度・内容に応じた一定の補償を課しています(労基法第8章)。無過失責任とは、損害の発生について故意・過失がなくても損害賠償の責任を負うことです。労災保険は、使用者の災害補償責任をカバーするための責任保険の性質があります。法律上も、業務災害に対して労災保険給付が行われる場合、使用者は災害補償責任を免れるとされています(労基法84条)。通勤災害も業務災害とほぼ同様の保険給付がされますが、通勤災害は「業務外」の災害ですから、使用者の「労基法上の災害補償責任」は存在しません。そのため、業務災害は補償給付なのですが、通勤災害は給付となっているのです。これは、単に名称が違うだけではありません。例えば、休業補償給付と休業給付を考えてみましょう。休業補償給付・休業給付は、労災保険法の規定により、休業開始4日目から支給されます(労災保険法第14条第1項、第22条の2第2項)。一方、労基法では、業務災害についてのみ使用者に休業補償を義務づけています(労基法76条1項)。通勤災害については、使用者の災害補償義務がありません。したがって、休業開始後3日間の待期期間について、業務災害による休業補償給付の受給者は、使用者の休業補償の対象となりますが、通勤災害による休業給付の受給者には、その補償がありません。ただし、自動車事故なら相手方の自賠責保険から支払われるので、特に問題となることはありませんが、業務災害と通勤災害には、こうした違いがあるのです。労災保険の障害等級認定と自賠責の後遺障害等級認定の違い労災保険の保険給付も自動車保険と同じく、症状固定となった時点で、療養補償給付(療養給付)や休業補償給付(休業給付)は終了し、後遺症が残ったときは、障害等級が認定されれば、障害補償給付(障害給付)が行われます。自賠責における「症状固定」のことを、労災保険では「治癒」といいます。自賠責保険の後遺障害認定基準は、労災保険の障害認定基準に準拠しています。ただし、全く同じというわけではなく、微妙に異なる部分もあります。また、労災保険は、障害認定にあたり、医師による面談や検査が行われますが、自賠責保険は、医師による面談や検査はなく、書類審査のみです。もちろん、認定機関も異なります。そのため、自賠責保険と労災保険とで、認定される後遺障害等級が異なる場合があります。例えば、神経症状で、労災保険では12級なのに、自賠責保険では14級が認定されるようなケースです。認定される等級が異なる場合、たいてい労災保険の方が、自賠責保険に比べ、上位の障害等級と判断されるケースが多いようです。なお、労災保険が自賠責より上位の障害等級と判断したことをもって、自賠責に対し異議申し立てをしても、自賠責の後遺障害等級が変わることはありません。業務中や通勤中の交通事故で、障害補償給付(障害給付)を考えている場合は、自賠責用の後遺障害診断書と労災保険用の診断書の2通が必要となります。労災保険にも、自賠責の異議申立てと類似の制度があります(審査請求)。労災保険の決定があったことを知った日の翌日から起算して3ヵ月以内に行う必要があります。審査請求の期限が迫っている場合は、とりあえず簡単な審査請求の理由を記載した労働保険審査請求書を提出し、審査請求権を保全し、あとから詳細な審査請求の理由書を提出します。労災保険の特別支給金労災保険では、業務災害や通勤災害による被災労働者とその遺族に対し、各種保険給付とあわせて社会復帰促進等事業を行っています(労災保険法29条)。特別支給金の支給は、その1つです。特別支給金の種類特別支給金には、次のものがあります。休業特別支給金障害特別支給金、障害特別年金、障害特別一時金遺族特別支給金、遺族特別年金、遺族特別一時金傷病特別支給金、傷病特別年金労災保険給付金との関係は、次のようになっています。保険給付特別支給金休業補償給付(休業給付)休業特別支給金障害補償給付(障害給付)障害補償年金(障害年金)障害特別支給金障害特別年金障害補償給付(障害給付)障害補償一時金(障害一時金)障害特別支給金 障害特別一時金遺族補償給付(遺族給付)遺族補償年金(遺族年金)遺族特別支給金遺族特別年金遺族補償給付(遺族給付)遺族補償一時金(遺族一時金)遺族特別支給金遺族特別一時金傷病補償年金(傷病年金)傷病特別支給金傷病特別年金各特別支給金の詳しい内容については、厚生労働省の「労災保険給付の概要」や「労働者災害補償保険特別支給金支給規則」をご覧ください。特別支給金は損害賠償額と支給調整されない特別支給金は、社会復帰促進等事業にもとづく支給で、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活を援護し福祉の増進を図ることが目的であり、損害の填補を目的としたものではないため、損害賠償金との支給調整の対象となりません。実際、労災保険法にも、労災保険給付については損害賠償額との調整規定や代位規定(労災保険法12条の4)がありますが、特別支給金を含む社会復帰促進等促進事業には、そういった支給調整の規定がありません。つまり、労災保険を使うと、損害賠償で受け取れる休業補償や逸失利益の額よりも、特別支給金の額だけ多く受け取れるということです。このことは、交通事故に労災保険を使うメリットの1つです。最高裁判決(平成8年2月23日)でも「特別支給金は、被災労働者の損害額から控除することができない」とされています。労災保険金給付・特別支給金の時効労災保険給付・特別支給金の請求権にも時効があります。労災保険給付の請求権の時効給付の種類時効の起算日時効期間療養補償給付(療養給付)療養に要する費用の支出が具体的に確定した日の翌日2年休業補償給付(休業給付)賃金を受けない日ごとにその翌日2年障害補償給付(障害給付)治癒した日の翌日5年介護補償給付(介護給付)支給事由が生じた月の翌月の初日2年遺族補償給付(遺族給付)労働者が死亡した日の翌日5年葬祭料(葬祭給付)労働者が死亡した日の翌日2年二次健康診断等給付一次健康診断の結果を了知し得る日の翌日2年※労災保険法42条1項特別支給金の請求権の時効特別支給金も、時効期間は同じです。休業特別支給金は、賃金を受けない日ごとにその翌日から2年、障害特別支給金は、治癒した日の翌日から5年です。特別支給金は、損害賠償額と調整されず、支給金額の全額が被害者の経済的メリットになります。あとで特別支給金のことを知って請求しようとしたら、すでに時効で請求できない、といったことがありますから、くれぐれも時効には注意が必要です。まとめ業務中や通勤中の交通事故は、業務災害・通勤災害として労災保険が使えます。業務災害に対する労災保険給付は、①療養補償給付、②休業補償給付、③傷害補償給付、④遺族補償給付、⑤葬祭料、⑥傷病補償年金、⑦介護補償給付の7種類があります。通勤災害に対する労災保険給付は、①療養給付、②休業給付、③障害給付、④遺族給付、⑤葬祭給付、⑥傷病年金、⑦介護給付の7種類があり、いずれも業務災害に関する規定が準用されています。労災保険には、さらに特別支給金があります。保険給付金は損害賠償額との重複が調整されますが、特別支給金は被災労働者の福祉の増進を図るためのものなので、損害賠償額との支給調整がありません。全額が被害者の経済的メリットになります。交通事故に労災保険を使うことによって被害者が不利になることはありませんから、交通事故が業務災害・通勤災害に該当するときは、労災保険を使用するとよいでしょう。交通事故の被害に遭って、労災保険の申請をお考えの方、すでに労災保険を活用していて、ご心配のことや、お困りのことのある方は、交通事故に詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・厚生労働省「労災保険給付の概要」・厚生労働省「労働者災害補償保険特別支給金支給規則」・高野真人「労災保険給付の実務と交通事故損害賠償」判例タイムズ№943号 113~122ページ・北河隆之『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 254ページ・中込一洋『交通事故事件社会保険の実務』学陽書房 46~48ページ、74~76ページ、81~83ページ、102~103ページ・『交通事故事件処理の道標』日本加除出版株式会社 270~273ページ・『改訂版 交通事故が労災だったとき知っておきたい保険の仕組みと対応』日本法令 67~71ページ
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  • 交通事故で労災保険を使うメリット・デメリット・注意点
    業務中や通勤途中に交通事故に遭った場合は、労災保険を使えます。交通事故が労災に該当し、労災保険を使えるのであれば、使わないと損です。特に、被害者の過失割合が大きい場合は、労災保険を使うと断然有利です。ここでは、労災保険と自賠責保険のメリット・デメリットの比較、労災保険を使うメリット・デメリット、労災保険を使うときの注意点、労災保険への請求と加害者(相手方保険会社を含む)への損害賠償請求のどちらを先にすべきか、について見ていきます。労災保険と自賠責保険のメリット・デメリット比較業務中・通勤中に交通事故の被害に遭った場合は、加害者(相手方保険会社)に損害賠償を請求する方法に加え、労災保険に請求する方法があります。もちろん、両方に請求できます。交通事故で労災保険を使うと、どんなメリット・デメリットがあるのか、労災保険と自賠責保険の補償の違いを比較してみましょう。なお、ここでいう労災保険のデメリットとは、自賠責保険と比べて相対的に「補償内容が見劣りする」という程度の意味で、利用すると「不利になる」ということではありません。労災保険と自賠責保険には、給付に関し、次のような違いがあります。治療費の対象は、労災保険よりも自賠責保険の方が広範囲です。慰謝料は、労災保険にはありませんが、自賠責保険では認められます。休業損害は、労災保険は60%(休業特別支給金を上乗せすれば80%)填補され、自賠責保険は100%(1日あたり原則6,100円)填補されます。労災保険は、被害者に過失があっても満額給付されますが、自賠責保険は、被害者に7割以上の過失があると一定割合減額されます(⇒重過失減額)。自賠責保険には支払限度額があります(傷害は120万円)が、労災保険にはありません。※自賠責保険の支払基準・支払限度額はこちらをご覧ください。まとめると、こうです。労災保険と自賠責保険の違い労災保険自賠責保険治療費診療費のみ診療費のほか、付添看護費や入院雑費等も支払われる休業補償休業損害の6割(休業特別支給金を上乗せすれば8割)休業損害の100%(1日あたり原則6,100円)慰謝料なしあり過失相殺被害者の過失の有無に関係なく支給される被害者に7割以上の過失があると一定割合を減額支払上限なしあり(傷害事故で120万円)労災保険は、財産的損害(積極損害・消極損害)に対する補償はあるのですが、精神的損害(慰謝料)に対する補償はありません。また、被害者に過失があっても過失相殺されることなく満額給付されますが、金額や割合が決まっています。ただし、支払限度額はありません。このように、労災補償は社会保障的な性格があり、法令で定められた項目・金額が給付されます。それゆえ、事故と相当因果関係のある損害を全て賠償の対象とする民事損害賠償と比べると、カバーできない部分がありますが、労災保険と損害賠償の請求を併用することで「いいとこ取り」ができ、受領できる金額が多くなる場合があるのです。なお、労災保険給付の種類・内容はこちらをご覧ください。交通事故が労災だったとき、労災保険を使う3つのメリット交通事故が労災(業務中や通勤中の事故)だった場合は、「労災保険を使うのが原則」といってもよいでしょう。もっとも、軽傷で、被害者に過失がなく、加害者が任意保険に加入している場合には、治療のためだけに、わざわざ労災保険を使う必要はありません。相手方任意保険会社が一括対応により治療費を病院に直接支払いますから、労災保険を使う経済的メリットは生じないからです。しかし、被害者に過失がある場合や、休業損害が発生する場合、後遺障害が残る場合、加害者が任意保険に加入していない場合などは、労災保険を使うと有利です。その理由は、労災保険を使うと、次のようなメリットがあるからです。交通事故で労災保険を使う3つのメリット治療費の自己負担がない労災保険には過失相殺がない特別支給金は支給調整されないいずれも、労災保険を使うと、損害賠償を請求するだけより、多くの補償を受けられることを意味します。詳しく見ていきましょう。①治療費の自己負担がない労災保険を使って治療すると、治療費や薬代など療養に関わる費用は、全額給付されます。健康保険のような自己負担はありません。災保険の対象となる事故の場合、法律上も健康保険は使えません。もし、労災に該当するのに健康保険を使って治療している場合は、速やかに労災保険に切り替える必要があります。しかも、労災保険の方が、健康保険より経済的メリットが大きく有利です。②労災保険には過失相殺がない労災保険は、被災労働者の救済、労働者の保護と福祉の増進が目的ですから、そもそも過失相殺という考え方がありません。たとえ被害者に大きな過失があっても、労災保険は満額給付されます。ちなみに、自賠責保険は、被害者に重大な過失があれば過失相殺され、任意自動車保険は、被害者の過失割合に応じて過失相殺されます。さらに、労災保険は、相手の損害賠償責任の有無に関係なく、被害の程度に応じて所定の保険給付がされます。相手が無責の場合や自損事故の場合でも、業務中または通勤中の交通事故であれば、労災保険給付を受けられます。支給制限労災保険には、過失相殺はありませんが、支給制限の制度があります。労働者が故意に事故を生じさせ死傷したときは、保険給付を行わない(労災保険法12条の2の2第1項)、労働者が故意の犯罪行為もしくは重大な過失により事故を生じさせ死傷したときは、保険給付の全部または一部を行わないことができる(労災保険法12条の2の2第2項)とされています。したがって、事故発生の原因が、被害者の道路交通法等の法令違反にある場合は、支給制限の規定が適用される場合があり得ます。ただし、その場合の支給制限の範囲は、休業(補償)給付と障害(補償)給付に限られ、療養(補償)給付は、故意に事故を起こしたのでない限り制限されません。(参考:『交通事故が労災だったときに知っておきたい保険の仕組みと対応』日本法令 55~56ページ)③特別支給金は支給調整されない労災保険には社会復帰促進等事業として特別支給金があり、労災保険給付にプラスして支給されます。特別支給金は、損害賠償額と支給調整されず、満額支給されます。休業損害を例に、損害賠償額と労災保険給付との調整を見てみましょう。労災保険からは、休業補償給付(休業損害の60%)、休業特別支給金(休業損害の20%)、あわせて休業損害の80%分が支給されます。加害者側の任意保険会社が一括対応している場合、過失相殺がなければ、休業損害の100%が損害賠償されます。労災保険から休業補償給付と休業特別支給金を先に受領した場合、休業損害から休業補償給付を控除した残り40%分を、加害者側に損害賠償請求できます。このとき、休業特別支給金は、控除されません。逆に、加害者側から100%の休業補償を受けた後で、労災保険に請求する場合は、休業補償給付は支給調整により支給されませんが、休業特別支給金は満額支給されます。つまり、過失相殺がないときは、労災保険給付を請求すれば、休業損害については実質120%の休業補償を受けられることになるのです。労災保険を使うと特にメリットが大きいケース労災保険を使うと、特にメリットが大きいのは次のようなケースです。加害者が任意保険に加入していない場合ひき逃げで加害者不明の場合被害者に過失がある場合相手に賠償責任がない場合具体的に見ていきましょう。①加害者が任意保険に加入していない場合加害者が任意保険に加入していない場合は、事実上、自賠責保険の範囲内でしか損害賠償を受けられません。傷害事故なら、自賠責保険の支払限度額は、治療費・休業損害・慰謝料あわせて120万円です。労災保険を使わずに自由診療で治療を受けると、治療費だけで120万円に達することもあり、そうなると休業補償や慰謝料を請求できません。労災保険を使って治療すると、自己負担なしで治療できますから、自賠責保険に対し治療費を請求する必要がなくなり、その分、慰謝料等を請求できるのです。②ひき逃げで加害者不明の場合ひき逃げで加害者が不明の場合は、政府保障事業に損害の填補を請求できます。政府保障事業は、労災保険や健康保険など他の社会保険給付を受けられるときは、その部分については支払わない仕組みです(自賠法73条1項)。つまり、政府保障事業に損害の填補を請求するときは、労災の場合は労災保険を使い、労災でない場合は健康保険を使うことが前提となっているのです。なお、政府保障事業の支払限度額は、自賠責保険と同じです。③被害者に過失がある場合被害者に過失がある場合、特に被害者の過失割合が大きい場合は、労災保険を使うと断然有利です。具体的に考えてみましょう。事例被害者の過失割合が60%治療費:300万円(自由診療で診療単価1点20円)(労災保険を使うと1点12円なので治療費は180万円)休業損害:120万円慰謝料:80万円この事例について、損害賠償額、労災保険給付額は、こうなります。損害項目損害額(A)賠償額(A×40%)労災保険給付額治療費①300万円(自由診療)180万円(労災保険診療)120万円180万円(療養補償給付)休業損害②120万円48万円96万円(休業補償給付72万円+休業特別支給金24万円)慰謝料③80万円32万円―合計①+②+③500万円(自由診療)380万円(労災保険診療)200万円276万円既払金―300万円(治療費)180万円(治療費)受領額―-100万円96万円治療費労災保険を使わず自由診療で治療した場合、治療費300万円に対する賠償額は120万円です。過失相殺された180万円は、被害者の負担となります。労災保険を使って治療した場合は、治療費は180万円で、全額が療養補償給付されます。健康保険のような3割の自己負担もなく、被害者の負担はゼロです。被害者の過失割合が大きい場合は、相手方任意保険会社が一括払いをしないことが多く、その場合、治療費300万円は全額が被害者の負担となります。休業損害休業損害120万円に対する賠償額は48万円です。労災保険なら、休業補償給付として72万円(休業損害の60%)、休業特別支給金として24万円(休業損害の20%)、合わせて96万円(休業損害の80%)が給付されます。労災保険を使うと休業損害の8割が填補されますが、損害賠償だと休業損害の4割しか填補されないのです。慰謝料労災保険には、慰謝料に対応する保険給付がありません。慰謝料80万円に対する賠償額は32万円です。受領額(労災保険を使わない場合)労災保険を使わない場合、損害賠償請求額は、全損害500万円の40%で200万円です。治療費300万円を相手方保険会社が一括払いしていた場合、治療費を既払金として控除すると、マイナス100万円となります。受領額はゼロです。相手方任意保険会社が一括払いをせず、治療費300万円を被害者が支払っていたとすれば、受領額は200万円となりますが、これでは治療費すら回収できません。受領額(労災保険を使った場合)労災保険を使った場合、加害者(相手方保険会社)に損害賠償請求できる額は次のようになります。治療費は、労災保険を使うと180万円となり、全額が労災保険から療養補償給付され、損害賠償請求する額はありません。休業損害は、過失相殺後の48万円を賠償請求できますが、労災保険から休業補償給付72万円が給付されているので控除するとマイナス24万円(48万円-72万円)です。すでに賠償額を超えて損害の填補がされていることになり、損害賠償請求できる休業損害はありません。※休業特別支給金24万円は控除されません。慰謝料の80万円については、労災保険給付はありませんから、加害者側に請求します。請求できる慰謝料は、過失相殺後の32万円です。以上をまとめると、労災保険を使った場合、労災保険給付と損害賠償により受け取れる額は、全損害380万円に対し、治療費180万円、休業損害96万円、慰謝料32万円で、合計308万円です。労災保険を使った上で損害賠償請求すると、回復できる損害は全損害の約81%となります。手取額は、治療費の180万円は現物給付として病院に支払われるので除外すると、休業損害96万円と慰謝料32万円で128万円です。労災保険を使わなかったら、全損害500万円に対し回復できるのは200万円で40%。治療費すら回収できません。被害者に過失があるときは、労災保険を使うと、経済的メリットが大きいのです。損益相殺的な調整における費目拘束労災保険給付を受けた上で損害賠償請求するとき、労災保険からの給付額は、過失相殺後に控除します。その際、費目流用が禁止(費目拘束)されています。費目とは、治療費・休業損害・慰謝料といった区分です。上の例では、休業損害として48万円を賠償請求できますが、労災保険から72万円の給付を受けたことで賠償額を24万円超過しています。この超過分について、例えば慰謝料の32万円から控除することはできません。これが費目流用禁止の意味です。すでに支払われた労災保険給付額が、その費目に対応する損害の過失相殺後の金額を上回ったとしても、上回った金額を他の損害費目から控除されることはありません。④相手に賠償責任がない場合相手に賠償責任がない場合は、損害賠償を受けられませんが、労災保険は、相手の賠償責任の有無にかかわらず、給付を受けられます。なので、相手に賠償責任がない無責の場合でも、労災保険を使うと、治療費、休業損害、逸失利益については、損害の填補が可能です。慰謝料については、労災保険には対応する給付がありません。労災保険と自賠責保険のどちらを先に請求するか?労災保険と自賠責保険は、一方から損害の完全な填補がなされない場合は、他方も請求して損害の填補を受けることができます。自賠責保険からの損害賠償を先に受けるのを「自賠先行」といい、労災保険給付を先に受けるのを「労災先行」といいます。どちらを先に受け取っても、損害が重複して填補されないように調整されます。「自賠先行」か「労災先行」かは、被害者が自由に選択できる厚生労働省は「労災保険の給付と自賠責保険の損害賠償額の支払との先後の調整については、給付事務の円滑化をはかるため、原則として自賠責保険の支払を労災保険の給付に先行させるよう取り扱うこと」(昭和41年12月16日基発第1305号)との通達を出しています。このため、原則として自賠先行とされています。ただし、これは行政内部の取り扱いであり、労働者がこれに縛られるものではありません。厚生労働省の「第三者行為災害事務取扱手引」では、原則として自賠先行とした上で、労災先行か自賠先行かは当事者が自由意思に基づき決定するものだから、当事者の意思に反して自賠先行を強制することのないよう留意し、当事者の意向が労災先行であれば労災保険給付を先行させる、としています。(※参考:厚生労働省労働基準局「第三者行為災害事務取扱手引 平成30年4月」21ページ)また、厚労省の「第三者行為災害のしおり」や「労災保険給付の概要」では、「労災保険給付と自賠責保険等による保険金支払いのどちらか一方を先に受けてください。どちらを先に受けるかについては、被災者等が自由に選べます」と明記しています。そこには「原則は自賠先行」という記載すらありません。労基署の窓口で、自賠責保険の請求を先にするように言われることがあるようですが、自賠先行は行政内部の事務手続きの話にすぎません。労災先行で進めたいときは、その意思をはっきり示すことが大切です。任意自動車保険会社による「一括払い」の場合の取扱自賠先行か労災先行か、が問題となるのは、任意自動車保険の適用がない場合です。任意保険会社が一括払いする場合は、「労災先行」「自動車保険先行」といった考え方はなく、労災保険の給付対象の交通事故であれば、労災保険と自動車保険の両方に同時請求するのが一般的です。第三者行為災害事務取扱手引には、こうあります。要旨を紹介します。任意自動車保険会社が、自賠責保険を含めて一括扱いする場合は、通常、任意保険会社は、被害者が手厚い補償を受けられるよう、自動車保険だけではなく、労災保険にも請求することを案内することが多いため、労災保険と自動車保険に対して、同時請求が行われることが一般的である。ただし、自賠責保険のみが適用される事案の場合と異なり、 「労災先行」 「自動車保険先行」といった考え方はなく、損失の二重填補を行わないよう、労働基準監督署と任意保険会社の両担当者間で、支払うタイミングや金額を調整しつつ、双方の制度から随時支払を行うこととなる。(参考:厚生労働省労働基準局「第三者行為災害事務取扱手引 平成30年4月」21ページ)「自賠先行」と「労災先行」のどちらが有利か?被害者にとって、労災先行と自賠先行のどちらが有利なのでしょうか?一般論で言えば、傷害による損害(治療費・休業損害)については労災先行、後遺障害・死亡による損害については自賠先行、と考えるとよいでしょう。傷害による損害(治療費・休業損害)被害者に過失がなく、加害者の自賠責保険と任意自動車保険から十分な損害賠償を受けられるのであれば、自賠先行で問題ありません。基本的に、自賠責保険と任意自動車保険からの支払により、損害は全て填補されます。ただし、治療が長引くような場合は、任意一括払いにしていると、被害者の意向に関係なく、任意保険会社から一方的に治療費の支払いを打ち切られる場合があります。労災保険なら、治っていないのに治療費の支払いを打ち切られる、といった心配はありません。なので、たとえ被害者に過失がなくても、怪我の程度によっては、労災保険を使って治療することをおすすめします。被害者に過失がある場合は、労災先行です。被害者の過失割合が大きい場合は、特に有効です。労災保険なら、治療費は全額保険給付されます。休業補償給付は、特別支給金を加えて8割の給付を受けられます。もちろん、被害者の過失が小さく、労災保険の休業補償給付・休業特別支給金を超えて賠償請求できる場合は、あとから加害者(相手方保険会社)に賠償請求できます。後遺障害・死亡による損害後遺障害・死亡による損害については、実務上、自賠先行が多いようです。自賠責保険には慰謝料がありますが、労災保険には慰謝料がなく、自賠責保険からの支払額が労災保険給付額を上回るからです。もっとも、労災保険には支給調整されない特別支給金がありますから、並行または後行して労災保険も請求します。支給調整労災先行でも自賠先行でも、損害が二重に填補されないように調整されます。労災先行の場合労災先行を選択し、先に労災保険給付を受けると、給付額を限度に損害賠償請求権が保険者である国に移ります(労災保険法12条の4第1項)。被害者は、賠償請求できる損害額(過失相殺後の額)から労災保険給付額を控除した残額を加害者(相手方保険会社)に損害賠償請求できます。特別支給金は控除しません。自賠責保険に対する被害者請求と国の求償が競合した場合は、被害者の直接請求権が国の求償権に優先します。自賠先行の場合自賠先行を選択し、先に自賠責保険から損害賠償額の支払を受けた場合は、その額を控除し、さらに保険給付すべき金額がある労災保険給付されます(労災保険法12条の4第2項)。特別支給金は、支給調整の対象とならないので、満額が支給されます。労災保険法12条の4第1項 政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。第2項 前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。まとめ交通事故が労災だったときは、労災保険を使うと、経済的メリットが生じることがあります。特に、被害者の過失が大きい場合や加害者が任意保険に加入していない場合など、十分な損害賠償を望めないときは、労災保険を使うと受取額が増えるので、被害者にとって有利です。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通事故が労災だったときに知っておきたい保険の仕組みと対応』日本法令 55~63ページ・東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編集『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 73~74ページ・東京弁護士会親和全期会編著『交通事故事件21のメソッド』第一法規 108~111ページ・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 41~43ページ・厚生労働省労働基準局「第三者行為災害事務取扱手引 平成30年4月」21ページ・厚生労働省「労災保険給付の概要」・厚生労働省「第三者行為災害のしおり」
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  • 交通事故の治療を健康保険から労災保険に変更するには?
    業務中や通勤中の交通事故は、労災保険を使って治療することはできますが、健康保険は使えません。健康保険を使って治療していた場合は、労災保険に切り替えなければいけません。さもないと、あとで厄介な問題が生じます。それに、健康保険よりも労災保険の方が有利です。労災保険を使えることが分かったときは、早めに切り替えることが大切です。健康保険から労災保険に切り替えるべき理由とは?健康保険を使って治療中に、労災保険の適用対象となることが分かったときは、労災保険に切り替えることができます。というか、速やかに切り替えないといけません。法律上、業務災害・通勤災害に健康保険は使えないそもそも法律上、労災(業務災害・通勤災害)に、健康保険は使えません。健康保険法では、「労働者又はその被扶養者の業務災害(労災保険法第7条1項1号に規定する業務災害)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い…」(健康保険法1条)と、業務災害を適用除外しています。また、健康保険法には「他の法令による保険給付との調整」規定があり、労災保険給付を受けられる場合は、健康保険給付を行わない旨を定めています(健康保険法55条1項)。国民健康保険法も同様の「他の法令による医療に関する給付との調整」規定があり、労災保険給付を受けられる場合は、国民健康保険給付を行わない旨を定めています(国民健康保険法56条1項)。ですから、業務災害(労災保険法第7条1項1号)はもとより、通勤災害(労災保険法第7条1項2号)も、健康保険の適用外です。業務災害や通勤災害で、労災保険による療養の給付を受けることができる場合には、実際に労災保険による診療を行っているか否かにかかわらず、健康保険を使用することはできません。健康保険から返金を求められたとき困った事態に本来使用できない健康保険を使って診療を受けた場合、健康保険は支払うべきでない給付を行ったことになり、あとで被害者は健康保険から返金を求められます。相手方との示談が成立した後で健康保険から返金を求められると、相手方に追加で請求することも、労災保険に給付を請求することもできません。健康保険から返金を求められた治療費を、被害者は、どこへも請求できない事態となります。間違って健康保険を使用している状態は、速やかに是正する必要があるのです。労災保険の方が健康保険よりメリットが大きい「法律で決まっているから」というだけでなく、被害者にとって、労災保険の方が健康保険よりも補償が充実していて有利です。健康保険は治療費の自己負担があり、治療を受けるたびに3割の自己負担分を窓口で支払わないといけませんが、労災保険には自己負担がありません。また、労災保険は、休業補償給付や障害補償給付、特別支給金など消極損害に対する補償も充実しています。こういった点からも、速やかに労災保険に切り替えるべきです。交通事故で労災保険を使うメリットはこちらで詳しく説明していますから、ご覧ください。損害費目との対応関係損害費目健康保険労災保険治療費療養給付療養補償給付(療養給付)休業損害傷病手当金休業補償給付(休業給付)後遺障害逸失利益なし障害補償給付(障害給付)健康保険から労災保険に変更するための手続き早めに切り替え手続きをすれば、病院で切り替えできる場合があります。まずは、受診した病院に、初診日まで遡って、健康保険から労災保険への切り替えができるかどうかを確認してください。病院で切り替えができる場合受診した病院が労災指定病院であれば、労災であったことを早めに病院へ申し出ると、病院で切り替えが可能です。その場合は、病院の窓口で、今まで支払った治療費の自己負担分が返還され、その後は治療費の窓口負担なく無料で受診できます。手続は、労災保険の療養の給付請求書を受診した病院の窓口に提出するだけです。病院で切り替えができない場合受診した病院が労災指定病院でない場合は、病院で切り替えができません。労災指定病院であっても、病院がすでに健康保険へ診療費を請求し、受領している場合は、病院から健康保険への診療費の返還手続きが必要となってしまうため、対応してくれる病院は少ないでしょう。病院で切り替えができない場合は、健康保険給付を返還し、あらためて労災保険給付を受けることになります。すなわち、健康保険からの給付額(医療機関が健康保険の保険者から支払を受けた額)を返還し、窓口負担分と合わせて、医療費の全額を労災保険に請求します。手続はこうです。まず、加入している健康保険組合等へ、労災(業務災害または通勤災害)だった旨を申し出ます。健康保険組合等から医療費返還の通知と納付書が送られてきますから、返納金を支払います。次に、返納金の領収書と病院に支払った窓口一部負担金の領収書を添えて、労働基準監督署へ医療費(療養の費用)を請求します。このとき、レセプトの写しが必要になる場合がありますから、請求の際に労働基準監督署にご確認ください。手続は、先に健康保険に保険給付額を返還し、その後、労災保険に医療費を請求するのが原則ですが、これにより、多大な経済的負担が生じるなどの場合は、診療報酬の返還が完了する前であっても、労災請求を行うことができます。(参考:厚生労働省「労働基準行政全般に関するQ&A」より)健康保険に返還する前に、労災保険に請求する方法とは?健康保険に返還する前に労災保険に請求するには、2つの方法があります。労災保険に対し、窓口負担分は被害者へ、健康保険給付額は労災保険から健康保険へ、それぞれ支払ってもらうよう請求する方法労災保険に対し、10割の治療費を請求し、それで健康保険へ返還し、その領収書を労災保険に提出する方法。こうすれば、いったん治療費を全額負担しなくて済みます。どちらの方法をとるかは、管轄の労働基準監督署と相談してみてください。まとめ健康保険を使って治療中に労災保険が適用されることが分かった場合、健康保険から労災保険に変更することができます。もしも、会社が労災保険に未加入であっても、労災保険の請求はできます。本来、労災(業務災害・通勤災害)に健康保険を使うことはできませんから、健康保険を使って治療しているときでも、交通事故が労災に該当することが分かった時点で、健康保険から労災保険に切り替えなければなりません。受診した病院が労災指定病院であれば、早めに切り替えを申し出れば、手続は面倒ではありません。ただし、労災指定病院でなかったり、労災指定病院でも初診から日が経っている場合、切り替えは面倒ですし、一時的に医療費の全額自己負担が発生する場合があります。切り替えがうまくできなかったり、手続きに不安のある方は、弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通事故事件社会保険の実務』学陽書房 84~86ページ・『交通事故事件処理の道標』日本加除出版株式会社 259~260ページ・厚生労働省「お仕事でのケガには労災保険」2ページ・全国健康保険協会「仕事中や通勤途中にケガをしたとき」「病気やケガで会社を休んだとき」
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