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『過失相殺率認定基準』は、過去の判例をもとに事故の態様ごとに過失相殺率・過失割合を基準化したものですが、あらゆる事故に当てはまるものではありません。
ここでは、『過失相殺率認定基準』がどんなものか、『過失相殺率認定基準』を使って過失相殺率・過失割合を決める際の注意点についてまとめています。
過失相殺は、法律上(民法722条2項)は「裁判所の自由裁量」に委ねられていますから、裁判所が、個々の事件ごとに様々な要素を考慮して過失相殺の割合を決めるのが本来の在り方です。
しかし、交通事故の損害賠償請求事件は数が多く、事故態様の似たものが多いため、同じような事故にもかかわらず過失相殺割合が裁判官によって大きく異なると、当事者間に不公平が生じます。
それゆえ、民事交通訴訟を迅速・公平に処理するため、過失相殺基準が作成され、それを参考に過失相殺率・過失割合を決めるようにしています。過失相殺基準は、訴訟外の示談交渉においても用いられます。
現在、過失相殺基準として広く使われているのは、東京地裁民事訴訟研究会編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準・全訂5版』(別冊判例タイムズ38)です。以下、「過失相殺率認定基準」と略します。
「過失相殺率認定基準」は、東京地裁民事第27部(民事交通部)の裁判官が、民事交通訴訟における過失相殺率の認定・判断基準を示したもので、この基準によって、実務が動いていると考えてよいでしょう。
裁判で過失相殺が問題となるケースでは、裁判所からも「判タ(判例タイムズ)の何番だと思うのですけれど」と具体的に話が出てきます。
示談代行を行う保険会社の担当者も、この「過失相殺率認定基準」を使って交渉するのが一般的です。
このほか、『赤い本』や『青本』も用いられます。
「過失相殺率認定基準」は、事故を大きく次の7つに分類し、それぞれの事故について、基本の過失相殺率(過失割合)と修正要素を示しています。
過失相殺率・過失割合を決める上で基本となる一般原則は、「弱者保護」と「道路交通法の優先関係」です。
弱者保護の原則から、四輪車より単車、単車より自転車、自転車より歩行者、成人より幼児・児童・高齢者・身体障害者等の交通弱者が、過失相殺率・過失割合は小さくなります。
例えば、信号機のない交差点での車両同士の出会い頭の衝突事故の場合、道路交通法に定められた優先関係は次のようになります。
左方優先 |
他に優劣を定められないとき左方車が優先する(道交法36条1項)。 |
---|---|
優先車優先 |
一方が優先道路の場合、優先道路走行車が優先する(道交法36条2項)。 |
広路車優先 |
広い道を走行してきた車の方が狭い道を走行してきた車に優先する(道交法36条2項)。 |
非停止規制車優先 |
一方に一時停止の規制がある場合、一時停止の規制のない道路走行車が優先する(道交法43条)。 |
「過失相殺率認定基準」の利用の仕方と、利用する際の注意点について見ていきましょう。
実際の事故で「過失相殺率認定基準」を利用するとき、次のような流れになります。
修正要素には、幹線道路か否か、夜間などの見通し状況、速度違反の有無、子どもや高齢者か、著しい過失や重過失はないか、など様々な要素があります。
事故態様に応じて、適正に修正要素を考慮することが大切です。
「過失相殺率認定基準」には、事故の類型ごとに主な修正要素を記載していますが、あらゆる要素を網羅できるわけではありません。そのため、「その他の著しい過失・重過失」という修正要素が盛り込まれています。
著しい過失とは、通常想定されている程度を超えるような過失をいいます。
「過失相殺率認定基準」には、基本の過失相殺率を定めるにあたり、事故態様ごとに通常想定される過失を考慮に入れていますから、それを超えるような過失という意味です。
車両一般の著しい過失としては、例えば、脇見運転などの著しい前方不注意、携帯電話などを通話のために使用したり画像を注視しながら運転すること、おおむね時速15㎞以上30㎞未満の速度違反(高速道路を除く)、酒気帯び運転などが該当します。
重過失とは、著しい過失よりもさらに重い、故意に比肩する重大な過失をいいます。
車両一般の重過失としては、例えば、酒酔い運転、居眠り運転、無免許運転、おおむね時速30㎞以上の速度違反(高速道路を除く)、過労・病気・薬物の影響などにより正常な運転ができない恐れがある場合などが該当します。
「過失相殺率認定基準」により、あらゆる事故態様がカバーされているわけではありません。
「過失相殺率認定基準」に該当しない事故の場合は、基準を参考に、個別具体的に判断する必要があります。
過失相殺の割合は、おもに、道路交通法に定められた規制や優先権、事故発生の時間・場所・環境、事故発生の予見可能性・回避可能性、といった3つの要素によって判断されます。
これらの要素を基礎に、類似する過失相殺基準を参考に、過失相殺率・過失割合を算定することになります。
過失割合を算出するとき、まず、事故を分析し、「過失相殺率認定基準」のどの類型に該当するか、どの類型に類似しているかを検討しますが、重要なのは、現実の事故を基準・類型に無理やり当てはめるようなやり方をしてはいけない、ということです。
交通事故の事故態様は千差万別で、「過失相殺率認定基準」にそのまま当てはまらない事故態様も多数あります。
「過失相殺率認定基準」は、あくまで目安として参考にし、個別事情を考慮し適正に修正して使うことが大切です。
例えば、歩行者(被害者)が横断歩道上で事故に遭った場合は過失相殺されませんが、横断歩道でない場所で事故に遭った場合は過失相殺されます。
過失相殺基準を形式的に当てはめると、事故が発生したのが「横断歩道上か」「横断歩道外か」という一事で、過失相殺率が大きく変わります。
ですが、こういう場合もあります。横断歩道を横断中に車が接近してきたので、歩行者が車を避けようとして横断歩道外に逃げて衝突した場合です。この場合、実況見分調書に衝突場所として記載されるのは、横断歩道外となります。
衝突場所が横断歩道外だから過失相殺するというのでは、あまりにも機械的です。こういう場合は、横断歩道上の事故と同様に考えることが必要です。
「過失相殺率認定基準」を使って、実際の交通事故の過失割合を判断するには、どの類型を適用するか、どのような考慮の下に修正要素・修正率が規定されているのか、などの深い知識が必要になります。
「過失相殺率認定基準」(別冊判例タイムズ38)は、だれでも比較的容易に入手することはできますが、それを使いこなすには、専門知識と経験が必要なのです。
相手の保険会社の担当者は、「過失相殺率認定基準のコレに該当するので、過失割合は何%」というように過失相殺を主張してきます。それに疑問を感じ、ご自身でいろいろと調べる方もいるでしょう。
もちろん被害者側が過失相殺の基本的な知識を身に着けておくことは大切ですが、生半可な知識で保険会社の担当者と示談交渉に臨んでも、勝ち目はありません。相手は、様々な事故について示談交渉しているプロです。
過失割合に納得がいかないときは、無理をせず、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の過失相殺の割合を算定するとき、参考にする過失相殺基準として、一般的に『民事訴訟における過失相殺率の認定基準』(別冊判例タイムズ38)が用いられます。
「過失相殺率認定基準」は、交通事故の損害賠償を迅速・公平に処理する上で有用ですが、あらゆる事故態様を網羅しているわけではありません。現実の事故は、「過失相殺率認定基準」をそのまま適用できない場合が多くあります。
「過失相殺率認定基準」に機械的に当てはめたのでは、正しい過失相殺率・過失割合は算定できません。
大事なのは、「過失相殺率認定基準」に示された基準や修正要素を、どう判断し、どのように修正して適用するかです。それには、専門知識と経験が必要です。
過失割合や過失相殺率に納得がいかない場合は、交通事故の過失割合の争いに強い弁護士に相談することをおすすめします。
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