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軽微事故で、むち打ち症の治療費を保険会社に請求するときは、注意が必要です。
物損が軽微(車両修理代が低額)だった場合、任意保険会社が治療費の一括払いを短期間で打ち切る可能性があります。しかも近時は、自賠責保険が、治療費の相当因果関係を否定するケースまで見られるようになってきているのです。
むち打ち症(外傷性頚部症候群)は、大半は単純な頚部軟部組織の捻挫で、外傷所見がなく、もっぱら被害者の訴える自覚症状のみです。それゆえ、詐病を疑われることも少なくありません。
※ むち打ち症について詳しくはこちらをご覧ください。
そのため、車両の損傷が軽微な事故の場合には、保険会社からの治療費の一括払いが短期間で打ち切られる傾向にあります。場合によっては、治療と事故との相当因果関係が否定され、治療費の支払いを拒否されることもあります。「事故による衝撃は小さく、治療を要するような怪我はしない」というわけです。
むち打ち症で、保険会社が治療費の相当因果関係を否定する傾向のある軽微事故とは、次のようなケースです。
裁判例でも、低速度での追突事故やドアミラー同士だけが接触したような事故で、事故態様や診療経過を理由に受傷を否認する判断を示したものがあります。
大型貨物を運転中、赤信号で停止していたところ、後方から乗用車が追突し、頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、中心性頸髄損傷等の傷害を負い、約9カ月間通院した事案です。
裁判所は、追突事故の態様につき、後方の乗用車がクリープ現象により2メートルほど前進して、原告車(大型貨物)に追突したものであると認定したうえで、次のような判断を示しました。
「本件事故により原告車両が受けた衝撃は微弱なものであったと推認される」、加えて、被害車両の損傷部位が主としてパワーゲートであり、被害車両の構造、長さ、後方から追突した乗用車との重量差、乗用車の運転者は格別の傷害を受けていない等の事情を踏まえれば、「原告車両の運転席にいた原告に頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、中心性頸髄損傷の傷害を生じさせるほどの力が及んだとはおよそ考え難いというほかない」として、原告の受傷を否認しました。
対向進行する乗用車の右ドアミラー同士が接触し、運転していた夫が、頸椎捻挫、腰部挫傷の傷害を負い、助手席に同乗していた妻が、頸椎捻挫、腰部・右大腿部挫傷の傷害を負ったとする事案です。
「車体の外に取り付けられ、折りたたみ可能とされるドアミラーの構造からすれば、原告車のドアミラーが受けた衝撃がそのまま車体にまで及ぶとは考えにくく、むしろ、原告車の右ドアミラーがその構造にしたがって内側に倒れ込んだうえ、鏡面の破損に至ったことによって、多くの衝撃は吸収されたはずであって、車両本体に及んだ衝撃は限られたものであったと推察される。……本件事故におけるドアミラー同士の衝突自体によって原告車の車体本体や車内の乗員に及んだ衝撃の程度はさほど大きなものではなく、それ自体が原告らの主張する各傷害の受傷機転となったものとは考え難いというべきである」と判示しました。
また、診療経過についても、「原告らはレントゲン検査や神経学的検査による異常所見は認められず、受傷を示す客観的な裏付けが認められるものではない」、「原告らが病院または整骨院への通院を開始したのは、いずれも本件事故から2週間程度が経過した後であり、本件事故によって約7ヵ月もの通院治療を要する傷害を負った者の行動としては、不自然といわざるを得ない」と指摘し、受傷機転の不存在および診療経過の不自然さを理由に、原告らの受傷を否認しました。
以前は、任意保険会社が治療費の一括払いを拒否するような場合でも、自賠責保険に直接請求(被害者請求)をすれば、自賠責保険は治療費の支払いに応じていました。
ところが、最近は、自賠責保険の判断が変化しています。軽微事故の場合に、自賠責保険が、治療費の相当因果関係を否定するケースが散見されるようになっているのです。自賠責保険制度の「被害者の保護・救済」という機能が弱まってきているといわざるを得ません。
特に、物損が軽微なのに、治療期間が長い場合は要注意です。
物損が軽微(車両修理代が低額)なのに治療期間が長い場合は、すべての治療費について、事故との相当因果関係を否定する傾向にあります(『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 124ページ)。
任意保険会社が治療費を一括払いしていたのに、後になって自賠責保険が、すべての治療費の相当因果関係を否定すると、被害者にとっては非常に困った事態になってしまいます。任意保険会社は、自賠責保険から治療費を回収できなくなるので、被害者に対して治療費の返還を求めてくることがあるのです。
自賠責保険の判断が示されるのは、次のようなタイミングです。
このような請求が自賠責保険に対してあったときに、自賠責保険は、事故の状況や物損額などを確認し、受傷と事故の相当因果関係を判断します。
自賠責保険で、治療費の相当因果関係を否定する判断が出てしまうと、裁判でこれを覆すのは困難です。
ですから、車両の修理代が10万円程度以下の軽微物損の場合には、任意保険会社が治療費の一括払いをしているとき、短期間で治療費一括払いの打ち切りを通告してきますが、そのタイミングで任意保険会社の一括払いによる治療を終了し、示談することも選択肢となります。
あるいは、任意保険会社から治療費の打ち切りを言ってくる前に、早々に一括払いによる治療を終了し、示談手続に入ることも選択肢となるでしょう。
もちろん、物損が10万円程度の軽微事故でも、むち打ち損傷で、後遺障害14級9号の等級認定を獲得できた事例はあります。重要なのは車両の修理額でなく、事故で受けた衝撃の大きさですから、車両修理代が10万円にも満たないからと諦めることはありません。
軽微事故でのむち打ち症は、治療費の相当因果関係が争いになりやすく、任意保険会社から治療費の一括払いを短期間で打ち切られたり、受傷自体が否認される場合もあります。
最近は、自賠責保険も、物損が軽微であるにもかかわらず、治療期間が長い場合は、事故と受傷との相当因果関係が否定される傾向があります。
軽微物損で、短期間で任意保険会社から治療費一括払いの打ち切りを通告されるような場合は、あなたが思う以上に対応が難しいケースが多いので、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!
0120-690-048 ( 24時間受付中!)
※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
【参考文献】
・『後遺障害入門』青林書院 166ページ
・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 49~51ページ、124~125ページ
・『交通事故医療法入門』勁草書房 117~123ページ