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人身事故の場合、加害者側の任意保険会社が、自賠責保険部分も含めて一括して賠償額を支払うのが一般的です。
これを「任意自動車保険・自賠責保険の一括払い」といいます。
一括払い制度とはどんな制度なのか、一括払いのメリット・デメリットについて、見ていきましょう。
一括払い制度とは、任意保険会社が、自賠責保険から支払われる保険金相当額を含めた損害賠償額を一括して支払うことです。
任意保険会社は、立て替えて支払った自賠責保険金相当額を、あとで自賠責保険に請求します。
一括対応がされている場合、被害者の治療費は、任意保険会社から医療機関へ直接支払われることが多く、任意保険会社が、被害者の治療費を直接医療機関に支払うことも、実務上、一括払いと呼ばれます。
一括払い制度には、対人賠償責任保険の一括払いのほか、人身傷害保険の一括払いもあります。一括払いの種類についてはこちらをご覧ください。
対人賠償責任保険は、自賠責保険と任意自動車保険の二重構造となっています。任意保険は、自賠責保険では賠償額に不足する部分を補うための上積み保険です。自賠責保険と任意自動車保険は、別個の保険です。
そのため、被保険者や被害者は、自賠責保険と任意保険に対して別々に請求しなければならず、さらに、自賠責保険の支払額が確定しなければ、任意保険の支払額が決まらないという問題がありました。
そこで、保険金(賠償額)請求手続の簡素化と、被害者の早期救済を図るために、一括払い制度が導入されたのです。
ちなみに、一括払い制度が導入されたのは、1973年(昭和48年)8月1日です。
※参考:損害保険料率算出機構「自賠責保険制度の推移」
一括払いは、法律上の根拠や義務があるわけではなく、保険会社によるサービスです。一括払いの法的性質について争われた裁判例があります。
交通事故の被害者の治療費の支払いに関し任意保険会社と医療機関との間で行われている「一括払い」なるものは、保険会社において、被害者の便宜のため、加害者の損害賠償債務の額の確定前に、加害者(被保険者)、被害者、自賠責保険、医療機関等と連絡のうえ、いずれは支払いを免れないと認められる範囲の治療費を一括して立替払いしている事実を指すにすぎず、立替払いの際保険会社と医療機関との間に行われる協議は、単に立替払いを円滑に進めるためのもので、保険会社に対し医療機関への被害者の治療費一般の支払い義務を課し、医療機関に対し保険会社への右治療費の支払請求権を付与する合意を含むものではないと解するのが相当である。
このように、一括払いが、保険会社のサービスであることを明らかにしました。
法律上の義務でもないのに、保険会社がサービスとして一括払いを行うのは、保険会社にもメリットがあるからです。
それは、被害者から同意書を取り、病院へ診療報酬明細書や診断書を求めることが可能となるため、被害者の治療経過を把握でき、それによって、損害賠償額の目途が立ち、交渉の方針を立てることができることです。
(『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 14ページ)
このような保険会社にとってのメリットは、被害者にとってはデメリットといえるかもしれません。実際、治療が長引くと、保険会社から治療費の打ち切りを迫られる場合が少なくありません。
自賠責保険は、自動車の運行によって人の生命・身体が害された場合における損害賠償を保障する保険ですから、物損は、自賠責保険の対象外です。
したがって、物損事故の場合には、一括対応はありません。もちろん、相手が任意保険の対物賠償責任保険に加入していれば、任意保険からは支払われますから、対応するのは任意保険会社です。
人身事故であっても、次の場合、任意自動車保険から保険金の支払はありませんから、任意保険会社は、原則として一括払いを行いません。
なお、任意保険が免責で保険金が支払われない場合でも、自賠責保険金は支払われる可能性があります。自賠責保険の免責事由は限定されているからです。
もし、自賠責保険も免責となったとしても、免責を理由として保険金を支払わないのは被保険者(加害者)に対してであって、自賠責保険は、被害者が直接請求した場合は賠償額が支払われます。
被害者の過失割合が大きい場合は、過失相殺により、賠償額が自賠責保険の支払額内となることがあります。そういう場合は、任意保険からの支払いがないため、任意保険会社による一括対応はありません。
一括払いのメリットは、主に次の2つの点です。
一括払いにすると、自賠責保険と任意保険のそれぞれに請求する必要がなくなります。
任意保険会社にのみ賠償額の請求をすればよいので、請求手続きの手間が省け、示談交渉の窓口も任意保険会社に一本化できるメリットがあります。
一括払いを希望する場合は、任意保険会社に一括払いの同意書を提出するだけです。同意書については、相手方保険会社から案内があります。
一括払いにすると、任意保険(対人賠償責任保険)の内払制度を利用できます。
任意保険は、損害賠償額が確定してからでないと、原則として支払いはできません。しかし、交通事故で負傷したときは、病院等に治療費を支払わなければなりません。仕事ができず収入が途絶え、生活費に困ることも少なくありません。
このような場合に、任意保険会社が、損害賠償額の確定前に、治療費、休業損害等の支払いをするのが内払です。内払制度は、約款に根拠をおくものではなく、任意保険会社のサービスによるものです。
内払の対象となる損害は、治療費、入院雑費、通院交通費、休業損害、葬儀費等の損害の確定を待たずに支出を余儀なくされる費用です。
これに対し、将来の逸失利益や慰謝料は、通常、内払の対象となりません。
内払は、総損害賠償額の一部として支払われるものですから、被害者の過失が大きい場合には、内払の金額も限定される傾向にあります。
内払がされても、後日訴訟になった場合には、内払分の損害費目・損害額が相当因果関係のある損害として認められるとは限りません。
一括払いには、次のようなデメリットがあります。
一括払いは、任意保険会社に請求窓口が一本化されるメリットがある反面、それゆえ、任意保険会社との示談が成立するまでは、自賠責保険からの支払いを受けられないというデメリットもあります。
自賠責保険には、示談成立の前でも、被害者が賠償額の請求をできる制度があるのですが、任意保険の一括払いに同意していると、自賠責保険に直接請求ができません。
自賠責保険に対する被害者の請求権には、次のものがあります。
自賠責保険に対し、直接請求したい場合は、一括払い手続を解除する必要があります。
一括払いは、任意保険会社がサービスで行っているにすぎないので、例えば、任意保険会社が「もう治療費の支払は必要ない」と判断すれば、いつでも治療費の支払いを打ち切ることができます。
一括払いの合意は、「保険会社に対し、医療機関への被害者の治療費一般の支払い義務を課し、医療機関に対し、保険会社への治療費の支払請求権を付与する合意を含むものではない」からです(大阪高裁判決・平成元年5月12日)。
こうして、被害者が治療の継続を希望しても、保険会社から治療費が支払われない、ということが起きるのです。
この場合、保険会社が「一括払い(内払い)のサービスを停止した」というだけであって、それ以降の治療費は請求ができない、ということではありません。
治療を継続する場合は、医療費の全額を自費で支払うか、健康保険等の保険診療に切り替えて治療を継続し、その後の治療費については、あとで保険会社に請求することができます。
このように一括払いは、保険会社から「いつ支払いを打ち切られるかわからない」というデメリットがあるのです。
任意保険会社が一括払いを行うためには、自賠責保険金を含めた損害賠償額を支払った後で、自賠責部分を回収できることが前提です。
任意保険と自賠責保険の間で損害調査の結果に違いがあると、任意保険会社は、立て替えた自賠責保険金部分を回収できません。
そこで、任意保険会社は、一括払いを行う前、すなわち自賠責保険金部分を立替払いする前に、事前に自賠責の判断を確認しておく方がよい場合には、事前に自賠責に損害調査を依頼して自賠責の判断を確認しておくのです。これが「事前認定」です。
事前認定は、一括払いを行う任意保険会社が、自賠責保険から「いくら回収できるか」を、実際の自賠責保険金請求の前に「事前」に自賠責保険に照会し、「認定」を受ける手続です。
任意保険会社は、主に次の3つの場合に、自賠責の判断を確認するために、事前認定の手続きをとります。
このうち、最も多いのが、3つ目の「後遺障害の有無・程度(等級)の認定」とされています。
一括払いにしている場合、後遺障害の有無・等級の認定も事前認定となり、相手方任意保険会社が手続きを行います。被害者は、任意保険会社に、後遺障害診断書を提出するだけです。あとの必要な書類は保険会社がそろえて手続きを進めてくれます。
つまり、相手方任意保険会社を通じて、後遺障害等級の認定を受けることになります。認定結果が届くのも任意保険会社から。認定結果に不服があれば、事前認定に対する異議申立ても任意保険会社に行います。
事前認定は、手続的には被害者の負担が少なく進むのですが、そのことが逆に被害者にとってデメリットになる場合があります。
相手方保険会社には、「被害者のために適正な後遺障害等級の認定を受ける」という姿勢はありません。積極的に適正な後遺障害等級の認定を受けたいときは、一括払いを解除して、事前認定でなく被害者請求が必要となります。
一括払い制度は、任意保険会社が窓口となり、自賠責保険金も含めて損害賠償額を一括して支払う制度です。被害者は、自賠責保険と任意保険の両方に請求する必要はなく、任意保険会社に請求すればよいことになります。
ただし、一括払いは、法律で義務づけられたものでなく、任意保険会社によるサービスにすぎないため、例えば、保険会社の判断で、治療費の支払いを打ち切られる場合もあります。
また、一括払いの場合、後遺障害等級の認定も、任意保険会社を通じた事前認定となります。後遺障害の認定が微妙な場合は、被害者請求の検討が必要です。
自賠責保険に対して、被害者が直接請求する場合は、一括払いを解除する必要があります。
一括払いのまま示談交渉を進めるか、一括払いを解除して被害者請求するか、判断に迷うときには、弁護士に相談するとよいでしょう。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!
0120-690-048 ( 24時間受付中!)
※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
【参考文献】
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 13~14ページ
・『損害保険の法律相談Ⅰ〈自動車保険〉』青林書院 328ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 411~414ページ
・『Q&Aハンドブック交通事故診療 全訂新版』創耕舎 111~114ページ
・『自賠責保険のすべて12訂版』保険毎日新聞社 108~109ページ
・『交通事故実務入門』司法協会 74~75ページ