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交通事故で同乗者にも被害が及んだ場合、事故の相手方だけでなく同乗者の被害についても、基本的には、自賠責保険と対人賠償責任保険(任意自動車保険)の補償対象です。
ただし、同乗者と運転者との関係によっては、補償されない場合があります。
同乗者の損害賠償請求権には、自分が同乗していた自動車の運転者に対する請求権と、自動車同士の衝突事故の場合には相手自動車の運転者に対する請求権があります。事故態様によって、どちらか一方に請求する場合と両方に請求する場合があり得ます。
次の4つのタイプに分かれます。
事故態様 | 請求する相手 |
---|---|
単独事故 | 同乗車両の運転者 |
加害事故(同乗車両の運転者の100%過失) | 同乗車両の運転者 |
もらい事故(相手車両の運転者の100%過失) | 相手車両の運転者 |
双方の運転者に過失がある事故 | 双方の運転者 |
同乗していた自動車の単独事故の場合は、同乗車両の運転者の過失によって発生した事故ですから、同乗者は、同乗車両の運転者に対して、損害賠償を請求することができます。
相手自動車のある事故でも、同乗車両の運転者の100%過失による事故(加害事故)の場合は、同乗車両の運転者が被害者に対する損害賠償の責任を負い、相手車両の運転者に損害賠償責任は発生しません。したがって、同乗者は、同乗車両の運転者に対して損害賠償を請求できます。
相手自動車の運転者の100%過失による事故(もらい事故)の場合、被害者に対して損害賠償の責任を負うのは、相手車両の運転者で、同乗車両の運転者に損害賠償の責任はありません。したがって、同乗者は、相手車両の運転者に対して損害賠償を請求できます。
自動車同士の衝突事故は、たいてい双方の自動車の運転者に過失があり、損害賠償の責任が発生します。この場合、同乗者は、同乗車両の運転者に対しても、相手車両の運転者に対しても、損害賠償を請求することができます。
こういうケースは、法的には民法719条の共同不法行為の規定が適用され、同乗者の運転者と相手自動車の運転者は、同乗者に対して連帯して損害賠償責任を負います。それぞれの運転者が、その過失割合に応じて損害を賠償すればよいというのでなく、両方の自動車の運転者は連帯して、同乗者に対して損害の全部を賠償しなければなりません。
問題は、同乗者が被った損害につき、同乗車両の自動車保険による補償があるか、すなわち、同乗していた自動車の自賠責保険や対人賠償責任保険から、同乗者の損害に対して保険金が支払われるか、です。
自賠責保険も、その上積み保険である対人賠償責任保険(任意自動車保険)も、保険金の支払い対象となる事故は、他人の生命・身体を害したときです。どちらの自動車保険も、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、保険金が支払われます。加害者に保険金を支払うことを通して、被害者の救済を図る仕組みです。
ですから、同乗者が、運転者から見て「他人」に当たれば、自賠責保険や対人賠償責任保険による補償がありますが、「他人」に該当しなければ補償はないということになります。
「他人」とは、自賠法(自動車損害賠償保障法)では「運行供用者と運転者」以外の者をいい、任意自動車保険の約款では、被保険者から見て自分以外の全ての者を指します。
したがって、同乗者は、基本的には「他人」に該当し、自賠責保険や対人賠償責任保険による補償の対象です。
ただし、同乗者が運行供用者に該当する場合には、自賠責保険の補償対象外となることがあります。また、同乗者が運転者と親子・配偶者の関係にある場合は、対人賠償責任保険の免責事由に該当し、補償対象外となります。
自賠責保険と対人賠償責任保険それぞれについて、さらに詳しく見ていきましょう。
まず、自賠責保険(強制保険)による同乗者に対する補償です。自賠法では「運行供用者と運転者」以外を保護・救済すべき対象としています。
自賠法は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めています(自賠法3条)。
「自己のために自動車を運行の用に供する者」を「運行供用者」といい、自賠法において、被害者(=他人)に対し損害賠償責任を負うのは、運行供用者です。これを「運行供用者責任」といいます。
なお、自賠法における「運転者」とは「他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者」をいい(自賠法2条4項)、例えば、自動車の所有者との雇用関係にもとづき運転している者や、委任関係にもとづき運転している者などが、自賠法上の運転者に当たります。これに対し、マイカーの運転者は、運行供用者に当たります。
自賠法のいう運転者は、自賠法3条の「運行供用者責任」は負いませんが、過失があれば民法709条の「不法行為責任」は負います。その意味で、運転者は運行供用者と同じ加害者側(すなわち賠償責任主体)に該当するため、運転者は自賠法3条の保護対象である「他人」には当たらないと解されています。
自動車損害賠償保障法第3条本文にいう「他人」のうちには当該事故自動車の運転者は含まれない。
自賠責保険が支払われるのは、自動車の保有者に自賠法3条の運行供用者責任が発生し、保有者・運転者が損害賠償責任を負担する場合です(自賠法11条)。自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者です。
「保有者」とは、「自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するもの」をいいます(自賠法2条3項)。すなわち、保有者とは、自動車の所有者のほか正当な使用権を有する者で、かつ、運行供用者に該当する者です。
こうして、自賠法では、運行供用者または運転者に該当しない限り「他人」であり、自賠法による保護対象です。したがって、同乗者が、被保険者(保有者・運転者)から見て「他人」に該当すれば、自賠責保険による補償を受けられることになります。
基本的に、同乗者は「他人」に当たり、自賠責保険による補償の対象ですが、例外的に運行供用者に該当し、他人性が否定される場合があります。他人性が否定されると、同乗者の被った損害につき自賠責保険による補償はありません。
同乗者の他人性が肯定される場合と否定される場合について、最高裁判例を挙げておきます。
運転者と同乗者との間に親族関係があっても、そのことのみで同乗者が「他人」に当たらないとはされず、同乗者が運転者と生計を共にする妻であっても他人性が肯定され得ます(⇒自賠責保険は家族間の事故でも請求できる)。
自賠法3条は、自己のため自動車を運行の用に供する者(以下、運行供用者という)および運転者以外の者を他人といっているのであって、被害者が運行供用者の配偶者等であるからといって、そのことだけで、かかる被害者が右にいう他人に当らないと解すべき論拠はなく、具体的な事実関係のもとにおいて、かかる被害者が他人に当るかどうかを判断すべきである。
運転者が好意により無償で同乗させた者(好意同乗・無償同乗)についても、他人性が肯定され得ます。
自動車損害賠償保障法第3条本文にいう「他人」とは、自己のために自動車を運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除くそれ以外の者をいうものと解するのが相当であり、酩酊のうえ助手席に乗り込んだ者も、運転手がその乗車を認容して自動車を操縦したものである以上、右「他人」に含まれる。
同乗者が、事故を起こした自動車の所有者で、自分の自動車を運転させていた場合のように、同乗者自身が運行供用者に当たり、かつ、同乗者の運行支配が直接的、顕在的、具体的なものである場合は、他人性が否定されることがあります。
同乗者の他人性が否定される場合は、自賠責保険の補償対象外となります。
自動車の所有者が、友人にその運転を委ねて同乗中、友人の惹起した事故により死亡した場合において、所有者がある程度友人自身の判断で運行することを許していたときでも、友人が所有者の運行支配に服さずその指示を守らなかった等の特段の事情があるのでない限り、所有者は、友人に対する関係において自動車損害賠償保障法3条の他人にあたらない。
次に、対人賠償責任保険(任意自動車保険)による同乗者に対する補償です。
対人賠償責任保険は、対人事故により、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して、保険金を支払うものです(標準保険約款第1章2条1項)。対人事故とは、被保険自動車の所有・使用・管理に起因して他人の生命または身体を害することをいいます(標準保険約款第1章1条)。
保険約款において「他人」とは、被保険者から見て自分以外の全ての者を指しますから、同乗者も基本的には「他人」に該当し、対人賠償責任保険の補償対象となります。
ただし、対人賠償責任保険には免責条項があり、被害者が被保険者と一定の関係がある場合には、免責事由に該当し、保険金が支払われません。
対人賠償責任保険は、人身損害が自賠責保険の支払限度額を超過する場合に、超過分についてのみ支払われます(標準保険約款第1章2条2項)。
対人賠償につき、保険金を支払わない場合について、標準保険約款では次のように定めています。
当会社は、対人事故により次のいずれかに該当する者の生命または身体が害された場合には、それによって被保険者が被る損害に対しては、保険金を支払いません。
記名被保険者自身が被害者となった場合は、保険金は支払われません。対人賠償責任保険は、本来、記名被保険者が賠償責任を負担することによって被る損害に対して保険金を支払うことを目的とした保険だからです。
記名被保険者自身が被害者となった場合は、対人賠償責任保険とセットされている自損事故保険、搭乗者傷害保険、人身傷害保険を使用することになります。
運転者は、加害者として賠償責任を負担する立場にあり、自賠法においても「他人」には当たりません。したがって、対人事故で運転者が被害者となった場合は、保険金は支払われません。
被保険自動車を運転中の者と、被害者とが、親子・夫婦の関係にあるときは、これによって被保険者が被る損害に対しては、保険金は支払われません。
被保険者と被害者とが、親子・夫婦の関係にあるときには、その被保険者が賠償責任を負担することによって被る損害に対しては、保険金は支払われません。
被保険者が運転中に自分の父母・配偶者・子を死傷させた場合は、②でも③でも免責となります。
対人事故の被害者が、被保険者の業務に従事中の使用人(被用労働者)である場合は、その被保険者が賠償責任を負担したことによって被る損害に対しては、保険金が支払われません。業務中の労働者の事故は、労災責任の問題であるため、労災保険に委ねられ、免責となっています。。
なお、家事使用人が被害者である場合には、労災保険による給付は行われないので、免責から除外されます。
対人事故の被害者が、被保険者と同一使用者のもとにおける使用人、すなわち同僚の場合です。これも④の場合と同じく免責とされています。
同乗者の被った損害に対して、自賠責保険や対人賠償責任保険の補償がない場合でも、同乗していいた自動車の運転者が、人身傷害保険、搭乗者傷害保険、自損事故保険に入っていれば、これを利用することができます。
自賠責保険や対人賠償責任保険は、加害者へ保険金を支払うことを通して被害者の救済を図る保険ですが、人身傷害保険等は、人身事故の被害者に対して直接、保険金を支払うことにより救済を図る保険です。被保険者の保有者・運転者は、自賠法の規定(自賠法2条3項・4項)によります。
人身傷害保険は、契約自動車の運行中の人身事故により、被保険者が被った損害について、加害者の有無や過失相殺の有無に関係なく、約款で定められた損害額算定基準(人傷基準)に従い算定される保険金額が支払われる実損填補型の保険です。
被保険者は、契約自動車の搭乗者、保有者、運転者です。
搭乗者傷害保険は、被保険自動車の運行中の人身事故により、被保険者が被った損害について、約款に定める一定の金額が支払われる定額給付方式の保険です。
被保険者は、被保険自動車に搭乗中の者すべてです。
自損事故保険は、被保険自動車の運行中の人身事故により被保険者が損害を被り、被保険者に自賠法3条にもとづく損害賠償請求権が発生しない場合に、約款に定める一定の金額が支払われる定額給付方式の保険です。自損事故保険は、自賠法3条の責任が発生しない場合の被害者の救済を目的とするものです。
自賠法3条にもとづく損害賠償請求権が発生しない場合とは、相手自動車のない被保険自動車の単独事故や、相手自動車があっても相手方に自賠法3条による責任がなく100%被保険自動車の過失とされる事故の場合です。
被保険者は、被保険自動車の保有者、運転者、搭乗中の者です。
同乗者が交通事故で負傷した場合も、基本的には、自賠責保険や対人賠償責任保険による補償があります。
ただし、自賠責保険や対人賠償責任保険は、加害者へ保険金を支払うことを通して被害者の救済を図る保険ですから、同乗者と運転者との関係によっては、保険金が支払われないことがあります。例えば、同乗者が自分の自動車を運転させて同乗していた場合や、同乗者が運転者の家族である場合などです。
同乗者が自賠責保険や対人賠償責任保険による補償を受けられない場合は、同乗車両の所有者が、対人賠償責任保険とセットで傷害保険(人身傷害保険、搭乗者傷害保険、自損事故保険)を掛けていれば、搭乗者が被保険者となりますから、同乗者の被った損害につき、保険金の請求が可能です。
なお、同乗者は、通常、事故の発生自体に責任はありませんが、同乗者が事故発生の危険が増大する状況を現出させた場合には、過失相殺により、同乗者への損害賠償額が減額されます。同乗者の過失相殺についてはこちらをご覧ください。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!
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【参考文献】
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 98~103ページ、313~319ページ
・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 219~221ページ
・『交通事故事件の実務ー裁判官の視点ー』新日本法規 32~36ページ
・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 97~99ページ
・『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社 36~40ページ