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交通事故が発生したとき、事故を起こした当事者には、道路交通法において、負傷者の救護や警察への事故報告等が義務付けられています(道路交通法72条1項)。
他方、人身事故であっても交通事故に当たらない場合は、こうした道路交通法上の義務付けはありません。また、交通事故でない場合は、交通事故証明書が交付されないため、自動車保険に保険金・賠償金の支払いを請求するとき、事故の発生した事実をどうやって証明するかが問題です。
道路交通法において交通事故をどのように規定しているのか、交通事故に当たらない場合の損害賠償請求はどうなるのか、見ていきましょう。
道路交通法において、交通事故とは、「車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊」(道路交通法67条2項)をいいます。警察庁の「交通事故統計における用語の解説」では次のように説明しています。
「交通事故」とは、道路交通法第2条第1項第1号に規定する道路において、車両等及び列車の交通によって起こされた事故で、人の死亡又は負傷を伴うもの(人身事故)並びに物損事故をいう。
すなわち、①「車両等の交通による」事故であること、その前提として、②道路交通法に規定する「道路」における事故であること、この2つの要件を満たす事故が、交通事故となります。
まず、「車両等の交通による」の意味についてです。
車両等とは、自動車、原動機付自転車、軽車両、トロリーバス、路面電車のことです。
道路交通法では、「車両または路面電車」を車両等といい(道路交通法2条1項17号)、車両とは「自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう」と定義されています(道路交通法2条1項8号)。
道路交通法は、「道路における・・・交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」(道路交通法1条)と定めています。
すなわち、道路交通法が対象とするのは、その名称の通り道路における交通です。道路交通法67条2項の「車両等の交通」には、「道路における」というのは前提となっているのです。
したがって、道路以外の場所で車両等の走行によって人の死傷や物の損壊が発生しても、道路交通法の適用対象となる交通事故とはなりません。道路交通法における道路の定義については、あとで説明します。
交通には、陸上交通、水上交通、航空交通など様々ありますが、道路交通法が対象とするのは、道路における交通です。
「車両等の交通による」とは、次のような意味になります。
「車両等の交通による」事故とは、車両等の交通に起因した事故のことです。
例えば、進行中の車両から物を投棄して損傷を与えた場合は、道路における禁止行為(道路交通法76条4項5号)に抵触しますが、「車両等の交通による」には当たりません。
車両等の「交通による」という規定なので、車両等の運転によって生じた事故である必要はなく、交通によるものであればよいことになります。
例えば、坂道に駐車していた自動車が自然に動き出し事故を起こした場合や、走行中に車両の振動により積荷が落下して人を負傷させた場合は、「車両等の交通による」ものです。他方、駐車中の車両から積荷が落下して人を負傷させた場合は「交通による」ものとはいえません。
「車両等の交通による」とは、車両等が道路上を交通目的をもって移動したことによるという意味です。
例えば、道路に近接した山にある立木を倒すため、立木にロープをかけ道路上を貨物自動車で引いた際、山のふもとにいた人の頭上に木が倒れ負傷させた場合は、車両の交通目的の移動でなく、車両を立木を倒す道具として使用していたので、交通による事故でなく、作業による事故となります。
交通事故に当たるかどうかのもう1つの要件は、事故の発生した場所が、道路交通法の道路に該当するかどうかです。道路交通法に規定する道路において発生した事故は交通事故となりますが、それ以外の場所における事故は、交通事故とはなりません。
問題となるのが、駐車場など私有地における事故です。その駐車場が、道路交通法に規定する道路に該当するかどうかにより、交通事故となる場合、交通事故とならない場合があります。
道路交通法において、道路は、次のように定義されています。
道路法第2条第1項に規定する道路、道路運送法第2条第8項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。
すなわち、道路交通法の適用対象となる道路とは、次の3つです。
自動車教習所内のコースのように道路としての形態を備えていても、この規定に該当しないものは、道路交通法は適用されません。逆に、駐車場などのように道路の形態を備えていない場所でも、この規定に該当すれば、道路交通法の適用対象となります。
道路法に規定する道路とは、一般交通の用に供する道で、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道をいいます。トンネル、橋、渡船施設など道路と一体となってその効用を全うする施設・工作物、道路の附属物(道路上の柵、並木、街灯、道路標識など)を含みます。
道路法では、道路を次のように定義しています。
この法律において「道路」とは、一般交通の用に供する道で次条各号に掲げるものをいい、トンネル、橋、渡船施設、道路用エレベーター等道路と一体となつてその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含むものとする。
※条文中「次条各号に掲げるもの」とは、高速自動車国道、一般国道、都道府県道、市町村道です(道路法3条)。
道路運送法2条8項に規定する自動車道とは、専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で、道路法による道路以外のものをいいます。一般自動車道と専用自動車道に区分されています。
一般自動車道とは、専用自動車道以外の自動車道をいいます。専用自動車道とは、自動車運送事業者が専らその事業用自動車の交通の用に供することを目的として設けた道をいいます。
この法律で「自動車道」とは、専ら自動車の交通の用に供することを目的として設けられた道で道路法による道路以外のものをいい、「一般自動車道」とは、専用自動車道以外の自動車道をいい、「専用自動車道」とは、自動車運送事業者(自動車運送事業を経営する者をいう)が専らその事業用自動車(自動車運送事業者がその自動車運送事業の用に供する自動車をいう)の交通の用に供することを目的として設けた道をいう。
専用自動車道に似たものに自動車専用道路がありますが、道路法に規定する自動車専用道路(道路法48条の2)は、道路管理者が指定した道路をいい、道路運送法にいう自動車道ではありません。
一般交通の用に供するその他の場所とは、道路法に規定する道路と、道路運送法に規定する自動車道を除く場所において、現実の交通の有無から道路交通法上の道路とするものをいいます。
具体的には、次のような場所です。
このような場所を、なぜ道路交通法において道路と定義するのかというと、通常は道路と呼べないような場所でも、現実に多くの人や車両が通行している場所では、交通の安全と円滑を図るため、道路交通法による規制が必要だからです。
その場所が「一般交通の用に供する場所」として「道路」に該当するかどうかは、道路の体裁の有無、客観性・継続性・反復性の有無、公開性の有無により判断されます。
私道等ある程度道路としての体裁を備えている場所はもちろん、道路の体裁を備えていない広場や公園内の通路等であっても、要件さえ備われば「一般交通の用に供する場所」として「道路」となります。
ただし、広場等の全部が「道路」となるわけではありません。必ずしも「道路」としての体裁を備えていることまでは必要とされませんが、現に一般交通の用に供していることが客観的に識別できる何らかの形跡のある部分が、「一般交通の用に供する場所」として道路となります。
一般交通の用に供するその他の場所とは、現に公衆、すなわち不特定多数の人、車両等の交通の用に供されている場所を指し、必ずしもいわゆる道路の形態を備えていることまで必要とするものではない
一般交通の用に供する場所とされるためには、そのことが客観的であり、継続的・反復的であることが必要とされています。例えば、空地の所有者が、人や車の通行を認めていたとしても、だれも通らないとか、たまにしか通らないという場合は、「一般交通の用に供するその他の場所」とはいえません。
海岸埋立地内の工場予定地に国道から通ずる道路らしい場所について、本件の場所は、所有者から人車を通行を禁止されていたという事実もなく、その場所に所用のない一般公衆は日常通行していなかったとしても、その付近の工事関係者、資材運搬用の車、その他所用のある者が、長期にわたり相当数通行しているので一般交通の用に供するその他の場所といえる。
そこを通行することにつき、何らかの制限や条件があっても、不特定多数の人や車両の通行が許されている場所であると認められれば、「一般交通の用に供するその他の場所」として道路と解することができます。
道路交通法では、道路の定義として道路法に規定する道路のほかに「一般交通の用に供するその他の場所」を掲げて、たとえ、私有地であっても、不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所を道路としているから、本件空地のように私有地であっても、道路との境界を区画するためのものはなく、むしろ道路状をなして何人も自由に通行できる状態になっているものは、道路交通法上の道路と認めるべきである。
交通事故に該当するか否か、具体的なケースを挙げておきましょう。
道路交通法は、交通事故があったとき、運転者等に対し、負傷者の救護、道路の危険防止、警察へ事故発生の報告を義務付けています(道路交通法72条1項)。
これらの義務は「交通事故があったとき」ですから、私有地における事故のように交通事故に当たらない事故の場合には、警察へ事故発生の報告をしなくても、道路交通法違反とはならない、ということになります。
しかし、公道でなくても自動車で人を死傷させる事故を起こせば、自動車運転処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)により刑事責任を問われ、民事上も損害賠償責任を負います。
被害者の側からいえば、交通事故に当たるか否かに関わらず、自動車事故で怪我をした場合は、加害者に対して損害を賠償請求できます。また、刑事手続を通して明らかになった事実が、民事の損害賠償請求において有利に作用することもあります。
警察沙汰にすることを嫌がる加害者もいますが、警察に事故の発生を届けないと困るのは被害者の側です。加害者が警察へ連絡しないようであれば、被害者から連絡することが必要です。
道路交通法72条にもとづき警察へ事故の発生を報告したからといって、それのみでは刑法42条の自首にはなりません。捜査機関に発覚する前に報告し、事故の事実ないしは犯罪事実(自己の故意・過失によること)を告げて処分を求める意思を示せば、報告の履行とともに刑法42条の自首がなされたものと認められます。
(参考:『16-2訂版 執務資料 道路交通法解説』東京法令出版 812~813ページ)
加害者(保険会社を含む)に損害賠償を請求する際には、交通事故の発生を公的に証明する交通事故証明書が必要です。
交通事故証明書は、自動車安全運転センターが、警察から提供された証明資料に基づき、交通事故の事実を確認したことを証明する書面として交付します。したがって、警察に事故を報告していない場合や、交通事故でない事故の場合は、交通事故証明書が発行されません。
交通事故でない場合は、警察への事故報告は義務でないし、交通事故証明書も交付されないからと、警察に事故の発生を報告しなくてもよいと考えるのは間違いです。
公道でない場所で発生した事故は、交通事故に当たるかどうか、その場で判断することはできないでしょう。私有地での事故でも、交通事故に当たる場合があります。その場合、警察に事故の発生を報告していないと、交通事故証明書の交付がされず、損害賠償請求のいて不利になります。
道路交通法上の義務の有無に関わらず、事故が発生した場合は、警察に届けることが大切です。
道路上における車両等の交通による人の死傷・物の損壊を交通事故といいます。道路でない場所で発生した事故は、交通事故とはならず、警察への事故報告の義務はありません。
道路交通法に規定する道路とは、公道だけではありません。必ずしも道路の形態を備えている必要はなく、不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所も道路として、道路交通法の対象となる場合があります。
交通事故でない事故でも、人身事故を起こした加害者には、刑事上・民事上の責任が発生します。被害者は、その責任を追及できます。自動車による事故が発生した場合は、道路交通法上の交通事故に当たるか否かに関わらず、警察に事故を報告することが大切です。
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【参考文献】
・『16-2訂版 執務資料 道路交通法解説』東京法令出版 1~14ページ、798~822ページ
・『自賠責保険のすべて13訂版』保険毎日新聞社 123~124ページ