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交通事故の損害賠償請求権は、民法709条の「不法行為責任」と、自賠法(自動車損害賠償保障法)3条の「運行供用者責任」に規定されています。
このほか、監督義務者責任(民法714条)や使用者責任(民法715条)などがあり、それぞれの法律上の規定に基づき、損害賠償を請求することができます。
ここでは、民法にもとづく損害賠償請求と、自賠法に基づく損害賠償請求の違いについて、見ていきましょう。
交通事故は、民事上の不法行為に該当し、加害者には損害賠償の責任が生じます。不法行為による損害賠償について定めているのが、民法709条(不法行為責任)です。
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法709条の規定に基づき、被害者は、加害車両の運転者に対して、損害賠償を請求することができます。
自賠法(自動車損害賠償保障法)では、加害自動車の「運行供用者」が損害賠償責任を負うと定めています。運行供用者は、運転者とは限らず、もっと広く解釈されます。
自賠法は、「運行供用者責任」について、次のように規定しています。
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。
この「自己のために自動車を運行の用に供する者」を「運行供用者」といいます。
自賠法3条の規定に基づき、被害者は、加害車両の「運行供用者」に対して、損害賠償を請求することができます。
問題は「運行供用者とは誰か?」です。
自賠法は「自己のために自動車を運行の用に供する者」が損害賠償責任を負うと規定しているのですが、実は、自賠法には「自己のために自動車を運行の用に供する者」すなわち「運行供用者」の定義規定がありません。
運行供用者は、相手自動車の運転者とは限りません。実際に発生した事故において、誰が運行供用者となるか、個別に判断することになります。
では、運行供用者をどう判断すればよいのでしょうか?
最高裁は、運行供用者について「自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者」としています(最高裁判決・昭和43年9月24日)。
例えば、自分の自動車を運転中に事故を起こしたときは、運転者(=所有者)が運行供用者です。タクシーが起こした事故なら、タクシーを所有しているタクシー会社が自賠法3条の運行供用者責任を負い、タクシー運転手は民法709条の不法行為責任を負います。
運行供用者について、さらに詳しくは、次をご覧ください。
自賠法が、加害運転者でなく、運行供用者に損害賠償責任を負わせたのは、運行供用者責任とすることで、損害賠償責任を追及できる相手方の範囲が拡張され、被害者救済につながるからです。
賠償請求の相手が、直接の加害者(運転者)だけに限定されると、加害者の賠償資力によっては十分な損害賠償を受けられないことがあります。そうならないよう、被害者を救済するために、自賠法では運行供用者責任としたのです。
自賠法における「運転者」は、一般的な運転者と意味が異なり、「他人のために自動車の運転又は運転の補助に従事する者をいう」(自賠法2条4項)と、限定的に定義されています。例えば、雇用されて会社の車を運転する者、委託されて運転する者などです。マイカーの運転者は、運行供用者です。
そもそも自賠法は、自動車の運行による人身事故における被害者の保護を目的につくられた法律です。
自賠法の目的について、第1条で、こう規定しています。
この法律は、自動車の運行によって人の生命または身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
条文中の「損害賠償を保障する制度」とは、「自賠責保険制度」と「政府の自動車損害賠償保障事業」です。
現実に被害者救済が図られるよう、保険制度を法に基づいて整備し、保険制度では救済されない被害者については、国が保障する制度を設けているのです。もっとも、いずれも最低限の補償ではありますが…。
自賠法の対象は、自動車の運行によって他人の「生命または身体を害した」ときですから、物損事故は、自賠法の対象外です。人身事故でも、自動車の運行によらない事故の場合は、対象外となります。
民法709条(不法行為責任)に基づく損害賠償請求と、自賠法3条(運行供用者責任)に基づく損害賠償請求は、賠償請求する相手が異なるというだけではありません。
民法による損害賠償請求は、「相手に過失があり、損害賠償責任がある」ことを賠償請求する被害者が立証しなければなりませんが、自賠法による損害賠償請求は、立証責任の転換が図られ、加害者が「自分には過失はなく、損害賠償責任がない」ことを立証しない限り、賠償責任を負う構造になっています。
ですから、人身損害については、自賠法3条に基づいて損害賠償請求をする方が、立証責任が転換され被害者保護となっているため有利です。
例えば、「歩行者が飛び出して事故が起こった」と、加害者が過失を否定するような場合には、立証責任が転換されていることは重要です。
民法709条により損害賠償請求するときは、加害者の過失を被害者が立証する必要がありますが、自賠法3条により損害賠償請求すれば、加害者側が無過失を立証しない限り、損害賠償責任を免れることはできません。特に、被害者が事故で死亡し、目撃証言もないようなときは、立証責任の転換がきわめて重要となります。
「民法の立証責任」と「自賠法の立証責任」の違いについて、詳しく見てみましょう。
民法709条にもとづく不法行為責任が発生し、不法行為者(加害者)に対し損害賠償請求権が発生する要件は、次の4つです。民法709条に基づいて損害賠償請求をする場合には、これらを全てを賠償請求する被害者の側が主張・立証しなければなりません。
交通事故で、人に怪我をさせれば身体権の侵害、死亡させれば生命権の侵害、物損は財産権の侵害です。交通事故は、生命・身体・財産という重要な権利の侵害ですから、権利・法益の侵害の有無が問題となることは、まずありません。
過失とは、「うっかり」という精神的緊張の欠如(主観的過失論)ではなく、「結果発生の予見可能性を前提とした結果回避義務違反」と解されています(客観的過失論)。
すなわち、一定の注意義務を尽くしていれば事故の発生は予見可能であり、それを回避すべき行為義務(=なすべきであった行為)があったにもかかわらず、その行為を怠ったことが過失です。
例えば、自動車の運転者が、前方の信号機が赤信号となったのを見落として、停止位置で停車せず、そのまま進行し、事故を起こしたとします。
「赤信号は停止位置で停車すべきであった」のに、それを怠り、「停止位置で停車せず、そのまま進行した」ことが過失です。ちなみに、主観的過失論では、精神的緊張を欠いて、「うっかりと赤信号を見落とした」ことを過失と捉えます。
道路交通法は、運転者に、様々な注意義務を課しています。過失とは、一言でいえば、注意義務違反ということです。
したがって、交通事故における加害者の過失についての主張・立証は、道路交通法規の定める注意義務とその違反行為の存在(速度超過、前方不注視、一時停止違反、車間距離不保持など)を主張・立証すれば足りると考えられています。
道路とは認められない駐車場における事故についても、道路交通法に定める注意義務が参考にされます。
ただし、加害者に過失があったといえるかが問題となるケースが少なからずあり、被害者が、加害者の過失を立証することが困難な場合もあります。加害者に過失があったと立証できなければ、賠償請求は認められません。
加害者の故意か過失かによって、慰謝料の額に多少の影響はありますが、それ以外の財産的損害には影響しません。なので、加害者の故意か過失かによって、損害賠償額に格別の差異が生じるものではありません。
むしろ、加害者の故意や悪意が認定されると、自賠責保険の悪意免責や任意保険の故意免責により、保険金が支払われなくなります。そのため、交通事故の損害賠償請求において、加害者の故意を主張することは、通常ありません。
交通事故による損害は、人的損害と物的損害に大別され、人的損害は、さらに財産的損害(積極損害・消極損害)と精神的損害(慰謝料)に分類されます。賠償請求できる損害について詳しくはこちらをご覧ください。
損害額は、損害項目ごとに損害算定基準にもとづいて計算し、これを積み上げていく「個別損害積上げ方式」により算定します。
加害者の行為によって損害が生じたことを、被害者が立証しなければ、不法行為責任を問うことはできません。
加害者が損害賠償責任を負うのは、社会通念に照らし妥当と認められる因果関係(相当因果関係)の範囲内の損害に限定されます。
あとになって症状が現れた場合など、事故と損害の因果関係の立証が難しい場合があります。
不法行為時に責任能力が存在しない者は、損害賠償責任を負いません(民法712条・713条)。責任能力とは、「自己の行為の責任を弁識する能力」をいいます。つまり、相手に損害を与えると、それを賠償する法的責任が生じることを理解する能力のことです。
加害者の責任能力の有無は、年齢、疾患による心神喪失の有無などから判断します。未成年者については、12歳前後の知能が基準となり、一般的には中学生になれば責任能力が認められます。刑事事件のように責任年齢を一律に14歳以上(刑法41条)と決めているわけでなく、民事では責任能力の有無は個別に判断します。
民法に基づく損害賠償請求は、被害者において、加害者の故意・過失など加害者側の事情にかかる事実を主張・立証しなければなりません。これは容易なことでありません。
そこで、被害者救済の見地から、自賠法では、立証責任を加害者側(運行供用者)に転換しました。
これにより、自賠法にもとづき損害賠償請求する場合には、被害者は、相手の自動車の運行によって損害が発生したという事実を主張・立証すればよくなったのです。
逆に、運行供用者は、次の3つの要件を全て立証しなければ、損害賠償責任を免れることはできません。
これを全て立証することは容易ではありません。自賠法の運行供用者責任は、事実上の無過失責任(過失がなくても賠償責任を負う)に近く、ほとんどの場合に損害賠償責任を負うことになります。
ただし、運行供用者責任が「無過失責任に近い」とはいえ、完全な無過失責任を認めたものではなく、被害者に100%の過失が認められるときは、加害者無責(加害者に責任なし)となり、自賠責保険も支払われません。こういう場合は、自身の加入する任意自動車保険(人身傷害保険など)に保険金の支払を請求することになります。
交通事故の損害賠償請求は、基本的には民法の不法行為責任によりますが、人身事故の場合は、自賠法にもとづき損害賠償請求することもできます。自賠法を適用できるときは、自賠法による方が立証が容易です。
自賠法による損害賠償請求は、民法のように被害者側が加害者の故意・過失を立証する必要はなく、加害者側が「自分に過失がなかった」ことを立証できない限り、損害賠償責任を免れることはできません。被害者側は、事故により損害が発生し、損害額がいくらかを主張・立証すればよいのです。
なお、物的損害については自賠法は適用外で、民法による損害賠償請求となります。メガネや補聴器など身体に密着し、身体の一部の機能を代行している物に、自賠法が適用される程度です。また、自転車による人身事故には、自賠法は適用されません。
自動車事故で、人損と物損の両方に及ぶ場合は、人損は自賠法、物損は民法と「二本立て」で損害賠償請求することになります。
交通事故の被害に遭いお困りのときは、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!
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※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
【参考文献】
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 45~49ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 6~14ページ
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 19~21ページ、30~36ページ
・『交通事故事件の実務』新日本法規 5~11ページ
・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 62~71ページ
・『実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集ー交通事故編ー』第一法規 62ページ
・『口語民法』自由国民社 関係条文の解説