むち打ち症とは?交通事故で頸椎捻挫と診断されたときの注意点

むち打ち症とは?交通事故で頸椎捻挫と診断されたときの注意点

交通事故でのむち打ち症(むち打ち損傷)は、治療費の支払いや後遺障害の認定をめぐって、保険会社と揉めやすいので要注意です。

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むち打ち損傷

 

むち打ち症(むち打ち損傷)は、ほとんどの場合、自覚症状のみで、他覚的所見がみられません。そのため、保険会社との間で、治療費の支払いや後遺障害の有無などをめぐってトラブルになりがちです。

 

むち打ち症(むち打ち損傷)とはどういうものか? 交通事故でむち打ち症になったとき、どんな点に注意して治療を受ければよいのか? 詳しく解説します。

 

むち打ち症(むち打ち損傷)とは?

むち打ち損傷(むち打ち症)とは、追突事故などによって、頸椎部が鞭のようにしなって過伸展と過屈曲が生じ(むち打ち運動)、その結果、頸部の筋肉、靭帯、椎間板、血管、神経などの組織を損傷して生じる症状の総称です。骨折や脱臼は含まれません(『後遺障害入門』青林書院 165ページ)

 

むち打ち損傷(むち打ち症)は、受傷の仕方を示すもので、診断名ではありません。正式には、頸椎捻挫、頸部捻挫、外傷性頸部症候群などの傷病名がつけられることが多いようです。そのほか、頸部挫傷、外傷性頭頸部症候群、外傷性頸椎捻挫、むち打ち関連障害、むち打ち症候群などともいわれます。

 

その定義も確定したものはなく、「骨折や脱臼のない頸部脊柱の軟部支持組織(靭帯、椎間板、関節包、頸部筋群の筋、筋膜)の損傷」との説明が一般的です(『交通事故医療法入門』勁草書房 106ページ)

 

臨床的には、「頸部が振られたことによって生じた頭頸部の衝撃によって、X線写真上、外傷性の異常を伴わない頭頸部症状を引き起こしているもの(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6ページ)、つまり、骨折や脱臼はないが、頭頸部症状を訴えているものは、広く「むち打ち損傷」と捉えられているようです。

 

むち打ち損傷の症状

交通事故による「むち打ち症」といえば、首の痛みを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、むち打ち損傷により生じる症状は、首の痛みだけではありません。

 

事故直後の急性期の症状としては、頸部痛や頸部不快感が代表的です。症状が、事故後ただちに出現する場合もありますが、2~3日後あるいはそれ以上の期間経過後に現れることもあります。

 

この急性期の症状は自然に消えていき、一般的に長期化することは少なく、1ヵ月以内に治療終了するケースが約80%とされています(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49ページ)

 

慢性化した場合の症状は、頸部痛、頭痛、めまいが主訴で、「天気が悪いと特に痛い」というように、気圧や湿度の変化に敏感であることが特徴です。

 

このほか、頭部・顔面のしびれ、眼痛・視力低下・視野狭窄など眼症状、耳鳴・難聴、吐き気、四肢のしびれ・痛みなどの症状や、不眠、集中力低下、易疲労性、微熱、顎関節痛、狭心症様胸部痛などの症状が生じる場合もあります(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~59ページ)

 

このように神経根刺激症状や自律神経症状にまで及び、自覚症状は多様ですが、レントゲン検査やCT・MRI検査などの結果に表れる他覚的所見に乏しいのが、むち打ち損傷(むち打ち症)の特色です。医学上、自覚症状のすべてを他覚的に裏付けるまでには至っておらず、その病理・病態は、いまだ十分に解明されていません。

 

むち打ち損傷の分類

むち打ち損傷によって生じる傷病には、いくつかの分類方法があり、日本で代表的な分類は「土屋分類」です。「土屋分類」によれば、むち打ち損傷は、次のような5類型に分類されます。

 

頸椎捻挫型 頸椎捻挫型は、頸部の筋の過度の伸長ないし部分断裂の状態で、頸部周囲の運動制限、運動痛が主症状です。神経症状は認められません。予後良好で、大部分がこのタイプです。
根症状型 根症状型は、頸神経の神経根の症状が明らかで、頸椎捻挫型に加え、知覚障害、放散痛、反射異常、筋力低下などの神経症状をともないます。
バレー・リュー症候群型 バレー・リュー症候群型は、自律神経症状や脳幹症状が出現し、頭痛、めまい、耳鳴、眼の疲労、悪心をともないます。
神経根、バレー・リュー症状混合型 根症状型の症状に加えて、バレー・リュー症状がみられるものです。
脊髄症状型 脊髄症状型は、深部腱反射の亢進、病的反射の出現などの脊髄症状をともなうものです。この型は、現在ではむち打ち損傷の範疇に含まれず、非骨傷性の頚髄損傷とされるのが一般的です。

※ バレー・リュー症候群は、「椎骨神経(頸部交感神経)の刺激状態によって生じ、頭痛、めまい、耳鳴、視障害、嗄声、首の違和感、摩擦音、悪心、易疲労感、血圧低下などの自覚症状を主体とするもの」と定義されています。しかし、その発生原因に関して、定説は確立されていません。

 

ただし、これらの分類は、臨床症状で明確に分類することが難しく、分類別の治療法も確立していません。

 

また、近年は、これらの分類に加え、外傷性胸郭出口症候群、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の病態を呈するむち打ち損傷が存在することが報告されています。
(参考:土屋分類については『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~8ページ)

 

むち打ち損傷で後遺症が問題となるケース

むち打ち損傷は、ほとんどの場合、後遺障害を残さずに治癒するとされていますが、事故により受傷した後に、椎間板損傷、神経根症状、バレー・リュー症状、脊髄症状が出現した場合には、その症状が後遺する可能性があるといわれています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 301~302ページ)

 

つまり、むち打ち損傷で、症状が長引き、後遺障害の認定が問題となる可能性があるのは、「土屋分類」でいえば、根症状型、バレー・リュー症候群型、神経根、バレー・リュー症状混合型、脊髄症状型の場合ということです。

 

根症状型は、神経根への刺激や圧迫によって、頸部筋、項部筋、肩胛部筋などへの圧痛、頸椎運動制限、運動痛、末梢神経分布に一致した知覚症状、放散痛、反射異常、筋力低下などがみられます。これらの症状の発生原因が他覚所見によって認められれば、後遺障害の等級認定がなされる可能性があります(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 303ページ)

 

バレー・リュー症状型は、その発生原因について定説は確立されておらず、現在においても病態の詳細は不明です。そのため、バレー・リュー症状を他覚的所見によって説明・証明することは難しいとされています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 304ページ)

むち打ち症で治療を受けるときの注意点

むち打ち症(むち打ち損傷)は、他覚的所見に乏しいため、痛みなど症状の原因や存在を客観的に明らかにすることが困難です。そのため、保険会社による一括払いがされている場合には、治療費支払いの打ち切りのリスクがあり、後遺症が残る場合には、後遺障害の認定に困難をともないます。

 

なので、むち打ち症で治療を受けるときには、完治を目指しつつも、万が一にも後遺症が残る場合に備え、後遺障害の認定を見据えて、次の点に注意が必要です。

 

  1. 事故後すぐに病院で診療を受ける
  2. 少しの違和感であっても医師に伝える
  3. 通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上
  4. 必要な検査を受ける
  5. 整骨院・接骨院は避ける

 

事故後すぐに病院(整形外科)に通う

むち打ち損傷に限ったことではありませんが、交通事故で受傷したときは、事故後すぐ、病院にかかることが大切です。特に、むち打ち損傷は、2~3日経ってから症状が出現することも多いので、違和感を感じたら、速やかに病院で診療を受けることが重要です。

 

事故から通院開始まで1週間も空いてしまうと、事故との因果関係や症状の程度が問題となり、保険会社が治療費を支払わなかったり、後遺障害の認定が難しくなったりします。

 

少しの違和感であっても医師に伝える

初診のとき、少しでも違和感が感じられるところは、漏らさず、自覚症状を医師に伝えることが大事です。違和感があるのに医師に伝えず、自分で症状が重いと感じている部分のみを医師に伝えていた、というケースはよくあります。

 

急性期に症状を伝えていないと、診断書に症状も傷病名も記載されないので、あとから症状を訴えて記載されても、急性期に症状がないため、事故との因果関係が否定されてしまう恐れがあります。

 

また、通院の都度、症状の部位と程度を医師にしっかりと伝えることも大事です。急性期以降、症状を訴えないと、途中から傷病名の記載がなくなってしまうこともあるので、そこで症状がなくなった、すなわち完治したと判断されてしまう恐れがあります。

 

症状は、端的に、例えば「首のここが痛い」と訴えることが大切です。

 

通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上

むち打ち損傷による傷病の場合、受傷直後は安静を指示されることもありますが、その後は、リハビリ治療を行うことが一般的です。

 

むち打ち損傷は、症状の客観的な評価が難しいため、後遺障害の認定のためには、通院期間や通院頻度が重要な判断要素の1つとなります。

 

自賠責保険で後遺障害が認定されるのに必要な通院期間は、最低6ヵ月といわれています(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 84ページ)。通院期間が5か月だと、後遺障害に認定される可能性は極めて低くなります。

 

さらに、むち打ち損傷の場合、通院頻度も重要です。自賠責保険で後遺障害に認定されるには、毎月10回以上、合計で60日~80日の通院日数が必要ともいわれます(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 85ページ)。通院頻度が少ないと、症状が軽かったと自賠責保険から評価されてしまうからです。逆に、毎日通院するなど通院日数が多すぎるのも問題です。治療費がかかりすぎることになるので、治療費打ち切りのリスクが高まります。

 

また、通院を中断しないようにすることも大切です。通院に1ヵ月も2ヵ月もブランクがあると、その前後の通院日数が多くても、後遺障害の認定を受けることは難しくなります。

 

もっとも、こうした後遺障害の認定基準が公表されているわけではなく、この通院期間・通院頻度をクリアすれば、後遺障害が必ず認定されるというわけではありません。それでも、重要な目安とされています。

 

事故時の衝撃が大きく、後遺症が残りそうなときは、週2~3回(月10日程度)の頻度で通院し、事故から6ヵ月(半年)以上通院し、経過観察が必要です。

 

必要な検査を受ける

むち打ち損傷は、画像検査では異常所見がみられないことが多いのですが、後遺障害の認定には、画像検査が不可欠です。たいてい、レントゲン写真は撮影するでしょうが、できればMRI検査も行っておくとよいでしょう。

 

MRIは骨以外の軟部組織の撮影に特化したもので、設備のない病院もあり、必ずしも撮影しなければならないものではありませんが、万が一、症状の原因が頸椎捻挫以外にあった場合に、早期発見・早期治療につながります。後遺障害の認定にも有効です。MRIまで撮影するということは、MRIによる精密検査をする必要があったと指摘することができます。

 

後遺障害等級14級9号認定のためには、MRI画像での異常所見までは必ずしも必要ありませんが、12級13号認定のためには、頸椎MRIはほぼ必須化しています。レントゲン写真(単純X線)だけでは、最も低い14級9号しか認定されません。(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 25ページ)

 

MRI撮影費用は比較的高額なので、後遺障害の認定に備え、保険会社が治療費を支払っている期間中に、主治医に相談し、MRI撮影をしておくとよいでしょう。

 

整骨院や接骨院への通院は避ける

整骨院や接骨院での施術は、整形外科での治療と異なり、損害賠償において評価が低くなります。

 

整形外科の医師の許可や同意を得て、整骨院や接骨院へ補助的に通院するならまだしも、整骨院や接骨院への通院がメインになってしまうと、かえってマイナスとなることもあります。

 

交通事故で整骨院や接骨院へ通院することには、例えば次のようなリスクがあります。

 

交通事故で整骨院や接骨院に通院するリスク
  • 整骨院や接骨院の施術費は、整形外科での治療費よりも高額となりやすく、保険会社から治療費の支払いを打ち切られるリスクが高まります。
  • 整骨院や接骨院では後遺障害診断書が書けず、整骨院や接骨院への通院がメインとなっていたら、整形外科の医師も後遺障害診断書が書けません。結果、後遺障害の認定を受けることができず、後遺症に対する損害賠償を受けることができなくなります。
  • 整骨院や接骨院での施術は、病院での治療と同等に評価されないため、整骨院や接骨院に通って病院への通院日数が減ると、通院日数の不足で後遺障害が認定されなくなります。通院日数は、休業損害や傷害慰謝料の算定にも影響を及ぼすため、損害賠償額が減ってしまいます。

 

こうしたリスクを避けるため、整骨院や接骨院への通院はおすすめできません。

 

どうしても整骨院や接骨院へ通院したい場合は、整形外科の医師の許可や同意を得たうえで通うことが大切です。その際、整骨院・接骨院での施術部位が、整形外科での治療部位より増えないように気をつけましょう。施術部位が増えと、保険会社は、過剰診療として施術費の支払いを拒否することがあります。

 

まとめ

むち打ち症(むち打ち損傷)は、大半は単純な頸部軟部組織の捻挫で、それほど重篤なものとは捉えられていません。

 

しかし、むち打ち症の発症メカニズムは、いまだ明らかでありません。他覚的所見に乏しく、自覚症状のみのケースがほとんどなので、治療の必要性、症状固定時期や後遺障害の有無をめぐって争いになることが少なくありません。

 

適正な損害賠償を受けるには、治療の段階から早めに、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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【参考文献】
・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~9ページ、49~59ページ
・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~51ページ
・『後遺障害入門 認定から訴訟まで』青林書院 164~169ページ
・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房 16~23ページ
・『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 63~67ページ、119~125ページ
・『実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集―交通事故編―』第一法規 97~98ページ、239~240ページ
・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 26~35ページ、46~62ページ、127~128ページ
・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 176~181ページ
・『交通事故医療法入門』勁草書房 105~132ページ
・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 300~304ページ
・『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 11~28ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 132ページ

公開日 2024-10-28 更新日 2024/11/13 21:17:21