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対人賠償責任保険(任意保険)は、自賠責保険の「上積み保険」といわれ、損害額が自賠責保険の支払額を超過する場合に、その超過部分を填補する保険です。
対人賠償責任保険が自賠責保険の「上乗せ保険」といわれることがありますが、これは厳密にいうと間違いです。「上乗せ保険」でなく「上積み保険」が正解です。「上積み保険」なのに「上乗せ保険」と誤解していると、受け取れる保険金(損害賠償金)の額が少なくなり、損する場合があるので、注意が必要です。
それでは、「上積み保険」と「上乗せ保険」の違いについて見ていきましょう。
上積み保険と上乗せ保険の違いは、上乗せ保険が「保険金額(支払限度額)を超える部分」をカバーするものであるのに対し、上積み保険は「支払額を超える部分」をカバーするもの、という点です。
対人賠償責任保険(任意保険)がカバーするのは、自賠責保険の「支払額を超える部分」であって、自賠責保険の「保険金額(支払限度額)を超える部分」ではありません。
保険金額とは、「保険給付の限度額として損害保険契約で定めるもの」をいいます(保険法6条1項6号)。
上乗せ保険 | 保険金額を超える部分を填補します |
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上積み保険 | 現実の支払額を超える部分を填補します。 |
上乗せ保険と上積み保険の違いを具体的に考えてみましょう。
死亡事故で損害額が8,000万円、自賠責保険の支払額が2,000万円だったとします。
死亡事故における自賠責保険の支払限度額(保険金額)は3,000万円です(自賠法施行令2条1項1号イ)。
上乗せ保険は、損害額が保険金額を超える場合に、その超過部分を填補します。つまり、自賠責保険の支払限度額が3,000万円ですから、5,000万円が任意保険から支払われます。上乗せ保険であれば、8,000万円の損害に対し、保険で填補されるのは7,000万円です。
これに対し、上積み保険は、支払額を超える部分をカバーします。つまり、自賠責保険の支払額は2,000万円ですから、6,000万円が任意保険から支払われます。上積み保険の場合には、損害額8,000万円全額が、保険により填補されます。
対人賠償責任保険は、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害のうち、自賠責保険により支払われる額を超える部分をカバーする「上積み保険」です。自賠責保険の保険金額(支払限度額)を超える部分をカバーするような「上乗せ保険」ではありません。
自動車保険普通保険約款では、対人賠償について、次のように規定しています。
この第2項が、対人賠償責任保険が自賠責保険の上積み保険であることを明示した条項とされています(『自動車保険の解説2023』保険毎日新聞社23ページ)。「自賠責保険等によって支払われる金額」であることに注意してください。
対人賠償責任保険は、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害が、自賠責保険等によって支払われる金額を超過する場合に限り、その超過額に対してのみ保険金が支払われます。
自賠責保険の支払額がゼロで、対人賠償責任保険(任意保険)から、損害の全額が支払われる場合があります。自賠責保険の保険事故には該当しないが、対人賠償責任保険(任意保険)の保険事故には該当する事故の場合です。
自賠責保険は、自動車の運行に起因した事故のみが、保険金支払いの対象です。一方、対人賠償責任保険は、自動車の運行に限らず、所有・使用・管理というように幅広い場面での事故が、保険金支払いの対象となります。
自動車の運行に起因した事故ではないけれども、自動車の所有・使用・管理に起因する事故であれば、自賠責保険は支払われませんが、対人賠償責任保険は支払われます。この場合は、損害の全額が任意保険から支払われるということです。
例えば、自動車を車庫に格納していたところ、タバコの火の不始末で自動車が燃えて、他人が火傷をしたような事故の場合です。自動車の運行による事故ではないので、自賠責保険からの支払いはありませんが、自動車の所有・使用・管理上の過失が認められれば、損害の全額について、対人賠償責任保険から保険金が支払われます。
自賠責保険が付保されていない場合は、当然、自賠責保険による支払いは受けられません。かといって、損害の全額が、対人賠償責任保険から支払われるわけではありません。これが、約款の第2項の注意書き部分です。
自賠責保険が付保されていない車両による事故の場合には、「自賠責保険が付保されていたならば支払われたであろう額」の超過額に対してのみ、対人賠償責任保険から保険金が支払われます。
自賠責保険は強制保険ですから(自賠法5条)、自賠責保険が付保されていない車両が公道を走ることは基本的にはないのですが、自賠責保険が付保されていない場合としては、次の2つのケースがあり得ます。
一つは、自賠責保険の付保義務を免除されている自動車の場合、すなわち自賠責適用除外車(自賠法10条)の場合です。自衛隊や米軍の車両、道路以外の場所のみで使用される車両(いわゆる構内専用車)が該当します。
もう一つは、自賠責保険の付保が義務付けられている自動車でありながら付保を怠っている場合、すなわち自賠責無保険車の場合です。
これら自賠責保険が付保されていない場合には、「自賠責保険が付保されていたならば支払われたであろう額」の超過額に対してのみ、対人賠償責任保険による保険金が支払われます。
加害車両が自賠責無保険車の場合には、自賠責保険に保険金(損害賠償額)を請求することはできませんが、政府の自動車損害賠償保障事業に対し、損害の填補を請求することができます。
加害車両が自賠責適用除外車の場合には、政府保証事業への請求はできません。車両の保有者に損害の賠償を請求することになります。ただし、構内専用車がたまたま道路に出たときに起こした人身事故については、無保険車による事故と同じと考えられ、政府保証事業への請求ができるとした最高裁判例(平成5年3月16日)があります。
政府保障事業の対象となる事故について詳しくはこちらをご覧ください。
自賠責保険によって現実に支払われる額を超える部分をカバーするのが「上積み保険」。保険金額(支払限度額)を超える部分をカバーするのが「上乗せ保険」です。任意保険の対人賠償責任保険は、「上乗せ保険」でなく「上積み保険」です。
任意保険(対人賠償責任保険)を自賠責保険の「上乗せ保険」と間違って解釈していると、損する場合がありますから、ご注意ください。
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【参考文献】
・『民事交通事故訴訟の実務』ぎょうせい276~277ページ
・『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ』ぎょうせい16ページ
・『自動車保険の解説2023』保険毎日新聞社22~24ページ