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むち打ち症は、レントゲンなどの画像検査をしても他覚的所見がなく、被害者本人の自覚症状しか症状を示す要素が存在しないケースがほとんどです。そのため、治療期間や治療の必要性自体が問題になりやすく、保険会社は一定の時期が来ると治療費の支払いを打ち切ろうとします。
それでは、むち打ち症の平均的な治療期間はどれくらいなのか? 保険会社が治療費の支払いを打ち切る判断基準とは? 詳しく見ていきましょう。
むち打ち症の治療期間は、症状の把握と診断・治療が適切にされた場合、一般的な医学的知見として、おおむね2~3ヵ月程度の期間が相当とされています。もちろん個人差があり、衝撃が強くある程度重篤なものについては、6ヵ月ないしそれ以上の治療期間を要する場合もあります。
保険実務では、むち打ち症の治療期間を2~3ヵ月から6ヵ月程度の範囲で認めている例が多いようです。
(参考:東京弁護士会法友全期会 交通事故実務研究会編集『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい(2024年) 178~179ページ)
むち打ち症について、医学的に相当とされる治療期間を示したものとしては、次のものが代表的です。
なお、むち打ち症(むち打ち損傷)は、受傷の仕方を表す用語であって、臨床の現場では、頸椎捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群などの傷病名で呼ばれます。
よく引用される裁判例としては次のものがあります。
なお、ここに挙げている裁判例は、衝撃が軽度で、頚椎捻挫にとどまる場合です。むち打ち損傷(外傷性頚部症候群)は病態によって分類され、椎間板損傷や神経根症状、自律神経症状等が出現している場合など、治療期間が長引くケースもあり、1年程度の治療期間を認めている裁判例は多くあります。むち打ち症の分類についてはこちらをご覧ください。
最高裁判所は、昭和63年4月21日の判決において、原審(東京高裁判決・昭和58年9月29日)の次の認定を「原審が適法に確定した事実関係」であるとして是認しています。
外傷性頭頸部症候群とは、追突等によるむち打ち機転によって頭頸部に損傷を受けた患者が示す症状の総称であり、その症状は、身体的原因によって起こるばかりでなく、外傷を受けたという体験によりさまざまな精神症状を示し、患者の性格、家庭的、社会的、経済的条件、医師の言動等によっても影響を受け、ことに交通事故や労働災害事故等に遭遇した場合に、その事故の責任が他人にあり損害賠償の請求をする権利があるときには、加害者に対する不満等が原因となって症状をますます複雑にし、治癒を遷延させる例も多く、衝撃の程度が軽度で損傷が頸部軟部組織(筋肉、靱帯、自律神経など)にとどまっている場合には、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、その後は多少の自覚症状があっても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せば、ほとんど1か月以内、長くとも2、3か月以内に通常の生活に戻ることができるのが一般である。
本件事故に基づいて原告に生じた傷害は頸椎捻挫にとどまるものと考えられ、…右傷害(=頸椎捻挫)の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる。
以上が、むち打ち症の一般的な治療期間です。
それでは保険会社は、治療費の一括払いをする期間をどう判断しているのでしょうか?
前提として、次の点をおさえておいてください。
つまり、保険会社が治療費を一括払いするのは、事故と相当因果関係の認められる治療費の範囲であり、期間は症状固定となるまでです。もちろん完治したときは、そこで治療費の支払いは終了です。
では、「事故と相当因果関係のある治療か?」「症状固定になったか?」ということを、保険会社はどう判断しているのでしょうか?
むち打ち症(外傷性頚部症候群)は、発生機序や病態などの詳細はいまだ解明されていない部分が多いものの、一般的にどれくらいの期間で症状が改善するかは、臨床上の統計がありますから、保険会社も、そういったものを参考にします。
ただし、そういう統計上の平均的な治療期間よりも、早く治ることもあれば、長引くこともあります。
ですから、平均的な治療期間を参考にしつつ、「どんな事故だったのか?」「どんな怪我をして、どんな治療をしているのか?」「治療の経過はどうか?」といったことを個別・具体的に検討したうえで、いつまで治療費を支払うかを判断することになります。「○○の場合は、○ヵ月で一括払い終了」というように、傷病ごとに画一的に決まっているわけではないのです。
誤解のないように言っておきますが、保険会社が個別事情をふまえて判断するというのは、決して被害者のためではなく、保険金(損害賠償額)の支払い額を少なくするためです。
では、保険会社は「事故の状況」や「被害者の症状・治療内容・治療経過」をどのように把握し、検討しているのか、見ていきましょう。
どんな事故だったのか(事故態様)は、保険会社が、いつまで治療費を支払うかを判断するうえで重要な要素です。
ひと口に「追突」や「衝突」といっても、車両がつぶれてしまっているような重大事故もあれば、どこに当たったのか分からないような軽微事故もあります。
一般に、大きな事故ほど身体への衝撃が強く、症状は重篤で、治療期間も長くなりやすいと考えられています。軽微な事故なら、短期間の通院治療で治るでしょう。場合によっては、治療すら必要ないかもしれません。なので、治療期間を判断するうえで、事故の状況を把握することが重要というわけです。
特に、むち打ち症は、外傷所見がなく、被害者からの自覚症状のみというケースがほとんどなので、事故態様の把握を重要視しているのです。
事故態様の把握には、事故発生状況報告書やドライブレコーダーのほか、車両の損傷状況や修理額を参考にします。
例えば、普通乗用車両の場合、修理費用が10万円程度だと損傷状況も軽微に見えることが多く、症状が残るほどの怪我だったとは評価されにくい傾向があります(『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 49ページ)。
つまり、車両の修理費用が低額の場合には、軽微な事故だったと判断され、保険会社からの治療費の一括払いが、短期間で打ち切られる可能性がある、ということです。症状が残っても、後遺障害の認定を受けるのが難しくなります。
近時、自賠責保険が、軽微事故で治療期間が長くなると、事故による受傷そのものを否認するケースがあるようですから、注意が必要です。
お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
傷病名や症状、治療内容、治療経過などについては、病院から保険会社に毎月送られてくる「経過診断書」や「診療報酬明細書(レセプト)」などを参考に検討します。
病院が毎月発行する傷病名や症状などが記載される診断書です。
病院の診療報酬の根拠として、どのような治療が行われているかが記録されているもので、治療内容を一通り把握できる資料です。
経過診断書には、「症状の経過・治療の内容・今後の見通し」や「主たる検査所見」などが記載されます。
むち打ち症は、他覚的所見のないケースがほとんどですが、保険会社は、検査結果だけでなく、どんな検査をしているかもチェックしています。被害者がどんな症状を訴えているかを読み取ることができるからです。
「症状の経過・治療の内容および今後の見通し」欄は、「保存的に加療した」とか「経過観察中」などの簡単な記載が毎月繰り返されているだけだったり、一見すると詳しく書かれているような場合でも、全く同じ記載だったりする場合があるようです。実は、このことが、あとで説明するように、治療費打ち切りの要因となってしまうこともあります。
経過診断書から、症状の経過や治療内容が読み取れない場合でも、診療報酬明細書(レセプト)から、どのような治療がなされたかを推測することができます。例えば、どの部位の画像撮影をしたのか、どのような内服薬や外用薬を処方しているのか、消炎鎮痛処置は行っているのか、などの情報を読み取ることができます。
レセプトにおいて処置の内容に変化がなく、経過診断書においても症状や治療内容に変化が見られない状態が続くと、「治療を続けても特段の変化が見られない」すなわち「症状固定に至っているのではないか」と保険会社から判断されてしまいます。
もちろん、保険会社も、推測だけで治療費の一括払いを打ち切るわけではありません。「そろそろ症状固定と見てよいのではないか」と判断したときは、担当医の意見を求めてきます。担当医が症状固定を判断したという形をとるのです。
任意保険会社の一括払いとすることに同意した際、医療調査に関することも含めて同意書を提出したと思いますが、その同意書を盾に、担当医に状況を尋ねるのです。
損保会社は、「医療アジャスタ」とか「MI(メディカル・インスペクター)」と呼ばれる医療調査のための専門スタッフを配置しています。症状が重篤で損害額が高額化すると予想されるケース、通院が想定よりも長期化しているケース、事故と症状との因果関係に疑問が生じるケースなどで、専門スタッフが医療調査を実施します。
むち打ち症で治療期間が長くなると、保険会社から「最高裁判例で半年以上の治療は意味がないとされている」と言ってくることがあるようです。しかし、そのような最高裁判例はありません。
保険会社が、なぜ6ヵ月にこだわるかというと、治療期間6ヵ月以上であることが、後遺障害認定の1つの目安となるからです。治療期間が6ヵ月に満たなければ、自賠責保険の後遺障害認定がされにくくなります。
自賠責保険において後遺障害が認定されると、後遺症に対する損害賠償が発生します。後遺症に対する損害賠償額は、大きな金額となります。保険会社としては支払額を抑えたいので、後遺障害等級が認定されないよう、6カ月未満で治療を打ち切りたいのです。
もし保険会社が治療費の打ち切りを言ってきても、あなたが治療の継続を望み、主治医もまだ治療を継続すべきだと判断するなら、保険会社の担当者と話をして、治療費の支払いを継続してもらえるよう交渉することが大切です。
むち打ち症の治療期間は、事故から3ヵ月から6ヵ月程度が多く、長くとも1年程度といわれています。
保険会社は、事故から6ヵ月程度を経過すると、症状固定になったとして治療費の支払い打ち切りを通告してくることがあります。この背景には、むち打ち症の治療期間について、「通常、遅くとも6ヵ月以内で症状固定に至ると考えられている」とする医学論文(平林洌「外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドラインの提案」(1999年))や、「頸椎捻挫にとどまる傷害の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる」とする裁判例(大阪地裁平成9年1月28日判決)などがあるからのようです。
治療期間が6ヵ月に満たないうちに治療費の一括払いを打ち切られると、後遺症が残るほどの強いむち打ち損傷だった場合でも、後遺障害の認定を受けられなくなります。
まだ痛みやしびれがあるのに、保険会社から治療費の打ち切りを通告され、お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。
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・治療費打ち切りを保険会社から通告されたときの3つの対処方法
【参考文献】
・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 178~179ページ
・『交通事故における むち打ち損傷問題』保険毎日新聞社 67~70ページ、74~83ページ
・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~50ページ
・『後遺障害入門』青林書院 167ページ
・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~50ページ
・『交通事故医療法入門』勁草書房 127ページ
・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 301~302ページ
・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 46~49ページ、124~125ページ
・『交通事故損害賠償入門』ぎょうせい 85~91ページ