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自賠責保険と対人賠償責任保険の被保険者は、人身事故により損害賠償責任を負った加害者です。本来、被保険者として保険金の支払いを請求できるのは、加害者です。
他方で、被害者が、加害者の加入している自賠責保険や対人賠償責任保険から、直接、損害賠償額の支払いを受けることもできます。2つの方法があり、どちらの方法で損害賠償額の支払いを受けるかは、被害者が選択できます。
まず、自賠責保険と任意保険の関係、被害者の直接請求権について、簡単に見ておきましょう。自賠責保険と任意保険の違いについて詳しくはこちらをご覧ください。
自動車保険には、自賠責保険と任意保険があります。
自賠責保険は、保険契約が法律(自動車損害賠償保障法)で義務付けられた強制保険です。対人賠償を補償する保険で、支払基準は国が定め、最低限の補償にとどまります。
任意保険は、加入が任意・自由な自動車保険です。自賠責保険でカバーされない損害の填補を補償する保険で、支払基準は各保険会社が定めます。事故の相手への損害賠償を補償する保険(対人・対物賠償責任保険)と、自身の怪我や物損を補償する保険(人身傷害保険や車両保険など)があります。任意保険の種類はこちらをご覧ください。
対人賠償については、自賠責保険が最低限の補償をし、不足分を対人賠償責任保険が上積みしてカバーする 2階建て構造となっています。対人賠償責任保険が支払うのは、損害賠償額のうち、自賠責保険によって支払われる金額を超過する部分だけです。
自動車保険標準約款は、対人賠償責任保険に関し、「被保険者が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害の額」が、「自賠責保険等によって支払われる金額」を超過する場合に限り、その超過額に対してのみ保険金を支払うと定めています(標準約款第1章2条2項)。
自賠責保険と対人賠償責任保険に対し、被害者が損害賠償額の支払いを直接請求することができます。被害者請求ともいいます。
自賠責保険に対する被害者の直接請求権は、自賠法(自動車損害賠償保障法)第16条1項と第17条1項で、対人賠償責任保険に対する被害者の直接請求権は、自動車保険標準約款第1章11条1項で、それぞれ定めています。
第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
※第3条の規定とは、運行供用者責任(自動車損害賠償責任=自賠法3条)についての規定です。
保有者が、責任保険の契約に係る自動車の運行によって他人の生命又は身体を害したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、政令で定める金額を第16条第1項の規定による損害賠償額の支払のための仮渡金として支払うべきことを請求することができる。
対人事故によって被保険者の負担する法律上の損害賠償責任が発生した場合は、損害賠償請求権者は、当会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において、当会社に対して第3項に定める損害賠償額の支払を請求することができます。
それでは、被害者が、加害者の加入している自動車保険から損害賠償額の支払いを受ける2つの方法について、見ていきましょう。
被害者が、加害者の加入している自賠責保険や対人賠償責任保険から、損害賠償額の支払を受ける方法とは、次の2つの方法です。
上で見たように、対人賠償責任保険(任意保険)は、自賠責保険の支払額で足りない金額を補填する保険ですから、まず自賠責保険の支払いを受け、その上で、不足する額を任意保険から支払いを受ける、というのが本来の姿です。
ですが、この方法だと、自賠責保険と任意保険の両方に請求しなければならず、手間がかかります。そこで、任意保険会社が、自賠責保険分を含めて一括で支払うサービスを行っています。任意保険会社が立て替えて支払った自賠責保険分は、あとで自賠責保険に求償する仕組みです。
自賠責保険分を先に支払を受けるか、任意保険会社に自賠責保険分を含めて一括払いしてもらうか、いずれの方法で損害賠償額の支払を受けるかは、被害者が選択できます。
たいていは任意保険会社による一括払いを選択しますが、先に自賠責保険に直接請求して支払いを受ける方が、最終的に受領できる損害賠償額が多くなる場合がありますから、慎重に考えて選択することが大切です。
任意保険会社による一括払い対応を希望する場合は、任意保険会社に一括払いの同意書を提出すればよいだけです。もし、一括払いに同意していても、自賠責保険に直接請求したいときは、同意を撤回すれば、いつでも任意保険会社による一括払いを中止できます。
先に自賠責保険に直接請求をして、不足額を後で任意保険に請求する方法がよいのは、次のようなケースです。
被害者の過失が大きい場合は、先に自賠責保険から支払いを受ける方が、最終的に受領できる損害賠償額が多くなる可能性があります。
任意保険会社による一括払いは、過失割合に応じて厳格に過失相殺するので、被害者の過失割合が大きいと、それだけ損害賠償額が減ります。例えば、被害者の過失割合が6割だったとすると、損害額の4割しか賠償を受けられません。6割が過失相殺により減額となります。
それに対し、自賠責保険は、被害者の保護・救済を目的としていますから、被害者に7割以上の重大な過失がある場合に限り減額し、しかも、減額の割合が通常の過失相殺と比べて小さいのです。
例えば、被害者の過失が6割だったとしても、自賠責保険は過失相殺せず支払われます。自賠責保険の支払額を超える損害賠償額があれば、その超過額については任意保険が6割の過失相殺をして支払うことになります。
後遺症が残る場合は、認定される後遺障害等級によって損害賠償額が決まるので、適正な後遺障害等級の認定を受けることが重要になります。
任意保険会社による一括払いの場合は、任意保険会社が、自賠責に後遺障害の認定を受けるための申請書類を出します。保険会社が手続きをしてくれるので被害者は手間がかからないのですが、形式的に書類をそろえて申請するだけですから、後遺障害が非該当となったり、低い後遺障害等級しか認定されないことが少なくないのです。
ですから、後遺障害等級の認定を受ける際には、被害者が、自賠責に直接請求する方がよいのです。ただし、この場合には、交通事故に詳しい弁護士に相談・依頼することが大切です。
このほかにも、先に自賠責保険に直接請求しておく方が良い場合もあります。詳しくは、次のページをご覧ください。
被害者が、加害者の加入している自動車保険(自賠責保険・任意保険)から支払いを受けるには、①自賠責保険から支払いを受け、その上で不足する額を任意保険から支払いを受ける方法、②任意保険会社から、自賠責保険分を含めて一括で支払いを受ける方法、の2つの方法があります。いずれの方法で支払いを受けるかは、被害者が選択することができます。
任意保険会社による一括払いの方が便利ですが、先に自賠責保険に直接請求して損害賠償額の支払いを受ける方が、最終的に受領額が増え、有利な結果となる場合がありますから、慎重に選択することが大切です。
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【参考文献】
・『自動車保険の解説2017』保険毎日新聞社 28~30ページ、56~62ページ