もらい事故は保険会社が示談交渉を代行できない理由とは?

もらい事故は保険会社が示談交渉を代行できない理由とは?

任意自動車保険(対人・対物賠償責任保険)には保険会社による示談代行サービスが付いていますが、もらい事故の場合は、保険会社が示談交渉を代行できません。なぜ保険会社は示談代行できないのか?その場合どうすればいいのでしょうか?

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もらい事故

 

任意自動車保険(対人・対物賠償責任保険)には、通常、保険会社による示談代行サービスが付いています。ところが、もらい事故だと、保険会社は示談交渉をしてくれません。というか、保険会社は示談代行できません。

 

もらい事故の場合には、なぜ保険会社は示談代行できないのか、その場合、正当な損害賠償を受けるには、どうすればよいのか、ご紹介します。

 

そもそも「もらい事故」とは?

もらい事故とは、自分には全く事故の責任がない、100%相手の責任で起きた事故のことです。過失割合でいえば、相手(加害者)が100%、自分(被害者)は0%です。

 

ですから、相手方が、あなたの損害を全額賠償する責任があります。過失相殺により損害賠償額を減額されることもありません。

 

ただし、もらい事故の場合には、あなたの加入する任意保険会社による「示談代行サービス」を受けることができません。自分で、相手方保険会社の担当者と示談交渉することになります。

 

これは、相手が全面的に悪いので、難しい交渉ではないから、といったような理由ではありません。法律に違反するからです。詳しく見ていきましょう。

「もらい事故」は、なぜ保険会社が示談代行できないのか?

示談代行サービスは、保険会社の担当者が、被保険者に代わって、事故の相手方と示談交渉等を行い、損害賠償責任の内容を確定し、解決するサービスです。あなたは、保険会社による示談代行に同意するだけでよいのです。

 

ただ、この示談代行は、どんな場合でもできるわけではありません。

 

示談交渉は、損害賠償責任の有無と賠償額を確定する「法律事務」であるため、弁護士でもない保険会社の担当者が行うと、弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)に抵触する場合があるからです。

 

そのため、任意自動車保険の約款において、保険会社が示談代行を行う場合を限定しているのです(普通保険約款 賠償責任条項 第10条・第12条)

 

保険会社が示談代行できる範囲

弁護士法72条で禁止している「非弁活動」とは、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で業として、他人の法律事務を取り扱うことです。

 

保険会社が被保険者に代わって示談交渉を行うのですから、「業として」「法律事務」を扱うことになるのは否定できません。

 

そこで、「報酬を得る目的で」と「他人の」の部分で、弁護士法72条違反とならないよう工夫がされているのです。

 

ただし、これは「抜け道」ということではなく、被害者の迅速な救済を図るため、日弁連と損保協会との間で協議を重ね、「この枠組みであれば問題とならない」という条件を双方で確認した結果です。

 

「報酬を得る目的で」については、保険会社の費用で行うことを約款に明記し、保険料以外には、示談代行にともなう費用・報酬・手数料などを受け取らないことで、クリアしています。

 

「他人の」法律事務に関しては、被害者から保険会社に対して賠償額を直接請求できる仕組みを設けるとともに、「保険会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において示談代行を行う」と限定することで、事務の「他人性」を払拭し、被保険者の法律事務を保険会社の法律事務としているのです。

 

「保険会社が被保険者に対して支払責任を負う限度」の意味

示談交渉とは、被保険者の損害賠償責任の額を確定することです。それは、保険会社にとっては、被保険者に支払う保険金額を確定させることでもあります。

 

「保険会社が被保険者に対して支払責任を負う限度」においては、「被害者と被保険者の法律関係」と「被害者と保険会社の法律関係」が実質的に同一のものとなり、他人(被保険者)の法律事務でなく、自社の法律事務を取り扱うことになるのです。

 

さらに詳しくは、「保険会社の示談代行は、なぜ非弁行為にならないのか?」をご覧ください。

 

保険金の支払責任を負わない場合は、示談代行できない

したがって、保険会社が被保険者に対して支払責任を負わない場合(例えば、無責事故や免責事故などの場合)には、保険会社による示談代行は、自社の法律事務とは認められず、弁護士法72条(非弁活動の禁止)に違反することになってしまうのです。

 

もらい事故は、被保険者(被害者)に全く過失責任がない「無責事故」ですから、相手方に対する損害賠償責任が発生しません。すなわち、保険会社は被保険者に対し、保険金の支払責任を負いません。

 

だから、もらい事故は、保険会社による示談代行ができないのです。

 

ちなみに、もらい事故でない自動車同士の事故の場合、すなわち双方に過失責任が認められる場合は、被害者も保険会社の示談代行サービスを受けることができます。その場合は、通常、保険会社同士の示談交渉により解決されます。

 

ただし、保険会社同士の示談交渉にはメリット・デメリットがあり、人身損害を被った被害者にはデメリットが大きいので、注意が必要です。

「もらい事故」の示談交渉の対処方法

もらい事故は、全面的に相手に責任があるので、相手方の保険会社が算定した損害額が全額、損害賠償額となります。あなたは特に何もしなくても、相手方保険会社から損害賠償額を受領することはできます。

 

もっとも、保険会社が算定する損害賠償額に満足できるのであれば、ですが…。

 

正当な損害賠償額を取得したいなら

保険会社は、保険金支払基準にもとづき損害額を算定します。

 

実は、保険会社の基準で損害額を算定すると、本来、被害者が受け取れる正当な損害賠償額(裁判で認められる損害賠償額)と比べて、かなり低い金額となってしまうのです。

 

保険会社が提示する金額よりも、本来は、もっと多くの賠償額を受け取ることができるはずなのです。

 

本来受け取ることができる正当な損害賠償額を取得したいのであれば、弁護士に示談交渉を依頼する必要があります。

 

もちろん、自分で保険会社と交渉しても良いのですが、うまくいったとしても、残念ながら、保険会社の提示額より少しだけアップできる程度にとどまるのが現実です。

 

やはり、損害賠償の適正額を受け取るのであれば、弁護士に頼むのがベストです。

 

これは、単に弁護士の交渉力が優れているから、というだけではありません。弁護士に頼むと、なぜ損害賠償額を増額できるのか、その本当の理由はこちらをご覧ください。

まとめ

保険会社の示談代行は、保険会社が被保険者に対して支払責任を負う限度において行うことができます。

 

したがって、もらい事故のように、被保険者(被害者)に損害賠償責任が生じない場合は、保険会社が被保険者に対して支払責任を負わないので、保険会社は示談代行できないのです。

 

この場合、保険会社が示談代行を行うと、弁護士法72条(非弁活動の禁止)に違反することになるのです。

 

ですから、もらい事故の場合の示談交渉は、被害者自身が相手方保険会社と行うか、弁護士に頼むことになります。

 

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公開日 2021-12-23 更新日 2023/03/16 11:45:59