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刑事記録の目的外使用の禁止と罰則については、刑事訴訟法第281条の4と第281条の5で定めています。これは、平成16年(2004年)の刑事訴訟法一部改正により新たに設けられた規定です。
この「刑事記録の目的外使用の禁止規定」が、刑事確定訴訟記録や被害者が取得した刑事記録にまで及ぶかのような誤解が一部にあるようです。
どんな場合に目的外使用にあたるのか、誰が刑事罰の対象となるのか、当時の国会審議をふまえて整理しておきます。
まず、刑事訴訟法において、検察官から開示された証拠(供述調書、鑑定書、証拠物など)の目的外使用の禁止(第281条の4)と、それに違反した場合の刑事罰(第281条の5)が、どのように規定されているか見ておきましょう。
第1項 被告人若しくは弁護人又はこれらであった者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
一 当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理
二 当該被告事件に関する次に掲げる手続
(略)
第2項 前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。
第1項の「証拠に係る複製等」とは、前条(第281条の3)で「複製その他証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面をいう」と規定しています。
第1項 被告人又は被告人であった者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、前条第1項各号に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第2項 弁護人又は弁護人であった者が、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、対価として財産上の利益その他の利益を得る目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供したときも、前項と同様とする。
この目的外使用の禁止規定は、平成16年の第159回国会において、刑事訴訟法の一部改正により新設されたものです。衆議院において修正されています。
政府の提出した改正案では、第281条の4に第2項はなく、目的外使用を一律に禁止する規定だけでした。衆議院において第2項を追加し、第1項の目的外使用の禁止に違反した場合の措置について、諸事情を考慮することとしたのです。
さらに、衆議院の法務委員会において、「本法第281条の4及び5の解釈については、国会での論議を十分に斟酌すること」と、附帯決議が付されました(平成16年4月23日)。
衆議院で修正が加えられた刑事訴訟法281条の4第2項について、衆議院における修正案の提案者は、参議院の法務委員会に出席し、委員からの質問に対して次のように答えています。
〇井上哲士・参議院議員(日本共産党)
修正案の提案者にお聞きをいたします。この目的外使用の禁止につきましては、衆議院で修正が加えられました。前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえてとした上で、「その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする」という条項が追加をされたんですが、ここで言う「前項の規定に違反した場合の措置」、この「措置」というのは、例えばどういうことを言われているのか。いかがでしょうか。
〇漆原良夫・衆議院議員(公明党)
この「措置」というのは、刑事訴訟法第281条の4第1項の規定に違反する違反行為に対して取られる法的措置のことでありまして、例えば具体的には、弁護士が同項の規定に違反する行為に及んだことを理由に弁護士の品位を失うべき非行があったものとしてなされる弁護士法上の懲戒処分、あるいは被告人等が刑事訴訟法281条の4第1項の禁止規定に違反する行為に及んだことによって損害を受けた者による民法上の損害賠償請求権、そういうものがこれに当たるというふうに考えております。
〇井上哲士・参議院議員
この目的外使用の禁止については、被告人の防御権を不当に侵すものだとか弁護活動を困難にするという様々な批判の声がありました。その中で、衆議院でも様々な議論も行われ、また院外での議論もあります。
その議論の中で、これ、被告人の防御のために必要な開示証拠の使用というのは審理の準備だけには限定されないではないかとか、それから関係人の名誉等を害さない場合には実質的には違法性がない場合もあるんじゃないかとか、また、公開の法廷で取り調べられた証拠についてまで目的外使用を禁止すべきでないなどなど様々な議論がありましたが、今回の修正はこういう議論を踏まえたものなのか、そしてどういうことを期待されたものなのか、その点お願いします。
〇漆原良夫・衆議院議員
正に衆議院においてもそういう議論がなされてこの修正に及んだわけでありますが、新設の刑訴法の281条の4第1項は、被告人、弁護人又はこれらであった者による開示目的の目的外使用を一般的に禁止するものであります。ただし、当然のことながら、同じく同項に違反する行為であったとしても、違反に係る複製等の内容やあるいは違反行為の目的、態様など、同条第2項に掲げたものを始めとするいろんな事情によって違反の悪質性の程度は相当に異なるものがあるというふうに思われます。
例えば、違反に係る証拠が被害者の日記等のプライバシー性の高いものであるかどうか、あるいは営利目的によるものかどうか、さらにはインターネットで広く公開するなど不特定多数の者に対して提供をするものであるかどうかなど、事情によって悪質性の程度は大きく違うというふうに思われます。
そこで、281条第2項として、被告人らが同条第1項の規定に違反した場合の措置を取るに当たっては、同条第2項に例示したものを始めとする諸事情を考慮すべきであるということを注意的に明らかにすることとしたものであります。
したがいまして、例えば281条の4第1項に違反する行為によって関係人の名誉を害したかどうかなどを始めとする諸事情を考慮した上で、関係人の名誉が害されていないということが有利な事情の一つとして勘案し、当該違反行為に対して懲戒処分等の措置までは必要がないというふうに判断される場合が十分あり得るというふうに考えております。
刑事記録の目的外使用が法律で禁止され、違反すると刑事罰が科されるのは、被告人・弁護人(または被告人・弁護人であった者)が、刑事裁判の審理の準備のために検察官から開示された証拠の複製等を、審理の準備以外の目的で使用することです。
すなわち、こういうことです
開示証拠の目的外使用禁止の解釈について、国会の議論により明確になった点を、国会会議録から一部抜粋しておきます。
〇井上哲士・参議院議員
更に重大なことは、被告人の防御権、弁護権を著しく侵害しかねない問題点が含まれていることです。
その一つが、開示された証拠をその審理の準備以外の目的で使用することを一律に禁止していることです。これまで、無実を訴える被告人が、開示された証拠の問題点を指摘し、批判する文書を配布して支援を求める活動がなされてきました。かつての松川事件や死刑再審事件など、多くの国民が公開された訴訟記録をよく検討して真実を訴え、公正な裁判を求めることにより、冤罪が晴らされたことは少なくありません。
開示された証拠の目的外使用の禁止は、こうした活動を妨げ、裁判公開の原則にも反します。衆議院で修正され、正当な理由がある場合は配慮する規定が入りましたが、禁止規定は残ったままです。被告人の防御権の擁護のためには、禁止規定自体を外すべきではありませんか。答弁を求めます。
〇野沢太三・法務大臣
次に、開示証拠の目的外使用の禁止についてお尋ねがありました。
検察官による証拠開示につきましては、あくまでも現に係属する被告事件について十分に争点を整理するとともに、被告人、弁護人が訴訟準備を十分に整えることができるようにするために行われるものであります。
また、開示証拠の複製等を本来の目的以外の目的で第三者に交付することなどが許されるものとすると、プライバシーの侵害などの弊害が拡大するおそれが大きく、また、そのことを考慮することにより、かえって証拠開示の範囲が狭くなると考えられます。
他方、現行法におきましては、開示証拠の取扱いに関する明確なルールは定められておらず、開示証拠の複製等が暴力団関係者に流出したり、雑誌やインターネットで公開された事例が発生しております。
そこで、開示証拠が本来の目的にのみ使用されることを担保し、証拠開示がされやすい環境を整えるため、被告人、弁護人は、開示証拠の複製等を本来の目的である被告事件の審理の準備等の目的にのみ使用すべきことを法律上明らかにする必要があるものと考えております。
御指摘のように、開示証拠の問題点を指摘し、一般の支援を求めることが必要であるとしましても、あえて開示証拠のコピーをそのまま引用するのではなく、その概要を明らかにすることによってその目的は達せられると考えられますが、今回の法案はそのような行為を禁止するものではありません。
〇井上哲士・参議院議員
開示証拠の目的外使用の禁止ということが盛り込まれているわけですが、この281条の4で、この手続又はその準備に使用する以外禁止と、こうなっているわけですね。この手続又はその準備に使用というのはどこまでが含まれるのかということをまずお聞きするんですが、実質的に弁護活動や訴訟活動のために使用するのであれば、その開示証拠に触れる人物が当該事件の被告人や弁護人の範囲を超えていてもこれは構わないのか、それとも被告人、弁護人の範囲を超えれば目的外使用になってしまうのかと、こういうことなんです。
これが駄目だということになりますと、例えば弁護人の側が開示された証拠の鑑定を専門家に依頼するいわゆる私的鑑定など、こういうものが不可能になってくるわけで、この点はどのように考えているんでしょうか。
〇山崎潮・司法制度改革推進本部事務局長
ただいま御指摘のその弁護人が自ら鑑定を依頼した鑑定人に開示証拠のコピーを渡すというような場合だろうと思いますけれども、これにつきましては、その鑑定が当該事件における検察官の主張事実のその真実性ですね、これを調査することを目的とするということなど、自ら担当する被告事件の審理の準備のためであるという場合には、その鑑定のための資料として開示証拠のコピーを交付すること、これは禁止されるものではないということでございます。
〇井上哲士・参議院議員
目的外使用を禁止する「証拠に係る複製等」の解釈でありますが、「複製その他の証拠の全部又は一部をそのまま記録した物及び書面」と、こうなっておりますが、これどういうものを指すんだろうかと。
例えば供述調書のような書面の場合に、固有名詞、それから日時、これを黒塗りをするなど、こういう処理をした物というのは、この「全部、一部をそのまま記録した書面」ということに当たるということになるんでしょうか。
〇山崎潮・司法制度改革推進本部事務局長
これは具体的な事案に照らして判断する必要があるというふうに考えております。ただ、一般的に言えば、開示された供述調書の記載を加工、修正した物については「一部をそのまま記録した書面」に該当する場合もあり得ますけれども、それ以外の場合にはその証拠の複製等には該当しないということでございまして、抽象的でちょっと分かりにくいわけでございますけれども、例えば一つ例示的に言えば、被告人の自白調書におきまして固有名詞をすべて修正、加工したとしましても、被告人以外の者が登場しないような物について、あとは被害者ぐらいですね、そういうような物については、その場面についてその供述内容がそのまま残っているような場合、そのような場合には「一部をそのまま記録した書面」に該当し得る場合もあるということになります。
あと、それからもう一つ、それに当たらないというような場合につきましては、登場人物が複数ある、それから場所もいろいろ複数あったり、日時もあるということで、そこを全部墨塗り等をするということによって、その具体的なストーリーというんですかね、それがどうも分かりにくくなっているというようなことになれば、これはもう複製としてそのまま外へ出したということにはならないということになりますので、その事案事案によって具体的に判断がされるということでございます。
〇井上哲士・参議院議員
逆に、文章としては要約をしてあるけれども固有名詞等は残っていると、こういうこともあろうかと思うんですけれども、こういう場合はどうなるんでしょうか。
〇山崎潮・司法制度改革推進本部事務局長
ここで禁止しているのは、複製がそのまま出るということを禁止しているわけでございまして、その全体を概要をまとめて出すということについては禁じているわけではないということでございます。
〇井上哲士・参議院議員
その場合に、固有名詞が残っている場合であっても禁じているわけでないと、こういうことでよろしいわけですね。
〇山崎潮・司法制度改革推進本部事務局長
要約している場合には、固有名詞が出てもそれは仕方がないということでございます。
〇井上哲士・参議院議員
再審請求などをされているいろんな支援運動の方からもこの目的外使用についてのいろんな批判の声が出ておりますが、その確定した事件の場合に、刑事確定訴訟記録法によって記録を謄写をしているという場合があります。これに基づいてこの再審請求の準備を行ったり、この記録の謄写を用いて宣伝活動をするという場合があるわけですが、こういう確定記録に含まれる開示証拠、これを目的外使用した場合というのはこの法の対象にはならないと、こういうことでよろしいでしょうか。
〇山崎潮・司法制度改革推進本部事務局長
改正法案の281条の4の証拠の複製等の目的外使用の規制でございますけれども、これは検察官において被告事件の審理の準備のために開示した証拠を対象にするという、そういう趣旨でございます。
今御指摘がございました刑事確定訴訟記録法の規定によって記録を閲覧、謄写した場合、この場合につきましては、先ほど申し上げました281条の4による目的外使用規制の禁止対象とはならないということで考えております。
上記の場合以外は、法律で目的外使用が一律に禁止されたり、ましてや刑事罰が科されるようなことはありません。もっとも、法律で禁止されていないからといって、入手した刑事記録をどう扱ってもよい、ということではありません。
刑事記録には、事件の加害者や被害者、関係者のプライバシーに関わる事実が記録されています。利用の仕方いかんによっては、その人たちに多大な被害を及ぼす恐れがあります。
公判のどのタイミングで刑事記録の閲覧・謄写を請求するかによって、その根拠法が異なり、したがって使用を規制する法律、規制の内容が異なります。
いずれにしても、開示された刑事記録から知り得たことをみだりに用いて、不当に関係人の名誉や生活の平穏を害する行為は許されず、捜査や公判に支障が生じることのないよう、取扱いに注意することが義務づけられます。
その義務に違反し、関係者の名誉や生活の平穏を害した場合には、刑事罰は受けないものの、その被害者のみならず社会からも非難を受け、被害者から訴訟を起こされるリスクを負うこととなります。
開示証拠の目的外使用の禁止規定が設けられた背景には、このとき(平成16年)の刑事訴訟法の一部改正により、証拠開示制度が創設されたことがあります。
それまでは証拠開示に関する明文規定はなく、個別の事案において、弁護人から申出があった場合に、裁判所が訴訟指揮権にもとづき証拠開示を命じるという運用がなされていました。こうした運用は、次の最高裁決定にもとづきます。
裁判所は、証拠調の段階に入った後、弁護人から、具体的必要性を示して、一定の証拠を弁護人に閲覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申出がなされた場合、事案の性質、審理の状況、閲覧を求める証拠の種類および内容、閲覧の時期、程度および方法、その他諸般の事情を勘案し、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であり、かつこれにより罪証隠滅、証人威迫等の弊害を招来するおそれがなく、相当と認めるときは、その訴訟指揮権に基づき、検察官に対し、その所持する証拠を弁護人に閲覧させることを命ずることができる。
一定の証拠開示が認められていたとはいえ、裁判所が裁量によって命じるものに過ぎませんでした。
そこで、平成16年の刑事訴訟法の一部改正により、証拠開示制度が創設されたのです。併せて公判前整理手続の制度も創設されました。公判前整理手続に組み込まれる形で、証拠開示制度が創設されたのです。
従前は証拠調べの段階に入った後に、証拠開示の申出をすることができることになっていましたが、公判前整理手続が導入され、その段階で証拠の開示を求めることができることになりました。
また、証拠開示制度の導入により、証拠の開示範囲も拡充されました。
検察官は、公判前整理手続において、取調べを請求した証拠書類・証拠物を開示するほか、証人等の尋問を請求した場合には、以前のように証人等の氏名・住居を知る機会を与えるというだけではなく、その供述内容が明らかとなる供述調書等を開示しなければならない、とされています(刑事訴訟法316条の14)。
検察官が取調べを請求した証拠以外の証拠についても、公判前整理手続の段階から、被告人・弁護人の請求によって提出していくという手続を設けました。
(類型証拠の開示=刑事訴訟法316条の15、主張関連証拠の開示=刑事訴訟法316条の20)
こうした新たな制度の創設により、従前よりも証拠開示の拡充が期待できる一方、開示証拠の取扱いルールがないため、プライバシーの侵害などの弊害が拡大する恐れがあるという理由から、開示証拠の目的外使用の禁止規定が盛り込まれたのです。
平成28年(2016年)の刑事訴訟法の一部改正では、さらに、検察官が保管する証拠の一覧表を被告人側に交付する手続きが導入され(刑訴法316条の14第2項~第5項)、証拠のリストを手がかりとして、証拠の開示請求が可能となりました。
証拠開示制度に関する国会審議における答弁を一部抜粋しておきます。質問は要旨のみとしました。
〇吉田博美・参議院議員(自由民主党)
この改正案では証拠開示制度の拡充を図っているが、その趣旨は?
〇野沢太三・法務大臣
刑事裁判の充実、迅速化のためには、事件の争点を中心とした無駄のない充実した審理をできるだけ連続して行うことが肝要であることからいたしまして、今回の法案では、十分な争点整理を行いまして明確な審理計画を立てるための公判前整理手続を創設することとしておるわけでございます。
そして、被告人、弁護人が公判前の整理手続におきまして公判でする予定の主張を明らかにし、十分に争点整理を行うとともに、防御の準備を十分に整えることができるようにするためには、その前提として、それを可能にするだけの証拠が開示される必要があります。そこで、今回の法案では、争点整理と被告人の防御の準備に十分な証拠が開示されるよう、検察官による証拠開示を拡充することとしたものでございます。
〇吉田博美・参議院議員
この改正案による証拠開示制度は、現行の制度に比べ、どの点でどのように開示が拡充されているのか?
〇山崎潮・司法制度改革推進本部事務局長
現行の刑事訴訟法では、検察官は証人等の尋問を請求する場合には、その氏名及び住居を知る機会を与え、それからまた証拠書類、それから証拠物もありますけれども、この取調べを請求する場合には、これを閲覧する機会、これを与えなければならないというふうにされているわけでございます。これが基本の考え方でございます。
これに対しまして今回の法案では、まず、検察官が取調べを請求した証拠の開示の範囲を拡充しているわけでございます。すなわち、検察官は公判前の整理手続において、取調べを請求した証拠書類、それから証拠物、これを開示するほか、証人尋問、証人等の尋問を請求した場合について、現行制度のように証人等の氏名及び住居、これを知る機会を与えるというだけではなくて、その供述内容が明らかとなる供述調書等、これを開示しなければならないということにされているわけでございまして、そこで現在ともう手続は一つ違うということでございます。
それから、検察官が取調べを請求した証拠以外の証拠、これに関しても、公判前整理手続の段階から、被告人、弁護人の請求によって提出をしていくという手続を設けているわけでございます。具体的には、検察官が取調べを請求した証拠の証明力、これを判断するために重要な一定類型の証拠、あるいは被告人、弁護人が明らかにした主張に関連する証拠、こういうものにつきまして、開示の必要性とそれを出すことによる弊害、これを両方を考えまして開示すべきものは開示しなければならない、こういう手続を新たに置くということでございます。
〇井上哲士・参議院議員
検察官の手持ち証拠の開示については1969年(昭和44年)の最高裁の判例があるが、今回の法案で新たに設けられる証拠開示手続というのは、この69年の判例と比較してどこがどう違っているのか?
〇山崎潮・司法制度改革推進本部事務局長
何点か違う点がございます。
まず、公判前の証拠開示の拡充という点でございます。この判例では、証拠調べの段階に入った後に証拠開示の申出をすることができるということになっておりますが、今回は公判前整理手続というものを導入するわけでございますので、その段階で開示を求めることができるという点が時期的にも違うと。
それから、その内容でございますけれども、まず検察官が取調べを請求した証人等の供述調書等、これを開示しなければならない、これが一つでございます。それから、検察官が取調べを請求した証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠、これも開示しなければならないと。それから、被告人、弁護人が明らかにした主張に関連する証拠ですね、これについても開示の必要性と弊害、これを勘案しながら開示をしなければならないというふうにしているわけでございまして、かなり開示すべきものの範囲を明確にしているということでございます。
それからもう一つは、その開示請求のその特定性の緩和という問題でございますけれども、この判例では一定の証拠についてその申出をする必要があるというふうにされておりますけれども、ここのこの新しい今私どもの御提案している制度では、当該証拠を識別するに足りる事項、すなわちその証拠の類型及びその範囲を明らかにすれば足りるということにしておりますので、例えば犯行現場で押収された証拠物、犯行の目撃者の供述調書とか、こういうような特定で足りるということにしているわけでございます。
それからもう一点ございますけれども、現行の制度では、裁判所に開示命令の申出をいたしまして裁判所が開示命令を発しなかったという場合も、職権発動を促したにすぎないということから不服申立てをすることができないというのが現在のものでございます。これに対しまして、今回の制度では、これに対して、検察官が開示をしなかった場合には裁判所に対して裁定を求めることができるということでございまして、裁判所がこれで裁定をしない、開示をしないということであればその不服申立てをすることができるということで、即時抗告も可能にしているということで、かなり判例上の運用でやるものとは大きく違っているということを御理解賜りたいと思います。
ここまでは、公判において、争点整理と被告人の防御の準備のために、検察が被告人側に開示する証拠の話でした。被告人・弁護人が、訴訟準備以外の目的で開示証拠を使用することを禁止し、違反した場合には刑事罰が科されます。
それでは、被害者が刑事記録(実況見分調書・供述調書など)の開示を請求する場合は、どうなのでしょうか?
被害者は、刑事訴訟係属中は犯罪被害者保護法3条により、刑事訴訟終結後は刑事訴訟法53条により、それぞれ閲覧・謄写が可能です。
被害者が刑事記録を入手する方法はこちらで説明していますので、ここでは、取得した刑事記録の使用規制について見ていきます。
被害者は、犯罪被害者保護法(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律)第3条1項により、公判中でも刑事記録の閲覧・謄写が認められます。
第1項 刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。
第2項 裁判所は、前項の規定により謄写をさせる場合において、謄写した訴訟記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができる。
第3項 第一項の規定により訴訟記録を閲覧し又は謄写した者は、閲覧又は謄写により知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し、又は捜査若しくは公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない。
第2項で、「裁判所は、…謄写した訴訟記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができる」と定めています。「裁判所が、使用目的を制限し、条件を付することができる」という規定であって、明文で目的外使用を禁止するものではありません。
第3項では、「閲覧・謄写により知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係人の名誉・生活の平穏を害し、捜査・公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない」と、注意義務規定があるだけです。刑事罰まではありません。
刑事訴訟終結後の確定訴訟記録は、訴訟記録の保存、裁判所・検察庁の事務に支障のない限り、原則として、誰でも閲覧可能という建前です(刑事訴訟法53条1項)。
第1項 何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。
第2項 弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録は、前項の規定にかかわらず、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があって特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければ、これを閲覧することができない。
第3項 日本国憲法第82条第2項但書に掲げる事件については、閲覧を禁止することはできない。
第4項 訴訟記録の保管及びその閲覧の手数料については、別に法律でこれを定める。
第3項の「日本国憲法第82条第2項但書に掲げる事件」とは、「政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件」です。
刑事確定訴訟記録の閲覧が認められないのは、刑事訴訟法53条1項ただし書に該当する場合(訴訟記録の保存、裁判所・検察庁の事務に支障のあるとき)と、同2項に該当する場合(弁論の公開を禁止した事件、一般の閲覧が禁止された訴訟記録)です。
ただし、第2項については、訴訟関係人や閲覧につき正当な理由があって訴訟記録の保管者の許可を受けた者は閲覧できます。
その他、刑事確定訴訟記録法4条2項で、閲覧を認めない場合を定めていますが、これらも、訴訟関係人や閲覧につき正当な理由があると認められる者は閲覧できます。
第1項 保管検察官は、請求があったときは、保管記録(刑事訴訟法第53条第1項の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。ただし、同条第1項ただし書に規定する事由がある場合は、この限りでない。
第2項 保管検察官は、保管記録が刑事訴訟法第53条第3項に規定する事件のものである場合を除き、次に掲げる場合には、保管記録(第二号の場合にあっては、終局裁判の裁判書を除く。)を閲覧させないものとする。ただし、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があった場合については、この限りでない。
一 保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるとき。
二 保管記録に係る被告事件が終結した後3年を経過したとき。
三 保管記録を閲覧させることが公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき。
四 保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき。
五 保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき。
六 保管記録を閲覧させることが裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員又は裁判員候補者の個人を特定させることとなるおそれがあると認められるとき。
第3項 第1項の規定は、刑事訴訟法第53条第1項の訴訟記録以外の保管記録について、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者から閲覧の請求があった場合に準用する。
第4項 保管検察官は、保管記録を閲覧させる場合において、その保存のため適当と認めるときは、原本の閲覧が必要である場合を除き、その謄本を閲覧させることができる。
なお、開示された刑事確定訴訟記録の使用規制については、次のように定めています。刑事罰まではありません。
保管記録又は再審保存記録を閲覧した者は、閲覧により知り得た事項をみだりに用いて、公の秩序若しくは善良の風俗を害し、犯人の改善及び更生を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない。
最後に、捜査当局(警察・検察)が集めた証拠は、誰のものか、本来どのように使われるべきものか、を考えてみましょう。これは、証拠開示の拡充や、開示証拠の目的外使用の禁止を考える上で、大事な点です。
捜査当局(警察・検察)が集めた証拠は、国民の税金を使って集められたものです。そうやって集められた証拠は、真実を明らかにするためにこそ使われるべきです。
刑事訴訟法は、第1条で「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする」と規定しています。
つまり、刑事訴訟法の目的は、「事案の真相を明らかに」することです。そして「刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現すること」です。それを「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ」実現することです。
ここで「個人の基本的人権の保障を全うしつつ」というのは、刑事手続に関わる全ての人の基本的人権の保障を全うすることですが、その中心は、被疑者の基本的人権の保障です。
つまり、捜査当局が集めた証拠は、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかに」するためにこそ使われるべきものなのです。そのために、原則として証拠の全面的な開示が必要なのです。
〇井上哲士 参議院議員
捜査当局が集めた証拠というのは一体だれのものか。本来、国民の税金を使って集められた証拠というものは、言わば有罪を得るためではなくて、真実発見のためにこそ使われるべきだと思うんですけれども、ここの基本的認識について、大臣にお聞きをいたします。
〇野沢太三 法務大臣
これは大変明確でございまして、検察官が収集した証拠は、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現すること」ということで、これはもう刑事訴訟法第一条の大原則でございまして、この刑事訴訟の目的が的確に果たされますように用いられるべきものであると考えておるところでございます。
〇井上哲士 参議院議員
捜査当局が税金使って集めた証拠は正に真実発見のために使われるものであるということでいいますと、できるだけ開示する、全面的に開示することが必要だという結論に私はなると思うんですね。
刑事裁判終結後の刑事確定訴訟記録は、刑事訴訟法53条で、何人も閲覧できるとしながら、刑事確定訴訟記録法4条2項で閲覧させない場合を定めています。
この第4条2項各号を見ると分かるように、解釈次第で閲覧を拒否できるため、保管検察官による恣意的な運用を生む余地があります。
刑事訴訟法は、日本国憲法の施行を踏まえて、1948年(昭和23年)に全く新しい法律として成立しました。当時の国会で、第53条について、次のように提案理由を説明しています。
宮下明義・法務廳事務官
次は五十三條の規定でございまするが、これは全く新らしい規定でございまして、被告事件がすべて終結した後に、その確定記録を一般國民に公開する制度を新たに規定したわけでございます。勿論、記録の保存或いは裁判所、檢察廳の事務に支障を生じてはなりませんので、その支障のない場合に限つて、何人も訴訟記録の閲覽を請求することができるという趣旨の規定を設けたわけであります。
而して第二項において、辯論の公開を禁止した事件の訴訟記録及び一般の閲覽に供しては適當でないと考えられる事件で禁止をしたもの、それらについては、特に許可した場合でなければ閲覽を許さない。
併しながら日本國憲法八十二條の第二項但書の事件は、政治的な事件でありまするので、このような事件は絶對に閲覽を禁止することはできない、必ず公開するという建前をとりまして、裁判の公明明朗を期待したわけでございます。
このように、民主化を進め、裁判の公正さを確保するため、刑事訴訟記録の公開制度は生まれたのです。
刑事確定訴訟記録の開示は、刑事裁判が公正に行われたか点検をする上で重要です。また、政治家や行政が絡む事件の場合、時の政治や行政がどのように歪められたのかなど、事件の内容・背景の検証にも役立ちます。
刑事確定訴訟記録の開示は、裁判の公開(憲法82条)と知る権利(憲法21条)に密接に関わる制度なのです。
日弁連は、「刑事確定訴訟記録は、公的記録として、後日、人々に有意義な示唆を与える可能性があり、公文書管理法に規定する『国民共有の知的資源』(第1条)というべきものである」と位置づけています。
(日弁連「刑事確定訴訟記録の保管、保存及び閲覧等に関する法改正及び運用改善に関する意見書」2020年9月10日)
刑事裁判記録は誰のものかを考えると、法の原則にしたがって、誰でもが閲覧できるようにすることが重要です。
検察が刑事確定訴訟記録の開示を制限したり、開示しても使用に必要以上の制約を課したりすることがあるようですので、自信をもって閲覧・謄写を請求し、刑事記録を真実の解明に役立てることが大切です。
交通事故事件の刑事記録(実況見分調書や供述調書など)の入手方法はこちらで説明しています。刑事確定記録は誰でも閲覧できるというのが建前ですが、やはり、弁護士に任せるのがベストです。
事故態様や過失割合に争いがあり、実況見分調書などの刑事記録の入手が必要な場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
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【参考文献】
・国会会議録
・川出敏裕・東京大学教授「証拠開示制度の現状と課題」J-STAGE
・福島至・龍谷大学教授「刑事裁判記録は誰のものか」NHK解説委員室
・日弁連「刑事確定訴訟記録の保管、保存及び閲覧等に関する法改正及び運用改善に関する意見書」2020年(令和2年)9月10日