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自賠責保険の支払基準において、後遺障害等級に対応する労働能力喪失率が決められています。通常は、この労働能力喪失率表を用いて逸失利益を算定しますが、自賠責の労働能力喪失率は、被害者の個別事情を考慮するものでないため、被害者の実情に合わないことが少なくありません。
ここでは、労働能力喪失率とは何か、自賠責保険では労働能力喪失率をどのように定めているのか、自賠責保険における労働能力喪失率と問題点について見ていきましょう。
交通事故の後遺症により、労働能力が低下した割合を「労働能力喪失率」といいます。自賠責保険の支払基準では、後遺障害の等級に対応して労働能力喪失率が定められています。
通常、後遺障害逸失利益の計算では、この自賠責保険の労働能力喪失率が用いられます。
自賠責保険では、後遺障害等級の1級から14級に対応して14段階(※)で労働能力喪失率を定めています。
※正確には、3級以上は喪失率100%なので12段階。
日々発生する交通事故の損害賠償を迅速・公平に処理するため、定型化・基準化することは必要でしょう。
しかし、そもそも身体的損害が将来の労働に影響する割合を、14段階で一律に数値化することには無理があります。
同じ後遺障害でも、被害者の年齢、性別、職業、後遺障害の部位・程度などによって影響は異なります。そのため、被害者の実情と著しくかけ離れた結果となることも少なくありません。
裁判でも基本的に自賠責の労働能力喪失率が尊重されますが、その労働能力喪失率が適当でない場合は、個別事情を考慮して、修正した労働能力喪失率が認定されます。
最高裁は、「労働能力喪失表にもとづく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できる」としています。
下級審でも、例えば、後遺障害14級の労働能力喪失率は5%ですが、裁判所が個別事情を総合的に判断して10%を認めた事例もあります(東京地裁・平成13年8月29日判決)。
得べかりし利益の喪失による損害を算定するにあたつて、…労働能力喪失率表が有力な資料となることは否定できない。
しかし、損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、被害者の職業と傷害の具体的状況により、同表に基づく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できることはいうまでもない。
後遺障害等級別の自賠責保険金額(慰謝料含む)と労働能力喪失率をまとめて、一覧表にしておきます。
自賠責保険金額は自動車損害賠償保障法施行令「別表第一」「別表第二」より、労働能力喪失率は「労働能力喪失率表」より、抜粋しています。
等級 | 保険金額 | 労働能力喪失率 |
---|---|---|
第1級 | 4,000万円 | 100/100 |
第2級 | 3,000万円 | 100/100 |
等級 | 保険金額 | 労働能力喪失率 |
---|---|---|
第1級 | 3,000万円 | 100/100 |
第2級 | 2,590万円 | 100/100 |
第3級 | 2,219万円 | 100/100 |
第4級 | 1,889万円 | 92/100 |
第5級 | 1,574万円 | 79/100 |
第6級 | 1,296万円 | 67/100 |
第7級 | 1,051万円 | 56/100 |
第8級 | 819万円 | 45/100 |
第9級 | 616万円 | 35/100 |
第10級 | 461万円 | 27/100 |
第11級 | 331万円 | 20/100 |
第12級 | 224万円 | 14/100 |
第13級 | 139万円 | 9/100 |
第14級 | 75万円 | 5/100 |
自賠責の労働能力喪失率が、あまりにも実情とかけ離れている場合は、機械的に適用することは避けるべきです。
とても難しい作業になりますが、具体的事情を考慮して、労働能力喪失率を修正すべきでしょう。もちろん、交通事故の後遺障害に詳しい弁護士に相談する必要があります。
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