背骨の骨折による後遺症の障害等級と損害賠償請求

背骨の骨折による後遺症の障害等級と損害賠償請求

交通事故で背骨が骨折(脊椎圧迫骨折など)して後遺症が残った場合の後遺障害等級の認定と損害賠償請求についての注意点を解説します。

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交通事故で背骨を骨折したことによる後遺症については、変形障害と運動障害につき、後遺障害等級と認定基準が定められており、慰謝料のほか逸失利益を請求できる可能性があります。


ただし、脊柱の変形障害・運動障害は、後遺障害等級が認定されても、労働能力への影響は低く評価されやすいため、認定された後遺障害等級のわりに逸失利益の額が下がる傾向にあります。


そのため、障害の状況、症状の内容・程度、仕事や生活への影響を具体的に主張し、適正な労働能力喪失率と喪失期間を保険会社に認めさせることが重要です。


ここでは、脊柱の変形障害・運動障害の後遺障害等級とその認定基準、脊柱障害による労働能力の喪失をめぐる裁判例の動向、保険会社から労働能力喪失率や喪失期間を制限されたときの反論のポイントについて、解説します。


脊柱の後遺障害等級と認定のポイント

脊柱の変形障害・運動障害は、後遺障害として等級認定を受けるにあたって、画像診断(XP・CT・MRI)で、障害の原因となる脊椎圧迫骨折等を確認できることが必要です。


なので、背骨が曲がっているとか、首・背中・腰に痛みがある場合は、レントゲンやCT、MRI検査をしておくことが重要です。


脊柱の後遺障害として評価の対象となるのは、頸椎、胸椎、腰椎です。頸椎と胸腰椎とでは、主たる機能(頸椎は頭部の支持機能、胸腰椎は体幹の支持機能)が異なるため、原則として頸椎と胸腰椎は異なる部位として取り扱い、それぞれの部位ごとに等級を認定します。


脊柱の変形障害・運動障害の後遺障害等級とその認定基準は、次のようなものです。


脊柱「変形障害」の等級と認定基準

脊柱の変形障害は、その程度により、

  • 「脊柱に著しい変形を残すもの」は6級
  • 「脊柱に中程度の変形を残すもの」は8級相当
  • 単に「脊柱に変形を残すもの」は11級

の3段階で後遺障害等級が認定されます。


等級 後遺障害
第6級5号 脊柱に著しい変形を残すもの
8級相当 脊柱に中程度の変形を残すもの
第11級7号 脊柱に変形を残すもの


「中程度の変形を残すもの」については、後遺障害等級表に規定はありませんが、等級認定にあたって8級相当として評価されます。


「著しい変形」「中程度の変形」については、脊柱の後彎または側彎の程度等によって判定し、これに達しない変形で一定の要件を満たすものは、単なる「変形」と判定されます。


事故による脊椎圧迫骨折や脱臼等が、X線写真等により確認できれば、変形が軽度でも11級の変形障害が認定されます。また、脊椎固定術など脊椎の手術により脊柱の形が変わった場合も、変形障害として認定されます。


後彎(こうわん)とは、脊柱が背中側に突出するカーブを呈している状態、側彎(そくわん)とは、脊柱が体の正面から見て左右方向に彎曲した状態をいいます。



脊柱「運動障害」の等級と認定基準

脊柱の運動障害は、その程度により、

  • 「著しい運動障害を残すもの」は6級
  • 単に「運動障害を残すもの」は8級

の2段階で後遺障害等級が認定されます。


等級 後遺障害
第6級5号 脊柱に著しい運動障害を残すもの
第8級2号 脊柱に運動障害を残すもの


「著しい運動障害を残すもの」とは、①頸椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存在するか(そのことがX線写真等により確認できる)、②頸椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたか、③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるか、のいずれかにより、頸部および胸腰部(すなわち脊柱全体)が強直したものをいいます。


単に「運動障害を残すもの」とは、①頸椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しているか(そのことがX線写真等により確認できる)、②頸椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたか、③項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるか、のいずれかにより、頸部または胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたものをいいます。


強直とは、関節の完全強直またはこれに近い状態をいいます。


脊柱障害による逸失利益を請求するときの注意点

脊柱の変形障害・運動障害による逸失利益を損害賠償請求するときは、次の点に注意が必要です。


画像所見が必須

脊柱の変形障害や運動障害として後遺障害等級が認定されるには、X線写真やCT・MRI画像により、後遺障害の原因となる脊椎圧迫骨折等を確認できることが必須です。画像で圧迫骨折等を確認できない場合は、脊柱の変形障害や運動障害とは認められません。


画像所見がなく、単に疼痛のために運動障害を残すものは、局部の神経症状(12級または14級)として等級認定されることになります。


事故との因果関係が問題になりやすい

画像診断で脊椎圧迫骨折等が認められても、その圧迫骨折等が事故によるものか疑わしい場合は争いとなります。陳旧性の圧迫骨折(いわゆる「いつの間にか骨折」など)は、後遺障害として認められません。


脊椎の固定術を行うと変形障害として後遺障害認定されますが、既往のヘルニアや椎間板変性などがあるときには、固定術と事故との因果関係が問題となり、固定術の相当性が争点になる場合があります。


脊椎固定術の相当性が争点になるケース

椎間板ヘルニアや椎間板症は、一般には加齢にともなう椎間板変性を原因とする疾患であり、特に中高年が被害者である場合、もともと何らかの椎間板変性を有することもあり得ます。


そのため、交通事故後に脊椎固定術が行われた場合、その手術による脊椎変形の後遺障害に関して、交通事故との因果関係の有無や素因減額が争点となることがしばしばあるのです。


裁判例の傾向としては、交通事故と症状発生時期が離れている等の事情があるような場合を除き、事故との因果関係を否定する例は少ないようですが、因果関係を肯定したうえで、素因減額等により損害額の調整をした例が多く見られます(『交通事故医療法入門』勁草書房265ページ)


裁判例
  • 交通事故後に腰椎椎間板症に対する腰椎後方椎体間固定術が行われた事案につき、交通事故前に生じていた加齢性変化による腰椎椎間板の変性と交通事故による衝撃とがいずれも寄与していたとして、事故と腰椎椎間板症との因果関係は是認しつつ、交通事故による影響の寄与度を5割と認めた例(水戸地裁平成29年3月14日判決)
  • 交通事故後に頸椎椎間板ヘルニアに対する頸椎前方固定術が行われた事案につき、当該手術は事故による受傷を契機とした症状に対処するために行われている等として、因果関係を認めつつ、経年性変化により形成されていた頸椎椎間板ヘルニアの程度や交通事故の態様等に照らして3割の素因減額をした例(大阪地裁平成27年7月28日判決)


労働能力への影響が争いになりやすい

脊柱障害は、中程度以下の変形の場合、同じ等級の他の部位(上肢、下肢、眼)の障害に比べ、仕事や日常生活への影響は小さいとして、労働能力の喪失率を低く評価されることがよくあります。


裁判例でも、障害の程度が軽度な11級の脊柱変形の場合には、11級後遺障害の標準的な労働能力喪失率(20%)を下回る数値を認定する例が少なくありません。


しかも最近は、「変形自体による障害はあまりなく、併発する神経症状が問題になるだけ」と、軽度神経症状と同視し、12級程度の労働能力喪失率(14%)および喪失期間(10年)と評価する例もあります。


裁判例
  • 11級7号認定事案につき、症状固定時において圧潰の進行はなく、骨融合に問題も見当たらないことから、労働能力喪失の程度は、他覚的所見の見られる神経症状に伴う労働能力喪失と同程度として、労働能力喪失率14%、喪失期間10年と認定した例(東京地裁平成26年3月26日判決)


もっとも、現実にどの程度の支障を生じているかにより、認定される労働能力喪失率に違いがあります。実際、8級や11級の事案でも、就労や就学の影響が大きいと判断される場合は、労働能力喪失率表どおりの喪失率を認めた裁判例があります。


なので、職業、骨折の部位・程度、神経症状の有無・程度等をふまえつつ、就労や日常生活への支障の程度を具体的に主張することが重要です。


8級認定事案の労働能力喪失率

「中程度の変形を残すもの」(8級相当)と認定された事案について、労働能力喪失率を次のように認定した裁判例があります。ちなみに、8級の標準喪失率は45%です。


裁判例
  • 症状固定時21歳の大学生につき、腰から足にかけてのしびれや背中の鈍痛があること、同じ姿勢で座っているのは1時間程度が限度であること、20分程度立っていると足が張った感じになること等の事情から、労働能力喪失率を45%と認めた例(さいたま地裁平成27年4月7日判決)
  • 症状固定時20歳の大学生につき、脊柱変形そのものによる労働能力低下は顕在化しておらず、労働能力に影響し得るのは、もっぱら変形した胸椎周辺の疼痛(局部の神経症状)であるという旨を指摘して、労働能力喪失率を11級相当の20%の限度で認めた例(名古屋地裁平成28年3月18日判決)
  • 症状固定時54歳の女性(家事労働者)につき、胸腰椎部の可動域が参考可動域の1/2以下となっておらず、運動障害があるとは認められないことや、症状固定前の通院期間中において日常生活動作に特に問題はない、胸椎・腰椎の痛みはほとんどないなどとされている経過等を考慮して、労働能力喪失率を12級相当の14%と判断した例(東京地裁平成29年5月29日判決)


11級認定事案の労働能力喪失率

単に「変形を残すもの」(11級)と認定された事案について、労働能力喪失率を次のように認定した裁判例があります。ちなみに、11級の標準喪失率は20%です。


裁判例
  • 薬剤師として勤務する兼業主婦(症状固定時58歳)につき、症状固定後も腰背部痛が続き、家事や就労に支障が生じていることを認め、脊柱の有する支持機能や運動機能の重要性に鑑みて20%の労働能力喪失を認めた例(横浜地裁平成27年4月13日判決)
  • 労働能力の喪失は脊柱変形それ自体ではなく、腰痛等の神経症状によるものであると判示して、労働能力喪失率を9%とした例(京都地裁平成27年3月19日判決)
  • 骨折による脊柱変形の程度は比較的軽微であって、労働能力喪失率表所定の労働能力喪失率に相当するだけの脊柱の支持機能・保持機能への影響が生じるとは認めがたいと判断して、股関節の局部神経症状とあわせて、就労可能年数35年のうちの最初の10年間は14%、残りの25年間は10%の限度で労働能力喪失を認めた例(大阪地裁平成28年3月24日判決)


労働能力喪失期間が限定される場合がある

労働能力喪失期間については、限定されないケースが多いといわれています。脊椎変形による腰痛等の神経症状について、「器質的な原因があるから、馴化等により労働能力の回復が認められるものではない」と判示する裁判例もあります(京都地裁平成27年3月19日判決)


ただし、疼痛や疲れやすさは、若年であれば馴化してゆくことも考えられるとして、労働能力喪失期間を限定するとともに、喪失率を逓減させる裁判例も見られますから、注意が必要です。


裁判例
  • 38歳の女性家事従事者の労働能力喪失期間を15年に限定(労働能力喪失率は、最初の10年間を14%その後の5年間を5%と逓減)した例(東京地裁平成27年12月22日判決)
  • 31歳の男性の労働能力喪失期間を20年に限定(労働能力喪失率は、最初の10年間を14%その後の10年間を5%と逓減)した例(金沢地裁平成28年7月20日判決)


喪失期間の限定・喪失率の逓減に対する考え方

被害者が若年者で、変形が軽微な場合、圧迫骨折した局所の疼痛が緩解し消失する可能性も否定できないことから、後遺障害の残存期間およびその程度を予測することが難しいことを考慮して、労働能力喪失期間を分けた上で、期間ごとに労働能力喪失率を逓減する考え方に合理性があるとする見解があります(『赤い本2004年版』436ページ)


一方、このような取り扱いについては慎重に判断すべきとの指摘もあります(『交通関係訴訟の実務』商事法務208ページ)


脊柱の変形障害の逸失利益について、最近の赤い本では、「労働能力の喪失期間を就労可能期間よりも短く制限することや、喪失率を一定期間ごとに逓減させることについては慎重に判断する必要がある」「喪失率の低減や喪失期間の制限が認められているとはいえ、その数はあまり多くなく、裁判所としても慎重に判断しているといえる」と指摘されています(『赤い本2021(下)』81~82ページ、『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』日本加除出版102ページ)


神経症状の軽快を考慮するにしても、具体的な障害の状況や現実に発生している症状およびその程度などを総合的に考慮して判断するべきとされています(『新版注解交通損害賠償算定基準』ぎょうせい228ページ)


こうした指摘があることもふまえ、労働能力の喪失率・喪失期間については、障害の状況や就労・日常生活への影響、現実の収入減等について、具体的に保険会社に対して主張立証することが大切です。

まとめ

脊柱の変形障害・運動障害の後遺障害認定では、X線写真・CT・MRI画像により、後遺障害の原因となる脊椎圧迫骨折等を確認できることが前提です。


ただし、画像診断により脊椎圧迫骨折等が確認できても、事故によるものか疑わしい場合は争いになるし、等級認定されても、その等級の標準的な労働能力喪失率よりも低い喪失率とされることが少なくなく、喪失期間が制限されるケースもあります。


もっとも、労働能力喪失率表どおりの喪失率を認めた裁判例もありますから、障害の状況や症状、仕事や日常生活への影響などを具体的に主張し、適正な労働能力喪失率や喪失期間を保険会社に認めさせることが大切です。


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【参考文献】
・厚生労働省「整形外科の障害認定に関する専門検討会報告書」平成16年2月
・厚生労働省労働基準局長通達「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」平成16年6月4日基発第0604003号
・『労災補償障害認定必携第17版』一般財団法人労災サポートセンター229~242ページ、283~297ページ
・『詳説後遺障害』創耕舎33~34ページ
・『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』日本加除出版株式会社102~104ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務206~208ページ
・『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』日本評論社511~513ページ
・『交通事故医療法入門』勁草書房259~265ページ
・『改訂版後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規545~573ページ
・『新版注解交通損害賠償算定基準』ぎょうせい227~229ページ

公開日 2026-03-24 更新日 2026/04/16 01:42:54
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