外貌醜状の後遺障害等級、労働能力喪失率、逸失利益、慰謝料

外貌醜状の後遺障害等級、労働能力喪失率、逸失利益、慰謝料

交通事故により顔面など外貌に醜状痕が残った場合、後遺障害逸失利益や慰謝料はどうやって損害賠償請求するのか? 外貌醜状の後遺障害等級と認定基準、労働能力喪失率の判断の仕方、外貌醜状障害による逸失利益・慰謝料の認定に大事なポイントをまとめています。

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外貌醜状とは、顔面や頸部など日常露出する部位に醜状痕が残った後遺障害です。

 

外貌醜状障害による逸失利益は、被害者の性別、年齢、職業などを考慮し、労働能力に直接または間接的に影響を及ぼすおそれがあるか否かで判断されます。逸失利益が認定されなくても、慰謝料の増額事由として斟酌される場合があります。

 

ここでは、外貌醜状の後遺障害等級とその認定基準、外貌醜状による後遺障害逸失利益と慰謝料の認定について近年の動向を見ていきます。

 

醜状障害の後遺障害等級と認定基準

交通事故により外貌の醜状障害が残った場合の後遺障害等級については、2010年までは女性と男性で異なる取り扱いがされていました。女性の方が、後遺障害等級の位置づけが高かったのです。

 

現在は、男女の区別なく、同じ後遺障害等級となっています。2010年6月10日以降の事故については、新しい後遺障害等級と認定基準が適用されます。

 

それでは、さっそく「新基準」を見ていきましょう。

 

顔面などの醜状痕(醜状障害)の後遺障害等級

まず、醜状痕の後遺障害等級についてです。

 

醜状痕の後遺障害等級は、「外貌の醜状障害」と「上肢・下肢の露出面の醜状障害」について定めています。

 

外貌とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢・下肢以外の日常露出する部分をいう、と障害等級認定基準において定められています。

 

上肢の露出面とは、ひじ関節以下(手部を含む)、下肢の露出面とは、ひざ関節以下(足背部を含む)をいいいます。

 

後遺障害等級は、次の通りです。

 

醜状障害の後遺障害等級
等級 後遺障害
外貌 7級12号 外貌に著しい醜状を残すもの
9級16号 外貌に相当程度の醜状を残すもの
12級14号 外貌に醜状を残すもの
上肢 14級4号 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの
下肢 14級5号 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの

※後遺障害等級表(自動車損害賠償保障法施行令[別表第二])より抜粋。

 

各等級の労働能力喪失率は、次のようになります。

 

労働能力喪失率
後遺障害等級 労働能力喪失率
第7級 56%
第9級 35%
第12級 14%
第14級 5%

※労働能力喪失率表(自賠責の保険金支払基準[別表1]より抜粋。

 

醜状障害については、後遺障害等級が認定されても、それに対応した労働能力喪失率が認められない、したがって逸失利益が認められない、という問題があります。

 

それについては、あとで詳しく見ることにして、後遺障害の各等級の認定基準、すなわち、「著しい醜状」、「相当程度の醜状」、単なる「醜状」とは、どういうものをいうのか、見ておきましょう。

 

外貌醜状障害に関する後遺障害等級の認定基準

「著しい醜状」、「相当程度の醜状」、単なる「醜状」については、「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準」で、次のようになっています。

 

ここに示したのは、労災保険における障害等級認定基準ですが、自賠責保険の後遺障害等級認定基準も、これと同じです。

 

自賠責制度は、労災制度に準じて運用されています。したがって、自賠責の後遺障害等級表は、労災の障害等級表と基本的に同じです。自賠責制度における後遺障害等級の判断は、原則として労災制度の障害等級認定基準に準拠して行われます。

 

著しい醜状

外貌における「著しい醜状を残すもの」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のもの。

 

頭部 手のひら大以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
顔面部 鶏卵大面以上の瘢痕または10円銅貨大以上の組織陥没
頸部 手のひら大以上の瘢痕

※「手のひら大」は、指の部分は含まない。

 

相当程度の醜状

外貌における「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5㎝以上の線状痕で、人目につく程度以上のもの。

 

醜状

外貌における単なる「醜状」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のもの。

 

頭部 鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
顔面部 10円銅貨大以上の瘢痕または長さ3㎝以上の線状痕
頸部 鶏卵大面以上の瘢痕

 

障害補償の対象となる外貌の醜状は、人目につく程度以上のものでなければならないから、眉毛、頭髪等にかくれる部分については、醜状として取り扱わないとされています。

 

例えば、眉毛の走行に一致して3.5㎝の縫合創痕があり、そのうち1.5㎝が眉毛にかくれている場合は、顔面に残った線状痕は2㎝となるので、外貌の醜状には該当しないことになります。

 

外貌醜状に関する障害等級の認定基準

まとめると、こうなります。

 

頭部 顔面部 頸部
瘢痕 頭蓋骨の欠損 瘢痕 線状痕 組織陥没 瘢痕

第7級12号
(著しい醜状)

手のひら大以上 手のひら大以上 鶏卵大面以上 10円銅貨大以上 手のひら大以上

第9級16号
(相当程度の醜状)

長さ5㎝以上

第12級14号
(醜状)

鶏卵大面以上 鶏卵大面以上 10円銅貨大以上 長さ3㎝以上 鶏卵大面以上

 

 

外貌醜状障害に関する後遺障害等級の改正

外貌醜状障害に関する後遺障害等級が改正された経緯を簡単に見ておきましょう。

 

外貌の醜状障害は、従来、女性は7級と12級、男性は12級と14級に分類され、男性は女性より障害等級が低く取り扱われていました。

 

ちなみに、旧基準では、このように分類されていました。

 

第7級 12号 女性のの外貌に著しい醜状を残すもの
第12級

13号 男性の外貌に著しい醜状を残すもの
14号 女性の外貌に醜状を残すもの

第14級 10号 男性の外貌に醜状を残すもの

 

京都地裁が、2010年(平成22年)5月27日、「外貌の著しい醜状に関し、男女の障害等級に5等級の差を設けている現行の障害等級表は、憲法14条1項に違反する」と判決。

 

国は控訴しなかったため、同平成22年6月10日に判決が確定しました。

 

これを受けて、厚生労働省は、労災保険の「障害等級表」と「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準」を改正しました(平成23年2月1日)

 

自賠責保険の後遺障害等級認定は労災保険に準拠していることから、自賠責保険においても同様に、自賠法施行令の後遺障害等級表を改正しました(平成23年5月2日)

 

新基準の適用は、平成22年6月10日以降に発生した事故からです。

醜状障害は労働能力喪失が否定され逸失利益が認められない?

外貌の醜状障害は、それによって身体的機能が損なわれるわけではないため、労働能力の喪失が否定され、逸失利益が認められないことがほとんどでした。

 

しかし、今は、状況が変わってきています。

 

外貌の醜状障害に関する裁判実務での取り扱い

従来、外貌の醜状障害による労働能力の喪失について、裁判所では、次のように取扱われてきました。

 

被害者の性別、年齢、職業等を考慮した上で、

  • <直接的に影響する場合>
    醜状痕の存在のために配置転換させられたり、職業選択の幅が狭められたりするなどの形で、労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれのある場合には、一定割合の労働能力の喪失を肯定して逸失利益を認める。
  • <直接的な影響はないが、間接的に影響する場合>
    労働能力への直接的な影響は認めがたいが、対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で、間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれが認められる場合には、後遺障害慰謝料の加算事由として考慮し、100万~200万円の幅で後遺障害慰謝料を増額する。
  • <直接的にも間接的にも影響しない場合>
    直接的にも間接的にも労働能力に影響を与えないと考えられる場合には、逸失利益は認められず、慰謝料も基準通りとして増額しない。

(参考:東京三弁護士会交通事故処理委員会編『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい 9ページ)

 

つまり、醜状障害の内容・程度と被害者の職業との相関関係により、直接的に労働能力に影響が生じるおそれがある場合には、制限的に逸失利益を認め、間接的な影響にとどまる場合は、慰謝料の増額で調整してきたのです。

 

実際、醜状障害の逸失利益が認められるのは、被害者がモデルなど容姿が仕事の有無・内容に直結する職業に就いていた場合ぐらいでした。

 

それ以外の職業では、現実に転職・配転・減収があったり、就職・転職において支障が生じた場合などに、仮に労働能力の喪失が認められても、労働能力喪失表の喪失率の半分以下の喪失率が認定されるにすぎず、その代わりに慰謝料の増額調整が行われてきたのです。

 

ですが、今は、醜状障害が、直接的に労働能力に影響を与える場合だけでなく、間接的に影響を及ぼす場合にも、労働能力の喪失を認める方向に変わっています。

 

つまり、外貌の醜状障害による逸失利益が認められるようになってきているのです。

 

上で紹介したように、労災保険の障害等級表を違憲とした京都地裁の判決が確定したのを受けて、厚生労働省は、「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会」を開催。外貌障害による障害等級の見直しを行いました。

 

専門検討会が取りまとめた報告書(2010年12月1日)の中の「障害を評価する観点」には、こうあります。

 

外ぼうの障害自体は、稼得能力(労働能力)の直接の喪失をもたらすものではない。

 

しかしながら、外ぼうの障害が、現状はもちろん将来にわたる就業制限、職種制限、失業、職業上の適格性の喪失等の不利益をもたらし、結果として労働者の稼得能力を低下させることは明らかであり、労災保険法の趣旨が業務上又は通勤による稼得能力(労働能力)の永続的な低下、すなわち労働能力の喪失のてん補であることからみると、当該不利益の特殊性にも着目して障害の評価を行うことが妥当である。

 

(「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会報告書」4ページ)

 

時を同じくして、『赤い本』2011年版に、「外貌の醜状障害による逸失利益に関する近時の裁判実務上の取扱について」という、鈴木尚久裁判官の講演録が掲載されます。

 

そこでは、外貌がその者の印象を大きく左右する要素であることを指摘し、こう述べられています。

 

醜状障害が、円満な対人関係を構築し円滑な意思疎通を実現する上での阻害要因となるのは容易に理解されるところであり、この点こそ醜状障害によって喪失する労働能力の実質と考えられます。

 

すなわち、醜状障害では、労働能力を伝統的な肉体的・機械的な観点のみから把握するのではなく、このような対人関係円滑化の観点からも把握する必要があると考えられます。

 

労働能力を対人関係円滑化の観点からも把握するとすれば、被害者が実際に従事する労務を遂行する上で醜状障害が全く影響しない職業というのはおよそ考えられません。

 

どちらも、外貌の醜状障害が労働能力へ及ぼす直接的な影響だけでなく、間接的な影響も重視する方向性が示されています。

 

まだ裁判実務に明確な変化が生じたと一概にいうことはできないものの、今後は、労働能力に対する間接的な影響による逸失利益を認める傾向が強まり、慰謝料で斟酌する方式は例外的なものになっていくだろう、と考えられています。

 

裁判例

従来の裁判実務の取扱いによれば、労働能力に対する間接的影響として慰謝料で斟酌するにとどめていたと思われる事例で、逸失利益を認める例が出てきています。

 

東京高裁判決(平成23年10月26日)

被害者は女性・21歳・大学生

 

外貌醜状7級を含む併合5級の事案につき、原告の年齢等からすれば、こうした外貌醜状によって職業・稼働に対する一層の制約が生じ、収入が減少することは十分考えられるから、労働能力の喪失がないとはいえず、労働能力喪失は5級に相当する79%とみるのが相当とした一審判決を支持しました。

 

名古屋地裁判決(平成24年11月27日)

被害者は女子・10歳・小学生

 

外貌醜状12級の事案につき、今後の進路ないし職業の選択、就業等において、不利益な扱いを受ける蓋然性は否定できず、また原告が醜状痕を気にして消極的になる可能性をも考慮すると、障害にわたりその労働能力を5%喪失したものと認めるのが相当としました。

 

さいたま地裁判決(平成27年4月16日)

被害者は男性・39歳(症状固定時41歳)・自動車運転手

 

外貌醜状9級を含む併合9級の事案につき、職業のいかんを問わず、外貌醜状があるときは、原則として当該後遺障害等級に相応する労働能力の喪失があるというのが相当であり、当該後遺障害等級の定める労働能力の喪失を否定するような特段の事情があるとまでいえないから、併合9級相当の35%の労働能力喪失があるものというのが相当とし、症状固定の41歳から67歳までの27年間について、逸失利益を認定しました。

 

上肢・下肢の露出面の醜状障害

外貌の醜状障害のほか、上肢・下肢の露出面の醜状障害が、後遺障害等級14級に位置づけられています。

 

上肢・下肢の醜状障害による労働能力の喪失の判断についても、基本的に、外貌の醜状障害の場合と同じですが、その部位などから、労働能力の喪失が否定されるケースがほとんどです。

 

労働能力喪失期間

外貌醜状障害は、器質的障害で、経年による回復、改善があまり期待できません。

 

そのため、労働能力喪失期間については、就労可能期間の終期とされる67歳までとすることが多いようです。

 

ただし、将来の配置転換や転職の可能性があって、それにより労働能力に与える影響が緩和する可能性がある場合や、年齢によって業務の内容が変わり、その影響が変わる場合などは、それに応じた労働能力喪失期間の限定や、労働能力喪失率の逓減が加えられる場合もあります。

 

旧別表7級12号に該当する顔面醜状が残存したホステス(20歳)につき、ホステスを継続することが困難となり、転職して収入が半分以下になったことを考慮し、症状固定時(22歳)から35歳までの13年間は、事故時の収入を基礎に56%の労働能力の喪失を認め、その後の67歳までの32年間は、女子平均賃金を基礎に25%の労働能力の喪失を認めました。
(名古屋地裁判決・平成21年8月28日)

醜状障害による労働能力喪失の認定で大事なこととは?

醜状障害による労働能力への影響を認定する重要な要素は、醜状障害の内容・程度と、被害者の職業特性・業務内容、性別、年齢です。

 

醜状障害の内容・程度

醜状障害の内容・程度については、後遺障害等級該当性の簡単な主張にとどまらず、醜状痕の位置、頭髪などで隠れる度合い、他者に与える印象も含めて、具体的に主張・立証することが必要です。

 

被害者の就業状況と業務への影響

被害者の就業状況と、外貌醜状による業務への影響について、具体的に主張・立証する必要があります。

 

業務に与える具体的な影響については、モデルなど容姿が直接影響する職業であるか、接客業務の割合、被害者の精神面による間接的な影響などを主張します。

 

特に、醜状痕の残存のために、現実に転職・配転・減収があったとか、就職・転職に支障があったなど、すでに具体的に生じている影響があれば、労働能力の喪失が認定される可能性が高くなります。経緯などを主張・立証することが重要です。

 

他の障害との併合による労働能力の喪失

他の神経症状などの障害と併せて労働能力喪失を認定されることもあるので、それらの障害と外貌醜状が関連する状況について主張することも大事です。

外貌の醜状障害は比較的高額な慰謝料が認められる

外貌の醜状障害は、比較的高い後遺障害等級に位置づけられていますが、逸失利益の認定に消極的な傾向があるため、慰謝料の増額で調整されてきました。

 

特に女性の場合は、財産上の損害以外の社会生活上の不利益も大きいことから、比較的高額な慰謝料を認める事例があります。

 

未婚か既婚か、若年者か成人か高齢者か、などによっても慰謝料額に差がみられるのが普通です。一般的には、既婚より未婚、高齢者より若年者の方が、外貌醜状によって受ける精神的苦痛の程度が大きく、苦痛の期間も長くなるため、慰謝料額は高くなる傾向にあります。

 

ただし、今後は逸失利益を認めるケースが増え、従来のように、逸失利益を否定する代わりに慰謝料を増額して調整する方式は少なくなることが考えられます。

 

とはいえ、逸失利益の算定が困難な事案や、慰謝料の算定で諸般の事情を斟酌する方式が適切な事案では、引き続き慰謝料による補完性が重要な意味を持つことに変わりありません。

まとめ

外貌醜状障害は、それ自体が労働能力の直接的な喪失をもたらすものではないため、特定の職業を除き、逸失利益は否定され、その代わりに慰謝料の増額で調整する方法が採られてきました。

 

しかし、今後は、労働能力への直接的な影響だけでなく、間接的な影響も考慮して労働能力の喪失を判断する方向性が示されています。逸失利益が認められるケースが増えてくることが考えられます。

 

外貌醜状障害については、労働能力への直接的な影響だけでなく、対人関係が円滑でなくなったことによる間接的な影響という観点からも、労働能力の喪失を具体的に主張・立証することが大切です。

 

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【参考文献】
・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 127~128ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 185~186ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 176~180ページ
・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 164~165ページ
・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 191~196ページ
・『交通事故事件処理の道標』日本加除出版株式会社 147ページ
・『l交通損害関係訴訟 増訂版』青林書院 165~166ページ
・『交通事故判例140』学陽書房 209~210ページ
・『交通事故事件の実務』新日本法規 80ページ
・『交通事故事件の落とし穴』新日本法規 102~107ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 201~206ページ
・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 147~155ページ、194~199ページ

公開日 2021-05-06 更新日 2024/10/29 21:19:46