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歯牙障害は、歯科補綴を加えた本数により後遺障害等級が決まりますが、直ちに労働能力が喪失したとは言い難いため、逸失利益を否定されることが多い後遺障害です。ただし、障害の具体的内容や被害者の職業などを考慮して、後遺障害逸失利益が認められる余地はあります。
ここでは、歯牙障害の後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料について解説します。インプラント治療費の損害賠償請求についてはこちらをご覧ください。
歯牙障害とは、歯を喪失した場合や著しく欠損した場合をいい、自賠責保険では、歯科補綴(ほてつ)を加えた歯の数により5段階に区分して、後遺障害等級が定められています。
| 障害の程度 | 自賠責保険 |
|---|---|
| 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 10級4号 |
| 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 11級4号 |
| 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 12級3号 |
| 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 13級5号 |
| 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの | 14級2号 |
治療した歯が1本または2本の場合には、後遺障害は非該当です。また、「歯科補綴を加えたもの」にも基準があり、その基準に達しない歯はカウントされません。
「歯科補綴を加えたもの」の内容について見ていきましょう。
歯科補綴とは、喪失・欠損した歯を、被せ物や義歯などの人工物で補うことです。代表的なものとしては、インレー、クラウン、ブリッジ、有床義歯、インプラントがあります。
インレーとは、いわゆる「詰め物」です。歯牙の欠損箇所を補綴する際に用いられます。
クラウンとは、いわゆる「被せ物」です。歯牙の全体を覆うものです。

ブリッジは、架橋義歯とも呼ばれます。欠損した歯牙の両側の歯牙を削り、それらの歯を土台として(土台となる歯牙を「支台歯」といいます)、人工の歯(ダミー)を掛け渡したものです。
有床義歯とは、いわゆる「入れ歯」です。歯牙が欠けたところの歯肉の形にあわせて作成された土台の上に、人工の歯牙を埋め込んだものです。歯牙のすべてが欠損してしまった場合に用いられる有床義歯は全部床義歯(総入れ歯)といい、歯牙が残存している場合に用いられるものは局部床義歯(部分入れ歯)といいます。

局部床義歯は、支台装置としてクラスプという金属の部品が構成要素となっていることがあり、その場合、このクラスプを残存した歯牙に装着して局部床義歯を用います。クラスプが装着される歯も支台歯といいます。
インプラントとは、歯牙を欠損した場所の歯槽骨に、人工の歯根を埋め込み、その上に人工の歯牙を装着するものです。

他の治療方法と比較した場合のメリットとしては、健康な歯牙を削る必要がない、咀嚼能力が優れている、審美性が高い等が挙げられます。
デメリットとしては、手術が必要となり、他の治療方法よりも負担が大きい、治療期間が長い、感染に弱い、手術後のメンテナンスが必要となる、治療費等が高額になるといった点が挙げられます。
治療費や将来のメンテナンス費用が高額になるため、因果関係、必要性、損害額などについて、争いが生じることがあります。インプラントの治療費・メンテナンス費用を認めた裁判例はこちらをご覧ください。
後遺障害等級認定基準において、「歯科補綴を加えたもの」とは、「現実に喪失または著しく欠損した歯牙に対する補綴をいう」と定めています(『労災補償障害認定必携第17版』132ページ)。
どのような歯科補綴でも対象となるわけではなく、「現実に喪失または著しく欠損した歯牙に対する補綴」という基準があります。事故で歯を欠損し、歯科補綴を施したとしても、基準に達しないものは該当しません。
では、「現実に喪失または著しく欠損した歯牙」とは?

後遺障害診断書(歯科用)では、
について、該当する歯と総数を記入するようになっています。
つまり、「著しく欠損した歯牙」とは、歯冠部の大部分(歯冠部体積の4分の3以上)を欠損した歯です。また、事故により喪失・欠損した歯だけでなく、治療の過程において「抜歯または歯冠部の大部分を切除」した歯も該当します。
すなわち、「歯科補綴を加えたもの」として後遺障害の認定対象となるのは、次のいずれかに該当する場合です(『詳説 後遺障害』創耕舎24ページ)。
なお、喪失、抜歯、歯冠部の大部分の欠損(切除を含む)が確認できれば、未補綴であっても認定して差し支えないとされています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規479ページ)。
具体的には、次のようになります。
後遺障害の対象となるのは、原則として永久歯です。なお、第三大臼歯(いわゆる親知らず)は、後遺障害の対象となりません。
乳歯の損傷は、原則として後遺障害の対象としていませんが、事故により乳歯を欠損し、永久歯の萌出が見込めないときは、医師の証明があれば(歯科用の後遺障害診断書にその旨を記載するようになっています)、後遺障害の認定対象となります。
喪失した歯牙が大きいか、または歯間に隙間があったため、喪失した歯数と義歯の歯数が異なる場合は、喪失した歯数により、等級を認定します(『労災補償障害認定必携第17版』132ページ)。
例えば、3歯の喪失に対して、4本の義歯を補綴した場合は、3歯の補綴として取り扱います。
すでに歯科補綴を加えた歯が存在していて、事故により、さらに歯科補綴を加えた結果、上位等級に該当するに至ったときは、加重として取り扱います(『労災補償障害認定必携第17版』136ページ)。
その場合、加重後の等級に対応する障害補償の額から、すでに存していた後遺障害の等級に対応する障害補償の額を控除した額が、障害補償の額となります。
例えば、既存障害4歯が存在し、事故により6歯に補綴を加えた場合、合計10歯に対し歯科補綴を加えたことになり11級に該当しますが、既存障害として14級に相当する額が控除されます。
自賠責保険では、後遺障害11級の保険金額が331万円、後遺障害14級の保険金額が75万円ですから、今回の事故による後遺障害に対する保険金額は、256万円(331万円ー75万円)となります(自賠責保険金額は、自賠法施行令別表第二より)。
既存障害に該当するのは、過去の事故によるものだけではありません。代表的なのは、う蝕症(虫歯)です。う蝕症は、う蝕第1度(C1)~う蝕第4度(C4)に分類され、C4は歯冠部の大部分を欠損していた歯に該当し、既存障害として認定します。

事故前に14歯以上の歯が喪失または歯冠部の大部分を欠損していた場合、「14歯以上に対して歯科補綴を加えたもの」が後遺障害10級として歯牙障害の最高等級なので、事故でさらに他の歯の補綴を行うことになっても、該当する等級がないため、障害等級の加重なしとして、非該当とされ、後遺障害として評価されません。
事故前に15歯が喪失または歯冠部の大部分を欠損していた被害者が、事故により2歯の喪失または歯冠部の大部分を欠損した場合に、加重にあたらないとしました。
咀嚼または言語機能障害と歯牙障害が存する場合、歯牙障害が原因で咀嚼または言語の機能障害が残存したといえる場合は、各障害に係る等級のうち上位の等級が認定されます。
他方、咀嚼または言語の機能障害が歯牙障害以外の原因(例えば、顎骨骨折や下顎関節の開閉運動制限等による不正咬合)にもとづく場合は、併合して等級が認定されます。併合等級について詳しくはこちらをご覧ください。
歯牙障害には、特別の様式の後遺障害診断書(歯科用)があり、これを歯科医に作成してもらって自賠責保険に提出します。

歯の部位は、歯式で表記されます。永久歯は1~7の数字で、乳歯はA~Eのアルファベットで表記されます。歯式は、観察者からの視点です。正中線から右が患者の左側を、正中線から左が患者の右側を表しています。
歯牙障害は、多くの場合、歯科補綴を加えることによって歯の機能は回復するので、後遺障害等級が認定されても、労働能力を喪失したとは言えません。
そのため保険会社は、歯牙障害にもとづく後遺障害逸失利益を否定するのが一般的です。裁判でも、逸失利益が否定される事例は多くあります。
もっとも、被害者の職業や将来就く蓋然性の高い職業によっては、歯牙障害による労働能力の喪失が認められることもあります。
例えば、アナウンサー、俳優、声優、講師など、発声・構音機能が重視される職業に就いている場合や、重量物を持ち上げる仕事、スポーツ選手など、歯を食いしばって力を入れるような職業に就いている場合などです。
このような場合は、歯科補綴したこと自体が業務遂行に支障を来すことがあり得るため、労働能力の喪失が認められる余地があります。
したがって、歯牙障害による逸失利益が認められるには、後遺した障害の具体的内容・程度、被害者の現在の職業とその職業に対する具体的な影響、将来就く蓋然性のある職業について、具体的に労働能力への影響を主張・立証することが重要です。
歯牙障害の逸失利益を認めた裁判例としては、次のものがあります。ただし、労働能力喪失率を労働能力喪失率表における当該後遺障害等級の喪失率よりも低く認定したり、労働能力喪失期間を限定する事例が少なくありません。
外貌醜状(12級14号)、歯牙障害(12級3号)の併合11級に認定された女性会社員(症状固定時29歳)について、外貌醜状による就労への悪影響、開口運動障害、入れ歯による頭痛や対人関係の障害が生じているとし、労働能力喪失率を20%としつつ、年月の経過や慣れ等により軽減するものとして労働能力喪失期間を50歳までの21年間としました。
被害者の歯牙障害について、嚥下機能、咀嚼機能、発声機能に特段の障害が生じているとは認めがたいとしつつ、歯を食いしばって力を入れるような仕事には不都合をもたらす可能性があることが推認され、そのことが被害者の就労の機会や就労可能な職種を狭め、労働の能率や意欲を低下させる影響を与えるものであることが十分に推認されるとしつつも、その程度は大きいものとは認められないとして、外貌醜状とあわせて5%の労働能力喪失率を認めました。なお、後遺障害慰謝料については、等級に従い390万円としました(増額を否定)。
(この高裁判決は、下記の東京地裁平成14年1月15日判決(逸失利益を否定し慰謝料増額を認めた)の控訴審判決です。)
11級の歯牙障害のほか、新基準における相当程度の醜状9級を残存した作業療法士について、歯を食いしばれないことや発音上の問題を指摘して、15%の労働能力喪失率を認めました。
12級相当の顎運動に伴う咀嚼障害、13級5号の歯牙障害、14級10号の顔面線状痕の併合11級を残した線路補修に従事する男性について、従事する作業には重量のある物の手おろしもあり、顎運動障害が支障となること、同障害のため咀嚼困難な食べ物が増え、飲食に影響し、体重が激減していること、今後も力仕事を必要とする職種に就くことができず、従事する仕事内容も狭まってしまったことから、現在減収が生じていないとしても、転職・配置転換の際に支障が現実化する可能性が高いとして14%の労働能力喪失率を認めました。
歯牙障害は、他の後遺障害(咀嚼または言語の機能障害、外貌醜状など)と併存していることが多いため、これらの障害の内容も加味して具体的に労働能力喪失の事実や可能性を説得的に主張できるかがポイントになります。
歯牙障害の後遺障害等級は5段階で評価され、後遺障害慰謝料は、自賠責基準と裁判基準それぞれ次の金額です。
| 等級 | 自賠責基準 | 裁判基準 |
|---|---|---|
| 10級4号 | 190万円 | 550万円 |
| 11級4号 | 136万円 | 420万円 |
| 12級3号 | 94万円 | 290万円 |
| 13級5号 | 57万円 | 180万円 |
| 14級2号 | 32万円 | 110万円 |
歯科補綴を苦加えることによって歯の機能は回復し、労働能力への影響はほとんどないとしても、有床義歯は、その手入れの手間からくる日常生活上の様々な不便が考えられるし、特に若年の場合、精神的苦痛も大きいといえます。また、健常な歯牙を削って支えにし、人工の歯を入れる場合には、健常な部分に対する侵襲となります。
こうしたことから、後遺障害逸失利益が否定される場合には、歯牙障害による日常生活上の不都合、不利益を考慮し、歯牙障害を後遺障害慰謝料の増額事由として考慮する考え方があります。なので、逸失利益が認められる可能性が低いとしても、歯牙障害による日常生活上の支障等をしっかり主張立証することが大事です。
歯牙障害による後遺障害逸失利益を否定したものの、後遺障害慰謝料を増額した裁判例としては、次のものがあります。
11級4号の歯牙障害を残した、そば店経営者(男性、症状固定時49歳)につき、歯と味覚との関係についての医学的・科学的メカニズムが明らかでない以上、歯牙障害が味覚に何らかの影響を及ぼすことがあり得るとしても、また被害者がそば屋を業としており通常人以上に味覚に敏感でなければならないとしても、後遺障害により労働能力の一部を喪失したと認めるのは無理であるとして逸失利益については否定しましたが、それらの事情は後遺障害慰謝料の算定において斟酌するとして後遺障害慰謝料400万円を認めました。
歯牙障害12級、外貌醜状12級の併合11級に認定された男性(症状固定時23歳・職業不明)について、逸失利益は否定したものの、後遺障害慰謝料として裁判時の通常の11級後遺障害390万円にその3分の2を増額し、650万円を認めました。
(この控訴審が、上記の逸失利益を認めた東京高裁平成14年6月18日判決です。)
歯牙障害12級、顔面醜状12級の併合11級とされた男性(症状固定時24歳、オペレーター)につき、後遺障害が原告の労働能力に直接的な影響を与えていることを認めるに足る証拠はないとして逸失利益は否定しましたが、後遺障害により対人関係に消極的となっており、労働意欲その他労働能力に影響を及ぼしていることなど諸般の事情を考慮し、後遺障害慰謝料630万円を認めました。
歯牙障害(13級)とされた男性(事故時20歳、アルバイト)につき、通常、歯の状態が職業に影響を与えることはなく、歯の後遺障害により、客と食事をする際、食べ終わるのが最後になる等、食事に時間がかかること等の不都合があったとしても、男性は、現在、不動産会社で勤務していることからすると、上記のような不都合が労働能力に影響を与えるということはできないとして、逸失利益については否定しましたが、そのような不都合が生じていることについて後遺障害慰謝料200万円を認めました。
歯牙障害の後遺障害等級は、認定基準にしたがい、歯科補綴を加えた歯数により認定されます。
ただし、後遺障害等級が認定されたとしても、歯牙障害は歯科補綴によって歯の機能が回復するため、労働能力の喪失が認められず、逸失利益は否定される傾向にあります。
なお、後遺障害逸失利益が認められない場合でも、後遺障害慰謝料の増額が認められることがありますから、歯牙障害による日常生活上の支障等を主張・立証することが大事です。
歯牙障害は、労働能力喪失を否定され、保険会社と揉めやすいので、歯牙障害による後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料の損害賠償請求は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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【参考文献】
・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規473~491ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務214~215ページ
・『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』日本評論社474~476ページ
・『交通事故医療法入門』勁草書房322~325ページ
・『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』87~89ページ
・『詳説 後遺障害』創耕舎24ページ
・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規200~201ページ
・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房98~114ページ
・『後遺障害入門』青林書院247~267ページ
・『労災補償障害認定必携第17版』一般財団法人労災サポートセンター129~136ページ