交通事故でインプラント治療費・メンテナンス費用を認めた裁判例

交通事故でインプラント治療費・メンテナンス費用を認めた裁判例

交通事故で歯が折れたり欠損して治療したときは、その治療費に加え、将来の治療費やメンテナンス費用もあわせて損害賠償請求できる場合があります。

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交通事故で歯を喪失・欠損したときの治療方法には、可撤式床義歯(入れ歯)、ブリッジ、インプラントがあり、その治療費は、もちろん損害として賠償請求できます。さらに、義歯やインプラントには耐用年数があるため、将来の治療費やメンテナンス費用も認められる場合があります。


ただし、インプラント治療は、高額であるため、保険会社から「ブリッジ等で十分」と争われることが多いので、注意が必要です。


ここでは、インプラント治療につき、治療費および将来治療費を認めた裁判例を紹介し、その費用を損害賠償請求するときの注意点をまとめておきます。歯牙障害の後遺障害逸失利益や慰謝料についてはこちらをご覧ください。


可撤式床義歯、ブリッジ、インプラント

まず、歯が折れたり欠けたりしたときの治療方法(歯科補綴)について、簡単に説明しておきましょう。


補綴(ほてつ)とは、喪失した歯に代えて義歯を入れたり、著しく欠損した歯を人工物で補うことです。代表的なものが、可撤式床義歯、ブリッジ、インプラントです。


可撤式床義歯


可撤式床義歯とは、自分で取り外し可能な、いわゆる入れ歯のことです。歯が欠けたところの歯肉の形にあわせて作成された土台の上に、人工の歯を埋め込んだものです。


ブリッジ


ブリッジは、架橋義歯とも呼ばれます。欠損した歯の両側の歯を削り、それらの歯を土台として、人工の歯を掛け渡したものです。土台となる歯を支台歯といいます


インプラント


インプラントとは、歯を欠損した場所の歯槽骨に人工の歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工の歯(上部構造)を装着するものです。インプラント体と上部構造(人工歯)をつなぐ部分は、アバットメント(支台)と呼ばれます。


インプラント治療を認めた裁判例

インプラント治療を認定した裁判例として、次のものがあります。


大阪地裁判決(平成19年12月10日)

「歯牙欠損部の治療に関しては、①インプラント、②可撤性部分床義歯、③ブリッジの3つの方法が考えられるところ、②の方法(可撤性部分床義歯)については、原告には四肢麻痺があるため、誤嚥・誤飲のリスクがあり、③の方法(ブリッジ)については、健全歯削合を要し、二次う蝕のリスクや、支台歯への力学的負担が大きいことなどから、治療法として必ずしも適切ではなく、これらと比較すると、①の方法(インプラント)が望ましいことが認められる」として因果関係を肯定しました。


名古屋地裁判決(平成28年11月30日)

補綴方法として、①可撤式の床義歯②ブリッジ③歯科用インプラントの3つが考えられ、補綴を行う際に考慮すべき点は、Ⅰ咬合能力の回復Ⅱ審美性の回復Ⅲ補綴物の長期安定性が中心になるとして、この3つの考慮すべき点につき、3つの補綴方法それぞれについて次のように検討して、インプラント治療の必要性を認めています。

  • ①可撤式床義歯の場合、容易で安価に作成でき、治療期間も極めて短縮できるが、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲすべての点で②、③の方法より著しく劣っている。
  • ②ブリッジの場合、Ⅰにおいては③とほぼ同等近くの結果を得られるが、Ⅱにおいては外傷で歯槽骨が萎縮している原告に適応すると、補綴物と歯槽骨間の空隙が目立つこととなり、審美的に非常に劣るものとなることが予測される。Ⅲにおいては比較的長期間安定することが予測される。
    ②の大きな欠点は、両側臨在歯を大きく切削しなけらばならず、両側臨在歯はともにう蝕のない健全歯であるため、②のために切削することは大きなマイナスで、切削したことが原因で、将来的に歯髄が壊死する危険性が考えられる。
  • ③歯科用インプラントの場合、Ⅰ、Ⅱは圧倒的に優れている。歯科用インプラントの生着率はおよそ95%以上とされており、生着した場合、長期安定にも優れた結果が得られることが多い。
    ③の欠点として、埋入する手術が必要であり、手術の際に神経損傷による神経麻痺、血管損傷による出血などのリスクがあるが、被害者の手術部位近辺には、損傷で問題となる血管・神経は存在しないため、このリスクはほぼ関係ない。
    A大学歯学部顎口腔外科学講座は、口腔外科やインプラント関連手術の知識や経験は十分であり、被害者は、同講座において、歯科用インプラント治療が最適と判断されたことが認められる。

以上のことから、インプラント治療の必要性があったと認定しました。

インプラント治療費を請求するときのポイント

インプラントを肯定した裁判例をみると、一般にインプラントを肯定しているのではなく、具体的な事案につき諸事情を考慮し、治療方法を具体的に比較検討して、その因果関係を肯定しています。


したがって、インプラント治療費を請求する場合は、個別具体的な事実関係をふまえ、他の治療方法でなくインプラントが最善であったこと、その費用も相当であったことについて、立証することが必要です。


上記の裁判例をふまえると、可撤式床義歯やブリッジと比較しつつ、咬合能力の回復、審美性の回復、補綴物の長期安定性の点から、具体的にインプラント治療の必要性・相当性について主張・立証することとなります。

将来の治療費やメンテナンス費用を認めた裁判例

義歯、ブリッジ、インプラントには耐用年数があり、将来的に治療費が発生することがあります。また、メンテナンスが必要となり、その際に費用が生じることもあります。


ですから、将来の治療費やメンテナンス費用についても、併せて請求することが大切です。なお、将来の治療費等については、ライプニッツ係数を用いて損害額を算定します。


将来の治療費やメンテナンス費用を認めた裁判例には、次のものがあります。


横浜地裁判決(平成5年12月16日)

歯牙障害(11級4号)を残した男性(症状固定時49歳、そば店経営)につき、被害者の歯科補綴は、一般的には6~7年もつ程度のものであり、再治療の費用は今回の費用を下らず、今後少なくとも2回は歯科補綴治療を受ける必要があること等を考慮して、将来の歯科補綴費用として69万3490円を認めました。


東京地裁判決(平成14年1月15日)

歯牙障害12級、外貌醜状12級の併合11級に認定された男性(症状固定時23歳・職業不明)につき、将来の治療費について、将来にわたり概ね10年ごとに、少なくとも110万円の80%にあたる88万円の支出を要する蓋然性が強いものと認め、被害者の歯科治療が終了した時点の年齢(22歳)から平均余命を算出し(55.94年)、ライプニッツ方式により中間利息を控除し、将来の義歯製作費を127万7056円としました。


東京地裁判決(平成17年12月21日)

歯牙障害12級、顔面醜状12級の併合11級に認定された男性(症状固定時24歳、オペレーター)につき、将来の治療費について、インプラントの耐用年数は、一般的には10年程度であるものの、本件の場合は、広範囲な欠損及び上顎骨骨折を考慮すると、10年に達しない可能性があること、固定式ブリッジの耐用年数は、一般的に10年であるとして、平均余命を基準とした5回分の治療費として217万7144円と認めました。


東京地裁判決(平成22年7月22日)

歯牙障害(12級3号)、咀嚼機能障害、開口障害(12級相当)の併合11級に認定された女性(事故時15歳、症状固定時18歳)につき、女性は交通事故により8歯欠損し、20歳ころにインプラント治療をするのが相当であるが、被害者が22歳になった現時点においてもインプラント治療を行っていないことから、現時点では治療費が値上がっているものの、それは症状固定後におけることであるから、症状固定時の治療費により、かつ、症状固定日から4年経過しているためその間の中間利息を控除するのが相当であるとして、将来のインプラント治療費460万4252円を認めました。


仙台地裁判決(平成24年2月28日)

顔面多発裂傷、顔面骨多発骨折、歯牙欠損(3歯)の障害を負った男性(事故時13歳)について、治療方法としてインプラント治療が適切であると判断し、

  • インプラント治療費106万3804円
  • インプラント治療を実施するための矯正治療費98万7000円
  • インプラントの耐用年数を20年とし、今後2回のインプラントの更新が必要であるとして、将来のインプラント更新費として62万2055円
  • インプラントを所期の年数もたせるには定期的なメンテナンスが必要であるとして、将来のインプラントメンテナンス費用43万1273円

を認めました。なお、将来の矯正メンテナンス費用については、将来のインプラントメンテナンス費用と別に認める必要はないとして否定しました。


名古屋地裁判決(平成28年7月27日)

インプラント体の将来治療費として、

  • A病院歯科口腔外科のB医師は、原告の歯牙治療に関して耐用年数については不明であるが、10年以上にて上部構造体(人工歯)の補修・再製等の可能性があり、インプラント体についても経過により再埋入の可能性も否定できないと回答していることが認められるから、原告の年齢から推測される生活状況等も考慮して、インプラント体の耐用年数は20年と認めるのが相当である。
  • そうすると、原告は今後将来にわたり少なくとも3回、インプラント体の再埋入が必要となる。
  • その費用は、1回あたり33万6750円(費用:インプラント体1本あたり15万円×2本=30万円、診療費:インプラント再診料が1万500円、歯科自費診療が6300円、インプラントCTが1万9950円の合計)と認めるのが相当である。

としたうえで、20年後、40年後、60年後につき対応するライプニッツ係数を乗じて合計した19万2780円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めました。


上部構造体等の将来治療費については、

  • 耐用年数を10年
  • 少なくとも6回再治療が必要となる
  • 1回あたり64万1360円(上部構造体:24万円、クラウン:8万円×2本=16万円、ブリッジ:24万円、再診料230円、レントゲン撮影1130円の合計)

として、10年後、20年後、30年後、40年後、50年後、60年後のライプニッツ係数を乗じて合計した96万5224円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めました。

インプラント治療についての損害賠償の動向

歯科補綴の方法として、最近は、床義歯やブリッジとともにインプラント治療もかなり一般化してきました。


とはいえ、インプラント治療は、そもそも健康保険適用がなく自由診療であり、上部構造に使用するセラミックも様々で、治療の内容や金額が医療機関によって大きく異なるため、インプラント治療の必要性・相当性が問題となりやすいのです。


また、インプラントも上部構造も耐用年数があるので、将来の治療費が認められるかどうかも大きな問題です。


最近は、インプラント治療について、必要性・相当性が全否定されることは少なくなったようですが、高額の歯科治療費については、

  • 実額ではなく平均的金額を基礎とする
  • 一定割合のみ事故による損害とする
  • 耐用年数を比較的長期間に認定して金額を抑える

などして、調整が図られているようです(『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい28ページ)

まとめ

インプラント費用は、医師によってインプラント治療が最善の方法と判断され、その根拠を立証できる場合、損害賠償が認められる可能性があります。


インプラント等は耐用年数がありますから、将来の治療費についても併せて損害賠償請求することが大切です。


インプラント費用については、かつては否定されることが多かったのですが、近年は、将来のメンテナンス費用等も含めて認められる裁判例が見られます。ただし、インプラント費用は、高額になるため、相手方保険会社と争いになりやすいので、インプラント費用を請求するときは、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。


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【参考文献】
・『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』日本評論社 475ページ
・『後遺障害入門』青林書院 260~265ページ
・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房106~109ページ
・『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい28ページ

公開日 2026-02-15 更新日 2026/02/17 12:37:58
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