交通事故で休業したが収入減少していない場合の休業損害

交通事故で休業したが収入減少していない場合の休業損害

休業損害は、事故による怪我で休業したために得られなかった収入ですから、原則的には収入減少が生じていなければ認められません。

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休業損害は、現実に収入が減少していなければ、原則として認められません。


減収がなくても休業損害を認めた裁判例はありますが、裁判所は「減収がない場合には、休業損害を認めることには否定的な傾向が強い」ようです。


どんなときに休業損害が認められるのか?

休業損害とは、消極損害の一種で、怪我が治癒ないし症状固定となるまでの間に、休業したことにより生じた収入の減少をいいます。


欠勤だけでなく、通院のために遅刻・早退したとか、労働能力が低下したなど、通常の就労ができなかったことによる収入減も、休業損害に含まれます。


現実に収入減少が生じていることが必要

休業損害は、事故による受傷や治療のために休業したことにより得ることができなかった収入という損害の性質上、原則的には、減収がなければ休業損害は発生しないことになります。


つまり、休業損害が認められるには、「休業が必要であった」ことに加え、原則として「現実に休業によって収入が減少している」ことが必要です。


休業したが収入減少がない場合

では、休業したけれども、収入は事故前と事故後で変わらないという場合、休業損害は認められないのか?


これについては、裁判所は「減収がない場合には、休業損害を認めることには否定的な傾向が強い」とされています(東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編集『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい105ページ)


「特段の事情」により収入減少が生じていない場合

被害者本人の特別の努力により収入が減少していないなど「特段の事情」がある場合、逸失利益については財産上の損害を認める考え方を取り得るのですが、休業損害に「特段の事情」の考え方を適用する例は多くありません。


逸失利益は、就労終期までの話であり、被害者の努力で減収が生じていないとしても、その状態が長期間継続するとは合理的に考えられません。将来的に逸失利益が顕在化することは、十分予想できます。


これに対して休業損害は、治癒(症状固定)までの話であり、比較的短期間の「過去の出来事に対する回顧的な判断」となるため、「将来的な減収を窺わせる事情を考慮することは困難」です(『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい144ページ)


そのため、怪我による不自由や苦痛に耐えながら就業したとしても、それは「慰謝料の中で考慮されている」として、休業損害は否定されることが多いのです(『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』日本加除出版株式会社48ページ)


減収がない場合の後遺障害逸失利益についてはこちらをご覧ください。

減収がなくても休業損害を認めた裁判例

休業による減収がなくても、休業損害を認めた裁判例について、給与所得者の場合と事業所得者の場合に分けて紹介します。休業所得者の場合の裁判例はごく少数ですが、事業所得者の場合の裁判例はいくつかあります。


給与所得者の休業損害を認めた裁判例

給与所得者の場合、減収がなくても休業損害を認めた裁判例は、ほとんどありません。


  • 本人や同僚の特段の努力によって減収を回避した(大阪地裁判決・平成25年12月3日)
  • 有給休暇を利用して定期的に仕事を休んだり、頻繁に通院して電気療法等の治療を受けながら、痛みを我慢しつつ業務に従事していた(福岡地裁判決・令和2年3月17日)


このような特段の事情がある場合には、一定割合の休業損害を認める余地があるとして、どちらも2~3割分などの割合的認定をしています。
(『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』日本加除出版株式会社48ページ)


なお、年休を使った場合は、収入の減少は生じませんが、休業損害が認められます。年次有給休暇を使ったときの休業損害について詳しくはこちらをご覧ください。


事業所得者の休業損害を認めた裁判例

事業所得者の場合は、事業経営による収益の性質上、次のような特段の事情がある場合には、例外的に、減収がなくても事業所得者の休業損害を認めた裁判例があります。


  • 好景気による増収の結果、事故による減収がないように見えてしまっている(横浜地裁判決・令和元年6月27日)
  • 事故前に行った事業の収益が事故後に現実化して減収が顕在化していない(岡山地裁判決・平成12年3月9日、東京地裁判決・平成18年10月30日)
  • 親族などの手助けにより収入が維持されている(大阪地裁判決・平成9年3月25日、大阪地裁判決・平成12年3月7日、名古屋地裁判決・平成26年12月8日)

(裁判例は、『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい113ページ参照)


ただし、被害者の従前の事業への寄与の程度や減収が生じていない理由について、具体的に主張・立証する必要となります。


例えば、名古屋地裁平成26年12月8日判決は、事故後の身体の状況、金銭管理ができていないこと等から、従前同様に事業を経営しているとは考え難く、事故後の所得は、実質的に本人に代わって事業を維持している親族の収入であるとして、事故による減収を認めました(『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』日本評論社353ページ(注179))

まとめ

現実に収入減がなければ、休業損害は原則として認められません。減収がなくても休業損害を認めた裁判例はありますが、大勢ではありません。


被害者本人の努力等により減収を回避しているのに休業損害が認められない場合は、減収がなくても休業損害を認めた裁判例を活用して保険会社と交渉してもよいのですが、休業損害として請求するよりも、慰謝料の増額を請求することを検討することも大切です。


休業損害で疑問のある方は、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。


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【参考文献】
・『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい144ページ、209~211ページ
・『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ』ぎょうせい245ページ
・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい105ページ
・『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』日本加除出版株式会社47~50ページ

公開日 2025-11-21 更新日 2025/12/26 10:07:37