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傷害慰謝料(入通院慰謝料)は、交通事故で怪我をしたことや、入通院しなければならず苦痛を受けたことによる精神的損害を賠償するものです。
精神的苦痛は各人で異なりますが、自動車事故の大量発生と損害賠償をめぐる紛争の公平・迅速な解決の必要から、入通院慰謝料は、入通院期間に応じて基準化・定額化されています。
現在、裁判所基準として参考にされている主なものは、次の2つです。
この中の「入通院慰謝料表」を参考にして、慰謝料を算定します。あくまでも「基準」であって、個別事情が考慮されます。
それぞれの入通院慰謝料基準と算定の仕方を見てみましょう。
「青本」は、日本全国向けに作成された基準なので幅をもたせています。上限額と下限額との範囲内で妥当な慰謝料額を決定します。
入院期間 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | |
---|---|---|---|---|---|
通院期間 | 60~32 | 117~63 | 171~92 | 214~115 | |
1月 | 29~16 | 88~47 | 144~78 | 192~103 | 232~125 |
2月 | 57~31 | 115~62 | 165~89 | 210~113 | 248~134 |
3月 | 84~46 | 136~73 | 183~99 | 226~122 | 262~142 |
4月 | 105~57 | 154~83 | 199~108 | 240~130 | 274~148 |
5月 | 123~67 | 170~92 | 213~116 | 252~136 | 283~153 |
6月 | 139~76 | 184~100 | 225~122 | 261~141 | 291~158 |
※単位:万円
※特に症状が重い場合は、上限額を2割増した金額まで増額を考慮する。
「青本25訂版」の入通院慰謝料表より一部を抜粋しています。実際の入通院慰謝料表は、入院期間・通院期間とも、15ヵ月まであります。横軸が入院期間(入院の月数)、縦軸が通院期間(通院の月数)です。
特に症状が重い場合は、上限の2割程度まで加算することにしています。軽度のムチ打ち症や軽い打撲などは、下限を適用することになります。通常の傷害の場合は、上限の7~8割程度を目安としています。
通院は、週2回程度を標準としています。実際の通院日数がそれよりも多い場合や少ない場合は、適宜増減します。
通院が長期化(1年以上)し、通院頻度が月2~3回程度と低い場合や、通院していても治療というより検査や治癒経過の観察的色彩が強い場合などは、修正通院期間(通院実日数の3.5倍)を求め、妥当な金額を定めるとされています。
この表を用いた入通院慰謝料の算定の仕方を紹介しておきます。
通院1ヵ月間だけの怪我の場合、縦軸(通院期間)の「1月」の入院なしの欄を見ると「29~16」となっています。16万円~29万円の範囲で慰謝料額を求めます。
2ヵ月間入院して、その後4か月間通院したとすると、横軸(入院期間)の「2月」の欄と縦軸(通院期間)の「4月」の欄の交差した欄の数値が「199~108」ですから、108万円~199万円の範囲内で慰謝料額を求めます。
「赤い本」は、おもに東京を中心とする首都圏向けに作成された基準です。東京地方裁判所民事第27部(交通事故専門部)では、「赤い本」を主に参照しているようです。
「赤い本」の入通院慰謝料表は「別表1」と「別表2」の2種類あります。原則として「別表1」を使い、ムチ打ち症で他覚症状がない場合は「別表2」を使います。「別表2」は、各欄の金額が少し低めに設定されています。
ここでは「別表1」より一部を抜粋して掲載しておきます。
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | |
---|---|---|---|---|---|
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 |
※単位:万円
※傷害の部位・程度によっては、20~30%程度増額する。
「赤い本2016年版」より抜粋しています。実際の入通院慰謝料表は、入院期間・通院期間とも、15ヵ月まであります。横軸が入院期間(入院の月数)、縦軸が通院期間(通院の月数)です。
傷害の部位や程度によっては、表の金額を20~30%程度増額します。
通院は、隔日を標準としています。実際の通院日数が隔日通院よりも多い場合や少ない場合は、適宜増減します。
入通院慰謝料表では1ヵ月単位の慰謝料額を記載していますが、実際に1ヵ月単位でちょうど納まることは稀です。入通院期間に端数が出たときは、端数の出た月の金額から前月の金額を引いて、残った金額を1ヵ月を30日として日割りで計算します。
入院・通院が月単位の場合は、表の交差する欄を見れば分かるのですが、入通院日数に端数が出る場合は複雑な計算が必要になります。
通院が長期(おおむね1年以上)にわたり、かつ不規則な場合は、実日数の3.5倍程度を通院期間の目安とすることができます。
「別表2」についても、通院が長期にわたる場合は、症状や治療内容、通院頻度をふまえ、実通院日数の3倍程度を慰謝料算定の通院期間の目安とすることができます。
この表を用いた入通院慰謝料の算定の仕方を紹介しておきます。
3ヵ月入院し、その後3ヵ月通院した場合、それぞれの欄が交差する188万円が入通院慰謝料の基準額となります。
70日は、2ヵ月と10日です。まず、入院2ヵ月分の慰謝料は101万円です。
残り10日分については、入院3か月(145万円)と入院2ヵ月(101万円)の差が44万円ですから、これを1ヵ月を30日として日割り計算します。
44万円÷30日×10日=14万6,666円
よって、この場合の入院慰謝料は、
101万円+14万6,666円=115万6,666円
入院40日は、1ヵ月と10日です。入院1ヵ月の慰謝料は53万円です。
残り10日分は、入院2ヵ月(101万円)と入院1ヵ月(53万円)の差が48万円ですから、これを日割り計算します。
48万円÷30日×10日=16万円
ですから、入院40日の慰謝料は、入院1ヵ月の慰謝料(53万円)と入院10日分の慰謝料(16万円)の合計で、
53万円+16万円=69万円
次に通院慰謝料ですが、ここから複雑な計算が必要になります。
この例の場合、全治150日(40+110)つまり全治5ヵ月です。うち40日は通院でなく入院ですから、通院110日の慰謝料は、5か月分の通院慰謝料(105万円)から40日分の通院慰謝料を引いて計算します。
通院40日は、1ヵ月と10日ですから、通院1ヵ月の慰謝料は28万円です。残り10日分の通院慰謝料は、通院2ヵ月(52万円)と通院1ヵ月28万円との差が24万円ですから、これを日割り計算して
24万円÷30日×10日=8万円
通院40日の慰謝料は、通院1ヵ月の慰謝料(28万円)と通院10日の慰謝料(8万円)の合計で、
28万円+8万円=36万円
通院110日の通院慰謝料は、全治150日(5ヵ月)の通院慰謝料(105万円)から通院40日の通院慰謝料(36万円)を引いて、
105万円-36万円=69万円
したがって、この例の場合の入通院の合計慰謝料は、
69万円+69万円=138万円
入院はなく、通院期間が12ヵ月だったけれども、実際の通院日数が60日だった場合、通院期間の修正計算が必要になります。実日数の3.5倍を通院日数とします。
この場合の通院日数は、
60日×3.5=210日
通院210日は、通院7ヵ月に相当します。したがって、入院なし・通院7ヵ月の通院慰謝料は表より124万円です。
自賠責保険基準の入通院慰謝料は、1日につき4,300円の定額です。
対象となる日数は、治療期間の範囲内で、傷害の態様、実治療日数その他を勘案し、特殊な場合を除き、入院日数を含む実治療日数の2倍に相当する日数(ただし、総治療期間の範囲)が対象日数となります(『自賠責保険のすべて 12訂版』保険毎日新聞社)。
実治療日数は、入院日数と通院日数の合計です。総治療日数は、初診から治療を終了した日までの総日数です。
つまり、自賠責保険基準の入通院慰謝料は、次の計算式になります。
4,300円 × 実治療日数 × 2
ただし、実治療日数×2の数値が総治療日数を上回る場合は、
4,300円 × 総治療日数
なお、自賠責保険基準における入通院慰謝料の限度額は、他の損害額(積極損害、消極損害)も含めて120万円です。
傷害慰謝料(入通院慰謝料)は、裁判所基準においても基準化されていますが、あくまで基準であって、個別事情を考慮して算定されるものです。
適正な慰謝料額を算定するには、「青本」や「赤い本」の基準だけでなく、判例なども考慮する必要があり、被害者自身で算定するのは難しいでしょう。交通事故事件に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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