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交通事故で怪我をして仕事を休むとき、給与所得者の方は、年次有給休暇(年休)を使用する場合があるでしょう。有給休暇を使用した日については、給与が支給されて減収がないため、休業損害は請求できないように思えます。
理論的根拠には諸説あるものの、最近の裁判例では、有給休暇を使用した分も休業損害として認められることは定着した考え方になっています。
年次有給休暇を使用した場合の休業損害の取扱いについて、裁判基準(「赤い本」「青本」の基準)では次のようになっています。
| 赤い本 | 現実の収入減がなくても、有給休暇を使用した場合は、休業損害として認められる。 |
|---|---|
| 青本 | 表面上は減収がないようにも見えるが、これは被害者の有給休暇請求権の不本意な行使という犠牲によるものであるから、損害算定される扱いである。 |
交通事故で有給休暇(年休)を取得した場合の休業損害の算定方法としては、おもに次の3つの考え方があります。
かつては、財産的損害を否定して、慰謝料で斟酌(慰謝料を増額)する裁判例も少なくありませんでした。
しかし、現在では、事故に遭ったことで、使用する予定のなかった有給休暇を使用することになったのであり、有給使用権は、その内容・性質に照らすと財産的価値を認めることができるので、有給休暇を治療等に使用した分について、休業による財産的損害の発生を認め、実際に欠勤した場合と同様の金額算定を行う例が多数となっています。
(参考:『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい141~142ページ )
有給休暇の使用を財産的損害として休業損害を認めた裁判例を紹介します。東京地裁判決(平成6年10月7日)です。
A(男性・会社員)は、事故により8日間勤務先を欠勤し、そのうち6日について、年次有給休暇を取得した場合の休業損害の算定についてです。
Aは、714万3,582円の収入を得ていた。事故により8日間勤務先を欠勤し、6日間を有給休暇を振り当てたため、給与は全額支給されて計算上の休業損害は生じていない。
有給休暇はその日の労働なくして給与を受けるもので労働者の持つ権利として財産的価値を有するものというべく、他人による不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかった者は、それを財産的損害として賠償請求し得ると解するのが相当である。
Aは、有給休暇すべてを本件事故による受傷の治療のための通院、事情聴取のための警察署への出頭などに当てていることが認められるから、不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかったというべく、1日の有給休暇の持つ財産的価値は、原告Aの年収を1年間の日数で除した額によって算出するのが相当である。
(計算式)7,143,583÷365×6=117,428
有給休暇を使用した場合の休業損害も、通常の給与所得者の休業損害を計算するときと同様に計算します。
[事故前直近3ヵ月の総支給額]÷[事故前直近3ヵ月の稼働日数]×[有給使用日数]
基礎日額(1日の収入単価)は、収入を「歴日」で割るか「労働日」で割るかによって異なります。年収を365日で割って基礎日額を算出するときには、休日も含めて休業期間全体に基礎日額を掛けますが、有給使用日数を掛けるのであれば、基礎日額は収入を労働日で割ったものを用います。
上記の東京地裁判決(平成6年10月7日)は、1日の有給休暇の持つ財産的価値(すなわち基礎日額)を「年収を1年間の日数で除した額」によって算出し、有給消化日数を乗じていますが、有給消化日数を乗じるのであれば、基礎日額は「年収を労働日で除したもの」を用いるべきでしょうし、基礎日額として「年収を暦日で除したもの」を用いるのであれば、休業期間全体を乗じるべきでしょう。
有給休暇が付与される要件の1つとして、「全労働日の8割以上出勤した者」というものがあります(労基法39条1項)。
事故で欠勤したことによって、有給休暇取得の要件である全労働日の8割以上の出勤という要件を満たさなくなり、将来(事故のあった年の次年度以降)の有給休暇請求権を喪失した場合、付与されるはずであった将来の有給休暇分も損害として請求できるとすることが裁判例で認められています。
なお、実際に有給休暇を全部使用するとは限らないのに、有給休暇請求権を喪失したこと自体で損害が発生したと評価できるのかの問題がありますが、裁判例では、欠勤のために取得できなかった日数分全部を損害算定の対象としているようです(『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい143ページ)。
将来の有給休暇請求権の喪失を損害と認めた例として、東京地裁判決(平成16年8月25日)を挙げておきます。
A(男性・44歳)は会社員で、事故により欠勤し、出勤日数が翌年度の年次有給休暇請求権が認められる程度にまで達しなかったため、有給休暇20日分の権利が取得できなくなり、Aは損害として、月給額の年額を、年間勤務日数で除した日額の20日分として27万7.672円を主張しました。
「原告は、取得した有給休暇を必ずしも全部費消してはいなかったようであるが、有給休暇はそれ自体財産的価値を有するものと解するのが相当である」として、請求どおり、27万7,672円の損害を認めました。
被告側が、「原告は本件事故前有給休暇の全日数を使用してはいなかったはずであり、実際に使用する蓋然性はなく、取得し得なかった有給休暇全日について損害算定すべきではない」と主張しましたが、権利喪失した全日数分につき損害算定しています(『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい143ページ(注28))。
すなわち、本判決は、有給休暇請求権という債権自体が価値を持つ資産で、それを毀滅されたという考え方です(『要約 交通事故判例140』学陽書房131ページ)。
勤務先に病気休暇の制度があり、その制度を利用した場合については、休業損害を認めることはできないとする考え方が優勢です。
病気休暇は負傷または病気のため療養する必要がある場合に限って取得できるものであり、年次有給休暇のように自由に使用できるものではなく、年次有給休暇と同様の財産的損害があったと見ることは困難だからです。
(『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい143~144ページ)
有給休暇は労働者の持つ権利として財産的価値を有するものであり、他人による不法行為の結果、有給休暇を費消せざるを得なくなった者は、それを財産的損害として賠償を請求できます。被害者が有給休暇を使ったことで、加害者が被害者への賠償を免れたり、単に休業した場合より休業損害額が減少してしまうとすれば、加害者が利得することにもなり不合理です。
有給休暇を使用した場合の休業損害も、通常の給与所得者の休業損害を計算するときと同様に計算します。
休業損害に関して疑問のある方は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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【参考文献】
・『要約 交通事故判例140』学陽書房129~131ページ
・『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい141~144ページ
・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい103ページ
・『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』日本評論社345ページ
・『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』日本加除出版株式会社45~46ページ