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非器質性精神障害の後遺障害等級は、9級、12級、14級の3段階で評価されます。ただ、非器質性精神障害は、適切な治療を行えば完治するとされ、労働能力喪失期間が限定されるのが通常です。
非器質性精神障害の後遺障害認定基準について、詳しく解説します。
非器質性精神障害とは、脳の障害の1つで、脳の器質的損傷を伴わない精神障害です。うつ病やPTSDなどが、その代表例です。
脳外傷による器質的損傷がない場合でも、事故そのものや事故後のストレス(例えば、交通事故の恐怖、受傷や後遺障害による苦痛、それらに伴う不安など)によって、精神障害が発生することがあります。
ちなみに、脳の器質的損傷が原因の障害は、精神の障害が高次脳機能障害(器質性精神障害)、身体機能の障害が身体性機能障害(神経系統の障害)というように区分されます。
| 脳の障害 | ||
| 器質性の障害 | 非器質性の障害 | |
|
高次脳機能障害 |
身体性機能障害 |
非器質性精神障害 |
自賠責保険における後遺障害等級の認定基準は、労災保険の障害等級認定基準に準拠していますから、まずは労災保険の認定基準から見ていきましょう。
2003年(平成15年)に厚生労働省は、うつ病やPTSD等の精神障害の労災認定が増加傾向にあった中、業務上の非器質性精神障害の後遺障害一般に関して適用する基準を策定しました(平成15年8月8日付け厚生労働省労働局長通達「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」基発第0808002号)。
これ以前は、外傷性神経症の認定基準のみ設けられ、後遺障害等級が認定されても14級どまりでしたが、この認定基準の改正により、非器質性精神障害は、原則として9級・12級・14級の3段階で障害等級を認定することになったのです。
ただし、非器質性精神障害の特質として、「業務による心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合完治するのが一般的であり、完治しない場合でも症状がかなり軽快するのが一般的である」(平成15年8月8日付け通達)とされているため、労働能力喪失期間が限定されるのが通常です。
それでは「精神の障害に関する障害等級認定基準」について詳しく見ていきましょう。なお、事故との因果関係が認められていることは大前提です。精神症状と事故との因果関係認定のポイントはこちらで説明しています。
認定基準は、『労災補償障害認定必携第17版』及び平成15年8月8日付け厚生労働省労働局長通達「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」を参考にしています。
非器質性精神障害の後遺障害が存しているというためには、以下の(a)の精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、(b)の能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることを要します。
| (a)精神症状 | (b)能力に関する判断項目 |
|---|---|
|
|
精神症状の具体的な状態、判断項目ごとの能力評価の要点については、次のようになっています。
| (a)精神症状 | 内容 |
|---|---|
| ①抑うつ状態 | 持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂うつである、希望がない、絶望的である等)、何をするのもおっくうになる(おっくう感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態である。 |
| ②不安の状態 | 全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態である。 |
| ③意欲低下の状態 | すべてのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態である。 |
| ④慢性化した幻覚・妄想性の状態 | 自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が異常に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態である。 |
| ⑤記憶又は知的能力の障害 |
非器質性の記憶障害としては、解離性(心因性)健忘がある。自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態である。 |
| ⑥その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など) | その他の障害には、上記①から⑤に分類できない症状、多動(落ち着きの無さ)、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴などがある。 |
| (b)判断項目 | 評価の要点 |
|---|---|
| ①身辺日常生活 | 入浴をすることや更衣をすることなど清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるか。食事・入浴・更衣以外の動作については、特筆すべき事項がある場合には加味して判定。 |
| ②仕事・生活に積極性・関心を持つこと | 仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否か。 |
| ③通勤・勤務時間の遵守 | 規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうか。 |
| ④普通に作業を持続すること | 就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうか。 |
| ⑤他人との意思伝達 | 職場において上司・同僚等に対して発言を自主的にできるか等他人とのコミュニケーションが適切にできるか。 |
| ⑥対人関係・協調性 | 職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等。 |
| ⑦身辺の安全保持、危機の回避 | 職場における危険等から適切に身を守れるかどうか。 |
| ⑧困難・失敗への対応 | 職場において新たな業務上のストレスを受けたとき、ひどく緊張したり、混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるか。 |
非器質性精神障害の後遺障害等級は、次の3段階に区分して認定します。
| 等級 | 非器質性精神障害の等級認定基準 |
|---|---|
| 第9級の7の2 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの 就労している者または就労の意欲のある者の場合
判断項目のうち②~⑧のいずれか1つの能力が失われているもの、または、判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの 就労意欲の低下または欠落により就労していない者の場合
身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの |
| 第12級の12 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの 就労している者または就労の意欲のある者の場合
判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの 就労意欲の低下または欠落により就労していない者の場合
身辺日常生活を適切または概ねできるもの |
| 第14級の9 |
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの 判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの |
重い症状を有している者(判断項目のうち①の能力が失われている者または判断項目のうち②~⑧のいずれか2つ以上の能力が失われている者)については、非器質性精神障害の特質上症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合であっても、原則として療養を継続することとなります。
ただし、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、治ゆの状態にあるものとし、障害等級を認定することとなります。
なお、その場合の障害等級の認定は本認定基準によらずに、個別に検討し、障害の程度を踏まえて認定することとなります。
※ 2つの注意事項が記載されています。
非器質性精神障害の後遺障害等級認定にあたっては、主治医に対して、所定の様式により「障害の状態の詳細についての意見を求める必要がある」とされています。
主治医から提出してもらう意見書(非器質性精神障害の後遺障害の状態に関する意見書)の主な内容は、次のようなものです。
このほか、精神症状の状態について、「(a)の精神状態」の6項目につき、該当する状態を選択し、その程度・症状を具体的に記載するようになっています。
さらに、就労意欲の状態について、「1.概ね正常 2.意欲低下 3.欠落」の3段階で評価し、能力低下の状態について、「(b)能力に関する判断項目」の8項目につき、それぞれ「1.適切又は概ねできる 2.時に助言・援助が必要 3.しばしば助言・援助が必要 4.できない」の4段階で評価するようになっています。
主治医から提出された意見書を参考に、認定基準の当てはめを行い、原則として9級、12級、14級に格付けします。14級にも該当しない場合は、非該当となります。
ごく大まかにいえば、こうです。
抑うつ状態、不安の状態、意欲低下の状態、慢性化した幻覚・妄想性の状態、記憶又は知的能力の障害、その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)といった「精神症状」が残った場合には、身辺日常生活など8つの「能力に関する判断項目」について、 「できない、しばしば助言・援助が必要、時に助言・援助が必要、適切又は概ねできる」の4段階についての判定結果を踏まえて、障害等級(9級・12級・14級)を認定します。
非常にまれに「持続的な人格変化」を認めるという重篤な症状が残存することがあることから、9級を超える等級認定を行う場合も予定されていますが、基準化はされていません。
「人格変化」を認める場合とは、
という要件を満たすことが必要とされており、こうした状態はほとんど永続的に継続するものと考えられ、このようなケースが、7級以上の認定をするケースとして想定されているようです。
自賠責保険における後遺障害等級認定は、労災保険の障害等級認定基準に準拠して行われますが、自賠責保険と労災保険では、補償対象となる被災者群が異なります。交通事故の被害者群には、賃金労働者だけでなく、自営業者、家事従事者、無職者、未就労者なども含まれます。
そのため、後遺障害の等級認定基準の表現や手続が、労災保険と自賠責保険とでは異なる部分があります。
後遺障害等級評価の判定の目安として、次のような参考例が示されています。
| 等級 | 労災障害認定基準の表現 | 自賠責保険の参考例 |
|---|---|---|
| 9級 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの(9級の7の2) | 非器質性精神障害のため、日常生活において著しい支障が生じる場合(9級10号) |
| 12級 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの(12級の12) | 非器質性精神障害のため、日常生活において頻繁に支障が生じる場合(12級13号) |
| 14級 | 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの(14級の9) | 概ね日常生活は可能であるが、非器質性精神障害のため、日常生活において時々支障が生じる場合(14級9号) |
(非器質性精神障害の等級評価の参考例は、『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規188~189ページ)
労災保険では、非器質性障害により生じる労務・就労への支障の程度が評価対象ですが、自賠責保険では、日常生活への支障の程度が評価対象です。
すなわち、自賠責保険では、非器質性精神障害のため、日常生活において著しい支障が生じる場合は9級10号、日常生活において頻繁に支障が生じる場合は12級13号、日常生活において時々支障が生じる場合は14級9号に認定されます。
重篤な症状が残存する場合には、7級以上の認定がなされる可能性もあります。
自賠責保険の後遺障害等級の認定にあたり、主治医に提出を求める意見書(非器質性精神障害にかかる所見について)の内容は、次のようなものです。
このほか、精神症状や能力低下の状態について記載するようになっています。労災保険の場合と表現が異なるので、比較しやすいように両者を併記しておきます。
| 労災保険 | 自賠責保険 | |
|---|---|---|
| Ⅰ |
抑うつ状態 |
抑うつ状態 |
| Ⅱ |
不安の状態 |
躁状態 |
| Ⅲ |
意欲低下の状態 |
不安状態 |
| Ⅳ |
慢性化した幻覚・妄想性の状態 |
ストレス反応様症状 |
| Ⅴ |
記憶又は知的能力の障害 |
身体表現性症状・解離(転換)症状 |
| Ⅵ |
その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など) |
幻覚妄想症状 |
| Ⅶ |
その他 |
| 労災保険 | 自賠責保険 | |
|---|---|---|
| Ⅰ | 身辺日常生活 |
適切な食事摂取・身辺の清潔保持 |
| Ⅱ | 仕事・生活に積極性・関心を持つこと | 仕事、生活、家庭に関心を持つこと |
| Ⅲ | 通勤・勤務時間の遵守 | 仕事、生活、家庭で時間を守ることができる |
| Ⅳ | 普通に作業を持続すること | 仕事、生活、家庭において作業を持続することができる |
| Ⅴ | 他人との意思伝達 | 仕事、生活、家庭における他人との意思伝達 |
| Ⅵ | 対人関係・協調性 | 仕事、生活、家庭における対人関係・協調性 |
| Ⅶ | 身辺の安全保持、危機の回避 | 屋外での身辺の安全保持・危機対応 |
| Ⅷ | 困難・失敗への対応 | 仕事、生活、家庭における困難・失敗への対応 |
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以上のそれぞれの項目につき該当するものを1つ選択
|
以上のそれぞれの項目につき該当するものを1つ選択
|
自賠責保険の等級認定手続においては、診療医から事故の状況、受傷状況、精神障害発症の時期、精神科専門医受診に至る経緯、診断名等を調査し、精神科専門医を含む損害保険料率算出機構の審査会で全体状態を評価し、労災等級認定基準への当てはめを行いながら最終的に自賠責保険制度としての等級認定を行っています。
(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規188ページ、『交通事故医療法入門』勁草書房226ページ)
非器質性精神障害にはPTSDも含まれますが、後遺障害等級認定において診断名は参考程度にとどまります。PTSDであれば7級や9級といった比較的重度の後遺障害等級が認定されるわけではありません。診断名が何であろうと、あくまでも認定基準にもとづき、精神症状や能力低下の状態を評価し、後遺障害等級が認定されます。
非器質性精神障害の後遺障害認定においては、後遺障害診断書のほか、「非器質性精神障害にかかる所見について」という診療医の意見書が必要であり、認定基準を満たしていることを具体的に指摘する内容が重要です。ですから、非器質性精神障害は、自賠責保険に被害者請求すべき後遺障害といえます(⇒後遺障害等級の事前認定と被害者請求の違い)。
非器質性精神障害は、発症と事故との因果関係の有無や、残存する障害(精神症状)の程度を立証するのが難しいので、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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【参考文献】
・厚生労働省労働基準局長通知「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(基発第0808002号、平成15年8月8日)
・『労災補償障害認定必携 第17版』一般財団法人労災サポートセンター 140~182ページ
・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 178~216ページ
・『交通事故医療法入門』勁草書房218~241ページ