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    交通事故でPTSDを発症したときの損害賠償請求と裁判例
    かつて脳の器質的損傷を伴わない精神障害(非器質性精神障害)については、自賠責保険で後遺障害が認められても14級どまりであった中、PTSDの場合には、7級や9級という比較的重度の後遺障害等級を認める裁判例がありました。しかし、現在は、医師がPTSDと診断していても、裁判で診断基準を厳格に適用して判断するため、PTSDを否定する裁判例がほとんどです。ただし、PTSDが否定されたとしても、非器質性精神障害として後遺障害等級が認定される場合があります。PTSDを含む非器質性精神障害について、後遺障害等級が認められるためのポイントについて、裁判例の動向をふまえ解説します。PTSDとは?PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)は、米国においてベトナム戦争の帰還兵に見られる精神疾患をきっかけとして、精神医学の分野で認知された疾患とされています。日本では、「心的外傷後ストレス障害」または単に「外傷後ストレス障害」といわれ、1995年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件を契機に、マスコミでも取り上げられるようになりました。PTSDとは、生命が危険にさらされるような強烈な恐怖体験(外傷体験)によって心に大きな傷(トラウマ)を負い、フラッシュバック(再体験症状)等の症状が発生し、社会生活・日常生活に支障をきたす精神疾患です。PTSDは、非器質性精神障害(脳の器質的損傷を伴わない精神障害)の一種です。PTSDの診断基準PTSDの診断基準は 2つあります。これらは医学的診断基準ですが、損害賠償においてPTSD該当性を判断する場合にも重要です。米国精神医学会の「DSM-5」1つは、米国精神医学会のDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、日本語訳は「精神疾患の診断・統計マニュアル」)です。PTSDが初めて疾患概念として採り入れられた第3版(DSM-Ⅲ、1980年)以降、第4版(DSM-Ⅳ、1994年)、第4版修正版(DSM-Ⅳ-TR、2000年)、第5版(DSM-5、2013年)と改訂が重ねられてきました。第5版は、「DSM-Ⅴ」でなく「DSM-5」と表記されます。DSM-5では、従来のDSM-Ⅳ-TRにおいて「不安障害」の中に含まれていたPTSDや急性ストレス障害が、新たなカテゴリーとして分離独立し、トラウマやストレスフルな出来事への曝露を診断基準に明示している一連の疾患が「心的外傷およびストレス因関連障害群」とされました。PTSD、急性ストレス障害、適応障害などが含まれます。PTSDの診断基準は、外傷的出来事を要件とし、臨床症状として、再体験、回避、認知・感情変化、過覚醒が必要としています。A実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への曝露(外傷的体験)B心的外傷的出来事に関連した侵入症状の存在(再体験)C心的外傷的出来事に関連する刺激の回避(回避)D心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化(認知・感情変化)E心的外傷的出来事に関連した覚醒度と反応性の著しい変化(過覚醒)F障害(基準B、C、D、Eの症状)の1ヵ月以上の持続※DSM-5では、基準Aにおける心的外傷的出来事として、「重大な交通事故」が例示されています。曝露とは、体験や目撃のことです。基準を満たさない場合ストレスの原因となった出来事が基準Aに満たない場合や、基準Aを満たす出来事への反応が他の基準を満たしていない場合などは、「適応障害」とされます。心的外傷的出来事による症状が3日~1ヵ月間に限定されている場合は、「急性ストレス障害」とされます。世界保健機関(WHO)の「ICD-10」もう1つは、世界保健機関(WHO)のICD(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems、日本語訳は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」)です。ICD-10(第10版)で初めてPTSDを診断基準に加えました。日本国内で現在用いられているのはICD-10です。すでにICD-11(第11版)がWHOで2019年に採択され、2022年1月に発効しています。日本では2027年1月施行予定です。(総務省 第20回統計基準部会議事録より)ICD-10におけるPTSDの診断基準は、「ほとんど誰にでも大きな苦悩を引き起こすような、例外的に著しく驚異的な、あるいは破局的な性質をもった、ストレスの多い出来事あるいは状況(=トラウマ、心的外傷)」に遭遇した後、通常6ヵ月以内に、悪夢やフラッシュバックによる出来事の再体験、出来事を想起させる活動や状況の回避、過覚醒などの比較的典型的な症状が出現すること、とされています。心的外傷的出来事の例の1つとして、「激しい事故」が挙げられています。「DSM」と「ICD」のどちらの基準によるべきか?2つの診断基準は、双方の作成者が互いに密接に協力し、相互に影響を及ぼし合ったものであるとされ、共通する部分も少なくありません。ただ、最も重要なポイントとなる「A基準」に着目すると、DSM-5は、個人的生活レベルで経験しうる出来事によってもPTSDが生じる可能性を認めるように見えるのに対し、ICD-10は、通常の個人的生活レベルでは経験することが稀と思われる出来事への曝露が強調されているように見えます。そのため、DSM-5の方が基準が緩和されていると考えられ、交通事故でPTSDの存否が争われる場合には、往々にして、被害者側はDSM-5によるべきと主張し、加害者側はICD-10によるべきと主張する構図が見受けられるようです。なお、WHOが、加盟各国に対してICD-10によるべき旨を勧告しており、日本でもICD-10により判断すべきとの見解もあります。自賠責保険や労災保険では、非器質性精神障害の後遺障害等級の認定にあたって主治医から提出を求める意見書に記載する診断名は、ICD-10分類にもとづく診断名とされています。他方で、DSM診断基準の方が、次の3点で優っているとする指摘もあります(『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい72ページ)。DSM-Ⅳの定義は構成的であり、症状基準が具体的に示されているのに対し、ICD-10の定義は散文的で、症状基準はDSMと比べると曖昧で、個々の鑑定医の判断に任される余地が大きく、診断妥当性に問題を生じる可能性がより高い。DSM基準にもとづいた構造化面接法(決められた一定の質問形式による問診を行い症状を評価する面接法)は国際的に広く利用されているが、ICD基準による構造化面接法はない。日本を含め各国のPTSD臨床研究においては、ICD基準を使用した研究は例外的であり、ほとんどがDSM基準による診断を採用している。損害賠償認定においては、臨床研究の結果を判断材料として積極的に活用することが望まれるから、臨床研究と同じくDSM診断を採ることに利点がある。PTSDをめぐる裁判例の動向PTSDの発症を初めて認めた裁判例は、横浜地裁平成10年6月8日判決です。その後、PTSDの認定をめぐって裁判例が分かれる中で、PTSD裁判のターニングポイントとなったのが、診断基準を厳格に適用してPTSDを否定した東京地裁平成14年7月17日判決です。PTSDで後遺障害7級を認定した横浜地裁判決(平成10年6月8日)自賠責保険の認定基準では、非器質性精神障害が外傷性神経症として後遺障害等級14級の限度で認められるにとどまっていた時期に、この横浜地裁判決は、精神科医の鑑定結果を採用し、事故の外傷体験によって引き起こされた重症の心的外傷後ストレス障害であるとして、後遺障害等級7級4号に該当すると認定しました。さらに、脊柱に著しい運動障害を残す等級6級の後遺障害との併合4級として、労働能力喪失率92%、労働能力喪失期間43年間を認定したのです。この判決の後、PTSD発症を認め7級や9級といった比較的重度の後遺障害を認定する裁判例が現れます。PTSDを認容した裁判例この横浜地裁判決以降(東京地裁平成14年7月17日判決までの間)において、PTSDを認容した主な判決としては、次のものがあります。裁判例後遺障害労働能力喪失素因減額備考等級喪失率期間横浜地裁判決平成10年6月8日7級4号92%43年間1割減脊柱に著しい運動障害を残す第6級の後遺障害との併合4級大阪地裁判決平成11年2月25日7級4号56%10年間2割減大阪高裁判決平成13年3月27日9級10号35%7年間2割減上記大阪地裁判決の控訴審判決松山地裁宇和島支部判決平成13年7月12日7級4号56%13年間なしこうしたPTSDを認容した裁判例の多くは、診断基準(「DSM」や「ICD」)にもとづいて判断するのではなく、主治医の証言や診断書、鑑定意見を尊重して認定するものでした。もっとも、PTSDが争点となった裁判では、PTSDを否定する裁判例も多く、裁判例は分かれていました。PTSDを否定した東京地裁判決(平成14年7月17日)PTSD裁判のターニングポイントとなったのが、東京地裁平成14年7月17日判決です。この東京地裁判決は、精神科医によるPTSDの診断があったとしても、「治療を目的とする医師の診断」と「損害を算定する場合のPTSDであるか否かの判断」は異なり得るとして、「DSM-Ⅳ」と「ICD-10」の4要件を厳格に適用し、被害者の障害について、PTSDを否定し、外傷性神経症であるとして、後遺障害等級14級10号、労働能力喪失率5%(10年間)と認定しました。さらに、同一事故を体験した家族に同様の症状がみられないことから、被害者の心因反応を引き起こしやすい素因等の寄与を理由に、全損害から2割の減額を行いました。事案被害者Xは、父親の運転する車の後部座席に同乗中、センターオーバーしてきたY運転の自動車に正面衝突された事故により、頸椎捻挫等の傷害を負い、事故後、神経症状が残りPTSDと診断され、Yに対し、自賠法3条にもとづき損害賠償を求めた事案です。判示要旨DSM-ⅣもICD-10も……いずれも医学的診断基準であって損害賠償基準ではなく、PTSDと診断されたからといって後遺障害等級7級あるいは9級などの評価が直接導き出されるわけではない。目に見えない後遺障害の判断を客観的に行うためには、今のところ上記基準に依拠せざるを得ない。PTSDの判断にあたっては、DSM-Ⅳ及びICD-10の示す①自分又は他人が死ぬ又は重症を負うような外傷的な出来事を体験したこと、②外傷的な出来事が継続的に再体験されていること、③外傷と関連した刺激を持続的に回避すること、④持続的な覚醒亢進症状があること、という要件を厳格に適用していく必要がある。これを本件について検討するに……外傷体験の要件に該当しないだけではなく、ストレス反応の量と質が基準以上に大きいものであるとはいえず、Xの症状はPTSDには該当しない。Xの神経症状は……本件事故を契機として発生しており、本件事故に起因する心因反応として外傷性神経症と捉えるのが相当である。この判決以降、PTSDの発症が争われた場合には、DSMやICDの診断基準を厳格に適用し、PTSDについて慎重な判断を行うようになり、現在は、PTSDを否定する判決がほとんどです。東京地裁平成14年判決以降のPTSD裁判例裁判例後遺障害労働能力喪失素因減額備考等級喪失率期間東京地裁判決平成14年7月17日14級10号5%10年間2割減PTSD否定非器質性精神障害として認定大阪地裁判決平成20年1月23日12級相当14%10年間なしPTSD否定非器質性精神障害として認定横浜地裁判決平成20年2月15日9級10号35%10年間PTSDへのあてはめには意味がない非器質性精神障害として認定さいたま地裁判決平成22年9月24日9級10号45%12年間なしPTSD認定(加害者側はPTSDであるかどうかは争っていない)京都地裁判決平成23年4月15日11級相当20%10年間なしPTSD認定(PTSDの診断根拠に対する具体的な認定なし)東京高裁判決平成26年7月3日14級9号5%5年間なしPTSD否定非器質性精神障害として認定横浜地裁判決平成26年12月2日14級相当5%10年間なしPTSD否定非器質性精神障害として認定近時のPTSD裁判例の特徴東京地裁平成14年7月17日判決の後、同年10月11日の四庁協議会(東京地裁、大阪地裁、名古屋地裁、横浜地裁の協議会)において、基本的にこの東京地裁の判断手法が妥当という意見で一致し、これ以降、PTSDについて慎重な判断をするようになり、その結果、PTSDを否定する裁判例が主流になったとされています(『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい297ページ)。最近の裁判例には、診断基準の全要件について吟味せずに、A基準該当性、すなわち、PTSDが発症するような事故態様ではないことを否定の理由としているようなものが相当数みられるようです(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規206ページ)。PTSDを認定したものもありますが、加害者側が積極的に争っていない場合です。PTSDを否定した場合でも、事故態様、受傷内容、症状の推移、日常生活や就労への影響等をふまえて、非器質性精神障害として12級ないし14級とするものがあります。中には、そもそもPTSD要件への当てはめは、あまり意味がないとし、非器質性精神障害として後遺障害等級を認定した裁判例も見られます(横浜地裁平成20年2月15日判決)。横浜地裁平成20年2月15日判決被害者の精神症状(抑うつ状態、不安の状態、意欲低下の状態、慢性化した幻覚・妄想性の状態、記憶または知的能力の障害その他の衝動性の障害、不安定愁訴など)は、非器質性の精神障害であり、難治性と認められるが、軽快してきており一生続くものとは考え難いとして、後遺障害としては9級10号を認定。症状固定時から労働能力喪失率35%で10年間の逸失利益を認定しました。PTSDの主張については、「後遺障害認定は、後遺障害内容と程度を、診断名を参考としながら、適正な等級を認定するものであり、必ずしも要件内容の明らかでないPTSDへの当てはめは、あまり意味を有するものとは思われない。症状、経過、日常の生活状況から、実際の後遺障害による影響を認定して判断することをもって足りる」としました。医師がPTSDと診断していても裁判でPTSDを否定されるのはなぜ?上記の東京地裁平成14年7月17日判決以降、裁判では、PTSDの診断基準「DSM-Ⅳ」「ICD-10」に照らして被害者の症状を検討する手法が採られています。そのため、医師がPTSDと診断していても、裁判においてPTSDが否定されることがあります。これは、裁判所が医師の診断を否定するということではありません。患者の治療を目的とする医師の臨床的判断と、事実の真偽の解明を目的とする裁判所の法的判断では、同じ基準を適用しても、結論が異なる場合があり得るのです。医師の臨床的判断と裁判所の法的判断の違いPTSDは「死に比肩できる外傷体験」(A基準)の存在が重要な要件です。ただ、「死に比肩できる外傷体験」といっても、事故後に第三者が客観的に行う評価と、事故に遭遇した当事者の体験とでは、異なる場合があることは容易に想像できるでしょう。事故後の第三者による客観的判断としては「死に比肩できる外傷体験」といえなくても、被害者本人が「死ぬかもしれない」と感じ、事故後、精神状態の不安定が継続するような場合、当事者にとっては「死に比肩できる外傷体験」といえます。こういう場合は、治療の必要があると判断されるので、臨床上はこれをPTSDと診断します。他方、交通事故の損害賠償請求訴訟の場では、医学的にPTSDの診断が正しいかを検討するのではなく、あくまで法的にPTSDであるかどうか(すなわち、PTSDを前提とした賠償を認めるかどうか)という視点で検討します。同じ基準を適用したとしても、患者の治療を目的とする医師は、患者の主観に重きを置き、診断基準を緩やかに適用して広く認定する傾向がありますが、裁判においては、相手にいくら賠償請求できるかを検討するため、適正衡平な賠償を実現する観点からの検証が不可欠とされており、診断基準を厳格に適用した判断となります。したがって、医師の臨床上の診断と裁判所の法的判断は、同じ基準を適用したとしても、臨床上はPTSDと診断されたとしても、裁判所の法的判断ではPTSDが否定されるということがあり得るのです。司法場面でのDSM-5使用に関する注意書DSM-5の「司法場面でのDSM-5使用に関する注意書」には、「DSM-5……が司法的な目的に用いられるとき、診断に関する情報が誤用されたり誤解されたりする危険がある。この危険が生じるのは、法律上の究極の関心という問題と臨床診断に含まれる情報とが完全には一致しないためである。」(「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」25頁)と記載されているようです。(参考:『交通関係訴訟の実務』商事法務249ページ注28、『交通事故判例百選第5版』有斐閣125ページ)PTSD・非器質性精神障害の損害賠償請求のポイントPTSDについては、平成14年の東京地裁判決以降、診断基準(DSM・ICD)にもとづき厳格に判断する手法が裁判実務において確立し、PTSDを肯定する例は少なくなっています。他方、自賠責保険の後遺障害の認定実務では、平成15年に非器質性精神障害についての評価が見直され、それ以前は後遺障害が認められても14級どまりだったものが、認定基準の改正後は、原則として9級、12級、14級の3段階で認定されることになりました。重度の場合は、7級以上に認定されることがあるとされます。そのため、非器質性精神障害が事故の後遺障害として扱われることが珍しくなくなり、ことさらPTSDなのかどうかが意味を持たなくなっています(『新版 注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい220ページ)。PTSDの発症を主張する場合PTSDの認定において重要なのは、A基準に該当するといえるか、すなわち「極度に外傷的な出来事への曝露(体験、目撃等)があった」といえるか、です。PTSDを発症しているといえるためには、A基準に該当することが大前提です。そのうえで、外傷的な出来事の再体験(B基準)、外傷的な出来事と関連した刺激の持続的回避(C基準)、認知・気分の陰性の変化(D基準)、覚醒度と反応性の著しい変化(E基準)について主張・立証する必要があります。なお、PTSDが否定されても、それ以外の非器質性精神障害として後遺障害等級が認定されケースがありますから、PTSD該当性のみに主張を集中させることなく、その他の精神障害の可能性も視野に入れた主張・立証が重要です。裁判でPTSDが認められれば、当然に7級や9級といった重度の後遺障害が認定されるわけではありません。また、PTSDを否定されたとしても、残存している症状につき後遺障害等級が認定される場合もあります。傷病名がどうであろうと、結局は、事故との因果関係の有無、障害の程度評価、労働能力喪失期間の制限や素因減額が論点となります。事故との因果関係非器質性精神障害は、画像でははっきり分からず、客観性の高い検査も少ないため、発症や因果関係の有無が争われることが少なくありません。PTSD等の非器質性精神障害と事故との相当因果関係については、事故態様や事故の衝撃の大きさからうかがわれる被害者の心身に対する影響の程度受傷内容事故から症状発現までの期間専門医による診療経過既往症の有無被害者の精神に影響を与えている事故以外の要因の有無・程度などをふまえて判断します(大島眞一『改訂版 交通事故事件の実務―裁判官の視点―』新日本法規125ページ)。因果関係の認定においては、事故後まもなく症状が発現し、継続していることがポイントです。およそ6ヵ月以内に発症したことが1つの目安とされています。とはいえ、精神症状は、長期入院して退院後に発現することもあるし、職場復帰がうまくいかず悲観して症状が出始めることもあります。また、精神科医により発症が確認された時点が発症時点とは限りません。事故直後は怪我の治療が優先され、精神症状の発症に気づかないことや、身体の傷害による症状の一部として見過ごされることもあるからです。なので、症状や治療経過をふまえて慎重に発症時期を判断し、因果関係を主張・立証することが大切です。後遺障害等級の評価自賠責保険における非器質性精神障害の後遺障害等級評価は、労災の障害認定基準に準拠して行いますが、賃金労働者のほか、自営業者、家事従事者、無職者、未就労者なども対象となるため、労務や就労への支障よりも日常生活への支障が主な評価内容となります。非器質性精神障害の後遺障害等級の認定にあたっては、精神症状や能力低下の状態等について、主治医から意見を求めることになっており、この意見書の内容が重要です。自賠責保険における非器質性精神障害の後遺障害等級の評価について詳しくはこちらをご覧ください。また、裁判でPTSDと認定された事例では、比較的重度の後遺障害等級が認定される傾向があるとしても、PTSDだから重度の後遺障害が認められるというわけではありません。精神障害の程度について具体的に検証されますから、現実の障害の実情(日常生活の支障、助言・援助の要否と程度)について、具体的に主張・立証することが必要です。労働能力喪失期間の限定PTSDを含む非器質性精神障害は、身体的機能に障害はなく、「症状が重篤であっても将来において大幅に症状の改善する可能性が十分にあるという特質がある」(『労災補償障害認定必携』153~154ページ)とされています。そのため、非器質性精神障害による労働能力の喪失を認めても、労働能力喪失期間については、9級や12級の場合で10年程度、14級で3年または5年程度と限定する傾向が見られます。精神障害が長期化する可能性がある場合は、その旨の医師の意見書等を提出するなどして立証することが大切です。素因減額事故と非器質性精神障害との因果関係が認められた場合でも、被害者の症状の悪化について、事故以外の要因も影響していると考えられる場合には、素因減額されます。素因減額とは、身体的または心因的素因を理由として損害賠償額を減額することです。最高裁第一小法廷判決(昭和63年4月21日)身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害が加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、損害賠償額を定めるにつき、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる。PTSDが診断基準にしたがって認定されたときは、その診断基準において外傷的出来事を原因とすることが明らかなので、因果関係は100%認められてしかるべきであり、素因減額を考慮する余地もないことになります。裁判例では、PTSDと認めたうえで素因減額をしているものもあれば、していないものもありますが、素因減額をしている裁判例は、緩やかにPTSD該当性を認めたうえで、素因減額による調整を図るという手法を採ったものとみることができます。(『概説交通事故賠償法第3版』日本評論社362ページ)診断基準を緩やかに適用してPTSD該当性を認めた場合や、PTSDに該当しない非器質性精神障害の場合には、素因減額が行われる可能性があります。上記の最高裁判例によれば、素因減額は、①「その損害が加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるもの」であり、かつ、②「その損害の拡大にについて被害者の心因的要因が寄与している」という要件のもとになされるべきことになります。これをPTSDなど非器質性精神障害についていえば、診断基準にもとづき真にPTSDと判断される場合には、まさに異常な事態における「正常な」心因的反応であることから、素因減額を認めるべきでなく、そうでない場合には、「その損害が加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えるもの」である場合に限り、素因減額を認める余地があるということになります。PTSDの認定可能性が低い場合で、加害者側保険会社から素因減額の主張がなされる場合には、被害者側としては、「その損害が加害行為のみによって通常発生する程度、範囲を超えないもの」であり、「損害の拡大に心因的要因は寄与していない」ことの主張立証が必要です。具体的には、①事故が被害者の心身に与えた衝撃が強烈なものであり、被害者の精神障害がそのような事故により発生することが通常であるといえるものであること、②当該事故以前は、被害者にそのような精神障害が発現したことはないこと、③本件事故以外に被害者の精神障害が発症するようなストレスを生じる環境がないこと、などについて主張・立証が必要です。まとめPTSDは、診断基準にもとづき厳格に判断する手法が裁判実務において確立して以降、認容される例はごく少数です。また、PTSDが認められたからといって、ただちに後遺障害等級が認定されるわけではありません。PTSDを含め非器質性精神障害にもとづく損害賠償請求で大事なのは、事故態様、因果関係、発症時期、精神障害の程度、精神科医による診療経過等につき、具体的に主張・立証することです。ただし、PTSDなど非器質性精神障害は、事故との因果関係や精神障害の程度など立証が難しい障害ですから、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人ステラ へ弁護士法人ステラは、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績17,000件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。もちろん弁護士保険にも完全対応。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-221-274     ( 24時間・365日受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談予約フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※ 「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・厚生労働省労働基準局長通知「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(基発第0808002号、平成15年8月8日)・『労災補償障害認定必携 第17版』一般財団法人労災サポートセンター 140~182ページ・『概説 交通事故賠償法 第3版』日本評論社355~364ページ・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 183~189ページ・『被害者側弁護士のための交通賠償法実務』日本評論社 479~484ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい192~197ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 178~216ページ・『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい63~66ページ、69~82ページ・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい293~299ページ・『改訂版 交通事故事件の実務ー裁判官の視点ー』新日本法規124~125ページ・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房116~147ページ・『Q&A交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例』日本加除出版株式会社93~97ページ・『新版注解 交通損害賠償算定基準』ぎょうせい220~221ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房218~241ページ『後遺障害入門』青林書院120~140ページ・『交通事故損害賠償法第3版』弘文堂205~206ページ・『交通事故判例百選第5版』有斐閣124~125ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房137~139ページ・『交通関係訴訟の実務』商事法務245~250ページ・「交通損害関係訴訟補訂版』青林書院157~158ページ・『賠償科学 改訂版』民事法研究会202~258ページ
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    非器質性精神障害の後遺障害等級認定基準
    非器質性精神障害の後遺障害等級は、9級、12級、14級の3段階で評価されます。ただ、非器質性精神障害は、適切な治療を行えば完治するとされ、労働能力喪失期間が限定されるのが通常です。非器質性精神障害の後遺障害認定基準について、詳しく解説します。非器質性精神障害とは?非器質性精神障害とは、脳の障害の1つで、脳の器質的損傷を伴わない精神障害です。うつ病やPTSDなどが、その代表例です。脳外傷による器質的損傷がない場合でも、事故そのものや事故後のストレス(例えば、交通事故の恐怖、受傷や後遺障害による苦痛、それらに伴う不安など)によって、精神障害が発生することがあります。ちなみに、脳の器質的損傷が原因の障害は、精神の障害が高次脳機能障害(器質性精神障害)、身体機能の障害が身体性機能障害(神経系統の障害)というように区分されます。脳の障害器質性の障害非器質性の障害高次脳機能障害(器質性精神障害)身体性機能障害(神経系統の障害)非器質性精神障害労災保険における非器質性精神障害の障害等級認定基準自賠責保険における後遺障害等級の認定基準は、労災保険の障害等級認定基準に準拠していますから、まずは労災保険の認定基準から見ていきましょう。2003年(平成15年)に厚生労働省は、うつ病やPTSD等の精神障害の労災認定が増加傾向にあった中、業務上の非器質性精神障害の後遺障害一般に関して適用する基準を策定しました(平成15年8月8日付け厚生労働省労働局長通達「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」基発第0808002号)。これ以前は、外傷性神経症の認定基準のみ設けられ、後遺障害等級が認定されても14級どまりでしたが、この認定基準の改正により、非器質性精神障害は、原則として9級・12級・14級の3段階で障害等級を認定することになったのです。ただし、非器質性精神障害の特質として、「業務による心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合完治するのが一般的であり、完治しない場合でも症状がかなり軽快するのが一般的である」(平成15年8月8日付け通達)とされているため、労働能力喪失期間が限定されるのが通常です。それでは「精神の障害に関する障害等級認定基準」について詳しく見ていきましょう。なお、事故との因果関係が認められていることは大前提です。精神症状と事故との因果関係認定のポイントはこちらで説明しています。認定基準は、『労災補償障害認定必携第17版』及び平成15年8月8日付け厚生労働省労働局長通達「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」を参考にしています。後遺障害の認定非器質性精神障害の後遺障害が存しているというためには、以下の(a)の精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、(b)の能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることを要します。(a)精神症状(b)能力に関する判断項目抑うつ状態不安の状態意欲低下の状態慢性化した幻覚・妄想性の状態記憶又は知的能力の障害その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)身辺日常生活仕事・生活に積極性・関心を持つこと通勤・勤務時間の遵守普通に作業を持続すること他人との意思伝達対人関係・協調性身辺の安全保持、危機の回避困難・失敗への対応精神症状の具体的な状態、判断項目ごとの能力評価の要点については、次のようになっています。精神症状の内容(a)精神症状内容①抑うつ状態持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂うつである、希望がない、絶望的である等)、何をするのもおっくうになる(おっくう感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態である。②不安の状態全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態である。③意欲低下の状態すべてのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態である。④慢性化した幻覚・妄想性の状態自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が異常に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態である。⑤記憶又は知的能力の障害非器質性の記憶障害としては、解離性(心因性)健忘がある。自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態である。非器質性の知的能力の障害としては、解離性(心因性)障害の場合がある。日常身辺生活は普通にしているのに改めて質問すると、自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をするような状態(ガンザー症候群、仮性痴呆)である。⑥その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)その他の障害には、上記①から⑤に分類できない症状、多動(落ち着きの無さ)、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴などがある。能力評価の要点(b)判断項目評価の要点①身辺日常生活入浴をすることや更衣をすることなど清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるか。食事・入浴・更衣以外の動作については、特筆すべき事項がある場合には加味して判定。②仕事・生活に積極性・関心を持つこと仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否か。③通勤・勤務時間の遵守規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうか。④普通に作業を持続すること就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうか。⑤他人との意思伝達職場において上司・同僚等に対して発言を自主的にできるか等他人とのコミュニケーションが適切にできるか。⑥対人関係・協調性職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等。⑦身辺の安全保持、危機の回避職場における危険等から適切に身を守れるかどうか。⑧困難・失敗への対応職場において新たな業務上のストレスを受けたとき、ひどく緊張したり、混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるか。障害の程度に応じた認定非器質性精神障害の後遺障害等級は、次の3段階に区分して認定します。労災障害認定基準等級非器質性精神障害の等級認定基準第9級の7の2通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの就労している者または就労の意欲のある者の場合判断項目のうち②~⑧のいずれか1つの能力が失われているもの、または、判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの(例)非器質性精神障害のため、「対人業務につけない」ことによる職種制限が認められる場合就労意欲の低下または欠落により就労していない者の場合身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの第12級の12通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの就労している者または就労の意欲のある者の場合判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの(例)非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労にあたりかなりの配慮が必要である」場合就労意欲の低下または欠落により就労していない者の場合身辺日常生活を適切または概ねできるもの第14級の9通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの(例)非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労にあたり多少の配慮が必要である」場合重い症状を残している者の治ゆの判断等重い症状を有している者(判断項目のうち①の能力が失われている者または判断項目のうち②~⑧のいずれか2つ以上の能力が失われている者)については、非器質性精神障害の特質上症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合であっても、原則として療養を継続することとなります。ただし、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、治ゆの状態にあるものとし、障害等級を認定することとなります。なお、その場合の障害等級の認定は本認定基準によらずに、個別に検討し、障害の程度を踏まえて認定することとなります。※ 2つの注意事項が記載されています。非器質性精神障害については、症状が重篤であっても将来において大幅に症状の改善する可能性が十分にあるという特質がある。業務による心理的負荷を原因とする非器質性精神障害は、業務による心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合概ね半年~1年、長くても2~3年の治療により完治するのが一般的であって、業務に支障の出るような後遺症状を残すケースは少なく、障害を残した場合においても各種の日常生活動作がかなりの程度でき、一定の就労が可能となる程度以上に症状がよくなるのが通常である。主治医に対する意見照会非器質性精神障害の後遺障害等級認定にあたっては、主治医に対して、所定の様式により「障害の状態の詳細についての意見を求める必要がある」とされています。主治医から提出してもらう意見書(非器質性精神障害の後遺障害の状態に関する意見書)の主な内容は、次のようなものです。障害の原因となった傷病名初診時所見(主訴・症状)障害と関係があると考えられる生活史・既存障害等発病から現在までの病歴及び治療の経過、内容、その他参考となる事項就労の状況(就労している 就労していない 不明)このほか、精神症状の状態について、「(a)の精神状態」の6項目につき、該当する状態を選択し、その程度・症状を具体的に記載するようになっています。抑うつ状態(1憂うつ気分 2 思考・行動の制止 3 その他)不安の状態(1 恐怖 2 脅迫 3 心気性 4 その他)意欲低下の状態(1 関心・自発性の低下 2 その他)慢性化した幻覚・妄想性の状態(1 幻覚 2 妄想 3 その他)記憶又は知的能力の障害(1 記銘・追想障害 2 仮性認知症 3 その他)その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)(1 多動 2 衝動行動 3 焦燥感 4 その他)さらに、就労意欲の状態について、「1.概ね正常 2.意欲低下 3.欠落」の3段階で評価し、能力低下の状態について、「(b)能力に関する判断項目」の8項目につき、それぞれ「1.適切又は概ねできる 2.時に助言・援助が必要 3.しばしば助言・援助が必要 4.できない」の4段階で評価するようになっています。後遺障害等級の評価方法主治医から提出された意見書を参考に、認定基準の当てはめを行い、原則として9級、12級、14級に格付けします。14級にも該当しない場合は、非該当となります。ごく大まかにいえば、こうです。 抑うつ状態、不安の状態、意欲低下の状態、慢性化した幻覚・妄想性の状態、記憶又は知的能力の障害、その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)といった「精神症状」が残った場合には、身辺日常生活など8つの「能力に関する判断項目」について、 「できない、しばしば助言・援助が必要、時に助言・援助が必要、適切又は概ねできる」の4段階についての判定結果を踏まえて、障害等級(9級・12級・14級)を認定します。重篤な症状が残存する場合非常にまれに「持続的な人格変化」を認めるという重篤な症状が残存することがあることから、9級を超える等級認定を行う場合も予定されていますが、基準化はされていません。「人格変化」を認める場合とは、著しく調和を欠く態度と行動異常行動は持続的かつ長期間にわたって認められ、エピソード的ではない異常行動は広範にわたり、広い範囲の個人的社会的状況に対して非適応的である通常、職業、社会生活の遂行上重大な障害を伴うという要件を満たすことが必要とされており、こうした状態はほとんど永続的に継続するものと考えられ、このようなケースが、7級以上の認定をするケースとして想定されているようです。自賠責保険における非器質性精神障害の後遺障害等級認定自賠責保険における後遺障害等級認定は、労災保険の障害等級認定基準に準拠して行われますが、自賠責保険と労災保険では、補償対象となる被災者群が異なります。交通事故の被害者群には、賃金労働者だけでなく、自営業者、家事従事者、無職者、未就労者なども含まれます。そのため、後遺障害の等級認定基準の表現や手続が、労災保険と自賠責保険とでは異なる部分があります。自賠責保険における後遺障害等級の評価後遺障害等級評価の判定の目安として、次のような参考例が示されています。後遺障害等級評価の判定の目安等級労災障害認定基準の表現自賠責保険の参考例9級通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの(9級の7の2)非器質性精神障害のため、日常生活において著しい支障が生じる場合(9級10号)12級通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの(12級の12)非器質性精神障害のため、日常生活において頻繁に支障が生じる場合(12級13号)14級通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの(14級の9)概ね日常生活は可能であるが、非器質性精神障害のため、日常生活において時々支障が生じる場合(14級9号)(非器質性精神障害の等級評価の参考例は、『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規188~189ページ)労災保険では、非器質性障害により生じる労務・就労への支障の程度が評価対象ですが、自賠責保険では、日常生活への支障の程度が評価対象です。すなわち、自賠責保険では、非器質性精神障害のため、日常生活において著しい支障が生じる場合は9級10号、日常生活において頻繁に支障が生じる場合は12級13号、日常生活において時々支障が生じる場合は14級9号に認定されます。重篤な症状が残存する場合には、7級以上の認定がなされる可能性もあります。主治医に対する意見照会の内容自賠責保険の後遺障害等級の認定にあたり、主治医に提出を求める意見書(非器質性精神障害にかかる所見について)の内容は、次のようなものです。診断名発症から受診までの経緯初診時所見事故状況・身体的受傷状況に関する患者申告交通事故と精神疾患との関連を示す所見精神疾患に影響を与えていると考えられる、その他の要因症状固定時における診断名治療経過臨床検査(心理検査等)交通事故と残存症状との関連を示す所見残存症状に影響を与えていると考えられる、その他の要因症状固定日症状固定と判断した根拠予後される今後の経過(症状改善の見込み等)このほか、精神症状や能力低下の状態について記載するようになっています。労災保険の場合と表現が異なるので、比較しやすいように両者を併記しておきます。精神症状労災保険自賠責保険Ⅰ抑うつ状態1憂うつ気分 2 思考・行動の制止 3 その他抑うつ状態1 抑うつ気分 2 思考停止 3 行動制止 4 自殺念慮 5 自殺企図 6 その他Ⅱ不安の状態1 恐怖 2 脅迫 3 心気性 4 その他躁状態1 爽快気分 2 易怒性 3 行為心迫 4 観念奔逸 5 誇大性 6 その他Ⅲ意欲低下の状態1 関心・自発性の低下 2 その他不安状態1 不安・焦燥 2 恐怖症状 3 脅迫症状 4 その他Ⅳ慢性化した幻覚・妄想性の状態1 幻覚 2 妄想 3 その他ストレス反応様症状1 侵入的回想 2 回避 3 感情の鈍化 4 過覚醒 5 その他Ⅴ記憶又は知的能力の障害1 記銘・追想障害 2 仮性認知症 3 その他身体表現性症状・解離(転換)症状1 身体症状へのとらわれ・訴え 2 疾病恐怖 3解離(転換)症状 4 その他Ⅵその他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)1 多動 2 衝動行動 3 焦燥感 4 その他幻覚妄想症状1 幻覚 2 妄想 3 思考過程の障害 4 著しい奇異な行為 5 その他Ⅶその他1 不眠 2 記憶障害 3 知的能力の障害 4 その他能力低下の状態労災保険自賠責保険Ⅰ身辺日常生活適切な食事摂取・身辺の清潔保持(本人の一人暮らしを想定)Ⅱ仕事・生活に積極性・関心を持つこと仕事、生活、家庭に関心を持つことⅢ通勤・勤務時間の遵守仕事、生活、家庭で時間を守ることができるⅣ普通に作業を持続すること仕事、生活、家庭において作業を持続することができるⅤ他人との意思伝達仕事、生活、家庭における他人との意思伝達Ⅵ対人関係・協調性仕事、生活、家庭における対人関係・協調性Ⅶ身辺の安全保持、危機の回避屋外での身辺の安全保持・危機対応Ⅷ困難・失敗への対応仕事、生活、家庭における困難・失敗への対応以上のそれぞれの項目につき該当するものを1つ選択適切又は概ねできる時に助言・援助が必要しばしば助言・援助が必要できない以上のそれぞれの項目につき該当するものを1つ選択適切または概ねできる時々助言・援助が必要ひんぱんに助言・援助が必要できない後遺障害等級の評価方法自賠責保険の等級認定手続においては、診療医から事故の状況、受傷状況、精神障害発症の時期、精神科専門医受診に至る経緯、診断名等を調査し、精神科専門医を含む損害保険料率算出機構の審査会で全体状態を評価し、労災等級認定基準への当てはめを行いながら最終的に自賠責保険制度としての等級認定を行っています。(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規188ページ、『交通事故医療法入門』勁草書房226ページ)まとめ非器質性精神障害にはPTSDも含まれますが、後遺障害等級認定において診断名は参考程度にとどまります。PTSDであれば7級や9級といった比較的重度の後遺障害等級が認定されるわけではありません。診断名が何であろうと、あくまでも認定基準にもとづき、精神症状や能力低下の状態を評価し、後遺障害等級が認定されます。非器質性精神障害の後遺障害認定においては、後遺障害診断書のほか、「非器質性精神障害にかかる所見について」という診療医の意見書が必要であり、認定基準を満たしていることを具体的に指摘する内容が重要です。ですから、非器質性精神障害は、自賠責保険に被害者請求すべき後遺障害といえます(⇒後遺障害等級の事前認定と被害者請求の違い)。非器質性精神障害は、発症と事故との因果関係の有無や、残存する障害(精神症状)の程度を立証するのが難しいので、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人ステラ へ弁護士法人ステラは、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績17,000件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。もちろん弁護士保険にも完全対応。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-221-274     ( 24時間・365日受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談予約フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※ 「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・厚生労働省労働基準局長通知「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」(基発第0808002号、平成15年8月8日)・『労災補償障害認定必携 第17版』一般財団法人労災サポートセンター 140~182ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 178~216ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房218~241ページ
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