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自賠法(自動車損害賠償保障法)において、損害賠償の責任主体は運行供用者で、自賠責保険の被保険者は自動車の保有者と運転者です。
ここでは、自賠法における運行供用者・保有者・運転者・被保険者の関係と違いを見ていきましょう。
自賠法は、人身事故の損害賠償責任について、次のように定めています。
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。
「自己のために自動車を運行の用に供する者」を運行供用者といいます。自賠法では、運行供用者が、損害賠償の責任主体です。事故を起こした運転者でなく、運行供用者に損害賠償責任があります。
もっとも、運転者が運行供用者という場合もあり、マイカーの事故は、たいてい運転者と運行供用者が同一です。この場合、運転者が運行供用者として、自賠法3条の損害賠償責任を負います。
「自己のために」とは、自動車の使用についての支配権と、その使用により享受する利益とが、自己に帰属することを意味します。運行供用者の判断基準についてはこちらをご覧ください。
運転者については、自賠法で次のように定義しています。
この法律で「運転者」とは、他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者をいう。
一般的には、自動車のハンドルを操作する者を運転者と呼びますが、自賠法では「他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者」を運転者と定義しています。
自賠法の定める運転者は、他人のために運転する者ですから、自己のために自動車を運行の用に供する運行供用者には当たりません。したがって、自賠法3条の運行供用者責任を負いません。
ただし、事故を起こした当事者として過失があれば、民法709条の不法行為による損害賠償責任を負います。
なお、自己のために運転する一般的な意味での運転者は、自賠法では運行供用者に分類されます。自分の車を自分で運転する場合はもちろん、人の車を借りて運転する場合も、無断運転や泥棒運転であっても、自己のために運転する運転者は、運行供用者です。
つまり、自賠法における運転者とは、通常の運転者の概念から、運行供用者を除外し、運転補助者を加えたものといえます。
自賠法でいう運転者・運転補助者とは、次のような人です。
運転者 | 自動車の所有者との雇用関係にもとづき運転している者、委任関係にもとづき運転している者など。 |
---|---|
運転補助者 | クレーン車の玉掛作業者、車掌、工事車両の誘導者など。 |
例えば、運送会社の従業員が、配送業務のため会社所有のトラックを運転中に事故を起こした場合、運送会社は運行供用者として自賠法3条の運行供用者責任を負い、従業員は運転者として民法709条の不法行為責任を負います。
保有者については、自賠法で次のように定義しています。
この法律で「保有者」とは、自動車の所有者その他自動車を使用する権利を有する者で、自己のために自動車を運行の用に供するものをいう。
保有者としての要件は、①自動車を使用する権利を有する者、②自己のために自動車を運行の用に供するものです。この2つの要件を両方とも満たすのが保有者です。
使用する権利とは、法律上の正当な権限に基づく使用権を意味します。所有権に基づくもの、使用貸借契約や賃貸借契約に基づくもの、委任契約に基づくものなどがあります。
したがって、所有者や所有者の許諾を得て使用する者など、正当な権限に基づき使用する者が保有者に該当し、所有者の許諾なく不正に使用する者(無断運転者・泥棒運転者)は保有者に該当しません。
「自己のために」とは、自動車の使用についての支配権と、その使用により享受する利益とが、自己に帰属することを意味します。
これは自賠法3条の運行供用者と同義ですから、運行供用者であることが、保有者のもう1つの要件ということになります。
自賠法の定める運転者は「他人のために」運転しますから、保有者に該当しません。
つまり、保有者とは、運行供用者のうち、自動車を使用する正当な権限を有する者といえます。
保有者は、自賠責保険の被保険者の範囲を定めるものとして重要です。
責任保険の契約は、第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生した場合において、これによる保有者の損害及び運転者もその被害者に対して損害賠償の責任を負うべきときのこれによる運転者の損害を保険会社がてん補することを約し、保険契約者が保険会社に保険料を支払うことを約することによつて、その効力を生ずる。
(※自賠責共済については、第2項で同様に規定されています。)
自賠責保険から保険金が支払われるのは、保有者に運行供用者責任(自賠法3条による損害賠償責任)が生じた場合です。
自賠法の定める自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者です。
保有者は、運行供用者責任を負うことが一般的であるため、被保険者として法定されています。
運転者は、運行供用者ではないため、自賠法3条の運行供用者責任を負うことはありませんが、直接の加害者として不法行為責任(民法709条)を負うことが想定されるため、被保険者として法定されています。
なお、運転者は、保有者が運行供用者責任を負う場合に被保険者となるのであって、運転者が単独で被保険者となることはありません。
保有者でない運行供用者、すなわち、自動車を不正に使用した者に損害賠償責任が生じても、自賠責保険から保険金は支払われません。
この場合、被害者は政府保障事業に損害の填補を請求することになります。
自賠法における運行供用者・保有者・運転者・被保険者の関係をまとめると、次のようになります。
運転者 |
自賠責保険の被保険者 | |
運行供用者 |
保有者 |
|
自動車を不正に使用した者 |
自己のために自動車を運行の用に供する運行供用者と、他人のために自動車を運転または運転補助する運転者に、大きく分かれます。
運行供用者は、自動車を正当に使用する権利を有する者(=保有者)と、不正に使用した者に分かれます。
保有者に運行供用者責任(運行供用者としての損害賠償責任)が発生したときに、自賠責保険金が支払われます。自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者です。
人身事故を起こした相手が自動車を不正に使用していた場合、相手は「運行供用者」ではありますが「保有者」ではないため、自賠責保険から保険金(損害賠償額)は支払われません。こういう場合は、被害者は政府保障事業に損害の填補を請求することができます。
自賠法では、運行供用者が損害賠償責任を負い、自動車の保有者に損害賠償責任が発生したときに、自賠責保険から保険金が支払われます。
自賠責保険の被保険者は、保有者と運転者です。自賠法に定める運転者は、通常の運転者の概念と異なり、他人のために運転または運転補助に従事する者のことで、運行供用者には当たりません。
保有者でない運行供用者に賠償責任が発生しても、自賠責保険から保険金は支払われません。この場合、被害者が、政府保障事業に損害の填補を請求することになります。
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【参考文献】
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 10~13ページ
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 63~66ページ
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 41~44ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 29ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 3~12ページ
・『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 57~59ページ、71ページ
・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 16~19ページ、126~128ページ
・『交通事故事件対応のための保険の基本と実務』学陽書房 83~87ページ