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「止まっている自動車に責任はない」といわれることがありますが、それは誤りです。駐停車の態様が事故を引き起こす一因となっている場合は、責任を負います。
相手の車が動いていなかったとしても、その車両の運行起因性(事故が駐停車車両の運行によって生じたこと)が認められれば、自賠法上の責任を問えます。違法駐車の場合には、運行起因性が認められやすい傾向があります。
運行起因性が認められない場合でも、駐停車車両の存在と事故発生との間に相当因果関係があれば、駐車車両の運転者は、民法上の損害賠償責任を負います。
なお、駐停車車両の側の責任が認められた場合でも、たいてい駐停車車両に衝突した側にも前方不注視などの過失が認められ、過失相殺により損害賠償額が減額されます。
※ここに記載しているのは一般論ですので、具体的な事案については、弁護士にご相談ください。
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さらに詳しく見ていきましょう。
なお、ここでは、駐停車が、自賠法の「自動車の運行によって」の規定に該当するか否か、すなわち、駐停車車両の側が自賠法上の運行供用者責任を負うか、を中心に見ていきます。
仮に、自賠法上の責任は負わなくても、駐停車車両を管理する責任のある者は、何らかの過失が認められ、駐停車車両の存在が事故の一因となった場合には、民法上の不法行為責任を免れることはできません。
自賠法(自動車損害賠償保障法)は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命・身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と定めています(自賠法3条)。
自賠法上の損害賠償責任(運行供用者責任といいます)を負うのは、自動車の「運行によって」人を死傷させたときです。
したがって、駐停車車両の側に自賠法上の責任を問うには、駐停車が自賠法の規定する「運行」に当たるか、さらに、駐停車(=運行)と事故との間に相当因果関係があるか(運行起因性が認められるか)がポイントです。
駐停車が「運行」に当たるか否かは、走行との時間的・場所的な関連性、駐停車の目的等から、当該駐停車が前後の走行と一体といえるか、によって判断されます。
近時は、走行と一体性・連続性のある駐停車は、運行自体に含まれると解する裁判例が一般的となっています(『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂15ページ)。
すなわち、
したがって、駐停車が禁止されている道路上に駐停車していた場合は、「運行」に当たるといえます。
駐停車禁止場所への駐停車は、違法状態の解消が法的に義務付けられるので、違法駐停車車両をその場所から移動させなければなりません。
つまり、駐停車禁止場所への駐停車は一時的なものであって、速やかに走行することが予定されていると解されます。走行と一体性・連続性のある駐停車となりますから、違法駐停車は「運行」に当たるといえるのです。
よくある例として、翌朝走行するつもりで深夜に違法駐車していた場合は、運行と解されています。
他方で、長期に渡り放置され、もはや不法投棄としかいえないような駐車車両(駐車といるのかすら問題となる状態)の場合は、運行と解することはできないでしょう。
駐停車が「運行」に該当するとしても、駐停車と事故発生の間に相当因果関係がなければ、駐停車車両の「運行によって」生じた事故とはいえず、自賠法上の運行供用者責任を問うことはできません。
例えば、バイクで走行中に転倒して道路を滑走し、駐車していた車両に2次衝突したような場合は、たとえ駐車車両が違法駐車で「運行」に該当するとしても、駐車と事故発生との相当因果関係は否定されることがあります。
このような場合は、「運行によって」生じた事故といえず、駐停車車両の運行供用者責任を問うことはできません。
駐停車が「運行」に当たるというだけでなく、あくまで駐停車と事故との相当因果関係が必要です。
運行の概念について、現在の通説・判例は「固有装置説」ですが、駐停車車両の存在による事故は、何らかの装置を使用中に生じたものではないので、固有装置説による説明には馴染みにくい事故類型です。
そのため、走行との時間的・場所的関連性、近接性、駐車目的などから、前後の走行行為と一体として「運行」に該当するかどうかが判断されています。
近時は「固有危険性具体化説」が有力です。事故当時の状況、事故の性質・内容等を考慮し、駐停車によって事故発生の危険性を高め、現に事故が発生したのであれば、駐停車中の事故も自動車固有の危険性が具体化した事故として、すなわち「運行によって」生じた事故として、説明することができます。
駐停車車両の存在による事故の主な態様としては、次の4つがあります。
①の駐停車車両への追突事故の場合は、駐停車車両の運行起因性が認められることが多いのですが、その他の②~④の場合は、駐停車と事故との相当因果関係が問題となることが多くあります。
「自動車が道路上に駐車している場合も運行状態にあたると解すべき」(東京高裁判決・昭和51年6月28日)であるとして、道路上への違法駐停車の場合、駐停車していた自動車の運転者等に運行供用者責任を認める裁判例は多くあります。
夜間、大井コンテナ埠頭付近の道路上に、牽引車両を切り離して駐車されていたトレーラー(コンテナ積載用台車)の後部に、普通乗用自動車が衝突した事故です。
本件道路が終日駐車禁止である上、駐車の方法はできる限り道路の左側に沿い、他の交通の妨害とならないようにし、夜間の駐車については、車幅灯、尾灯、その他の灯火を付けなければならないのにもかかわらず、本件トレーラーの運転者はこれらの義務を怠り、夜間、灯火を付けることなく、片側5車線の道路のセンターラインから2車線目にできていたトレーラーの駐車列の最後尾に本件トレーラーを駐車し、交通の危険を増大させたとして、トレーラー運転者の過失を認め、その使用者に対し民法715条に基づく使用者責任を認めました。
また、翌日には再び牽引車両を接続し運行される予定であったことから、この駐車はなお運行中の一態様と解すべきとし、トレーラーの所有者に対しては、自賠法3条にいう運行に当たると解し、同条に基づく責任(運行供用者責任)を認めました。
なお、被害車両の運転者には、制限速度の時速50㎞を20㎞超える時速70㎞で走行した過失と前方不注視の過失があったとし、過失相殺3割としました(被害車両運転者の過失3割)。
(参考:判例タイムズ№925号269ページ)
駐車禁止の片側3車線の道路で自動二輪車が急ブレーキをかけ、転倒した運転者が道路を滑走し、この道路上の第1車線(左側車線)に駐車していた普通乗用自動車に衝突して死亡した事故です。
この駐車車両は結果的に7時間にわたって事故現場に駐車されており、駐車禁止場所であること等を考慮すれば、車両を長時間放置するという趣旨ではなく、一時的な駐車にとどまり、運転を再開することが予定されていたものと認められ、なお運行状態にあったものと認められるとして、車両の駐車は運行に当たるとしました。過失相殺8割。
違法駐車車両に対する衝突であっても、2次衝突であった場合に、駐停車と事故との相当因果関係を否定した事例があります。駐停車と事故との相当因果関係が必要です。
片側2車線道路の交差点付近で自転車と大型自動二輪車が衝突し、自動二輪車の運転者が違法駐車車両に2次衝突した事故です。
本件事故について具体的な危険を作出していない違法駐車車両に、たまたま事故車両に2次衝突されたからといって責任を負わせることは結果責任を認めるに等しく、不法行為責任発生の前提としての行為と結果との間に相当因果関係を要求する不法行為の原則に反するとし、相当因果関係を否定しました。
パトカーの追尾を免れるため高速走行した自動二輪車がカーブを曲がり切れずに転倒して滑走し、駐車中の普通乗用車に衝突した事故です。
本件事故は自動二輪車の運転手の一方的な過失によって発生したものというべきとし、駐車と本件事故の発生との間には相当因果関係を認めることができないとしました。
駐停車車両の存在が関与する事故には、駐停車車両とは衝突・接触しなかったとしても、駐停車車両を回避しようとして対向車と衝突したり(回避型)、駐停車車両の存在が障害となり見通しが悪く事故を起こしたり(遮蔽型)する場合もあります。
こうした非接触事故(駐停車車両との関係で非接触)では、駐停車と事故との相当因果関係の有無が問題となります。
このような場合は、駐停車車両が惹起せた危険が、事故の発生に相当な関与をしているかどうかで判断します。すなわち、道路交通法に違反する駐停車方法であり、駐停車の場所、時間帯、駐停車の継続時間などの要素を総合的に判断することになります。
道路脇に違法駐車していた貨物車両を避けるために道路中央付近を走行してきた普通乗用自動車と対向してきた自動二輪車が衝突し、自動二輪車の同乗者が負傷した事故です。
道路上に駐停車中の自動車は他の車両等の円滑な交通の妨げとなってその交通上の危険を多少とも増大せしめるものであるが、道路の状況、夜間における駐車灯点灯の有無等の駐車の態様によっては、走行中の自動車に劣らない違憲性を有することがある点を考え合わせると、被告車の本件駐車は運行に当たるというべきである、としました。
交通整理の行われていない交差点において、自動車と自転車の出会い頭の衝突事故の際、別の貨物車両が交差点直前の駐車禁止場所に道路中央近くまで塞ぐように違法駐車していた事案です。
交差点の直前での駐車禁止場所における違法駐車は、走行中の自動車に劣らない危険性を有することがあることを勘案すると、本件貨物車両の駐車は運行に当たると解するのが相当である、としました。
駐停車車両の責任を問うには、自賠法の運行供用者責任と民法の不法行為責任がります。
自賠法上の運行供用者責任は、事故が、その自動車の「運行によって」起きたと認められる場合に発生します。したがって、駐停車車両の運行供用者責任を問うには、事故が、その駐停車車両の運行によって生じたといえなければなりません。
運行起因性が否定され、運行供用者責任が認められず、自賠法上の責任を負わなくても、そのような場所に駐停車させると事故を誘発することが予見でき、現実に駐停車車両の存在と事故発生との間に相当因果関係が認められるのであれば、民法上の不法行為責任を免れることはできません。
なお、駐停車車両の関与する事故で、駐停車車両の自賠法上の責任や民法上の責任が認められる場合であっても、被害車両にも前方不注視等の過失が認められることが多く、その場合には過失相殺により、損害賠償額が減額されます。
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【参考文献】
・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 15~16ページ
・『交通事故事件の実務-裁判官の視点-』新日本法規 27~28ページ
・『Q&A新自動車保険相談』ぎょうせい 26~30ページ
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 54~55ページ
・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 250~251ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 77~79ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 111~112ページ
・『交通事故判例百選 第5版』有斐閣 24~27ページ
・『実務家が陥りやすい交通事故事件の落とし穴』新日本法規 21~25ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 24~27ページ