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    労働能力喪失率とは?労働能力喪失率表の由来と問題点
    ここでは、労働能力喪失率とは何か、そもそも労働能力とは何をいうのか、労働能力の喪失率はどのように決められているのか、さらに、労働能力喪失率を判定するのに用いられる「労働能力喪失率表」の由来と問題点について解説します。労働能力喪失率とは?労働能力喪失率とは、交通事故の後遺障害のために、事故前と比べて「労働能力」が低下した割合のことです。後遺障害逸失利益の算定に用います。ここでいう労働能力とは、一般的な平均的労働能力をいい、被害者の年齢・職種・知識・経験などの職業能力的諸条件については、障害の程度を決定する要素とはなっていません。(『労災補償障害認定必携第17版』一般財団法人労災サポートセンター70ページ)労働能力喪失率は、どのように決まるのか?労働能力喪失率は、該当する後遺障害等級に応じて決まります。自賠責支払基準の「別表Ⅰ 労働能力喪失率表」において、各後遺障害等級に対応する労働能力喪失率が定められており、自賠責保険では、後遺障害等級が決まれば、それに応じて労働能力喪失率も決まる仕組みです。労働能力喪失率表とは?労働能力喪失率表とは、次のようなものです。自賠責支払基準の「別表Ⅰ」より抜粋しておきます。介護を要する後遺障害(自賠法施行令別表第1)の場合等級労働能力喪失率第1級100/100第2級100/100後遺障害(自賠法施行令別表第2)の場合等級労働能力喪失率第1級100/100第2級100/100第3級100/100第4級92/100第5級79/100第6級67/100第7級56/100第8級45/100第9級35/100第10級27/100第11級20/100第12級14/100第13級9/100第14級5/100なお、この労働能力喪失率表の数値(労働能力喪失率)には、科学的根拠はないといわれています。この数値になった理由については、あとで説明します。労働能力喪失率表の由来自賠責保険の労働能力喪失率表には、「労働基準局長通牒 昭32.7.2基発第551号による」という但し書きが付いている場合があります。例えば、こちらの国土交通省のWebサイトに掲載している労働能力喪失率表です。自賠責保険の運用は労災保険に準じて行われており、労働能力喪失率は、昭和32年7月2日労働基準局長通牒(基発第551号)で示された労働能力喪失率表にもとづき判定されます。そもそも労働能力喪失率表とは、労災保険の第三者行為災害の事案で、保険者である国が、第三者(加害者)に求償するにあたり、代位の対象となる「被災者が加害者に対して有する損害賠償請求債権額」の目安をつけるためのものです。第三者行為災害の場合、労災保険の保険者である政府は、保険給付をすると、被災労働者が第三者(加害者)に対して有する損害賠償請求権を代位・取得し、その第三者に対して求償請求を行うことになります(労災法12条の4)。労働者災害補償保険法第12条の4第1項政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。この求償額は、①保険給付額の範囲で、かつ②被災労働者が加害者に対して有する損害賠償請求債権額が限度となります。問題は、①の保険給付額は明らかであっても、②の「被災労働者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額」が、裁判所の判断を待たなければ確定せず、保険給付額をそのまま求償請求したのでは妥当性を確保できない、ということです。そのため、「被災者が加害者に対して有する損害賠償請求権の額」を算出する目安が必要となります。そこで、国(旧労働省)は、事務取扱の便をはかり行政取扱いを統一化するために、「被災者が加害者に対して有する損害賠償請求権の範囲」や「賠償額の算定方法」などについて、基準を定めて各都道府県労働基準局長あて通達しました。それが、昭和32年7月2日基発第551号労働基準局長通牒で、この中で労働能力喪失率表が示されたのです。その意味で、労働能力喪失率表は、民事損害賠償実務を前提とした「国としての損害算定基準」という性格をもつことになり、さらに、国の示した基準という性格上、一定の信頼性があるとの考えから、裁判における損害算定にも採用されるようになったのです。労働能力喪失率表の数値の意味労働能力喪失率表の労働能力喪失率は、第4級が92%、第5級が79%、第6級が67%、第7級が56%・・・となっており、何らかの意味がありそうな数値です。どのような経緯で、この数値になったのでしょうか?労働能力喪失率表は、労働基準法77条所定の労働災害の障害補償に関する別表「身体障害等級及び災害補償表」にもとづいて作成されたものです。労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)の中で、労働能力喪失率については、労働基準法の「身体障害等級及び災害補償表」にもとづき、各障害等級の後遺障害につき障害補償日数を10分の1にしてパーセントを附し、かつ第3級以上をすべて100%としたものを「労働能力喪失率表」と称して用いるとしています(『現代損害賠償法講座7』日本評論社200ページ)。詳しく見ていきましょう。労働基準法77条は、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない」と定めています。ここでいう別表第二が、「身体障害等級及び災害補償表」です。身体障害等級及び災害補償表等級災害補償第1級1340日分第2級1190日分第3級1050日分第4級920日分第5級790日分第6級670日分第7級560日分第8級450日分第9級350日分第10級270日分第11級200日分第12級140日分第13級90日分第14級50日分これと労働能力喪失率をあわせて1つの表にまとめると、こうなります。等級給付日数労働能力喪失率第1級1340日100/100第2級1190日100/100第3級1050日100/100第4級920日92/100第5級790日79/100第6級670日67/100第7級560日56/100第8級450日45/100第9級350日35/100第10級270日27/100第11級200日20/100第12級140日14/100第13級90日9/100第14級50日5/100この表を見れば分かるように、労働能力喪失率表の4級以下の喪失率は、障害補償の給付日数を10で割った数値が、喪失率のパーセンテージと一致するのです。第3級以上が労働能力喪失率100%となっているのは、「終身労務不能」を第3級としているからです。障害等級表では、第3級の3が「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」、第3級の4が「胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」と規定しています。そのため第3級が労働能力喪失率100%となり、これより上の第1級と第2級は、100%を超える喪失率はあり得ないので、労働能力喪失率100%としているのです。このことから、労働能力喪失率は、保険給付額からの単純な逆算であり、後遺障害と労働能力喪失率についての科学的な検討をふまえて定められたものではない、といわれています。とはいえ、全く何らの科学的検討も経ないで決められたものともいえません。現行労災補償における等級評価体系の基礎となった過去の障害等級表作成過程において、労働能力喪失率についての一定の検討がなされており、あながち非科学的なものとはいえない、との指摘もあります。現行の労災給付額は、昭和6年制定の労働者災害扶助法施行令別表に逢着する。これは内務省社会局労働部において医学専門家をも交えて、鉄道共済会の公傷給付査定標準(大正8年制定)、官営八幡製鉄所共済組合の公傷病等差規程(大正11年制定)等を資料として検討した結果に基づくもので、現在の労働能力喪失率表は、100%以上の積極損害部分を捨象すれば、ほぼ昭和初年に考えられた労働能力喪失割合とさほどの差はないことになるから、むしろこれは一応の科学的検討を経て出されたものと評価すべきものであろう。(加藤和夫「後遺症における逸失利益の算定」『現代損害賠償法講座(7)』日本評論社199~201ページ)東京地裁民事27部(交通専門部)の判事も、労働能力喪失率表の数値は、「ただちに科学性・合理性を積極的に認めることができないとしても、実際に事件を担当していると『当たらずとも遠からず』という感じのする事例が多いことも事実」と話しています(『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい34ページ)。裁判における労働能力喪失率表の取扱い現在の民事損害賠償実務においても、この旧労働省の発した通牒で示された労働能力喪失率表を使っていますが、そもそも労働能力喪失率表は、労災保険手続き上の基準を示した通達にすぎず、民事損害賠償の権利義務に関して法的効力を持ちません。したがって、現実の裁判実務では、労働能力喪失率表の数値を参考にしつつも、適宜数値を調整して損害算定する例もみられます。東京地裁民事27部の河邉義典判事は、講演の中で、「他に代わるべき客観的な基準がない現状においては、判断の客観性、統一性を確保するため、第一次的には喪失率表を参考にするのが妥当であると思われるが、喪失率表の定める喪失率が後遺障害の実情に合致しない場合にまで、画一的、定型的に喪失率表にしたがう必要はない」と話しています。(東京三弁護士会交通事故処理委員会編集『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい34ページ)東京地裁民事27部(交通部)における炉王道能力喪失率表の取扱い東京地裁民事27部(交通部)では、次のように取り扱っています。後遺障害等級が認定されると、通常は、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率を認めているが、労働能力の低下の程度については、労働能力喪失率表を参考としながら、被害者の職業、年齢、性別、後遺障害の部位・程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して、具体的に評価することとなる。(「東京地裁民事27部における民事交通訴訟の実務について」別冊判例タイムズ3815ページ)裁判では被害者の具体的事情を考慮裁判でも基本的に自賠責の判断した労働能力喪失率が尊重されますが、その労働能力喪失率が適当でない場合は、個別事情を考慮して、修正した労働能力喪失率が認定されます。最高裁は、「労働能力喪失表にもとづく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できる」と判示しています。事案は、小学校教諭を退職後、ピアノと書道の家庭教師として各家庭に出張教授し、毎月5万円の収入を得ていた男性が、交通事故に遭い、右膝関節屈曲障害(労災等級9級(喪失率35%)または10級(喪失率27%)該当)により、正座はもちろん、ピアノのペダルを踏むことも困難となり、家庭教師を辞めたというものです。原判決が90%の労働能力喪失率を認定したところ、加害者側から、喪失率表に従わずに労働能力喪失率を認定したのは、法的安定性を破るものであるとして、上告したものです。最高裁は、この上告に対し、次のように述べ、90%の労働能力喪失率を認めた原判決の判断を是認し、上告を棄却しました。最高裁判所第二小法廷 昭和48年11月16日 判決交通事故による傷害のため、労働能力の喪失・減退を来たしたことを理由として、得べかりし利益の喪失による損害を算定するにあたって、上告人の援用する労働能力喪失率表が有力な資料となることは否定できない。しかし、損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものであるから、被害者の職業と傷害の具体的状況により、同表に基づく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できることはいうまでもない。労働能力喪失の実態について適切な立証を行うことにより、喪失率表所定の喪失率よりも高い労働能力喪失率を認めた判決も少なくありません。まとめ後遺障害によって労働能力がどの程度失われるのかという労働能力喪失率は、自賠責保険制度においては、後遺障害等級が認定されれば、その等級に対応した労働能力喪失率が認められます。ただし、後遺障害等級に対応する労働能力喪失率を定めた労働能力喪失率表は、科学的根拠のあるものではなく、しかも労災保険手続上の基準を示した通達において示されたものにすぎません。したがって、労働能力喪失率表は、民事損害賠償実務において法的拘束力を持つものではありませんから、労働能力喪失率表により導かれる労働能力喪失率が、後遺障害の実情に合致しない場合には労働能力喪失率表に従う必要はありません。労働能力喪失率表を参考としながら、被害者の職業、年齢、後遺症の部位・程度などから総合的に判断し、具体的に評価することが大切です。労働能力喪失率をどう判断するかは、後遺障害逸失利益の算定において難しいところなので、交通事故の後遺障害に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『新・現代損害賠償法講座 5交通事故』日本評論社137~166ページ・『現代損害賠償法講座7』日本評論社187~214ページ・『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい31~38ページ、169~174ページ・『別冊判例タイムズ38』15ページ・『労災補償障害認定必携』一般財団法人労災サポートセンター69~70ページ
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  • 外貌醜状
    外貌醜状の後遺障害等級、労働能力喪失率、逸失利益、慰謝料
    外貌醜状とは、顔面や頸部など日常露出する部位に醜状痕が残った後遺障害です。外貌醜状障害による逸失利益は、被害者の性別、年齢、職業などを考慮し、労働能力に直接または間接的に影響を及ぼすおそれがあるか否かで判断されます。逸失利益が認定されなくても、慰謝料の増額事由として斟酌される場合があります。ここでは、外貌醜状の後遺障害等級とその認定基準、外貌醜状による後遺障害逸失利益と慰謝料の認定について近年の動向を見ていきます。醜状障害の後遺障害等級と認定基準交通事故により外貌の醜状障害が残った場合の後遺障害等級については、2010年までは女性と男性で異なる取り扱いがされていました。女性の方が、後遺障害等級の位置づけが高かったのです。現在は、男女の区別なく、同じ後遺障害等級となっています。2010年6月10日以降の事故については、新しい後遺障害等級と認定基準が適用されます。それでは、さっそく「新基準」を見ていきましょう。顔面などの醜状痕(醜状障害)の後遺障害等級まず、醜状痕の後遺障害等級についてです。醜状痕の後遺障害等級は、「外貌の醜状障害」と「上肢・下肢の露出面の醜状障害」について定めています。外貌とは、頭部、顔面部、頸部のように、上肢・下肢以外の日常露出する部分をいう、と障害等級認定基準において定められています。上肢の露出面とは、ひじ関節以下(手部を含む)、下肢の露出面とは、ひざ関節以下(足背部を含む)をいいいます。後遺障害等級は、次の通りです。醜状障害の後遺障害等級等級後遺障害外貌7級12号外貌に著しい醜状を残すもの9級16号外貌に相当程度の醜状を残すもの12級14号外貌に醜状を残すもの上肢14級4号上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの下肢14級5号下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの※後遺障害等級表(自動車損害賠償保障法施行令[別表第二])より抜粋。各等級の労働能力喪失率は、次のようになります。労働能力喪失率後遺障害等級労働能力喪失率第7級56%第9級35%第12級14%第14級5%※労働能力喪失率表(自賠責の保険金支払基準[別表1]より抜粋。醜状障害については、後遺障害等級が認定されても、それに対応した労働能力喪失率が認められない、したがって逸失利益が認められない、という問題があります。それについては、あとで詳しく見ることにして、後遺障害の各等級の認定基準、すなわち、「著しい醜状」、「相当程度の醜状」、単なる「醜状」とは、どういうものをいうのか、見ておきましょう。外貌醜状障害に関する後遺障害等級の認定基準「著しい醜状」、「相当程度の醜状」、単なる「醜状」については、「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準」で、次のようになっています。ここに示したのは、労災保険における障害等級認定基準ですが、自賠責保険の後遺障害等級認定基準も、これと同じです。自賠責制度は、労災制度に準じて運用されています。したがって、自賠責の後遺障害等級表は、労災の障害等級表と基本的に同じです。自賠責制度における後遺障害等級の判断は、原則として労災制度の障害等級認定基準に準拠して行われます。著しい醜状外貌における「著しい醜状を残すもの」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のもの。頭部手のひら大以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損顔面部鶏卵大面以上の瘢痕または10円銅貨大以上の組織陥没頸部手のひら大以上の瘢痕※「手のひら大」は、指の部分は含まない。相当程度の醜状外貌における「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5㎝以上の線状痕で、人目につく程度以上のもの。醜状外貌における単なる「醜状」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のもの。頭部鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損顔面部10円銅貨大以上の瘢痕または長さ3㎝以上の線状痕頸部鶏卵大面以上の瘢痕障害補償の対象となる外貌の醜状は、人目につく程度以上のものでなければならないから、眉毛、頭髪等にかくれる部分については、醜状として取り扱わないとされています。例えば、眉毛の走行に一致して3.5㎝の縫合創痕があり、そのうち1.5㎝が眉毛にかくれている場合は、顔面に残った線状痕は2㎝となるので、外貌の醜状には該当しないことになります。外貌醜状に関する障害等級の認定基準まとめると、こうなります。頭部顔面部頸部瘢痕頭蓋骨の欠損瘢痕線状痕組織陥没瘢痕第7級12号(著しい醜状)手のひら大以上手のひら大以上鶏卵大面以上―10円銅貨大以上手のひら大以上第9級16号(相当程度の醜状)―――長さ5㎝以上――第12級14号(醜状)鶏卵大面以上鶏卵大面以上10円銅貨大以上長さ3㎝以上―鶏卵大面以上【参考】「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準について」平成23年2月1日 厚生労働省労働基準局長通知(厚生労働省のWebサイトにリンクしています)外貌醜状障害に関する後遺障害等級の改正外貌醜状障害に関する後遺障害等級が改正された経緯を簡単に見ておきましょう。外貌の醜状障害は、従来、女性は7級と12級、男性は12級と14級に分類され、男性は女性より障害等級が低く取り扱われていました。ちなみに、旧基準では、このように分類されていました。第7級12号 女性のの外貌に著しい醜状を残すもの第12級13号 男性の外貌に著しい醜状を残すもの14号 女性の外貌に醜状を残すもの第14級10号 男性の外貌に醜状を残すもの京都地裁が、2010年(平成22年)5月27日、「外貌の著しい醜状に関し、男女の障害等級に5等級の差を設けている現行の障害等級表は、憲法14条1項に違反する」と判決。国は控訴しなかったため、同平成22年6月10日に判決が確定しました。これを受けて、厚生労働省は、労災保険の「障害等級表」と「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準」を改正しました(平成23年2月1日)。自賠責保険の後遺障害等級認定は労災保険に準拠していることから、自賠責保険においても同様に、自賠法施行令の後遺障害等級表を改正しました(平成23年5月2日)。新基準の適用は、平成22年6月10日以降に発生した事故からです。醜状障害は労働能力喪失が否定され逸失利益が認められない?外貌の醜状障害は、それによって身体的機能が損なわれるわけではないため、労働能力の喪失が否定され、逸失利益が認められないことがほとんどでした。しかし、今は、状況が変わってきています。外貌の醜状障害に関する裁判実務での取り扱い従来、外貌の醜状障害による労働能力の喪失について、裁判所では、次のように取扱われてきました。被害者の性別、年齢、職業等を考慮した上で、<直接的に影響する場合>醜状痕の存在のために配置転換させられたり、職業選択の幅が狭められたりするなどの形で、労働能力に直接的な影響を及ぼすおそれのある場合には、一定割合の労働能力の喪失を肯定して逸失利益を認める。<直接的な影響はないが、間接的に影響する場合>労働能力への直接的な影響は認めがたいが、対人関係や対外的な活動に消極的になるなどの形で、間接的に労働能力に影響を及ぼすおそれが認められる場合には、後遺障害慰謝料の加算事由として考慮し、100万~200万円の幅で後遺障害慰謝料を増額する。<直接的にも間接的にも影響しない場合>直接的にも間接的にも労働能力に影響を与えないと考えられる場合には、逸失利益は認められず、慰謝料も基準通りとして増額しない。(参考:東京三弁護士会交通事故処理委員会編『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい 9ページ)つまり、醜状障害の内容・程度と被害者の職業との相関関係により、直接的に労働能力に影響が生じるおそれがある場合には、制限的に逸失利益を認め、間接的な影響にとどまる場合は、慰謝料の増額で調整してきたのです。実際、醜状障害の逸失利益が認められるのは、被害者がモデルなど容姿が仕事の有無・内容に直結する職業に就いていた場合ぐらいでした。それ以外の職業では、現実に転職・配転・減収があったり、就職・転職において支障が生じた場合などに、仮に労働能力の喪失が認められても、労働能力喪失表の喪失率の半分以下の喪失率が認定されるにすぎず、その代わりに慰謝料の増額調整が行われてきたのです。ですが、今は、醜状障害が、直接的に労働能力に影響を与える場合だけでなく、間接的に影響を及ぼす場合にも、労働能力の喪失を認める方向に変わっています。つまり、外貌の醜状障害による逸失利益が認められるようになってきているのです。上で紹介したように、労災保険の障害等級表を違憲とした京都地裁の判決が確定したのを受けて、厚生労働省は、「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会」を開催。外貌障害による障害等級の見直しを行いました。専門検討会が取りまとめた報告書(2010年12月1日)の中の「障害を評価する観点」には、こうあります。外ぼうの障害自体は、稼得能力(労働能力)の直接の喪失をもたらすものではない。しかしながら、外ぼうの障害が、現状はもちろん将来にわたる就業制限、職種制限、失業、職業上の適格性の喪失等の不利益をもたらし、結果として労働者の稼得能力を低下させることは明らかであり、労災保険法の趣旨が業務上又は通勤による稼得能力(労働能力)の永続的な低下、すなわち労働能力の喪失のてん補であることからみると、当該不利益の特殊性にも着目して障害の評価を行うことが妥当である。(「外ぼう障害に係る障害等級の見直しに関する専門検討会報告書」4ページ)時を同じくして、『赤い本』2011年版に、「外貌の醜状障害による逸失利益に関する近時の裁判実務上の取扱について」という、鈴木尚久裁判官の講演録が掲載されます。そこでは、外貌がその者の印象を大きく左右する要素であることを指摘し、こう述べられています。醜状障害が、円満な対人関係を構築し円滑な意思疎通を実現する上での阻害要因となるのは容易に理解されるところであり、この点こそ醜状障害によって喪失する労働能力の実質と考えられます。すなわち、醜状障害では、労働能力を伝統的な肉体的・機械的な観点のみから把握するのではなく、このような対人関係円滑化の観点からも把握する必要があると考えられます。労働能力を対人関係円滑化の観点からも把握するとすれば、被害者が実際に従事する労務を遂行する上で醜状障害が全く影響しない職業というのはおよそ考えられません。どちらも、外貌の醜状障害が労働能力へ及ぼす直接的な影響だけでなく、間接的な影響も重視する方向性が示されています。まだ裁判実務に明確な変化が生じたと一概にいうことはできないものの、今後は、労働能力に対する間接的な影響による逸失利益を認める傾向が強まり、慰謝料で斟酌する方式は例外的なものになっていくだろう、と考えられています。裁判例従来の裁判実務の取扱いによれば、労働能力に対する間接的影響として慰謝料で斟酌するにとどめていたと思われる事例で、逸失利益を認める例が出てきています。東京高裁判決(平成23年10月26日)被害者は女性・21歳・大学生外貌醜状7級を含む併合5級の事案につき、原告の年齢等からすれば、こうした外貌醜状によって職業・稼働に対する一層の制約が生じ、収入が減少することは十分考えられるから、労働能力の喪失がないとはいえず、労働能力喪失は5級に相当する79%とみるのが相当とした一審判決を支持しました。名古屋地裁判決(平成24年11月27日)被害者は女子・10歳・小学生外貌醜状12級の事案につき、今後の進路ないし職業の選択、就業等において、不利益な扱いを受ける蓋然性は否定できず、また原告が醜状痕を気にして消極的になる可能性をも考慮すると、障害にわたりその労働能力を5%喪失したものと認めるのが相当としました。さいたま地裁判決(平成27年4月16日)被害者は男性・39歳(症状固定時41歳)・自動車運転手外貌醜状9級を含む併合9級の事案につき、職業のいかんを問わず、外貌醜状があるときは、原則として当該後遺障害等級に相応する労働能力の喪失があるというのが相当であり、当該後遺障害等級の定める労働能力の喪失を否定するような特段の事情があるとまでいえないから、併合9級相当の35%の労働能力喪失があるものというのが相当とし、症状固定の41歳から67歳までの27年間について、逸失利益を認定しました。上肢・下肢の露出面の醜状障害外貌の醜状障害のほか、上肢・下肢の露出面の醜状障害が、後遺障害等級14級に位置づけられています。上肢・下肢の醜状障害による労働能力の喪失の判断についても、基本的に、外貌の醜状障害の場合と同じですが、その部位などから、労働能力の喪失が否定されるケースがほとんどです。労働能力喪失期間外貌醜状障害は、器質的障害で、経年による回復、改善があまり期待できません。そのため、労働能力喪失期間については、就労可能期間の終期とされる67歳までとすることが多いようです。ただし、将来の配置転換や転職の可能性があって、それにより労働能力に与える影響が緩和する可能性がある場合や、年齢によって業務の内容が変わり、その影響が変わる場合などは、それに応じた労働能力喪失期間の限定や、労働能力喪失率の逓減が加えられる場合もあります。旧別表7級12号に該当する顔面醜状が残存したホステス(20歳)につき、ホステスを継続することが困難となり、転職して収入が半分以下になったことを考慮し、症状固定時(22歳)から35歳までの13年間は、事故時の収入を基礎に56%の労働能力の喪失を認め、その後の67歳までの32年間は、女子平均賃金を基礎に25%の労働能力の喪失を認めました。(名古屋地裁判決・平成21年8月28日)醜状障害による労働能力喪失の認定で大事なこととは?醜状障害による労働能力への影響を認定する重要な要素は、醜状障害の内容・程度と、被害者の職業特性・業務内容、性別、年齢です。醜状障害の内容・程度醜状障害の内容・程度については、後遺障害等級該当性の簡単な主張にとどまらず、醜状痕の位置、頭髪などで隠れる度合い、他者に与える印象も含めて、具体的に主張・立証することが必要です。被害者の就業状況と業務への影響被害者の就業状況と、外貌醜状による業務への影響について、具体的に主張・立証する必要があります。業務に与える具体的な影響については、モデルなど容姿が直接影響する職業であるか、接客業務の割合、被害者の精神面による間接的な影響などを主張します。特に、醜状痕の残存のために、現実に転職・配転・減収があったとか、就職・転職に支障があったなど、すでに具体的に生じている影響があれば、労働能力の喪失が認定される可能性が高くなります。経緯などを主張・立証することが重要です。他の障害との併合による労働能力の喪失他の神経症状などの障害と併せて労働能力喪失を認定されることもあるので、それらの障害と外貌醜状が関連する状況について主張することも大事です。外貌の醜状障害は比較的高額な慰謝料が認められる外貌の醜状障害は、比較的高い後遺障害等級に位置づけられていますが、逸失利益の認定に消極的な傾向があるため、慰謝料の増額で調整されてきました。特に女性の場合は、財産上の損害以外の社会生活上の不利益も大きいことから、比較的高額な慰謝料を認める事例があります。未婚か既婚か、若年者か成人か高齢者か、などによっても慰謝料額に差がみられるのが普通です。一般的には、既婚より未婚、高齢者より若年者の方が、外貌醜状によって受ける精神的苦痛の程度が大きく、苦痛の期間も長くなるため、慰謝料額は高くなる傾向にあります。ただし、今後は逸失利益を認めるケースが増え、従来のように、逸失利益を否定する代わりに慰謝料を増額して調整する方式は少なくなることが考えられます。とはいえ、逸失利益の算定が困難な事案や、慰謝料の算定で諸般の事情を斟酌する方式が適切な事案では、引き続き慰謝料による補完性が重要な意味を持つことに変わりありません。まとめ外貌醜状障害は、それ自体が労働能力の直接的な喪失をもたらすものではないため、特定の職業を除き、逸失利益は否定され、その代わりに慰謝料の増額で調整する方法が採られてきました。しかし、今後は、労働能力への直接的な影響だけでなく、間接的な影響も考慮して労働能力の喪失を判断する方向性が示されています。逸失利益が認められるケースが増えてくることが考えられます。外貌醜状障害については、労働能力への直接的な影響だけでなく、対人関係が円滑でなくなったことによる間接的な影響という観点からも、労働能力の喪失を具体的に主張・立証することが大切です。まさに今、裁判例が変化しているときですから、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 127~128ページ・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 185~186ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 176~180ページ・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 164~165ページ・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 191~196ページ・『交通事故事件処理の道標』日本加除出版株式会社 147ページ・『l交通損害関係訴訟 増訂版』青林書院 165~166ページ・『交通事故判例140』学陽書房 209~210ページ・『交通事故事件の実務』新日本法規 80ページ・『交通事故事件の落とし穴』新日本法規 102~107ページ・『交通関係訴訟の実務』商事法務 201~206ページ・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 147~155ページ、194~199ページ
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