所有権留保車両やリース車両の損害賠償請求権は誰にある?

所有権留保車両やリース車両の損害賠償請求権は誰にある?

所有権留保車両やリース車両など所有者と使用者が異なる車両が交通事故で損傷した場合、修理費、買替差額、評価損、代車料などの損害賠償請求権は、車両の所有者にあるのか?使用者にあるのか?

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交通事故で車両が損傷した場合の損害賠償請求権は、車両の所有者にあります。車両の所有者と使用者が異なる場合、使用者が加害者に対し、損害賠償請求することはできるのでしょうか?

 

問題となりやすい「所有権留保車両」や「リース車両」の場合について、詳しく見ていきましょう。

 

車両の所有者と使用者が異なる場合の損害賠償請求権

所有権留保車両(ローンで購入した車両)、リース車両(リース契約の車両)の場合は、車両の所有者と使用者が次のように分離します。

 

所有者 使用者
所有権留保車両 売主・信販会社 買主
リース車両 リース会社 ユーザー

 

被害車両の所有者は、加害者に対し、車両損害の賠償請求権を取得します。問題となるのは、所有権留保車両やリース車両の使用者にも、車両損害の賠償請求権が認められるのか、ということです。

 

車両使用者の損害賠償請求権については、損害費目(修理費、買替差額、評価損など)ごとに判断します。具体的に見ていく前に、基本的な考え方を押さえておきましょう。

 

基本的な考え方

物には、交換価値と使用価値があります。それゆえ物損には、交換価値の損害と使用価値の損害があります。

 

交換価値の損害については、所有者に損害賠償請求権があり、使用価値の損害に関しては、使用者に損害賠償請求権があります。

 

物損 賠償請求権者
交換価値の損害 所有者
使用価値の損害 使用者

 

所有権留保車両の場合、リース車両の場合、それぞれ具体的に見ていきましょう。

「所有権留保車両」の損害賠償請求権

まず、所有権留保車両の場合です。そもそも、所有権留保とは何か、押さえておきましょう。

 

自動車を売買すれば、その所有権は、売主から買主に移転します。オートローンで自動車を購入する場合、自動車は売主から買主に引き渡されますが、代金が完済されるまでは、売主(ディーラー・信販会社)が車両の所有権を留保します。このような売買契約を「所有権留保付売買契約」といいます。

 

所有権留保の法的性質

売主が所有権を留保するのは、万が一、買主が代金を払えなくなったときに、自動車を売却して残代金の回収を図るためです。

 

買主は、所有権はなくても、代金を分割で支払うことで、先に自動車の占有・使用が認められます。代金の支払いが完了すれば、所有権を取得できます。

 

つまり、所有権留保には、次のような法的性質があります。

  • 売主の留保所有権は、実質的には担保の性質を有するものです。
  • 自動車を占有・使用する権能は買主にあり、売主にはありません。
  • 買主が債務不履行によって期限の利益を喪失した場合は、売主は車両を占有・処分する権能を有します。
  • 買主が代金を完済すれば、買主は所有権を取得します。

期限の利益とは、期限が到来するまでは弁済しなくてもよいということです。契約通り支払いを履行しないと期限の利益を喪失し、一括弁済できないときは担保権が実行されます。

 

所有権留保の法的性質についての最高裁判例

所有権留保の法的性質に関しては、次のような最高裁判例があります。

 

事案は、駐車場の所有者が、駐車場賃貸借契約解除後も自動車が駐車されていたため、所有権を留保している信販会社に対し、自動車の撤去・駐車場の明渡しを求めるとともに、駐車場の使用料相当損害金の支払いを求めたものです。

 

最高裁第三小法廷判決要旨(平成21年3月10日)

動産の購入代金を立替払した者が、立替金債務の担保として当該動産の所有権を留保する場合において、買主との契約上、期限の利益喪失による残債務全額の弁済期の到来前は当該動産を占有、使用する権原を有せず、その経過後は買主から当該動産の引渡しを受け、これを売却してその代金を残債務の弁済に充当することができるとされているときは、所有権を留保した者は、第三者の土地上に存在してその土地所有権の行使を妨害している当該動産について、上記弁済期が到来するまでは、特段の事情がない限り、撤去義務や不法行為責任を負うことはないが、上記弁済期が経過した後は、留保された所有権が担保権の性質を有するからといって撤去義務や不法行為責任を免れることはない。

 

このように、留保所有権は、完全な所有権ではなく、形式的な所有権です。所有権といっても、留保所有権は、車両を占有・使用する権原はなく、実質的には担保権の性質を有するものにすぎないのです。

 

それでは、損害費目ごとに、車両の使用者に損害賠償請求権が認められるか、見ていきましょう。

 

修理費

所有権留保車両の修理費は、使用者(買主)が損害賠償請求できます。

 

使用者(買主)は、所有権留保者を排除して自動車を占有使用できる一方、所有権者に対し、車両の修理保守を行い担保価値を維持する義務を負っています。

 

したがって、車両の損壊は、使用者に対する不法行為(利用権の侵害)に該当し、車両の使用者は、加害者に対して修理費相当額を損害賠償請求できるとされています。

 

使用者が車両を修理し、修理費を支払い済みの場合は、所有者は実質的に修理費相当額の賠償を受けたといえるので、民法422条(損害賠償による代位)の類推適用により、使用者は、所有者が加害者に対し有していた修理費相当額の損害賠償請求権を代位取得すると考えられます。

 

使用者が未修理で修理費を支払っていないときに修理費を請求する場合は、自らが修理し費用を負担する予定があることを主張立証する必要があります。

 

未修理でも修理費の損害賠償請求は可能とした裁判例

被害車両の修理が完了しておらす、修理費を支払っていなくても、使用者が修理費の賠償請求をすることが可能とした、次のような裁判例があります。

 

東京地裁判決(平成26年11月25日)

留保所有権は、担保権としての性質を有し、所有者は車両の交換価値を把握しているにとどまるから、使用者は、所有者に対する立替金債務の期限の利益を喪失しない限り、所有者による車両の占有、使用権限を排除して自ら車両を占有使用することができる。

 

使用者はこのような固有の権利を有し、車両が損壊されれば、前記の排他的占有、使用権限が害される上、所有権者に対し、車両の修理保守を行い、担保価値を維持する義務を負っている。

 

したがって、所有権留保車両の損壊は、使用者に対する不法行為に該当し、使用者は加害者に対し、物理的損壊を回復するために必要な修理費用相当額の損害賠償を請求することができ、請求にあたり修理の完了を必要とすべき理由はない

 

買替差額費

所有権留保車両が全損(物理的全損・経済的全損)となった場合は、車両の交換価値に対する賠償ですから、損害賠償請求権は、留保所有権者に帰属します。

 

物理的全損の場合

物理的全損の場合は、交換価値が完全に失われたと考えられるので、交換価値を把握する所有者が損害賠償を請求でき、交換価値を把握しない使用者は、損害賠償を求めることはできないとされています。

 

ただし、事故後に、車両代金が完済された場合には、使用者(買主)は、留保所有権者が有する買替差額賠償請求権を代位取得し、行使できます。

 

これについては、次のような裁判例があります。

 

東京地裁判決(平成2年3月13日)

所有権留保売買において、代金完済前に車両が第三者の不法行為により毀損した場合、車両の交換価値相当の損害賠償請求権を取得するのは留保所有権者である売主とした上で、次のように述べています。

 

買主は、第三者の不法行為により右自動車の所有権が滅失するに至っても売買代金の支払債務を免れるわけではなく(民法534条1項)、また、売買代金を完済するときは右自動車を取得しうるとの期待権を有していたものというべきであるから、右買主は、第三者の不法行為後において、売主に対して売買代金の支払いをし、代金を完済するに至ったときには、本来右期待権がその内容の通り現実化し右自動車の所有権を取得しうる立場にあったものであるから、民法536条2項但し書及び304条の類推適用により、売主が右自動車の所有権の変形物として取得した第三者に対する損害賠償請求権及びこれについての不法行為の日からの民法所定の遅延損害金を当然に取得するものと解するのが相当である。

 

また、東京地裁平成26年7月15日判決では、交通事故により所有権留保車両(二輪車)が物理的全損状態となり、運転者も死亡した事案で、事故後に車両代金を一括返済した運転者の母親による車両時価額賠償請求につき、所有権留保車両の損害に係る一切の損害賠償請求権を代位取得したことを前提として、請求を認めています。

 

経済的全損の場合

経済的全損の場合は、物理的には修理が可能であり、実際に修理して使用することも多くあります。

 

そのため、基本的には分損の場合と同じに考え、①使用者が修理義務を負うこと、②使用者が修理し修理費相当額を負担する予定があることを主張・立証すれば、使用者が、車両時価相当額の損害賠償を求めることができるとされています。

 

実際、横浜地裁平成25年10月17日判決、京都地裁平成26年8月26日判決など、所有権留保付売買契約の買主による修理費賠償請求につき、所有権留保車両が経済的全損状態であることを認定したうえで、車両時価額の賠償を認めた裁判例があります。

 

評価損

評価損は、自動車の交換価値の低下を意味するので、損害賠償請求権は、交換価値を把握している留保所有権者に帰属します。

 

ただし、売主と買主との間に、評価損賠償請求権を買主に帰属させる合意があれば、買主による評価損の賠償請求が認められます。

 

なお、事故後に買主が代金を完済したときは、売主が評価損について賠償を受けていない場合は、買主は評価損請求権を取得し、売主が評価損につき賠償を受けている場合は、買主は評価損相当額を売主に請求できます。

 

代車料

代車は、被害車両の修理中、その車両を使用することができない車両使用者に提供されるものなので、代車費用の損害賠償請求権は、車両使用者に帰属します。

「リース車両」の損害賠償請求権

リース契約は、リース会社が、顧客(ユーザー)が希望するリース物件を販売会社から購入し、これを顧客に賃貸して、賃貸借期間(リース期間)中に顧客から賃料(リース料)を受領する契約です。

 

通常、リース物件の欠陥や破損について、リース会社は責任を負わず、補修・修理は、ユーザーが行うとされています。

 

リース契約の種類

自動車のリース契約には、「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」があります。

 

ファイナンス・リースは、ユーザーが自ら資金を調達して自動車を購入する代わりに、リース会社に指定した自動車を購入してもらって、リース契約するものです。

 

リース期間中の解約はできず、リース物件の取得価格のほか、金利、税金、維持管理費の一切を含めてリース料を設定します。その実態は、売買契約に近いものです。

 

オペレーティング・リースは、ファイナンス・リース以外のリースです。残存価格を設定し、これをふまえて算定されるリース料で、期間中、ユーザーに使用させます。

 

リース物件が順次複数のユーザーに利用されることが予定され、その実態は、一般的な賃貸借契約(レンタカー契約)に近いものです。

 

オペレーティング・リースは、契約終了時に精算を行うか否かにより、「オープンエンド方式」と「クローズドエンド方式」に区分されます。オープンエンド方式は、契約終了時に残価予定額と時価査定額の精算を行い、クローズドエンド方式は、そのような清算を行わないものです。

 

それでは、具体的に損害費目ごとに、リース車両のユーザーに損害賠償請求権が認められるか、見ていきましょう。

 

修理費

リース契約の場合、約款に、使用者が修理義務を負うことが明記されているのが一般的ですから、ユーザーが修理費を損害賠償請求できます。

 

その場合、次の点を主張・立証する必要があります。

  • 加害者の過失によって、自らが使用する車両が損傷したこと
  • 当該車両の使用者がリース契約のユーザーであり、ユーザーが修理義務を負う旨が約款に定められていること
  • 当該車両の修理費相当額
  • 自らが当該車両を修理し、修理費相当額を負担する予定があること

 

買替差額費

リース車両が全損となった場合の損害賠償請求の帰属は、所有権留保車両が全損となった場合と、おおむね同じです。

 

ただし、留保所有権が担保の性質を有するのにすぎないのに対し、リース業者の所有権は、通常の所有権である点が異なります。

 

したがって、リース車両が物理的全損となった場合は、リース業者が所有権侵害による賠償請求権を取得し、ユーザーに買替差額の賠償請求権が認められることはありません。

 

リース車両が経済的全損状態となった場合は、所有権留保車両の場合と同様に、ユーザーによる買替差額賠償請求も認められます。

 

評価損

評価損は、車の交換価値を把握している所有者に認められるので、リース車両について評価損賠償請求権は、リース業者に帰属します。

 

ユーザーによる評価損賠償請求は、基本的に認められません。

 

ただし、リース業者とユーザーとの間に、ユーザーに評価損賠償請求権を帰属させるとの合意がある場合は、ユーザーによる評価損請求が認められます。

 

なお、リース期間満了後に、ユーザーが事故車両を買い取る場合、一般的には、その代金は価値低下分だけ安くされることが多いと考えられ、ユーザーは加害者に対し、評価損は請求できないと考えられます。

 

代車料

リース車両の使用利益を毀損されたユーザーに、請求権が認められます。

まとめ

交通事故による車両損害の賠償請求権は、車両の所有者に帰属しますが、所有権留保車両やリース車両のように、所有者と使用者が異なる場合は、使用者に車両損害の賠償請求権が認められるかが問題となることがあります。

 

基本的には、次のようになります。

  • 全損の場合の車両時価額の損害賠償請求権は、原則として車両の所有者に帰属します。ただし、経済的全損の場合は、物理的には修理可能であることから、分損の場合と同じく、車両使用者にも認められることがあります。
  • 分損の場合の修理費については、車両使用者も、損害賠償請求できます。
  • 評価損は、車両の交換価値の低下を意味するので、損害賠償請求権は所有者に帰属します。
  • 代車料は、車両使用者が損害賠償請求できます。

 

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【参考文献】
・『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい 217~222ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 45~47ページ
・『交通事故損害賠償法第2版』弘文堂 341~342ページ
・『交通関係訴訟の実務』商事法務 427~428ページ
・『交通事故事件の実務』新日本法規 105~106ページ
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 208ページ
・『交通事故の法律相談と事件処理』ぎょうせい 239~246ページ
・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 168ページ、175~176ページ
・『要約交通事故判例140』学陽書房 294~295ページ
・『物損交通事故の実務』学陽書房 18~27ページ
・『Q&Aと事例 物損交通事故解決の実務』新日本法規 120~136ページ
・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 197~198ページ
・『交通事故損害賠償の手引き』企業開発センター 62~64ページ
・『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 192~193ページ

公開日 2021-09-10 更新日 2024/03/22 13:01:15