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  • むち打ち損傷
    むち打ち症とは?交通事故で頸椎捻挫と診断されたときの注意点
    むち打ち症(むち打ち損傷)は、ほとんどの場合、自覚症状のみで、他覚的所見がみられません。そのため、保険会社との間で、治療費の支払いや後遺障害の有無などをめぐってトラブルになりがちです。むち打ち症(むち打ち損傷)とはどういうものか? 交通事故でむち打ち症になったとき、どんな点に注意して治療を受ければよいのか? 詳しく解説します。むち打ち症(むち打ち損傷)とは?むち打ち損傷(むち打ち症)とは、追突事故などによって、頸椎部が鞭のようにしなって過伸展と過屈曲が生じ(むち打ち運動)、その結果、頸部の筋肉、靭帯、椎間板、血管、神経などの組織を損傷して生じる症状の総称です。骨折や脱臼は含まれません(『後遺障害入門』青林書院 165ページ)。むち打ち損傷(むち打ち症)は、受傷の仕方を示すもので、診断名ではありません。正式には、頸椎捻挫、頸部捻挫、外傷性頸部症候群などの傷病名がつけられることが多いようです。そのほか、頸部挫傷、外傷性頭頸部症候群、外傷性頸椎捻挫、むち打ち関連障害、むち打ち症候群などともいわれます。その定義も確定したものはなく、「骨折や脱臼のない頸部脊柱の軟部支持組織(靭帯、椎間板、関節包、頸部筋群の筋、筋膜)の損傷」との説明が一般的です(『交通事故医療法入門』勁草書房 106ページ)。臨床的には、「頸部が振られたことによって生じた頭頸部の衝撃によって、X線写真上、外傷性の異常を伴わない頭頸部症状を引き起こしているもの」(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6ページ)、つまり、骨折や脱臼はないが、頭頸部症状を訴えているものは、広く「むち打ち損傷」と捉えられているようです。むち打ち損傷の症状交通事故による「むち打ち症」といえば、首の痛みを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、むち打ち損傷により生じる症状は、首の痛みだけではありません。事故直後の急性期の症状としては、頸部痛や頸部不快感が代表的です。症状が、事故後ただちに出現する場合もありますが、2~3日後あるいはそれ以上の期間経過後に現れることもあります。この急性期の症状は自然に消えていき、一般的に長期化することは少なく、1ヵ月以内に治療終了するケースが約80%とされています(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49ページ)。慢性化した場合の症状は、頸部痛、頭痛、めまいが主訴で、「天気が悪いと特に痛い」というように、気圧や湿度の変化に敏感であることが特徴です。このほか、頭部・顔面のしびれ、眼痛・視力低下・視野狭窄など眼症状、耳鳴・難聴、吐き気、四肢のしびれ・痛みなどの症状や、不眠、集中力低下、易疲労性、微熱、顎関節痛、狭心症様胸部痛などの症状が生じる場合もあります(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~59ページ)。このように神経根刺激症状や自律神経症状にまで及び、自覚症状は多様ですが、レントゲン検査やCT・MRI検査などの結果に表れる他覚的所見に乏しいのが、むち打ち損傷(むち打ち症)の特色です。医学上、自覚症状のすべてを他覚的に裏付けるまでには至っておらず、その病理・病態は、いまだ十分に解明されていません。むち打ち損傷の分類むち打ち損傷によって生じる傷病には、いくつかの分類方法があり、日本で代表的な分類は「土屋分類」です。「土屋分類」によれば、むち打ち損傷は、次のような5類型に分類されます。頸椎捻挫型頸椎捻挫型は、頸部の筋の過度の伸長ないし部分断裂の状態で、頸部周囲の運動制限、運動痛が主症状です。神経症状は認められません。予後良好で、大部分がこのタイプです。根症状型根症状型は、頸神経の神経根の症状が明らかで、頸椎捻挫型に加え、知覚障害、放散痛、反射異常、筋力低下などの神経症状をともないます。バレー・リュー症候群型バレー・リュー症候群型は、自律神経症状や脳幹症状が出現し、頭痛、めまい、耳鳴、眼の疲労、悪心をともないます。神経根、バレー・リュー症状混合型根症状型の症状に加えて、バレー・リュー症状がみられるものです。脊髄症状型脊髄症状型は、深部腱反射の亢進、病的反射の出現などの脊髄症状をともなうものです。この型は、現在ではむち打ち損傷の範疇に含まれず、非骨傷性の頚髄損傷とされるのが一般的です。※ バレー・リュー症候群は、「椎骨神経(頸部交感神経)の刺激状態によって生じ、頭痛、めまい、耳鳴、視障害、嗄声、首の違和感、摩擦音、悪心、易疲労感、血圧低下などの自覚症状を主体とするもの」と定義されています。しかし、その発生原因に関して、定説は確立されていません。ただし、これらの分類は、臨床症状で明確に分類することが難しく、分類別の治療法も確立していません。また、近年は、これらの分類に加え、外傷性胸郭出口症候群、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の病態を呈するむち打ち損傷が存在することが報告されています。(参考:土屋分類については『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~8ページ)むち打ち損傷で後遺症が問題となるケースむち打ち損傷は、ほとんどの場合、後遺障害を残さずに治癒するとされていますが、事故により受傷した後に、椎間板損傷、神経根症状、バレー・リュー症状、脊髄症状が出現した場合には、その症状が後遺する可能性があるといわれています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 301~302ページ)。つまり、むち打ち損傷で、症状が長引き、後遺障害の認定が問題となる可能性があるのは、「土屋分類」でいえば、根症状型、バレー・リュー症候群型、神経根、バレー・リュー症状混合型、脊髄症状型の場合ということです。根症状型は、神経根への刺激や圧迫によって、頸部筋、項部筋、肩胛部筋などへの圧痛、頸椎運動制限、運動痛、末梢神経分布に一致した知覚症状、放散痛、反射異常、筋力低下などがみられます。これらの症状の発生原因が他覚所見によって認められれば、後遺障害の等級認定がなされる可能性があります(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 303ページ)。バレー・リュー症状型は、その発生原因について定説は確立されておらず、現在においても病態の詳細は不明です。そのため、バレー・リュー症状を他覚的所見によって説明・証明することは難しいとされています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 304ページ)。むち打ち症で治療を受けるときの注意点むち打ち症(むち打ち損傷)は、他覚的所見に乏しいため、痛みなど症状の原因や存在を客観的に明らかにすることが困難です。そのため、保険会社による一括払いがされている場合には、治療費支払いの打ち切りのリスクがあり、後遺症が残る場合には、後遺障害の認定に困難をともないます。なので、むち打ち症で治療を受けるときには、完治を目指しつつも、万が一にも後遺症が残る場合に備え、後遺障害の認定を見据えて、次の点に注意が必要です。事故後すぐに病院で診療を受ける少しの違和感であっても医師に伝える通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上必要な検査を受ける整骨院・接骨院は避ける事故後すぐに病院(整形外科)に通うむち打ち損傷に限ったことではありませんが、交通事故で受傷したときは、事故後すぐ、病院にかかることが大切です。特に、むち打ち損傷は、2~3日経ってから症状が出現することも多いので、違和感を感じたら、速やかに病院で診療を受けることが重要です。事故から通院開始まで1週間も空いてしまうと、事故との因果関係や症状の程度が問題となり、保険会社が治療費を支払わなかったり、後遺障害の認定が難しくなったりします。少しの違和感であっても医師に伝える初診のとき、少しでも違和感が感じられるところは、漏らさず、自覚症状を医師に伝えることが大事です。違和感があるのに医師に伝えず、自分で症状が重いと感じている部分のみを医師に伝えていた、というケースはよくあります。急性期に症状を伝えていないと、診断書に症状も傷病名も記載されないので、あとから症状を訴えて記載されても、急性期に症状がないため、事故との因果関係が否定されてしまう恐れがあります。また、通院の都度、症状の部位と程度を医師にしっかりと伝えることも大事です。急性期以降、症状を訴えないと、途中から傷病名の記載がなくなってしまうこともあるので、そこで症状がなくなった、すなわち完治したと判断されてしまう恐れがあります。症状は、端的に、例えば「首のここが痛い」と訴えることが大切です。通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上むち打ち損傷による傷病の場合、受傷直後は安静を指示されることもありますが、その後は、リハビリ治療を行うことが一般的です。むち打ち損傷は、症状の客観的な評価が難しいため、後遺障害の認定のためには、通院期間や通院頻度が重要な判断要素の1つとなります。自賠責保険で後遺障害が認定されるのに必要な通院期間は、最低6ヵ月といわれています(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 84ページ)。通院期間が5か月だと、後遺障害に認定される可能性は極めて低くなります。さらに、むち打ち損傷の場合、通院頻度も重要です。自賠責保険で後遺障害に認定されるには、毎月10回以上、合計で60日~80日の通院日数が必要ともいわれます(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 85ページ)。通院頻度が少ないと、症状が軽かったと自賠責保険から評価されてしまうからです。逆に、毎日通院するなど通院日数が多すぎるのも問題です。治療費がかかりすぎることになるので、治療費打ち切りのリスクが高まります。また、通院を中断しないようにすることも大切です。通院に1ヵ月も2ヵ月もブランクがあると、その前後の通院日数が多くても、後遺障害の認定を受けることは難しくなります。もっとも、こうした後遺障害の認定基準が公表されているわけではなく、この通院期間・通院頻度をクリアすれば、後遺障害が必ず認定されるというわけではありません。それでも、重要な目安とされています。事故時の衝撃が大きく、後遺症が残りそうなときは、週2~3回(月10日程度)の頻度で通院し、事故から6ヵ月(半年)以上通院し、経過観察が必要です。必要な検査を受けるむち打ち損傷は、画像検査では異常所見がみられないことが多いのですが、後遺障害の認定には、画像検査が不可欠です。たいてい、レントゲン写真は撮影するでしょうが、できればMRI検査も行っておくとよいでしょう。MRIは骨以外の軟部組織の撮影に特化したもので、設備のない病院もあり、必ずしも撮影しなければならないものではありませんが、万が一、症状の原因が頸椎捻挫以外にあった場合に、早期発見・早期治療につながります。後遺障害の認定にも有効です。MRIまで撮影するということは、MRIによる精密検査をする必要があったと指摘することができます。後遺障害等級14級9号認定のためには、MRI画像での異常所見までは必ずしも必要ありませんが、12級13号認定のためには、頸椎MRIはほぼ必須化しています。レントゲン写真(単純X線)だけでは、最も低い14級9号しか認定されません。(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 25ページ)MRI撮影費用は比較的高額なので、後遺障害の認定に備え、保険会社が治療費を支払っている期間中に、主治医に相談し、MRI撮影をしておくとよいでしょう。整骨院や接骨院への通院は避ける整骨院や接骨院での施術は、整形外科での治療と異なり、損害賠償において評価が低くなります。整形外科の医師の許可や同意を得て、整骨院や接骨院へ補助的に通院するならまだしも、整骨院や接骨院への通院がメインになってしまうと、かえってマイナスとなることもあります。交通事故で整骨院や接骨院へ通院することには、例えば次のようなリスクがあります。交通事故で整骨院や接骨院に通院するリスク整骨院や接骨院の施術費は、整形外科での治療費よりも高額となりやすく、保険会社から治療費の支払いを打ち切られるリスクが高まります。整骨院や接骨院では後遺障害診断書が書けず、整骨院や接骨院への通院がメインとなっていたら、整形外科の医師も後遺障害診断書が書けません。結果、後遺障害の認定を受けることができず、後遺症に対する損害賠償を受けることができなくなります。整骨院や接骨院での施術は、病院での治療と同等に評価されないため、整骨院や接骨院に通って病院への通院日数が減ると、通院日数の不足で後遺障害が認定されなくなります。通院日数は、休業損害や傷害慰謝料の算定にも影響を及ぼすため、損害賠償額が減ってしまいます。こうしたリスクを避けるため、整骨院や接骨院への通院はおすすめできません。どうしても整骨院や接骨院へ通院したい場合は、整形外科の医師の許可や同意を得たうえで通うことが大切です。その際、整骨院・接骨院での施術部位が、整形外科での治療部位より増えないように気をつけましょう。施術部位が増えと、保険会社は、過剰診療として施術費の支払いを拒否することがあります。関連むち打ち症で保険会社が治療費の支払いに応じる平均的な治療期間治療費打ち切りを保険会社から宣告されたときの3つの対処方法MRIは万能の検査ではない?! XP、CT、MRIの違いとは?交通事故による捻挫や打撲で整骨院・接骨院に通う場合の注意点まとめむち打ち症(むち打ち損傷)は、大半は単純な頸部軟部組織の捻挫で、それほど重篤なものとは捉えられていません。しかし、むち打ち症の発症メカニズムは、いまだ明らかでありません。他覚的所見に乏しく、自覚症状のみのケースがほとんどなので、治療の必要性、症状固定時期や後遺障害の有無をめぐって争いになることが少なくありません。適正な損害賠償を受けるには、治療の段階から早めに、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~9ページ、49~59ページ・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~51ページ・『後遺障害入門 認定から訴訟まで』青林書院 164~169ページ・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房 16~23ページ・『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 63~67ページ、119~125ページ・『実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集―交通事故編―』第一法規 97~98ページ、239~240ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 26~35ページ、46~62ページ、127~128ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 176~181ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 105~132ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 300~304ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 11~28ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 132ページ
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  • むち打ち症の治療期間
    むち打ち症の平均的な治療期間と保険会社の治療費打ち切りの判断基準
    むち打ち症は、レントゲンなどの画像検査をしても他覚的所見がなく、被害者本人の自覚症状しか症状を示す要素が存在しないケースがほとんどです。そのため、治療期間や治療の必要性自体が問題になりやすく、保険会社は一定の時期が来ると治療費の支払いを打ち切ろうとします。それでは、むち打ち症の平均的な治療期間はどれくらいなのか? 保険会社が治療費の支払いを打ち切る判断基準とは? 詳しく見ていきましょう。むち打ち症の平均的な治療期間むち打ち症の治療期間は、症状の把握と診断・治療が適切にされた場合、一般的な医学的知見として、おおむね2~3ヵ月程度の期間が相当とされています。もちろん個人差があり、衝撃が強くある程度重篤なものについては、6ヵ月ないしそれ以上の治療期間を要する場合もあります。保険実務では、むち打ち症の治療期間を2~3ヵ月から6ヵ月程度の範囲で認めている例が多いようです。(参考:東京弁護士会法友全期会 交通事故実務研究会編集『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい(2024年) 178~179ページ)医学的に相当とされる治療期間むち打ち症について、医学的に相当とされる治療期間を示したものとしては、次のものが代表的です。なお、むち打ち症(むち打ち損傷)は、受傷の仕方を表す用語であって、臨床の現場では、頸椎捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群などの傷病名で呼ばれます。統計学上、本症患者の7割は受傷3ヵ月以内に軽快・治癒する。この事実は、アンケートによる臨床医の印象と、レセプトによる実際とよく一致している。通常、遅くとも6ヵ月以内で症状固定に至ると考えられており、6ヵ月を過ぎても尚、治療を続けている症例は慢性難治例とされる。(平林洌「外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドラインの提案」(1999年))軽傷例(頸椎捻挫症状)であれば、大部分は1ヵ月以内に症状軽快し、一般には全治2~3週間。重症例(頸椎運動制限あり)であっても、その大部分は3ヵ月以内に症状軽快し、残りも1年以内にほとんど症状が消失する。(日本賠償科学会編『賠償科学 改訂版―医学と法学の融合』民事法研究会(2013年)122ページ)一般的に、むち打ち損傷は長期化することは少なく、1ヵ月以内で治療終了例が約80%を占め、6ヵ月以上要するものは約3%であるという報告が多い。しかし、少数例ではあるが症状が持続する場合もあり病態の把握と治療に難渋する。(遠藤健司/鈴木秀和編著『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版(2018年)49~50ページ)治療期間に関する裁判例よく引用される裁判例としては次のものがあります。なお、ここに挙げている裁判例は、衝撃が軽度で、頚椎捻挫にとどまる場合です。むち打ち損傷(外傷性頚部症候群)は病態によって分類され、椎間板損傷や神経根症状、自律神経症状等が出現している場合など、治療期間が長引くケースもあり、1年程度の治療期間を認めている裁判例は多くあります。むち打ち症の分類についてはこちらをご覧ください。最高裁判所第一小法廷判決(昭和63年4月21日)最高裁判所は、昭和63年4月21日の判決において、原審(東京高裁判決・昭和58年9月29日)の次の認定を「原審が適法に確定した事実関係」であるとして是認しています。外傷性頭頸部症候群とは、追突等によるむち打ち機転によって頭頸部に損傷を受けた患者が示す症状の総称であり、その症状は、身体的原因によって起こるばかりでなく、外傷を受けたという体験によりさまざまな精神症状を示し、患者の性格、家庭的、社会的、経済的条件、医師の言動等によっても影響を受け、ことに交通事故や労働災害事故等に遭遇した場合に、その事故の責任が他人にあり損害賠償の請求をする権利があるときには、加害者に対する不満等が原因となって症状をますます複雑にし、治癒を遷延させる例も多く、衝撃の程度が軽度で損傷が頸部軟部組織(筋肉、靱帯、自律神経など)にとどまっている場合には、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、その後は多少の自覚症状があっても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せば、ほとんど1か月以内、長くとも2、3か月以内に通常の生活に戻ることができるのが一般である。大阪地裁判決(平成9年1月28日)本件事故に基づいて原告に生じた傷害は頸椎捻挫にとどまるものと考えられ、…右傷害(=頸椎捻挫)の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる。以上が、むち打ち症の一般的な治療期間です。それでは保険会社は、治療費の一括払いをする期間をどう判断しているのでしょうか?保険会社が治療費の一括払いを打ち切る判断基準前提として、次の点をおさえておいてください。保険会社は、被害者が通院を続けている限り、無条件で治療費を支払ってくれるわけではありません。治療費は、事故と相当因果関係があり、必要かつ相当な治療行為の費用が、損害賠償の対象となります。加害者が、被害者の治療費について損害賠償責任を負うのは、症状固定となるまでです。つまり、保険会社が治療費を一括払いするのは、事故と相当因果関係の認められる治療費の範囲であり、期間は症状固定となるまでです。もちろん完治したときは、そこで治療費の支払いは終了です。では、「事故と相当因果関係のある治療か?」「症状固定になったか?」ということを、保険会社はどう判断しているのでしょうか?一般的な治療期間を参考に個別事情を考慮むち打ち症(外傷性頚部症候群)は、発生機序や病態などの詳細はいまだ解明されていない部分が多いものの、一般的にどれくらいの期間で症状が改善するかは、臨床上の統計がありますから、保険会社も、そういったものを参考にします。ただし、そういう統計上の平均的な治療期間よりも、早く治ることもあれば、長引くこともあります。ですから、平均的な治療期間を参考にしつつ、「どんな事故だったのか?」「どんな怪我をして、どんな治療をしているのか?」「治療の経過はどうか?」といったことを個別・具体的に検討したうえで、いつまで治療費を支払うかを判断することになります。「○○の場合は、○ヵ月で一括払い終了」というように、傷病ごとに画一的に決まっているわけではないのです。誤解のないように言っておきますが、保険会社が個別事情をふまえて判断するというのは、決して被害者のためではなく、保険金(損害賠償額)の支払い額を少なくするためです。では、保険会社は「事故の状況」や「被害者の症状・治療内容・治療経過」をどのように把握し、検討しているのか、見ていきましょう。事故状況の把握・検討どんな事故だったのか(事故態様)は、保険会社が、いつまで治療費を支払うかを判断するうえで重要な要素です。なぜ事故態様の把握が重要かひと口に「追突」や「衝突」といっても、車両がつぶれてしまっているような重大事故もあれば、どこに当たったのか分からないような軽微事故もあります。一般に、大きな事故ほど身体への衝撃が強く、症状は重篤で、治療期間も長くなりやすいと考えられています。軽微な事故なら、短期間の通院治療で治るでしょう。場合によっては、治療すら必要ないかもしれません。なので、治療期間を判断するうえで、事故の状況を把握することが重要というわけです。特に、むち打ち症は、外傷所見がなく、被害者からの自覚症状のみというケースがほとんどなので、事故態様の把握を重要視しているのです。物損額(車両修理代)を参考にする事故態様の把握には、事故発生状況報告書やドライブレコーダーのほか、車両の損傷状況や修理額を参考にします。例えば、普通乗用車両の場合、修理費用が10万円程度だと損傷状況も軽微に見えることが多く、症状が残るほどの怪我だったとは評価されにくい傾向があります(『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 49ページ)。つまり、車両の修理費用が低額の場合には、軽微な事故だったと判断され、保険会社からの治療費の一括払いが、短期間で打ち切られる可能性がある、ということです。症状が残っても、後遺障害の認定を受けるのが難しくなります。近時、自賠責保険が、軽微事故で治療期間が長くなると、事故による受傷そのものを否認するケースがあるようですから、注意が必要です。お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。【相談無料】交通事故に詳しい弁護士事務所はこちら症状の経過や治療内容の把握・検討傷病名や症状、治療内容、治療経過などについては、病院から保険会社に毎月送られてくる「経過診断書」や「診療報酬明細書(レセプト)」などを参考に検討します。経過診断書病院が毎月発行する傷病名や症状などが記載される診断書です。診療報酬明細書病院の診療報酬の根拠として、どのような治療が行われているかが記録されているもので、治療内容を一通り把握できる資料です。経過診断書から情報を読み取る経過診断書には、「症状の経過・治療の内容・今後の見通し」や「主たる検査所見」などが記載されます。むち打ち症は、他覚的所見のないケースがほとんどですが、保険会社は、検査結果だけでなく、どんな検査をしているかもチェックしています。被害者がどんな症状を訴えているかを読み取ることができるからです。「症状の経過・治療の内容および今後の見通し」欄は、「保存的に加療した」とか「経過観察中」などの簡単な記載が毎月繰り返されているだけだったり、一見すると詳しく書かれているような場合でも、全く同じ記載だったりする場合があるようです。実は、このことが、あとで説明するように、治療費打ち切りの要因となってしまうこともあります。診療報酬明細書から情報を読み取る経過診断書から、症状の経過や治療内容が読み取れない場合でも、診療報酬明細書(レセプト)から、どのような治療がなされたかを推測することができます。例えば、どの部位の画像撮影をしたのか、どのような内服薬や外用薬を処方しているのか、消炎鎮痛処置は行っているのか、などの情報を読み取ることができます。こんな経過診断書やレセプトが治療費の打ち切りの要因にレセプトにおいて処置の内容に変化がなく、経過診断書においても症状や治療内容に変化が見られない状態が続くと、「治療を続けても特段の変化が見られない」すなわち「症状固定に至っているのではないか」と保険会社から判断されてしまいます。もちろん、保険会社も、推測だけで治療費の一括払いを打ち切るわけではありません。「そろそろ症状固定と見てよいのではないか」と判断したときは、担当医の意見を求めてきます。担当医が症状固定を判断したという形をとるのです。任意保険会社の一括払いとすることに同意した際、医療調査に関することも含めて同意書を提出したと思いますが、その同意書を盾に、担当医に状況を尋ねるのです。損保会社は、「医療アジャスタ」とか「MI(メディカル・インスペクター)」と呼ばれる医療調査のための専門スタッフを配置しています。症状が重篤で損害額が高額化すると予想されるケース、通院が想定よりも長期化しているケース、事故と症状との因果関係に疑問が生じるケースなどで、専門スタッフが医療調査を実施します。半年以上の治療は意味がない?むち打ち症で治療期間が長くなると、保険会社から「最高裁判例で半年以上の治療は意味がないとされている」と言ってくることがあるようです。しかし、そのような最高裁判例はありません。保険会社が、なぜ6ヵ月にこだわるかというと、治療期間6ヵ月以上であることが、後遺障害認定の1つの目安となるからです。治療期間が6ヵ月に満たなければ、自賠責保険の後遺障害認定がされにくくなります。自賠責保険において後遺障害が認定されると、後遺症に対する損害賠償が発生します。後遺症に対する損害賠償額は、大きな金額となります。保険会社としては支払額を抑えたいので、後遺障害等級が認定されないよう、6カ月未満で治療を打ち切りたいのです。もし保険会社が治療費の打ち切りを言ってきても、あなたが治療の継続を望み、主治医もまだ治療を継続すべきだと判断するなら、保険会社の担当者と話をして、治療費の支払いを継続してもらえるよう交渉することが大切です。まとめむち打ち症の治療期間は、事故から3ヵ月から6ヵ月程度が多く、長くとも1年程度といわれています。保険会社は、事故から6ヵ月程度を経過すると、症状固定になったとして治療費の支払い打ち切りを通告してくることがあります。この背景には、むち打ち症の治療期間について、「通常、遅くとも6ヵ月以内で症状固定に至ると考えられている」とする医学論文(平林洌「外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドラインの提案」(1999年))や、「頸椎捻挫にとどまる傷害の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる」とする裁判例(大阪地裁平成9年1月28日判決)などがあるからのようです。治療期間が6ヵ月に満たないうちに治療費の一括払いを打ち切られると、後遺症が残るほどの強いむち打ち損傷だった場合でも、後遺障害の認定を受けられなくなります。まだ痛みやしびれがあるのに、保険会社から治療費の打ち切りを通告され、お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。関連・治療費打ち切りを保険会社から通告されたときの3つの対処方法【参考文献】・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 178~179ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題』保険毎日新聞社 67~70ページ、74~83ページ・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~50ページ・『後遺障害入門』青林書院 167ページ・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~50ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 127ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 301~302ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 46~49ページ、124~125ページ・『交通事故損害賠償入門』ぎょうせい 85~91ページ
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