交通事故で接骨院・整骨院の施術費が治療費として損害賠償される要件

接骨院・整骨院の施術費が賠償対象の損害として認められる要件

交通事故の損害賠償において、接骨院や整骨院の施術費が、賠償すべき治療費として認められるには、一定の要件を満たす必要があります。その要件とは?

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接骨院や整骨院の施術費が損害として認められるには、一定の要件を満たす必要があります。ここでは、接骨院・整骨院の施術費が損害として認められる要件、裁判例について、まとめています。

 

接骨院・整骨院の施術費が損害として認められる要件

接骨院・整骨院の施術費が、損害賠償の対象となる治療費として認められる要件は、大きく次の2つです。

 

  • 柔道整復の施術を受けることに「医師の指示」があること
  • 施術に必要性・合理性・相当性・有効性があること

 

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

 

柔道整復施術を受けることに「医師の指示」があること

接骨院・整骨院での柔道整復施術は、医師の指示があれば「治療の一環」とみなされ、施術費が損害賠償の対象となる治療費として認められやすくなります。

 

医師の指示には、消極的な承諾も含む

医師の指示とは、医師の積極的な指示だけでなく、患者が接骨院や整骨院で柔道整復施術を受けることを希望し、医師が消極的に承諾した場合も含みます。

 

整形外科の医師が、接骨院や整骨院で柔道整復施術を受けるよう指示することは稀です。柔道整復師施術を認めない医師もいるくらいです。患者が希望して医師が承諾するケースが大半でしょう。

 

柔道整復の施術費について、日弁連交通事故相談センターが発行している「青本」「赤本」では次のようになっています。

 

青本

医師の指示により受けたものであれば認められる。医師の指示は積極的なものでなくとも、施術を受けることによる改善の可能性が否定できないことから、とりあえず施術を受けることを承諾するという消極的なものも含まれる。このような医師の指示・承諾がなくとも、改善効果があれば賠償を認める例もある。
(青本25訂版)

 

赤本

症状により有効かつ相当な場合、ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向にある。
(赤本2017年版)

 

医師の指示がない場合は?

上で紹介したように「青本」では、「医師の指示・承諾がなくとも、改善効果があれば賠償を認める例もある」とされています。

 

医師の指示・承諾がない場合でも、接骨院や整骨院へ通うことを、保険会社が頭から否定することはありません。柔道整復師による施術が、怪我の治療に有効な場合があることは、一般に認められているからです。

 

ですから、接骨院・整骨院での施術に必要性や有用性などが認められ、妥当な金額であれば、保険会社は施術費の支払いに応じています。

 

裁判でも、加害者(保険会社)側が施術費について争わない限り、裁判所は原則として施術費を損害として認めています。

 

裁判で施術費が争われた場合でも、「医師の指示がない」という理由だけで認めないということはありません。一定の要件を満たせば、損害として認められます。

 

その要件とは、次の必要性・合理性・相当性・有効性が立証できることです。

 

施術に必要性・合理性・相当性・有効性があること

施術費が損害賠償すべき治療費として認められるには、医師の指示の有無にかかわりなく、施術に必要性・合理性・相当性・有効性があることが必要です。

 

医師の指示があれば、施術の必要性・合理性・相当性・有効性が認められやすいのですが、医師の指示がない場合は、これらの点について立証しなければなりません。

 

施術費が損害として認められる4つの要件
  • 施術の必要性
    施術を行うことが必要な身体状態であったのかどうか。
  • 施術の合理性
    施術の内容が合理的であるといえるかどうか。
    過剰・濃厚な施術となっていないか。
  • 施術の相当性
    医師による治療ではなく施術を選択することが相当かどうか。
    医師による治療を受けた場合と比較して、費用、期間、身体への負担等の観点で均衡を失していないかどうか。
  • 施術の有効性
    施術の具体的な効果が見られたかどうか。

(参考:東京地裁判決・平成14年2月22日)

 

これらの立証が必要なのは、「医師の治療」と「柔道整復師の施術」の違いがあります。

 

柔道整復師は、レントゲンやMRIなど画像を用いた損傷状況の把握ができず、医師のような医学的見地から総合的な判断ができないこと、施術者によって技術が異なること、施術費用についても客観的な目安がないこと、などが理由です(東京地裁判決・平成14年2月22日)

 

なお、医師の指示がない場合は、施術の必要性や有効性が認められても、期間や費用が制限され、施術費の全額が認められることは少ないと考えておいた方がよいでしょう。医師の指示がなくても施術費が認められた裁判例をご覧ください。

 

立証に必要な証拠書面

損害の発生の証拠書面としては、接骨院・整骨院の領収書だけでは足りません。

 

接骨院や整骨院の柔道整復師の作成する施術証明書、施術費支払明細書のほか、診療を受けた医療機関の医師の診断書、診療録、医師の同意書もしくはこれに代わる書面、診療報酬明細書などが必要です。

 

施術費の妥当性を証明するには、健康保険や労災保険における柔道整復師施術料金算定基準などがあれば、その基準と比較して妥当性を判断する証拠となります。

 

裁判で施術費を争うと、裁判所は厳密に審理します。場合によっては、すでに保険会社が支払っていた通院期間までも否定されることもありますから、注意してください。

医師の指示がなくても施術費が認められた裁判例

医師の積極的な指示がない場合に、接骨院や整骨院の施術費が事故と相当因果関係のある損害として認定・一部認定された裁判例をご紹介します。

 

大阪地裁判決(平成13年8月28日)

頸部・腰部捻挫の傷害を受けて後遺障害等級14級10号の認定を受けた被害者の整骨院における施術について、医師の明確な指示を受けたことの証明はないが、ある程度の痛みを緩和する効果はあったものと認められるとして、120万円の請求のうち30万円の限度で認めた。

 

東京地裁判決(平成16年2月27日)

頸椎捻挫、両膝捻挫、右下腿打撲で併合14級の認定を受けた被害者の整骨院における施術について、医師の指示はないが、施術により疼痛が軽快し、整形外科における治療回数が減少していること、施術費の額が社会一般の水準と比較して妥当であること、加害者らが一定期間の施術を認めていたこと等から、症状固定日までの整骨院の施術費全額を認めた。

 

東京地裁判決(平成16年3月29日)

頸椎捻挫等の被害者が、医師の指示・同意なく約14ヵ月間に185回整骨院で施術を受け、1回あたり平均3万9,040円、合計722万円余の請求した事案で、頸部及び右肩部については6ヵ月程度(実通院日数96日)の施術の必要性を認め、損害額としては、自賠責保険施術料金、厚生省の施術費算定基準、健康保険診療報酬算定方法の手引も参考に50万円の限度で認めた。

 

大阪地裁判決(平成18年12月20日)

整骨院での施術について、整形外科の医師は施術を受けることを容認し、症状を緩和する効果があったと認められるが、医師は施術を積極的に指示していたとまでは認められないこと、治療日が整形外科と重複していることなどを考慮し、症状固定時期までの施術費等のうち50%を認めた。

 

京都地裁判決(平成23年11月18日)

病院の医師が医学的必要性から整骨院への通院を指示した旨の意見書を差し入れていること、整骨院の詳細な施術録から施術により症状が改善していること、ほぼ連日にわたり整骨院に通院しているが医学的に見てそれほどの頻回な施術が必要であったと認めるに足りる証拠がないことから、被害者の症状の程度と改善効果とを総合考慮し、施術料の8割を認めた。

 

東京地裁判決(平成25年8月9日)

診療時間が限られている整形外科医院には、ほとんど週末しか受診することができなかったため、勤務終了後に通院できる整骨院に通院し、医師もこれを承知していたこと、整骨院で受けた施術の内容は、整形外科で受けていた消炎鎮痛等の処置と概ね同じであり、症状改善に効果的であったことから、整骨院の施術を事故と相当因果関係があると認めた。

裁判で施術費を争うかどうかの判断は慎重に!

接骨院・整骨院での施術費について、よく争点となるのは、事故との相当因果関係と通院期間の妥当性です。

 

保険会社が任意で支払った施術費については、示談交渉で問題となることは通常ありません。医師の指示がないような場合でも、保険会社も、柔道整復の施術の有効性について社会一般で認められているので、緩やかな対応をしています。

 

しかし、裁判で施術費が争点となった場合は、厳密な対応となります。保険会社側は、医師の指示の有無、事故との相当因果関係、通院期間の妥当性などを争点化してきます。

 

裁判所も、施術を受けることに医師の指示があったか、施術に必要性・合理性・相当性・有効性があるか、事故との相当因果関係、通院期間や施術費の妥当性など、厳密に審理します。

 

場合によっては、保険会社が既に支払った通院期間まで否定される場合があります。

 

判決だけでなく、裁判上の和解の場合も同様に厳格な判断がなされています。訴訟を提起して接骨院・整骨院の施術費を争うかどうかは、慎重に判断する必要があります。

まとめ

交通事故による負傷(捻挫・打撲など)で接骨院・整骨院に通う場合は、まず整形外科で医師の診断を受け、柔道整復施術の承諾を得ることが重要です。

 

また、定期的に整形外科を受診し、治療の経過を医師が把握できるようにしておくことが大切です。

 

これは、治療費のみならず、後遺障害の損害賠償を受ける際にも大切なポイントとなります。そうでなければ、医師が後遺障害診断書を書けないからです。

 

整形外科でなく接骨院や整骨院に通うときには十分注意してください。もし、接骨院や整骨院の施術費が損害として認められないなど、お困りのときは、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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【参考文献】
・日弁連交通事故相談センター編『交通賠償実務の最前線』ぎょうせい
・『交通損害関係訴訟(補訂版)』青林書院
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院
・『交通事故裁判和解例集』第一法規

公開日 2017-10-19 更新日 2023/03/13 13:23:41