交通事故で内縁関係の夫が死亡したとき内縁の妻の損害賠償請求権

交通事故で内縁関係の夫が死亡したとき内縁の妻の損害賠償請求権

内縁関係の夫が交通事故で死亡したとき、内縁の妻は相続人にはなれないので死亡した被害者本人の損害賠償請求権を相続することはできませんが、近親者として固有の慰謝料などを請求することができます。

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内縁関係の夫が交通事故で死亡しました。私たちは5年前に結婚しましたが、婚姻届けを出していませんでした。内縁関係だと、損害賠償請求できないのでしょうか。

内縁の妻は、死亡した夫の損害賠償請求権を相続し、賠償請求することはできませんが、別の方法で損害賠償を請求することができます。

 

それは、「扶養利益喪失損害の賠償請求」「近親者固有の慰謝料請求」です。

 

あなたが内縁の夫に扶養されていた場合、今後は扶養を受けられなくなり、将来の扶養利益を失います。これが、扶養利益喪失損害で、被扶養者にはその賠償請求が認められます。

 

近親者に固有の慰謝料は、戸籍上配偶者でなくても、配偶者と同視でき、被害者の死亡により大きな精神的苦痛を受けた者が請求できます。

 

内縁関係の場合、何も損害賠償請求できないと思われがちですが、法的には、入籍していないという理由だけで損害賠償請求権を否定されることはありません。

 

ところで、内縁関係とは、単に婚姻届けを出していないだけで、現実には普通の夫婦と同じように生活している男女のことです。最近は夫婦別姓のため、あえて入籍しない夫婦もいます。俗にいう愛人関係などは、内縁関係に含めません。

 

内縁関係の損害賠償請求権 2つのポイント
  • 内縁関係は相続人になれませんが、扶養利益の喪失を損害として賠償請求できます。
  • 近親者固有の慰謝料請求権は、内縁関係でも認められます。

 

詳しい解説

さらに詳しく見ていきましょう。

 

内縁の妻は、扶養利益の喪失について損害賠償請求できる

内縁関係の夫が交通事故で死亡したとき、夫に扶養されていた内縁の妻は、将来の扶養利益を喪失するので、それを損害として賠償請求できます(民法711条)

 

扶養利益喪失損害の計算の仕方

扶養利益喪失損害は、死亡事故の消極損害(死亡逸失利益)の一部です。被害者の生前の収入のうち、被扶養者の生計の維持に充てられていた部分に相当する額を賠償請求することになります。

 

扶養利益喪失損害の計算の仕方は、簡単にいうと、こうです。

 

死亡した被害者の年間の逸失利益(本人の生活費を控除した後の残額)に、死亡当時の扶養実態にもとづき一定の割合(30%とか50%)を乗じ、年間の扶養利益を算出します。

 

年間の扶養利益に、扶養関係の存続期間に対応するライプニッツ係数またはホフマン係数を乗じて、将来の扶養利益を算定します。扶養関係の存続期間は、死亡した内縁の夫の就労可能期間と、残された内縁の妻の平均余命期間との共通部分です。

 

(参考:『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂232ページ)

 

死亡逸失利益の算定方法はこちらをご覧ください。

 

10年以上にわたり内縁関係にあった妻につき、被扶養利益喪失による損害として、内縁の夫の死亡逸失利益の50%を認めた裁判例があります(東京地裁・平成12年9月13日)

 

内縁関係が認められる要件とは

内縁関係が認められるには、単なる同居でなく、実質的に夫婦として生活し、客観的にも夫婦と認められる外形が必要とされています。

 

また、扶養利益が認められるには、死亡した被害者が扶養可能な状態にあり、その内縁の配偶者等が要扶養状態にあることが必要です。

 

内縁の妻と相続人とでは、どちらの損害賠償が優先されるか

死亡した内縁の夫に、相続人がいる場合を考えます。例えば、夫の親や先妻の子が相続人となる場合です。

 

このようなケースでは、内縁の妻が、被扶養者として扶養利益喪失損害を賠償請求するとともに、相続人が、死亡した被害者の損害賠償請求をすることができます。

 

この場合、被扶養者(内縁の妻)に対する扶養利益喪失損害の賠償金の支払いが優先し、それを逸失利益から控除した残額を相続人が取得することになります。

 

内縁の配偶者の扶養利益喪失につき損害賠償請求権を認めた最高裁判決

 

「内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けている場合において、その他方の配偶者が保有者の自動車の運行によって死亡したときは、内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその賠償を請求することができる」

 

「政府が死亡被害者の内縁の配偶者にその扶養利益の喪失に相当する額を支払い、その損害をてん補したときは、右てん補額は相続人にてん補すべき死亡被害者の逸失利益の額からこれを控除すべきものと解するのが相当である」

 

最高裁判決(平成5年4月6日)

 

この最高裁判決は、直接的には政府保障事業についてのものですが、損害賠償請求一般についても同様に解されています。

内縁の妻にも近親者固有の慰謝料請求権がある

近親者固有の慰謝料請求権(民法711条)は、内縁関係の配偶者にも認められます。

 

民法711条(近親者に対する損害の賠償)

他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。

 

民法711条は、「被害者の父母、配偶者及び子」となっていますが、これは限定的に解すべきではなく、実質的に同視できる場合は、慰謝料を請求できます。

 

近親者の範囲についての最高裁判例

右規定はこれを限定的に解すべきものでなく、文言上同条に該当しない者があっても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうるものと解するのが、相当である。

 

最高裁判決(昭和49年12月17日)

まとめ

内縁関係の場合、相続権はありませんが、死亡した被害者により扶養されていたときは、扶養利益を喪失することになるので、その損害について賠償請求できます。そのほか、内縁の配偶者であっても、近親者固有の慰謝料を請求することができます。

 

ただし、賠償請求が認められるかどうかは、内縁関係の実態によります。また、損害賠償請求額の計算は難しいので、交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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【参考文献】
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 122~123ページ
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 229~232ページ
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 90ページ
・『交通事故の法律知識』自由国民社 10ページ
・『交通事故の法律相談Q&A』法学書院 74~75ページ
・『判例タイムズ№882』110~111ページ
・「交通事故判例解説』第一法規 106~107ページ

公開日 2018-08-22 更新日 2023/03/16 11:45:59