政府の自動車損害賠償保障事業に対する請求手続と消滅時効

政府の自動車損害賠償保障事業に対する請求手続と消滅時効

政府の自動車損害賠償保障事業に対し、交通事故被害者が損害の填補を請求する場合の手続き、請求権の消滅時効について解説します。

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ひき逃げや無保険車による事故に遭い、自賠責保険による救済すら受けられない場合には、政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)に対し損害の填補を請求することができます。その手続と、請求できる期間(請求権の時効消滅)について、見ていきましょう。

 

政府保障事業に対する請求手続

ひき逃げ事故や無保険車による事故など、加害者が不明であったり、加害車両が自賠責保険にも加入していないような事故の場合、あるいは、加害車両を運転していたのが自賠責保険の被保険者でないため、自賠責保険の支払い対象とならないような事故の場合、被害者は、政府の自動車損害賠償保障事業(政府保障事業)に対して損害の填補を請求することができます(自賠法72条1項)

 

請求は損害保険会社(共済)で受付

政府保障事業に対する請求は、窓口を委託されている損害保険会社(共済)の全国各支店等へ、必要な書類を提出することにより行います。保険代理店では受付していませんから、ご注意ください。

 

自動車損害賠償保障事業は、自賠責保険と異なり、国が運営していますが、実務上は、損害の填補額の決定以外の業務(請求受付、損害調査、支払)は、自賠責保険を取り扱っている保険会社(共済)に委託しています。損害調査業務については、保険会社(共済)が損害保険料率算出機構に再委託しています。

 

保障事業の流れ

政府保障事業の流れは、次の通りです。

 

  • STEP
    損害の填補を請求

    保険会社の窓口に備え付けてある必要書類に記入し提出。

  • STEP
    損害の調査

    保険会社は、損害保険料率算出機構に損害調査を委託。損害保険料率算出機構は、調査業務が完了すると、調査結果書類を国土交通省に送付。

  • STEP
    填補額の審査・決定

    国土交通省は、損害保険料率算出機構の調査結果にもとづき審査を行い、填補額を決定。保険会社に填補額決定通知書を送付。

  • STEP
    填補額の支払

    保険会社は、国土交通省の決定にもとづき、填補額を支払う。

  • STEP
    賠償責任者へ求償

    国土交通省は、賠償責任者に填補額の範囲で求償し、弁済を求める。

 

請求に必要な書類

提出するのは、次の事項を記載した書面です(自賠法72条3項、同施行規則27条)

  1. 請求者の氏名・住所
  2. 死亡した者についての請求にあって、請求者と死亡した者との続柄
  3. 被害者の氏名・住所、事故の日時・場所
  4. 保有者に運行供用者責任が発生しない事故の場合には、加害者の氏名・住所
  5. 政府に対し損害のてん補を請求することができる理由
  6. 当該自動車の自動車登録番号等が判明している場合は、それらの情報
  7. 他の法令に基いて損害のてん補に相当する給付を受けるべき場合は、その給付の根拠・金額
  8. 請求する金額・算出基礎(診療報酬明細書等の立証資料)

 

この書面には、次の書類を添付します。

  • 診断書または検案書
  • 上記②から⑤までと⑦の事項に関する立証資料
  • 上記⑧の算出基礎に関する立証資料

 

被害者から填補請求を受けた政府は、必要があれば、請求者に対し、指定する医師の診断書の提出を求めることができます。この場合の費用は、政府が負担します。

請求できる期間

政府保障事業に対する損害の填補の請求は、被害の状況により傷害・後遺障害・死亡に区分され、それぞれの請求できる期間は次の通りです。

 

請求区分 いつから いつまでに(時効完成日)
傷害 治療を終えた日 事故発生日から3年以内
後遺障害 症状固定日 症状固定日から3年以内
死亡 死亡日 死亡日から3年以内

 

政府保障事業に対する被害者の填補請求権は、行使することができるときから3年を経過したときには時効により消滅します(自賠法75条)

 

消滅時効の起算日は、傷害に関する損害は事故日から、後遺障害に関する損害は症状固定日から、死亡に関する損害は死亡日からです。自賠責保険の被害者請求権と同じ運用がされています。

 

なお、傷害に関する損害につき、政府保障事業に填補金(保障金)の請求ができるのは、治療を終えた日からです。治療が終了しないと損害が確定しないからです。消滅時効の起算日は事故発生日とされていますから、注意してください。

 

政府保障事業に対する請求は、自賠責保険に対する請求と異なり、時効の更新はできません。政府保障事業が、被害者に対する必要最小限の救済措置であることから、保障事業への請求を長らくしない場合には、いつまでも権利を存続させておく必要がないこと、さらに、時間の経過により事故状況の把握が困難となるというのが理由です。

 

加害車両の保有者が不明な場合の保障金請求権(自賠法72条1項前段)について、保有者と疑わしい者がいたため、この者に対して訴えを提起したところ、保有者でないとして請求棄却となった場合、保有者と疑わしい者に対する請求棄却の判決が確定した日の翌日から、保障金請求権の時効が進行するとした最高裁判例があります。

 

最高裁第3小法廷(平成8年3月5日)

自動車損害賠償保障法72条1項前段による請求権の消滅時効は、ある者が交通事故の加害自動車の保有者であるか否かをめぐって、右の者と当該交通事故の被害者との間で同法3条による損害賠償請求権の存否が争われている場合においては、右損害賠償請求権が存在しないことが確定した時から進行する。

 

最高裁判決は、その理由として次の点を挙げています。

 

  1. 民法166条1項にいう「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけではなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要と解するのが相当である
  2. 交通事故の被害者に対して損害賠償責任を負うのは本来は加害者であって、本件規定は、自動車損害賠償責任保険等による救済を受けることができない被害者に最終的に最小限度の救済を与える趣旨のものであり、本件規定による請求権は、自賠法3条による請求権の補充的な権利という性質を有する
  3. 交通事故の被害者に対して損害額の全部の賠償義務を負うのも加害者であって、本件規定による請求権は、請求可能な金額に上限があり、損害額の全部をてん補するものではない
  4. そうすると、交通事故の加害者ではないかとみられる者が存在する場合には、被害者がまず右の者に対して自賠法3条により損害賠償の支払を求めて訴えを提起するなどの権利の行使をすることは当然のことであるというべきであり、また、右の者に対する自賠法3条による請求権と本件規定による請求権は両立しないものであるし、訴えの主観的予備的併合も不適法であって許されないと解されるから、被害者に対して右の二つの請求権を同時に行使することを要求することには無理がある
  5. したがって、交通事故の加害者ではないかとみられる者との間で自賠法3条による請求権の存否についての紛争がある場合には、右の者に対する自賠法3条による請求権の不存在が確定するまでは、本件規定による請求権の性質からみて、その権利行使を期待することは、被害者に難きを強いるものであるからである。

まとめ

政府保障事業に対する損害の填補請求は、自賠責保険を扱っている損害保険会社(共済)に必要な書類を提出することにより、手続開始となります。

 

保障事業に対する請求権は、行使することができる時から3年を経過したときは、時効によって消滅します。消滅時効の起算日は、傷害・後遺障害・死亡によって異なりますから、ご注意ください。

 

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【参考文献】
・『自賠責保険のすべて 13訂版』保険毎日新聞社 176~180ページ
・『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 226~227ページ
・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 229~230ページ
・『交通事故事件の実務―裁判官の視点―』新日本法規 152~154ページ
・国土交通省 自賠責保険ポータルサイト https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/accident/nopolicyholder.html

公開日 2023-03-29 更新日 2023/03/31 10:05:11