ヘルメットやシートベルト不着用の過失相殺と過失割合

ヘルメットやシートベルト不着用の過失相殺と過失割合

交通事故の被害者がヘルメットやシートベルトを着用せず事故に遭ったとき、ヘルメットやシートベルトの不着用が損害の拡大に寄与していると考えられると、過失相殺されます。不着用と被害拡大との因果関係を判断することが大切です。

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ヘルメット不着用やシートベルト不装着が原因で、損害が拡大したと考えられるようなときは、過失相殺が適用されます。

 

ただし、受傷の部位や程度によっては、ヘルメット不着用やシートベルト不装着が損害の拡大に影響しているとはいえない場合もあります。

 

ヘルメット不着用やシートベルト不装着を理由とする過失相殺にあたっては、損害拡大との因果関係を正しく評価することが必要です。

 

ヘルメット不着用の過失相殺と過失割合

バイクを運転するときは、ヘルメットをかぶることが法律で義務付けられています。

 

道路交通法第71条の4
  1. 大型自動二輪車または普通自動二輪車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶらないで大型自動二輪車もしくは普通自動二輪車を運転し、または乗車用ヘルメットをかぶらない者を乗車させて大型自動二輪車もしくは普通自動二輪車を運転してはならない。
  2. 原動機付自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶらないで原動機付自転車を運転してはならない。

 

ヘルメット不着用の過失相殺率

このことから「過失相殺率認定基準」では、ヘルメット不着用が被害の拡大に寄与しているようなときには、著しい過失に準じて加算修正するのが相当としています。

 

特に、高速道路でのヘルメット不着用は、重過失として評価すべきとしています。

 

頭部外傷の傷害を受けた場合等、ヘルメット着用義務違反が損害拡大に寄与しているようなときには、著しい過失に準じて、単車側の過失相殺率を加算修正するのが相当であろう。ただし、高速道路におけるヘルメット不着用は重過失と判断すべきである。

 

(『過失相殺率の認定基準』全訂5版(別冊判例タイムズ38号)より)

 

著しい過失とは、事故態様ごとに通常想定されている程度を超えるような過失、重過失とは、著しい過失よりさらに重い、故意に比肩する重大な過失をいいます。

 

著しい過失の修正率は10%、重過失の修正率は20%ですから、ヘルメット不着用の場合は、大きく減額されることになります。

 

ヘルメット不着用と損害拡大との因果関係を判断することが大切

頭部の受傷は、ヘルメット不着用との因果関係があるといえます。しかし、事故態様や受傷の部位・程度によっては、ヘルメット不着用と因果関係があるとはいえない場合があります。

 

例えば、頭部以外の受傷は、ヘルメット不着用とは無関係です。また、大型車両による頭部轢過など重篤な傷害の場合は、ヘルメットをかぶっていても傷害は避けられず、ヘルメット着用の有無は関係ないといえます。

 

ヘルメットをかぶらず運転していたら、ヘルメット着用義務違反です。しかし、ヘルメット不着用を理由に過失相殺する場合は、ヘルメット不着用が損害の拡大に寄与しているか、因果関係を判断することが必要です。

 

ヘルメット不着用の過失相殺についての裁判例

バイク事故では、被害者に、ヘルメット不着用だけでなく、速度違反や前方不注視などの過失があわせて認められるケースが多く、過失相殺率が高くなることがあります。

 

ヘルメットをかぶっていなかったことにより、被害者の損害が拡大したと認められる場合には、おおむね10~30%程度の割合の過失相殺がされています。

 

ただし、被害者がヘルメットをかぶっていなかったとしても、ヘルメット不着用が損害の拡大に寄与しておらず、ヘルメット不着用と損害拡大との間に相当因果関係が認められない場合は、過失相殺が否定されています。

 

ヘルメット不着用を理由に過失相殺した裁判例

ヘルメットをかぶっていなかったことを理由に過失相殺した裁判例には、次のようなものがあります。

 

過失相殺率は、ヘルメット不着用の過失と交通事故を発生させた過失をあわせた割合です。

 

  • 直進中の自動二輪車がUターン中の自動車に衝突し、自動二輪車の運転者が頭部等を負傷した事故について、速度超過、ヘルメット不着用の自動二輪車の運転者に40%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・昭和47年3月8日)
  • 交差点で直進の自動二輪車と右折禁止違反の対向右折車とが衝突し、自動二輪車の運転者が死亡した事故について、ヘルメット不着用の自動二輪車の運転者に30%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・昭和47年8月25日)
  • 自動二輪車の運転者が自動車に衝突されて頭蓋骨骨折等で死亡した事故について、ヘルメット不着用の自動二輪車の運転者に10%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・昭和52年11月29日)
  • 自動二輪車の運転者が飲酒のうえ大幅な速度超過で赤信号無視で交差点で衝突し、同乗者が死亡した事故について、ヘルメット不着用の同乗者に10%の過失相殺をした事例。
    (名古屋地裁・平成9年1月22日)
  • 交差点を直進中の原動機付自転車の左側面に自動車が衝突し、同乗者が跳ね飛ばされて頭蓋骨骨折等により死亡した事故について、ヘルメット不着用の同乗者に5%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・平成9年12月24日)

 

ヘルメット不着用による過失相殺を否定した裁判例

ヘルメット不着用が損害の拡大に寄与したとはいえないとして、過失相殺しなかった裁判例には、次のようなものがあります。

 

  • 自動二輪車の後部座席に横向きに同乗中に受傷した事故について、事故の態様、傷害の部位(肘・膝の関節部など)からして、ヘルメットをかぶっていても傷害は避けられなかったと判断され、横向きに乗っていたため傷害が誘発されたり、その程度が増長したとは認められないとして過失相殺を否定した事例。
    (東京地裁・昭和46年8月31日)
  • 貨物自動車と衝突した自動二輪車の同乗者が内臓破裂で死亡した事故について、ヘルメット不着用は損害の発生や拡大に寄与したものとはいえないとして過失相殺を否定した事例。
    (東京高裁・平成8年6月25日)

シートベルト不装着の過失相殺と過失割合

自動車の運転者、同乗者は、原則としてシートベルトの装着が義務づけられています(道路交通法71条の3)

 

しかし、「過失相殺率認定基準」では、自動二輪車のヘルメット不着用と異なり、過失相殺率の修正について明確にされていません。

 

とはいえ、ヘルメット不着用の場合と同様に、シートベルト不装着が損害の拡大に寄与したと考えられるときには、過失相殺されます。

 

シートベルト不装着との因果関係を判断することが大切

ヘルメット不着用の場合と同じく、シートベルト不装着と損害の拡大との因果関係を、傷害の部位・程度から判断することが大切です。

 

例えば、車が衝突して被害者が車外に放り出されたとか、フロントガラスに衝突して負傷したというのであれば、シートベルト不着用を理由として過失相殺されます。

 

しかし、車とガードレールに足を挟まれて片足を切断したような場合は、シートベルト不着用と損害の拡大との因果関係はないといえるでしょう。

 

シートベルト不着用に相当の理由がある場合

シートベルト装着義務には、例外規定があります。例えば、疾病・負傷・障害・妊娠・著しく座高が高い低い・著しく肥満などにより、シートベルトをしないことに相当の理由があるときは、シートベルト装着義務の適用除外となります。

 

シートベルトをしなくてもよい者
  • 疾病のため座席ベルトを装着させることが療養上適当でない者
    (道交法71条の3第1項・2項ただし書)
  • 負傷若しくは障害のため又は妊娠中であることにより座席ベルトを装着することが療養上又は健康保持上適当でない者
    (道交法施行令26条の3の2第1項1号、同条2項2号)
  • 著しく座高が高いか又は低いこと、著しく肥満していることその他の身体の状態により適切に座席ベルトを装着することができない者
    (道交法施行令26条の3の2第1項2号、同条2項3号)

 

こういう場合は、シートベルト不装着を理由とする過失相殺はできません。

 

シートベルト不装着の過失相殺についての裁判例

シートベルト不装着により、被害者の損害が拡大したと認められるような場合には、おおむね10~30%程度の割合の過失相殺がされています。

 

ただし、被害者がシートベルトを装着していなかったとしても、シートベルト不装着が損害の拡大に寄与しておらず、シートベルト不装着と損害拡大との間に相当因果関係が認められない場合は、過失相殺が否定されています。

 

シートベルト不装着を理由に過失相殺した裁判例

シートベルト不装着を理由に過失相殺した裁判例には、次のようなものがあります。

 

過失相殺率は、シートベルト不装着の過失と交通事故を発生させた過失をあわせた割合です。

 

  • 交差点で自動車同士が出合い頭に衝突し、被害者が車の外に投げ出されて死亡した事故について、シートベルト不装着の被害者の一時停止義務違反、速度違反、シートベルト不装着の落ち度を認め、被害者に80%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・平成1年4月7日)
  • 高速道路を走行中の自動車の助手席同乗者が、右手を伸ばしてハンドルを掴んで運転者の運転を妨害したため自動車がガードレールに衝突して横転し、車外に放り出されて車の下敷きとなり死亡した事故について、運転妨害、高速道路上でシートベルト不装着の被害者に40%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・平成2年8月31日)
  • 自動車の助手席に同乗中の被害者が、事故の衝撃で車外に放り出され路上に衝突して死亡した事故について、シートベルト不装着が死亡に少なからざる影響を与えたとして、シートベルト不装着の同乗者に5%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・平成7年7月26日)
  • 先行車両と追突し、助手席に同乗していた被害者がフロントガラスに衝突して頭部に傷害を被った事故について、シートベルト不装着の同乗者に5%の過失相殺をした事例。
    (東京地裁・平成9年1月22日)
  • 酒気帯びの上、シートベルト不装着の被害者が後遺障害等級7級になった事故について、酒気帯びとあわせて20%の過失相殺をした事例。
    (奈良地裁葛城支部・平成13年12月25日)
  • 自動車同士の事故でシートベルト不装着の同乗者が死亡した事故について、シートベルトを装着していても、ほとんどその効果はなかったと認められるものの、その受傷部位、程度からしてシートベルトを装着していれば、もっと軽い怪我で済んだ可能性が高いとして10%の過失相殺をした事例。
    (奈良地裁葛城支部・平成12年7月4日)

 

シートベルト不装着による過失相殺を否定した裁判例

シートベルト不装着が損害の拡大に寄与したとはいえないとして、過失相殺しなかった裁判例には、次のようなものがあります。

 

  • 追突事故により頚椎捻挫を受傷した被害者が、腹囲が117㎝と著しく肥満しており、道交法71条の3の第2項ただし書、同法施行令26条の3の2、第2項2号の趣旨により、シートベルトの不着用には相当の理由があるとして、シートベルト不装着の被害者の過失相殺を否定した事例。
    (東京地裁・平成7年3月28日)
  • 交差点で一時停止規制に違反して進行した加害車に、制限速度を超過して進入した被害車が出会い頭に衝突し、シートベルト不装着の被害者が死亡した事故について、シートベルト不装着であったことと死亡との因果関係が明確でないことを理由として過失相殺を否定した事例。
    (東京地裁・平成8年12月24日)
  • シートベルト不装着の結果として被害者の症状がより悪化し、損害が拡大したとは認められないとして、シートベルト不着用の被害者の過失相殺を否定した事例。
    (大阪地裁・平成13年10月17日)

まとめ

ヘルメットやシートベルトは、被害の拡大を防止するものです。そのため、ヘルメット不着用やシートベルト不装着が損害の発生・拡大に寄与していると考えられれば、被害者の過失が認められ過失相殺されます。

 

その際には、ヘルメット不着用・シートベルト不装着と損害の発生・拡大との相当因果関係が必要です。事故態様や受傷の部位・程度によっては因果関係が認められず、過失相殺が否定されることがあります。

 

保険会社から、ヘルメット不着用やシートベルト不装着を理由に過失相殺を迫られているときは、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

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ここで紹介した裁判例は、『ヘルメット不着用、シートベルト不装着の場合の過失相殺に関する裁判例』判例タイムズ1033号、『新版・交通事故の法律相談』学陽書房に掲載の裁判例を参考にしました。

公開日 2018-04-10 更新日 2023/03/18 13:28:15