交通事故の過失相殺において、過失割合と過失相殺率は、同じような意味で使われることがありますが、過失割合と過失相殺率は異なります。過失割合と過失相殺率の違いについて、分かりやすく説明します。過失相殺率と過失割合の違い過失相殺率と過失割合には、次のような違いがあります。過失相殺率とは過失相殺率は、過失相殺する割合です。被害者の過失相当分として損害賠償額から減額する割合が、過失相殺率です。例えば、過失相殺率が30%であれば、被害者の過失30%分を減額した額が、損害賠償額となります。この場合、被害者の過失が30%といっても、必ずしも過失割合が「加害者7:被害者3」というわけではありません。「加害者の過失」と「過失相殺の対象となる被害者の過失」は質的に異なるので、同じレベルの過失として対比できないからです。「被害者の過失」と「加害者の過失」の違いとは?過失相殺の対象となる被害者の過失は、単なる不注意というレベルです。自分の不注意により自身に損害が生じたというもので、相手に損害を与えて賠償責任が発生するようなものではありません。加害者の過失は、注意義務違反です。道路交通法などで自動車の運転者に課せられた注意義務を怠り、相手に損害を与え、賠償責任が生じます。被害者の過失と加害者の過失は、このような違いがあるので、同一線上で対比できないのです。過失割合とは過失割合は、発生した損害に対する当事者(加害者と被害者)の過失の割合です。加害者と被害者の過失を対比し、双方に過失を割り付けたものが過失割合です。例えば、「加害者7:被害者3」というように、被害者と加害者に損害の過失責任を割り付けます。この場合、被害者の過失が「10分の3」ですから、過失相殺率は30%となります。過失割合が妥当なのは、対等者間の事故の場合のみ過失割合の考え方ができるのは、当事者の過失が質的に同じものとして対比できる場合、すなわち、四輪車同士の事故のような対等者間の事故の場合のみです。歩行者と自動車との事故のように、交通弱者と交通強者との事故の場合には、過失の質が異なるので、過失割合という考え方は馴染みません。過失相殺における「相対説と絶対説」「交通弱者保護の原則」過失相殺率と過失割合の違いを、さらに深掘りします。ポイントは次の2つです。過失相殺には「相対説」と「絶対説」がある。過失相殺においては「交通弱者保護の原則」が考慮される。過失相殺における「相対説」と「絶対説」過失相殺の基本的な考え方には、「相対説」と「絶対説」があります。相対説:当事者双方の過失を対比して過失相殺を考える。絶対説:被害者の過失の大きさだけによって過失相殺を考える。相対説か絶対説かで過失相殺率が異なる相対説か絶対説か、どちらの立場によるかで、過失相殺率が異なります。例えば、被害者の過失も加害者の過失も、同程度の軽微な過失であった場合を考えてみましょう。相対説の立場で考えると、被害者の過失が小さくても、加害者の過失が同じように小さい場合は、過失相殺率は相対的に高くなります。絶対説の立場で考えると、被害者の過失が軽微なら、過失相殺率は小さくなります。相対説によるのが判例・保険実務の大勢ですが…通常、過失相殺における過失の評価は、加害者の過失と被害者の過失を対比し、双方の事情の総合的考慮により過失相殺の割合を定める方法(相対説)が採られます。ただし、対等者間の事故でない場合は、「相対説においても過失割合という思考をとらない」とされています(『別冊判例タイムズ38』44ページ)。過失相殺における「交通弱者保護の原則」過失相殺にあたっては「交通弱者保護の原則」が考慮されます。四輪車より単車、単車より自転車、自転車より歩行者、成人より幼児・児童といったように、交通弱者が保護される原則です。対等者間の事故の過失相殺には、過失割合と過失相殺率が同一のものとして機能しますが、対等者間でない事故の過失相殺には、過失割合を用いるのは妥当でなく、過失相殺率を用います。歩行者と自動車とでは過失の質が異なり、単車と四輪車でも単車の運転者の方が被害を受けやすく、保護する必要があるからです。歩行者と自動車の事故例えば、一般道路を歩行者が横断していて自動車にひかれ、歩行者の過失相殺率が20%だったとします。このとき、加害者(自動車の運転者)と被害者(歩行者)の過失割合が8;2かというと、そうはなりません。歩行者が、相手車両の物損に、20%責任を負うわけではないのです。自動車は、運転者の不注意(過失)によって他人に危害を加える危険があるため、運転者は、道路交通法で様々な注意義務が課されています。一方、歩行者は、不注意(過失)があったとしても、他人に危害を及ぼすことは基本的にありません。その不注意は、自分の身を守るために注意しなかった不注意にすぎません。過失相殺の過失は、注意義務違反でなく、不注意で足りるといわれる所以です。歩行者は、自分が損害を受けたことについて、自分の過失分について過失相殺されますが、それは加害者として責任を負う過失ではないのです。したがって、歩行者と自動車との事故では、双方の過失を対比する過失割合という考え方は馴染まないのです。単車と四輪車の事故四輪車と単車は、道路交通法で同じように規制を受けますが、四輪車同士の事故と単車対四輪車の事故では、過失相殺率が異なります。例えば、交差点における直進車と右折車との事故で考えてみましょう。道路交通法で直進車優先の基本原則がありますから、四輪車同士あるいは単車同士の事故の場合は、右折車の過失割合が80%、直進車の過失割合が20%で、これがそれぞれの過失相殺率となります。(過失相殺率認定基準【107】)単車が直進車、四輪車が右折車の場合、直進単車の過失相殺率は15%です。対等者間の事故なら直進車の過失相殺率は20%ですから、それより5%減ります。(過失相殺率認定基準【175】)逆に、単車が右折車、四輪車が直進車の場合、右折単車の過失相殺率は70%です。対等者間の事故なら右折車の過失割合は80%ですから、10%減ります。(過失相殺率認定基準【176】)基本的には道路交通法で同一の規制を受ける四輪車と単車であるにもかかわらず、過失相殺率が異なります。これは、単車が四輪車と衝突した場合、単車の運転者が被害を受けるのが通常であり、こうした被害については、公平の観点から救済する必要があるからです。損害賠償における損害の公平な分担という理念から、過失相殺率は、本来の過失割合に修正を加えているので、このように違った基準ができているのです。これを単車修正といいます。「過失相殺基準」の見方過失相殺率を判断するときには、『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(別冊判例タイムズ38)を参考にするのが一般的です。この『過失相殺率認定基準』では、交通弱者の側が被害者になったとき(人身損害が生じたとき)の過失相殺率を示しています。つまり、「歩行者と四輪車・単車・自転車との事故」「単車と四輪車との事故」「自転車と四輪車・単車との事故」で示されている基準は、それぞれ、歩行者、単車、自転車が被害者となった場合の過失相殺率を示しています。「四輪車同士の事故」の場合も、被害者の側の過失相殺率を示すものですが、対等者間の事故であるため、過失相殺率と過失割合は一致すると考えて差し支えありません。具体的に見てみましょう。「歩行者と四輪車・単車との事故」の過失相殺率「四輪車同士の事故」の過失相殺率「単車と四輪車との事故」の過失相殺率「歩行者と四輪車・単車との事故」の過失相殺率歩行者と四輪車・単車との事故については、『過失相殺率認定基準』では、歩行者が被害者となったときの過失相殺率を示しています。例えば、歩行者と四輪車・単車との事故で、歩行者が黄信号で横断を開始し、車両が赤信号で進入した場合の過失相殺率の基準は次のようになっています。歩行者と直進車との事故歩行者が、黄信号で横断を開始車両が、赤信号で進入基本10修正要素児童・高齢者-5幼児・身体障害者等-5集団横断-5車両の著しい過失-5車両の重過失-10※『別冊判例タイムズ№38』67ページ、基準【2】。修正要素は一部のみ抜粋。このような事故の場合、被害者(歩行者)の基本の過失相殺率は10%で、修正要素を考慮して過失相殺率を決めます。例えば、被害者が「児童・高齢者」の場合には「マイナス5」で、過失相殺率は5%となります。歩行者は、黄信号の場合に道路の横断を始めてはならないので(道路交通法施行令2条1項)、方向者が黄信号で横断を開始したこと自体に過失が認められます。また、この場合は、歩行者に左右の安全確認義務があるのが普通で、左右の安全確認も怠っていることの過失も問題となります。しかし、赤信号に違反した車両の過失の方がはるかに大きいので、過失相殺基準では「原則として10%以上の過失相殺をしない」とされています。歩行者が加害者となる場合歩行者が加害者となる場合について、過失相殺基準はありません。上の例では、歩行者が被害者となったときの過失相殺率が10%ということであり、過失割合が「加害者9:被害者1」というわけではありません。仮に、歩行者が怪我をせず、歩行者を避けようとした車両の運転者が怪我をして、歩行者が加害者、車両の運転者が被害者となった場合、車両の運転者から歩行者に損害賠償請求するとして、過失相殺率が90%になるわけではありません。歩行者が不法行為責任を負うか、負うとしてその過失責任がどの程度か、については、個別に判断する必要があり、『過失相殺率認定基準』では示していないのです。『過失相殺率認定基準』には、次のような解説があります。歩行者が被害者となる場合のみを取り上げることとし、被害者保護、危険責任の原則、優者危険負担の原則、自賠責保険の実務等を考慮して、歩行者に生じた損害のうちどの程度を減額するのが社会通念や公平の理念に合致するのかという観点から過失相殺率を基準化した。歩行者が加害者となる場合、例えば、歩行者が路上に急に飛び出したため、急停止をした四輪車・単車の運転者・同乗者が負傷したり、歩行者との衝突を避けようとしてハンドルを切り、対向車と衝突した四輪車・単車の運転者・同乗者が負傷した場合等に、歩行者が不法行為責任を負うか、負うとしてその負担割合がどの程度かなどは、本章の基準の対象外である。(『別冊判例タイムズ№38』60ページ)「四輪車同士の事故」の過失相殺率四輪車同士の事故の場合、『過失相殺率認定基準』は、被害車両の過失相殺率を表示しています。例えば、信号機のない同幅員の交差点において、A車・B車とも同程度の速度で進入し、出会い頭に衝突したケースです。A車が左方車、B車が右方車とすると、左方優先ですから、A車の過失相殺率の基準は次のようになります。信号機のない交差点での四輪車同士の事故A車:左方車B車:右方車基本A 40:B 60修正要素A車の著しい過失+10A車の重過失+20B車の著しい過失-10B車の重過失-20※『別冊判例タイムズ№38』215ページ、基準【101】。修正要素は一部のみ抜粋。ここで示しているのは、A車の基本の過失相殺率が40%ということですが、四輪車同士の事故の場合は、「対等者間の事故」なので、過失相殺率は過失割合と同一と解することができます。つまり、A車とB車の過失割合は「40:60」と考えて差し支えないということです。「単車と四輪車との事故」の過失相殺率『過失相殺率認定基準』では、単車と四輪車との事故で、単車側に人身損害が生じた場合の過失相殺率を示しています。例えば、信号機のない同幅員の交差点において、単車(A車)と四輪車(B車)がともに同程度の速度で進入し、出会い頭に衝突したケースです。単車(A車)が左方車、四輪車(B車)が右方車とすると、左方優先ですから、単車(A車)の過失相殺率の基準は次のようになります。信号機のない交差点での単車と四輪車の事故A車:単車(左方車)B車:四輪車(右方車)基本A 30:B 70修正要素A車の著しい過失+10A車の重過失+20B車の著しい過失-10B車の重過失-20※『別冊判例タイムズ№38』318ページ、基準【165】。修正要素は一部のみ抜粋。四輪車同士の事故の場合のように割合の形で表示していますが、対等者間の事故ではないので、過失割合と一致するわけではありません。単車の運転者は怪我をせず、四輪車の運転者が怪我して被害者になり、相手に損害賠償請求する場合、基準に示されている四輪車の過失70%を過失相殺率とすることはできません。別個に判断することが必要です。『過失相殺率認定基準』には、次のような注意書があります。一方が単車・自転車の事故の類型の基準においては、四輪車側の過失割合も示しているが、単車・自転車の過失割合は、そのまま過失相殺率として用いることを予定しているのに対し、>四輪車側の過失割合は、あくまで注意的な記載であり、単車・自転車が加害者であるとして請求された場合における過失相殺率を直ちに示すものではない。(『別冊判例タイムズ№38』44ページ)まとめ過失割合と過失相殺率は異なります。過失相殺にあたっては、過失相殺率を用います。対等者間の事故の場合は、過失割合と過失相殺率は一致するので、過失割合を考えて過失相殺しても差し支えありませんが、対等者間でない事故の場合は、過失割合の考え方は妥当ではありません。過失相殺率の判断には、『過失相殺率認定基準』を用いるのが一般的です。ただし、すべての事故態様を網羅しているわけではないので、過失相殺基準を参考に個別に判断することが必要です。相手方の保険会社が示す過失割合・過失相殺率について疑問に感じたり納得できないときは、交通事故の損害賠償請求や過失割合の争いに強い弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 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