歩行者と自動車・単車との交通事故の過失割合・過失相殺率の基準

歩行者と四輪車・単車との事故における過失相殺率の基準

歩行者と車両(四輪車・単車)との交通事故について、おもな事故類型の過失割合・過失相殺率の基準を『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』(別冊判例タイムズ38)を参考に紹介します。

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人と車の事故の過失割合

 

歩行者と車(四輪車・単車)との交通事故は、ほとんどのケースで車側の過失責任が重くなります。車の運転者には、歩行者に十分注意して運転することが義務づけられているからです。

 

ただし、歩行者が信号を無視して道路を横断したなど、歩行者に交通ルール違反があった場合は、重大な過失として大きく過失相殺されることがあります。

 

ここでは、歩行者と車との交通事故の過失割合の基本的な考え方について、過失相殺率認定基準(別冊判例タイムズ38)を参考に、

 

  • 道路を横断中(横断歩道または横断歩道以外)の事故
  • 道路の端を通行中の事故
  • 路上横臥者の事故

 

に分けて見ていきます。

 

なお、ここで紹介するのは、代表的な事故類型における過失相殺率の基準です。『過失相殺率認定基準』の全てを紹介したものではありません。

 

実際の交通事故で過失割合を判断するときには、『過失相殺率認定基準』のどの事故類型を参考にするか検討し、修正要素を加味し、個別事情を考慮して判断する必要があります。専門的な知識や経験がないと難しいので、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

「歩行者(=被害者)の過失」と「車両の運転者(=加害者)の過失」は、質的に注意義務が異なるので、厳密に言えば、同一線上で過失の程度を対比できません。そのため、過失割合でなく、過失相殺率が正しい表現です。

 

ただ、一般的には過失割合という言葉の方が広く使われ、イメージしやすいので、ここでは厳密な表記が必要でない限り、過失割合を使っています。

 

横断歩道を横断中の事故の過失割合

横断歩道上の事故

※歩行者が横断歩道を横断中の事故

 

横断歩道上では、法律により歩行者は強く保護され、絶対的優先権があります。

 

道路交通法で、車両は、横断歩道を横断しようとする歩行者がある場合、横断歩道の直前で一時停止し、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない(道路交通法38条1項)と定められています。

 

したがって、横断歩道上の事故は、原則として過失相殺されません

 

青信号で横断歩道を横断中の事故はもちろん、信号機のない横断歩道を横断中の事故であっても、さらに、相手が直進車であろうと右折車・左折車であろうと、過失相殺しないのが原則です。

 

歩行者0:車100

 

歩行者が横断歩道を外れて横断した場合は?

横断歩道による横断かどうかは、交通事情などから具体的に検討すべきですが、おおむね、横断歩道の端から1~2m離れた場所の横断や、横断歩道上に停止した車両の前後の横断は、横断歩道と同視されます。

 

つまり、横断歩道上とは、横断歩道内だけでなく、横断歩道の端から1~2m以内の場所も含まれます。

 

(参考:「別冊判例タイムズ38」64ページ)

 

歩行者が赤信号で横断歩道を渡った場合

歩行者が赤信号を無視して横断歩道を横断したとき

※信号機のある横断歩道を歩行者が赤信号を無視して横断したとき

 

歩行者が赤信号を無視して横断した場合は、横断歩道上の事故であっても、歩行者の過失が認められ、過失相殺されます。

 

もっとも、歩行者は交通弱者保護の観点から、過失相殺率100%ではなく、最大70%の過失相殺となります。車の側の信号の色によって、過失相殺率が異なります。

 

車の側の信号 基本の過失相殺率
20
50
70

横断歩道以外の場所を横断中の事故の過失割合

横断歩道のない道路を横断中の事故

※横断歩道以外の場所を横断したとき

 

横断歩道以外の場所を横断することは危険で、歩行者の注意義務は重くなります。そのため、横断歩道以外を横断して事故に遭ったときは、20%程度の過失相殺がされます。

 

歩行者20:車80

 

幹線道路の場合は、交通量が多く、車が高速で走行し、危険性が高いことから、10%加算修正されます。

 

基本の過失相殺率 20
修正要素 幹線道路 +10
横断禁止の規制あり +5~10
児童・高齢者 -5
幼児・身体障害者等 -10
車両の著しい過失 -10
車両の重過失 -20

※修正要素は一部のみ抜粋。

 

付近に横断歩道があるのに横断歩道を横断しなかった場合

横断歩道付近を横断中の事故

※横断歩道の付近を横断したとき

 

歩行者が道路を横断しようとする場合、付近に横断歩道があるときは横断歩道を横断しなければなりません(道路交通法12条1項)

 

したがって、近くに横断歩道があるのに横断歩道を横断せず事故に遭った場合は、歩行者の過失が重く、基本の過失相殺率は30%となります。

 

歩行者30:車70

 

幹線道路の場合は、交通量が多く、車が高速で走行しているため、横断歩道を利用しないと危険性が高いことから、10%加算修正されます。

 

基本の過失相殺率 30
修正要素 幹線道路 +10
横断禁止の規制あり +10
児童・高齢者 -10
幼児・身体障害者等 -20
車両の著しい過失 -10
車両の重過失 -20

※修正要素は一部のみ抜粋。

 

横断歩道の付近とは、どの程度の距離範囲か?

横断歩道の付近とは、道路の幅員・付近の状況・交通量などから判断して、通常なら横断歩道を利用するであろう、と考えられる距離です。

 

おおよその基準としては、おおむね幅員14m(片側2車線)以上の道路で、交通量が多く、車が高速で走行している道路は、横断歩道から40~50m以内、それ以外の道路は、20~30m以内とされています。

 

(参考:「別冊判例タイムズ38」89ページ)

 

付近に横断歩道橋があるのに歩道橋を利用せず道路を横断した場合

横断歩道橋は、横断歩道のような法的規制はありません。しかし、歩道橋が設置されている道路は、交通量が多く、車が高速で走行している場所です。

 

ですから、横断歩道橋が付近にあるのに、歩道橋を利用せずに道路を横断した場合は、横断歩道の付近を横断する歩行者と同じように扱われます。

 

横断歩道橋の構造上、乳母車や自転車を押しての利用、高齢者や身体障害者の利用は困難です。こういう歩行者の場合は、横断歩道が近くにない場所での横断の基準を参考に、過失相殺率を判断します。

歩道や道路の端を歩行中の事故の過失割合

歩行者が、歩道や道路の端を歩いているときの事故の場合です。交通事故の発生場所が、歩車道の区別のある道路か、歩車道の区別のない道路かによって、歩行者の過失相殺率が異なります。

 

歩車道の区別のある道路における事故

歩道を通行している歩行者の事故

 

歩道を歩いていた場合

車は、歩車道の区別のある道路では車道を通行し、道路外の施設や場所に出入りするためやむを得ず歩道を横断するときは、歩道に入る直前で一時停止し、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない(道路交通法17条1項2項)と定められています。

 

したがって、歩道を通行する歩行者には法的保護があり、歩道上での事故は、原則として過失相殺されません。歩道には、路側帯も含みます。

 

歩行者0:車100

 

歩道があるのに車道を歩いていた場合

歩行者は、歩道と車道の区別のある道路においては、道路を横断するときや道路工事等のため歩道を通行することができななど「やむを得ない事情」があるときを除き、歩道を通行しなければなりません(道路交通法10条2項)

 

したがって、歩行者が、歩車道の区別のある道路の車道を通行中に事故に遭った場合は、歩行者に過失が認められ、原則として過失相殺されます。

 

歩行者20:車80

 

20%の過失相殺率は車道の側端(端からおおむね1m以内)を通行した場合です。側端でない場合は、歩行者の過失が大きくなり、基本の過失相殺率が30%となります。

 

やむを得ない事情がある場合は、車道の端を通行することが許されますが、前方・後方から走行してくる車の動きを注視し、安全を確認する注意義務があります。基本の過失相殺率は10%です。

 

「やむを得ない事情」とは、歩道を工事している場合のほか、片側のみの歩道が設けられている道路で交通量が多く横断できない場合や、近距離を移動するため二度も横断することがかえって危険となる場合などです。

 

歩車道の区別のない道路における事故

歩行者は、歩道と車道の区別のない道路では、道路の右側端に寄って通行しなければならず、道路の右側端を通行することが危険であるときその他やむを得ないときは、道路の左側端に寄って通行することができます(道路交通法10条1項)

 

したがって、歩行者が、道路の右側端を通行していたか、左側端を通行していたか、それら以外の場所を通行していたか、によって過失相殺率が異なります。

 

右側端を通行している場合

歩行者が右側端を通行している場合

※道路の右側端を通行していたとき

 

歩行者が道路の右側端を通行している場合は、歩行者の側方を通行する車に、歩行者との間に安全な間隔を保ち、徐行する注意義務があります(道路交通法18条2項)

 

事故の発生は車の過失と考えられ、原則として過失相殺はされません。

 

歩行者0:車100

 

左側端の通行が例外的に許される場合も、この基準によります。例えば、道路の右側に崖があったり工事個所があったりして右側端通行が危険な場合や、右側端に駐車車両が並んでいて右側端通行ができない場合などです。

 

左側端を通行している場合

歩行者が左側端を通行している場合

※道路の左側端を通行しているとき

 

歩行者が左側端を通行し、右側端を通行していたら事故発生を容易に回避できた場合など、左側端通行と事故との間に因果関係がある場合は、過失相殺されます。

 

歩行者5:車95

 

道路の側端以外を通行している場合

道路端からおおむね1m以上中央部分を通行している歩行者が、背面または正面から車に衝突された場合です。

 

幅員8m以上の道路の中央部分(道路端からおおむね3m以上)を歩行者が通行していたときは、20%の過失相殺がされます。

 

それ以外の場合(幅員8m未満の道路、幅員8m以上の道路の端からおおむね1~3m離れた部分)は、10%の過失相殺率となります。

路上横臥者の事故の過失割合

路上横臥の事故

 

酒に酔った歩行者が、道路上で寝てしまったような場合の事故です。横臥者だけでなく、座り込んでいる者も同様です。

 

昼間は、車からの路上横臥者の発見が比較的容易であることから、車の過失が大きく、路上横臥者の基本の過失相殺率は30%とされています。

 

夜間は、車からの発見・衝突回避が遅れ、発見しても人とは思わずに轢過することもあります。そのため、夜間の場合は、昼間と比較して路上横臥者の過失が加重され、路上横臥者の基本の過失相殺率は50%とされています。

 

昼間 夜間
基本の過失相殺率 30 50
修正要素 幹線道路 +10 +10~20
住宅街・商店街等 -5 -10~20
車の著しい過失 -10 -10
車の重過失 -20 -20

※修正要素は一部のみ抜粋。

まとめ

歩行者と車両(四輪車・単車)が衝突する事故の場合、歩行者は交通弱者として法的な保護があります。ですから、道路交通法に違反するような過失がなければ、基本的に過失相殺されることはありません。

 

例えば、道路を横断するときは、横断歩道を渡る、信号を守る、歩道のある道路は歩道を歩く、歩道がない場合は道路の右側を通行する、といったことを守っていれば、歩行者は絶対的な法的保護がありますから、原則として過失相殺率はゼロです。

 

過失割合・過失相殺率は、一応の基準はありますが、修正要素や具体的な事故態様により判断する必要があります。過失割合で揉めているときは、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

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【参考文献】
・『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版』(別冊判例タイムズ38)
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房
・『道路交通法解説16-2訂版』東京法令出版

公開日 2018-06-10 更新日 2023/03/18 13:28:15