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センターラインオーバーによる対向車同士の衝突事故は、反対車線にはみ出した方が、基本的に100%の過失責任を負います。
ただし、幅員があまり広くなく、センターラインのない道路では、左側部分を走行していた車の方にも、ある程度の前方不注視が問われることがあります。
過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ38)を参考に、対向車同士の事故の過失割合の考え方について見ていきましょう。
対向車同士の事故の過失割合を考える前提として、次の点を押さえておいてください。
車両には、「左側部分通行の原則」と「キープレフトの原則」があります。これは、信号表示に従うことと並び、車両の運行にあたっての最も基本的なルールです。
車両は、道路の左側部分を通行しなければならない。
車両は、道路の左側に寄って通行しなければならない。
センターオーバーは、この最も基本的なルールに違反するため、センターオーバーによる衝突事故は、道路の右側部分にはみ出した車両の一方的過失となるのです。これは、赤信号で交差点に進入した車の過失割合が100%となるのと同じです。
ただし、同じ対向車同士の衝突事故でも、幅員が十分に広い道路と、車両がすれ違いできる程度の幅員の道路では、過失割合を同じように考えることはできません。
次の3つのケースに分けて、過失割合の考え方を見ていきます。
センターラインオーバーによる対向車同士の事故
センターライン(中央線)がある道路で、左側を走行していた車Aと、センターオーバーした車Bとが衝突事故や接触事故を起こしたときは、原則として、センターオーバーした車Bの一方的過失とみなされます。
センターラインがなくても、幅員が十分広い道路の場合も同様です。
道路の左側を走行していた車Aと、センターオーバーした車Bとの衝突事故の基本の過失割合は、次のようになります。
A:B=0:100
ただし、左側走行車Aが、通常要求される注意を払っていれば、センターオーバー車Bを容易に回避できたにもかかわらず、前方不注視で対向車の発見が遅れ、回避できなかった場合などは、左側走行車Aも、ある程度の過失が問われることがあります。
センターオーバーの原因としては、追越し、居眠り、脇見、カーブでの速度超過などがあります。
『過失相殺率認定基準』では、センターオーバー車Bが、先行車両を追越すため反対車線にはみ出した場合に限り、左側走行車Aの速度違反を特別に修正要素として考慮するようにしています。
その理由は、追越しの場合、道路の右側部分にはみ出して走行することが認められており、追越しにあたっては、対向車の速度違反が重要な意味を持つからです。
例えば、左側走行車Aが、制限速度内で走行していれば、追越し車両Bと衝突することはなかったのに、Aが制限速度を大幅に超過していたことが要因で、追越しを完了できず衝突してしまった、というようなケースを考えれば理解できるでしょう。
もっとも、道路の右側部分にはみ出して追越しできるのは、道路の右側部分を見通すことができ、反対方向からの交通を妨げる恐れのないときに限られます。
道路の右側部分の走行は、例外として限定的に認められるものですから、基本的には追越しをしようとした車Bの過失が大きいことは変わりません。
道路交通法では、左側部分の幅員が 6mに満たない道路において、他の車両を追い越そうとするとき、道路の中央から右の部分(右側部分)にその全部または一部をはみ出して通行することができる(道交法17条5項4号)とされています。
ただし、その場合、3つの要件があります。
追越しで道路の右側部分を走行することは、この3つの要件を満たす場合に、例外的に認められることです。
したがって、車両Bが、追越しのため反対車線にはみ出し、車両Aと衝突した場合、車両Aに速度違反があると、Aの過失割合が10~20%加算修正されます。
Aが15㎞以上の速度違反 | A10:B90 |
---|---|
Aが30㎞以上の速度違反 | A20:B80 |
幅員が狭い道路でのセンターオーバーによる対向車同士の事故
車両がすれ違うことができるものの、幅員があまり広くなく、センターライン(中央線)の表示もない道路の場合は、センターオーバーの事故の過失割合をそのまま適用することはできません。
『過失相殺率の認定基準』では、「左側部分通行の車両といえども、対向車の進路に対する相当の注意が要求されてしかるべき」となっています。
したがって、左側通行車にも、ある程度の過失割合を認める場合があります。
次のような場合は、右側部分にはみ出して通行することが認められます(道交法17条5項)。
双方の車両の速度や道路状況など具体的事情にもとづき、個別的に過失割合を検討することになり、左側通行車にも、ある程度の過失割合を認める場合があります。
対向車同士の衝突事故は、センターオーバーした車が、基本的に100%の過失責任を負います。
ただし、道路の左側を走行していた車が、事故を回避できる状況であったのに発見が遅れたなどで回避できなかった場合は、前方不注視による過失が問われることがあります。
また、センターラインがない幅員の狭い道路の場合は、双方の速度や道路状況など具体的事情にもとづき、個別に判断することになります。
実際の事故の過失割合の判断は難しいので、過失割合に疑問のある場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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【参考文献】
・『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版』(別冊判例タイムズ38)
・『道路交通法解説16-2訂版』東京法令出版