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年金受給者・年金生活者が交通事故により死亡した場合、将来受けられるはずだった年金を逸失利益として認められるかどうかは、年金の種類によって異なります。
年金には、国民年金を基礎年金とし、上乗せ部分として厚生年金があります。
上乗せ年金は、民間企業の被用者は厚生年金、公務員等は共済年金と分かれていましたが、2015年(平成27年)10月から、公務員等も厚生年金に加入することとされ、厚生年金に統一されました。
年金の逸失利益性は、①年金給付の目的、②保険料と年金給付との対価性(牽連関係)、③年金給付の存続の確実性、により判断されています。
年金の逸失利益性が認められるか否かについては、裁判例により、ほぼ次のように確定しています。
国民年金 | 厚生年金 | 共済年金 | |
---|---|---|---|
老齢年金 |
老齢基礎年金 |
老齢厚生年金 |
退職共済年金 |
障害年金 |
障害基礎年金 |
障害厚生年金 |
障害共済年金 |
遺族年金 |
遺族基礎年金 |
遺族厚生年金 |
遺族共済年金 |
〇:逸失利益が認められる ×:逸失利益が認められない
老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金、退職共済年金)は、年金の保険料を納付してきた本人が老齢になり、または退職した場合に支給される給付です。
老齢年金については、逸失利益性が認められます。
老齢年金の受給者が交通事故により死亡した場合、相続人は、加害者に対し、老齢年金の受給者(被害者)が生存していればその平均余命期間に受給することができた年金の現在額を被害者の損害として賠償請求できます。
障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金、障害共済年金)は、本人が負傷し所定の後遺障害等級に該当する場合に支給される給付です。
障害年金については逸失利益性は認められますが、加給分については、逸失利益が認められません。加給分とは、障害年金受給者によって生計を維持していた配偶者や子がある場合に障害年金に加算される分です。
障害年金は、保険料が拠出されたことにもとづく給付としての性格を有しているため、障害年金を受給していた者が不法行為により死亡した場合、その相続人は、加害者に対し、障害年金の受給者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を損害賠償請求できます。
ただし、子・配偶者の加給分については、最高裁は次のような理由から、逸失利益性を否定しています。
(最高裁判決・平成11年10月22日より)
遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金、遺族共済年金)は、本人が死亡した場合に遺族に支給される給付です。
遺族年金については、逸失利益性が認められません。
最高裁は、次のような理由から、遺族年金の逸失利益性を否定しています。
(最高裁判決・平成12年11月14日より)
年金の逸失利益の算定にあたっては、実際に年金の支給が受けられるであろうと認められる期間につき積算を行うことになります。
受給者が生存している限り受給し得たであろうと認められるときは、平均余命の年数をもって積算することとなります。
年金逸失利益の算定の際、誤って平均余命の2分の1で計算し、過少請求してしまう例が少なくありません。
高齢者の稼働逸失利益を算定する場合に平均余命の2分の1を就労可能期間とみなすので、それと混同しているからですが、年金逸失利益は、平均余命で算定し、稼働期間は関係ありません。
【関連】
年金は生活保障的な意味合いが強く、収入に占める生活費の割合が高いため、年金逸失利益の生活費控除率は、通常よりも高くなる傾向があります。
特に、年金額が少額で他に収入がない場合の方が、年金額が高かったり、他に多額の収入がある場合よりも、生活費控除率は高くなります。
どれくらい控除率が高くなるかというと、稼働逸失利益の生活費控除率が30~40%、高くても50%であるのに対して、年金逸失利益の生活費控除率は、50~60%程度の例から、70~80%という高率な例まであります。
逆に、稼働逸失利益と同程度とされる場合もあり、特別な事情から生活費控除をしない場合もあります。例えば、不動産収入等で年間500万円以上の収入があり、生活費はそれで賄えるとして、国民年金分については生活費控除をしなかった例があります。
個別に具体的な事情を考慮して、控除率が判断されます。
被害者が年金以外にも稼働収入を得ていた場合の生活費控除の方法については、複数の考え方があります。例えば、次のような方法です。
生活費控除率の認定にあたっては、年金収入や稼働収入の額、同居家族の数や扶養関係、生活費の負担状況などが考慮されますから、適切な生活費控除率を主張・立証することが大切です。
被害者が死亡時に年金を受給していない場合、年金の逸失利益性については、被害者が年金受給資格を取得しているか否かにより異なります。
なお、年金未受給者の年金逸失利益性が問題となるのは、老齢年金についてです。未受給の障害年金の逸失利益性が問題になることは想定しがたく、遺族年金の逸失利益性は否定されています。
被害者が、すでに年金受給資格を取得している場合は、年金受給の蓋然性が高いので、支給予定の年金の逸失利益性は認められます。
予定年金額については、①加入実績に応じた年金額とするか、②今後60歳まで年金制度に加入していたと仮定した場合の年金額とするか、2つの算定方法があります。
②の方が有利に思えるかもしれませんが、こちらを選択するケースは、それほど多くはありません。
60歳まで加入していたと主張する場合、その間に納付する保険料を損害から控除する必要があり、中間利息控除を考慮すると、控除される保険料の額が多額になり、ほとんどメリットが生じないことが多いのです。
予定年金額を、加入実績に応じて計算するか、60歳まで加入していたと仮定して計算するか、どちらの方法で算出するかは、年金受給開始年齢までの期間を考慮し、有利な方を採用することになります。
被害者が、死亡時に年金受給資格を取得していない場合は、年金受給資格を取得するまでの年数を含めて、年金受給の蓋然性を判断することになります。
年金受給の蓋然性が高いと判断できる場合には、年金逸失利益が認められます。
ただ、受給資格未取得の場合、年金逸失利益が認められたとしても、将来受給するであろう年金額を中間利息を控除して現在価額に換算するこに加え、年金受給開始まで納付する保険料を損益相殺の見地から控除するため、大きな金額にはなりません。
特に、年金支給開始年齢までかなり年数がある場合には、年金逸失利益は少額となり、請求するメリットはほとんどありません。
年金逸失利益の計算方法は次のようになります。
被害者が年金を受給していた場合、年金逸失利益の計算は、こうです。
(年金額)×(1-生活費控除率)×(平均余命年数に対応するライプニッツ係数)
被害者が年金受給資格は得ているものの、支給開始年齢に達する前に死亡した場合は、受給予定年金額を基礎として、逸失利益を計算します。
中間利息控除は、平均余命年数に対応する係数から、年金受給開始までの年数に対応する係数を差し引いた係数を用います。
(予定年金額)×(1-生活費控除率)×(平均余命年数に対応するライプニッツ係数-年金支給開始までの年数に対応するライプニッツ係数)
被害者が年金受給資格未取得だった場合は、死亡時から年金受給開始まで納付すべき将来の保険料を控除する必要があります。
(予想される年金額)×(1-生活費控除率)×(平均余命年数に対応するライプニッツ係数-年金支給開始までの年数に対応するライプニッツ係数)-(予想される納付保険料の年額×保険料支払いを要する年数に対応するライプニッツ係数)
年金を受給していた者や受給資格を得ていた者がが交通事故で死亡した場合、将来受給できるはずだった年金を逸失利益として、相続人が損害賠償することができます。
ただし、遺族年金や加給分については、社会保障的要素が強いため、逸失利益性が認められません。
年金逸失利益は、生活費控除率が高くなる傾向があるため、年金以外の稼働収入の有無、同居家族、扶養関係、生活状況などの事情から、適切な生活費控除率を主張・立証することが大切です。
年金の受給開始前に交通事故で死亡した場合は、受給資格の有無、受給の蓋然性について明らかにする必要があります。
保険会社が提示する年金の逸失利益に納得がいかない場合や、年金の逸失利益について詳しい専門家に相談したいときは、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!
0120-690-048 ( 24時間受付中!)
※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
【参考文献】
・『交通損害関係訴訟 補訂版』青林書院 82~84ページ
・『事例にみる交通事故損害主張のポイント』新日本法規 219~221ページ
・『交通事故事件の実務』新日本法規 88~92ページ
・『要約 交通事故判例140』学陽書房 220~224ページ
・『交通事故損害賠償保障法 第2版』弘文堂 213~217ページ
・『交通事故損害賠償の手引』企業開発センター 46~48ページ
・『プラクティス交通事故訴訟』青林書院 127~137ページ
・『新版 交通事故の法律相談』青林書院 154~158ページ
・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 211~212ページ
・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 177~178ページ
・『交通事故事件処理の道標』日本加除出版株式会社 202~207ページ
・『交通賠償のチェックポイント』弘文堂 133~134ページ