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損害賠償請求訴訟で請求認容判決が出たのに、加害者に資力がなく損害賠償金が支払われない、自賠責保険への被害者請求権も時効のため請求できない、という場合でも、自賠責保険から損害賠償額の支払いを受けることができる方法があります。
加害者に対する損害賠償請求訴訟の請求認容判決にもとづき、自賠責保険の被保険者の保険金請求権(加害者請求権)の差押転付命令を得れば、被害者が加害者の自賠責保険金請求権を行使できます。
ここで紹介するのは、被害者請求権(自賠法16条)が時効で行使できない場合に、加害者請求権(自賠法15条)を行使して、自賠責保険に損害賠償額の支払いを請求する方法です。
まず、加害者請求権(被保険者の保険金請求権)について、ポイントを押さえておきましょう。
被害者請求権が時効でも、加害者請求権は、たいてい時効にかかっていません。消滅時効期間は、どちらも3年ですが、時効の起算日が異なるからです。重要なのは、加害者請求権がいつ発生するかです。
被害者請求権の消滅時効は、自賠法(自動車損害賠償保障法)で、被害者等が「損害及び保有者を知った時から3年」(自賠法19条)と定められています。
一方、加害者請求権の消滅時効は、自賠法に定めがなく、保険法の規定が適用されます。保険金請求権の消滅時効は「行使することができる時から3年」(保険法95条1項)です。
ポイントは、この「行使することができる時」とはいつの時点か、ということです。
自賠責保険は、被保険者(加害者)が損害賠償金を支払ったら、保険金を請求できる仕組みです(自賠法15条)。先履行主義を採っています。
被保険者は、被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ、保険会社に対して保険金の支払を請求することができる。
つまり、保険金請求権を「行使することができる時」とは、被保険者(加害者)が、損害賠償金を支払った時となります。厳密には、賠償金を支払った日の翌日が、消滅時効の起算日です。
請求権 | 消滅時効の起算点 |
---|---|
被害者請求権 | 損害を知った時 |
加害者請求権 | 損害賠償金を支払った時 |
被害者請求権は「損害を知った時」から時効が進行しますが、加害者請求権は、損害が確定し「賠償金を支払った時」から時効が進行するので、時効期間は同じ3年でも、時効の完成は加害者請求権の方が後になるのです。
なお、自賠責保険が「先履行主義」を採っているのは、被害者に賠償金の支払いがないまま被保険者に保険金を支払うと、被保険者が保険金を被害者に支払わず着服してしまう危険があるので、被害者を保護するため、とされています。
ただし、先履行主義は、加害者に賠償資力がある場合は妥当でも、加害者に賠償資力がない場合は、被害者請求権が時効消滅したケースで、被害者を保護できなくなる矛盾も抱えています。
自賠責保険の保険金請求権(加害者請求権)は、被保険者(加害者)が損害賠償金を支払った時に発生する権利ですから、それまでは「未発生の権利」です。
つまり、加害者請求権は、損害賠償金の支払いを停止条件とする債権です。停止条件というのは、それが成就するまで法律行為の効力の発生を停止する条件です。
自賠責保険は、被保険者(加害者)が、被害者に損害賠償金を支払うことで停止条件が成就し、保険金請求権が発生するのです。
さて、どうすれば被害者が加害者請求権を行使できるかですが、それは、加害者の保険金請求権を差押え、転付命令を得ることで可能となります。
転付命令とは、差押債権者の申立てにより、差押えられた金銭債権をその券面額で差押債権者に移転させる裁判所の命令です(民事執行法159条1項)。
ただし、一般に「停止条件付債権は転付命令の対象とならない」と解されます。加害者の保険金請求権を「未発生の権利」と解せば、転付命令があっても、債権移転の効力が発生しないことになります。
そこで、保険金請求権が転付命令の対象となるか(被転付適格を有するか)が問題になります。
これについて最高裁は、損害賠償義務の履行(賠償金の支払い)によって発生する被保険者の自賠責保険金請求権につき転付命令が申請された場合には、自賠責保険金請求権は被転付適格を有する、と判示しました。
最高裁判例に沿って見ていきましょう。
自賠責保険契約に基づく被保険者の保険金請求権は、被保険者の被害者に対する賠償金の支払を停止条件とする債権であるが、自賠法3条所定の損害賠償請求権を執行債権として右損害賠償義務の履行によって発生すべき被保険者の自賠責保険金請求権につき転付命令が申請された場合には、転付命令が有効に発せられて執行債権の弁済の効果が生ずるというまさにそのことによって右停止条件が成就するのであるから、右保険金請求権を券面額ある債権として取り扱い、その被転付適格を肯定すべきものと解するのを相当とする。
最高裁は、自賠責保険金請求権は「被保険者の被害者に対する賠償金の支払を停止条件とする債権」であることを明確にした上で、転付命令が有効に発せられ弁済の効果が生じるという、まさにそのことによって停止条件が成就するから、保険金請求権は被転付適格を有するとしました。
最高裁判決の理論構成はこうです。
自賠責保険金請求権についての転付命令が有効に発せられ、保険金請求権が被害者に移転すると、賠償がなされたという効果が生じ、そのことによって同時に停止条件(賠償金の支払い)が成就するから、「保険金請求権を券面額ある債権として取り扱い、その被転付適格を肯定すべき」としました。
ただし、転付命令の有効性が問題になっているのに、転付命令の有効性を条件とすることは、循環論法であるとの批判もあります。
とはいえ、そもそも自賠法15条が先履行主義を定めているのは、加害者による保険金の着服を防ぎ、被害者保護する趣旨からです。
この最高裁判決は、自賠法の被害者保護の観点から、自賠責保険金請求権の被転付適格を認めて差し支えないという実質的な考慮によるものと考えられています。
被害者請求権(自賠法16条)の消滅時効期間経過後であっても、加害者に対する損害賠償請求訴訟の請求認容判決と、加害者の自賠責保険金請求権(自賠法15条)の差押転付命令を得ることにより、被害者が自賠責保険の加害者請求権を行使し、自賠責保険金の範囲で支払いを受けることができます。
これは自賠責保険の実務でも定着しており、損害賠償請求訴訟の内容が妥当と判断された場合は、支払を受けることが可能です。
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【参考文献】
・損害保険料率算出機構・植草桂子「自賠責保険金請求権の被転付適格」『交通事故判例解説』第一法規 168~169ページ
・別冊ジュリスト№152『交通事故判例百選・第4版』有斐閣 190~191ページ
・『逐条解説 自動車損害賠償保障法・第2版』弘文堂 137ページ