自賠責保険に対する被害者請求権(直接請求権)の消滅時効と起算日

自賠責保険に対する被害者請求権の消滅時効

交通事故の被害者が相手方自賠責保険に対して請求できる被害者請求権(直接請求権・仮渡金請求権)は、3年で時効により消滅します。いつから時効が進行するか(起算日)は、損害ごとに異なります。

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消滅時効3年

 

自賠責保険に対する被害者請求権は、行使できる時から3年を経過すると時効により消滅します。行使できる時とはいつの時点からか(消滅時効の起算日)は、損害ごとに異なります。

 

ここでは、被害者請求権の消滅時効が、自賠法(自動車損害賠償保障法)で、どのように規定されているのか、見ていきます。

 

被害者請求権(直接請求権・仮渡金請求権)の消滅時効

自賠責保険に対する被害者請求権には、直接請求権(自賠法16条1項)と、仮渡金請求権(自賠法17条1項)があります。

 

直接請求権は、自動車の運行によって他人の生命・身体を害し、保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、自賠責保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払を請求することができる、とするものです。

 

仮渡金請求権は、保有者の損害賠償責任が確定する前でも請求できる、とするものです。支払うべき賠償額の一部前渡しの意味合いがあります。ただし、実際の損害賠償すべき額よりも多かったときは、後で返還を求められます。

 

自賠法では、被害者請求権(直接請求権・仮渡金請求権)の消滅時効について、次のように規定しています。

 

自賠法19条(時効)

第16条第1項および第17条第1項の規定による請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から3年を経過したときは、時効によって消滅する。

※第16条第1項は直接請求権、第17条第1項は仮渡金請求権です。

 

被害者請求権の消滅時効期間は3年

自賠法の規定にあるように、被害者請求権の消滅時効期間は3年です。

 

直接請求権・仮渡金請求権は、被害者保護のために特別に法定され、速やかに行使することが想定されているため、合理的な期間内に行使しない被害者に権利を認める必要はないとの判断から、短期消滅時効が採用されています。

 

改正民法(2020年4月1日施行)では、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は5年とされました。自賠責保険に対する被害者請求権は、加害者に対する損害賠償請求権よりも先に消滅時効が完成しますから、注意してください。

 

旧民法では、人損も物損も消滅時効期間は同じ3年でしたが、生命・身体は重要な法益で、 これに関する債権は保護の必要性が高いこと、治療が長期間に渡るなどの事情により被害者にとって迅速な権利行使が困難な場合があること等から、改正民法では人損の消滅時効期間が5年となりました。

 

自賠法の消滅時効の規定は、民法改正後も変わりません。

 

被害者請求権の消滅時効の起算日は損害ごとに異なる

被害者請求権の消滅時効の起算点は、「被害者又はその法定代理人が損害及び保有者を知った時から」です(自賠法19条)

 

従来は、消滅時効の起算点について自賠法に規定がなかったので民法の規定が適用されていましたが、民法改正にともない明記されました。

 

「損害を知った時から」の損害は、損害の発生の事実を知れば足り、損害の内容・程度・額まで知る必要はないものと解されています。したがって「損害及び保有者を知った時」とは、原則として事故発生日です。

 

損害ごとに起算日が異なるので要注意

事故当時に予想し得なかった損害については、その損害の存在が明らかになった時点が起算点となり、当初から明らかであった損害とは別個に消滅時効が進行します。

 

被害者請求権の消滅時効の起算日は、損害ごとに異なりますから、注意が必要です。

 

自賠責保険の実務では、傷害による損害は事故発生の翌日から、後遺障害による損害は症状固定日の翌日から、死亡による損害は死亡日の翌日から、消滅時効期間が進行するという取扱いです。

 

損害別の消滅時効の起算日
傷害

事故発生の翌日
※事故発生が午前零時の場合は、事故発生の当日を起算日とします。

後遺障害

症状固定日の翌日
※後遺障害が複数あり、それぞれの症状固定日が異なる場合は、直近の症状固定日の翌日を起算日とします。

死亡

死亡日の翌日
※請求権者が、被害者の死亡を知らなかったことに合理的な理由がある場合は、死亡した事実を請求権者が知った日の翌日を起算日とします。

※時効の起算日が「翌日」になっているのは、初日不算入原則(民法140条)によります。

 

消滅時効期間は同じ3年でも、損害ごとに時効の起算日が異なりますから、当然、損害ごとに時効の完成する日が異なります。

 

そのため、例えば、後遺障害等級が未確定だからと治療費などを被害者請求しないでいると、後遺障害以外の請求権が時効消滅してしまうこともあり得ます。

 

また、後遺障害が複数認定され併合等級として取り扱われる可能性のある場合、各後遺障害ごとに消滅時効が進行するので、一部の後遺障害については消滅時効が完成し、被害者請求できないこともあり得ます。

 

そうならないように、時効の更新(中断)の手続きを忘れずに行うことが大切です。

 

損害賠償請求権の消滅時効の起算日と異なる場合がある

後遺障害による損害につき加害者に損害賠償請求する場合は、「後遺障害以外の損害も含めた全損害について症状固定時から消滅時効が進行する」と解する裁判例が多数になっています。

 

一方、自賠責保険の被害者請求権は、損害ごとに時効の起算日が異なります。

 

自賠責保険に対する被害者請求権と加害者に対する損害賠償請求権とでは、消滅時効の起算日が異なる場合がありますから、注意してください。

任意保険会社による一括手続きが進められている場合

任意保険会社による一括払い手続きが進められている場合は、自賠責保険に対して直接請求ができません。自賠責保険に直接請求(被害者請求)をする場合は、任意一括手続きを解除する必要があります。

 

自賠責保険の実務では、任意一括手続きが先行している間は被害者請求権の消滅時効は進行せず、任意一括手続きが解除されてから消滅時効が進行する取扱いです。

まとめ

自賠責保険に対する被害者請求権は、被害者等が「損害及び保有者を知った時から3年」で時効により消滅します。時効期間の起算日は、傷害・後遺障害・死亡による損害ごとに異なります。

 

原則として、傷害による損害は事故発生日の翌日から、後遺障害による損害は症状固定日の翌日から、死亡による損害は死亡日の翌日から、3年を経過すると、被害者請求権は時効により消滅します。

 

なお、被害者請求権は、自賠責保険会社に時効更新(中断)申請書を提出することにより、時効の更新(中断)が可能です。手続は難しくありませんから、時効消滅しないように注意してください。

 

被害者請求権が時効にかかっているとしても、加害者請求権の差押転付命令を得れば、自賠責保険に損害賠償額の支払いを請求することができます。

 

自賠責保険に対する直接請求権の消滅時効と時効起算点は、加害者に対する損害賠償請求権の消滅時効・起算点と異なる場合があるので注意が必要です。

 

被害者請求権の時効が心配な場合は、急いで弁護士に相談することをおすすめします。

 

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【参考文献】
・北河隆之著『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 376~377ページ
・『自賠責保険のすべて 12訂版』保険毎日新聞社 103~104ページ
・国土交通省自動車局保障制度参事官室監修『新版 逐条解説 自動車損害賠償保障法』ぎょうせい 155~156ページ
・『逐条解説 自動車損害賠償保障法 第2版』弘文堂 166~169ページ
・日弁連交通事故相談センター編『Q&A新自動車保険相談』ぎょうせい 138~140ページ
・東京弁護士会法友全期会交通事故実務研究会編集『改訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 24~25ページ

公開日 2020-05-01 更新日 2023/03/27 05:57:10