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  • むち打ち損傷
    むち打ち症とは?交通事故で頸椎捻挫と診断されたときの注意点
    むち打ち症(むち打ち損傷)は、ほとんどの場合、自覚症状のみで、他覚的所見がみられません。そのため、保険会社との間で、治療費の支払いや後遺障害の有無などをめぐってトラブルになりがちです。むち打ち症(むち打ち損傷)とはどういうものか? 交通事故でむち打ち症になったとき、どんな点に注意して治療を受ければよいのか? 詳しく解説します。むち打ち症(むち打ち損傷)とは?むち打ち損傷(むち打ち症)とは、追突事故などによって、頸椎部が鞭のようにしなって過伸展と過屈曲が生じ(むち打ち運動)、その結果、頸部の筋肉、靭帯、椎間板、血管、神経などの組織を損傷して生じる症状の総称です。骨折や脱臼は含まれません(『後遺障害入門』青林書院 165ページ)。むち打ち損傷(むち打ち症)は、受傷の仕方を示すもので、診断名ではありません。正式には、頸椎捻挫、頸部捻挫、外傷性頸部症候群などの傷病名がつけられることが多いようです。そのほか、頸部挫傷、外傷性頭頸部症候群、外傷性頸椎捻挫、むち打ち関連障害、むち打ち症候群などともいわれます。その定義も確定したものはなく、「骨折や脱臼のない頸部脊柱の軟部支持組織(靭帯、椎間板、関節包、頸部筋群の筋、筋膜)の損傷」との説明が一般的です(『交通事故医療法入門』勁草書房 106ページ)。臨床的には、「頸部が振られたことによって生じた頭頸部の衝撃によって、X線写真上、外傷性の異常を伴わない頭頸部症状を引き起こしているもの」(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6ページ)、つまり、骨折や脱臼はないが、頭頸部症状を訴えているものは、広く「むち打ち損傷」と捉えられているようです。むち打ち損傷の症状交通事故による「むち打ち症」といえば、首の痛みを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、むち打ち損傷により生じる症状は、首の痛みだけではありません。事故直後の急性期の症状としては、頸部痛や頸部不快感が代表的です。症状が、事故後ただちに出現する場合もありますが、2~3日後あるいはそれ以上の期間経過後に現れることもあります。この急性期の症状は自然に消えていき、一般的に長期化することは少なく、1ヵ月以内に治療終了するケースが約80%とされています(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49ページ)。慢性化した場合の症状は、頸部痛、頭痛、めまいが主訴で、「天気が悪いと特に痛い」というように、気圧や湿度の変化に敏感であることが特徴です。このほか、頭部・顔面のしびれ、眼痛・視力低下・視野狭窄など眼症状、耳鳴・難聴、吐き気、四肢のしびれ・痛みなどの症状や、不眠、集中力低下、易疲労性、微熱、顎関節痛、狭心症様胸部痛などの症状が生じる場合もあります(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~59ページ)。このように神経根刺激症状や自律神経症状にまで及び、自覚症状は多様ですが、レントゲン検査やCT・MRI検査などの結果に表れる他覚的所見に乏しいのが、むち打ち損傷(むち打ち症)の特色です。医学上、自覚症状のすべてを他覚的に裏付けるまでには至っておらず、その病理・病態は、いまだ十分に解明されていません。むち打ち損傷の分類むち打ち損傷によって生じる傷病には、いくつかの分類方法があり、日本で代表的な分類は「土屋分類」です。「土屋分類」によれば、むち打ち損傷は、次のような5類型に分類されます。頸椎捻挫型頸椎捻挫型は、頸部の筋の過度の伸長ないし部分断裂の状態で、頸部周囲の運動制限、運動痛が主症状です。神経症状は認められません。予後良好で、大部分がこのタイプです。根症状型根症状型は、頸神経の神経根の症状が明らかで、頸椎捻挫型に加え、知覚障害、放散痛、反射異常、筋力低下などの神経症状をともないます。バレー・リュー症候群型バレー・リュー症候群型は、自律神経症状や脳幹症状が出現し、頭痛、めまい、耳鳴、眼の疲労、悪心をともないます。神経根、バレー・リュー症状混合型根症状型の症状に加えて、バレー・リュー症状がみられるものです。脊髄症状型脊髄症状型は、深部腱反射の亢進、病的反射の出現などの脊髄症状をともなうものです。この型は、現在ではむち打ち損傷の範疇に含まれず、非骨傷性の頚髄損傷とされるのが一般的です。※ バレー・リュー症候群は、「椎骨神経(頸部交感神経)の刺激状態によって生じ、頭痛、めまい、耳鳴、視障害、嗄声、首の違和感、摩擦音、悪心、易疲労感、血圧低下などの自覚症状を主体とするもの」と定義されています。しかし、その発生原因に関して、定説は確立されていません。ただし、これらの分類は、臨床症状で明確に分類することが難しく、分類別の治療法も確立していません。また、近年は、これらの分類に加え、外傷性胸郭出口症候群、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の病態を呈するむち打ち損傷が存在することが報告されています。(参考:土屋分類については『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~8ページ)むち打ち損傷で後遺症が問題となるケースむち打ち損傷は、ほとんどの場合、後遺障害を残さずに治癒するとされていますが、事故により受傷した後に、椎間板損傷、神経根症状、バレー・リュー症状、脊髄症状が出現した場合には、その症状が後遺する可能性があるといわれています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 301~302ページ)。つまり、むち打ち損傷で、症状が長引き、後遺障害の認定が問題となる可能性があるのは、「土屋分類」でいえば、根症状型、バレー・リュー症候群型、神経根、バレー・リュー症状混合型、脊髄症状型の場合ということです。根症状型は、神経根への刺激や圧迫によって、頸部筋、項部筋、肩胛部筋などへの圧痛、頸椎運動制限、運動痛、末梢神経分布に一致した知覚症状、放散痛、反射異常、筋力低下などがみられます。これらの症状の発生原因が他覚所見によって認められれば、後遺障害の等級認定がなされる可能性があります(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 303ページ)。バレー・リュー症状型は、その発生原因について定説は確立されておらず、現在においても病態の詳細は不明です。そのため、バレー・リュー症状を他覚的所見によって説明・証明することは難しいとされています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 304ページ)。むち打ち症で治療を受けるときの注意点むち打ち症(むち打ち損傷)は、他覚的所見に乏しいため、痛みなど症状の原因や存在を客観的に明らかにすることが困難です。そのため、保険会社による一括払いがされている場合には、治療費支払いの打ち切りのリスクがあり、後遺症が残る場合には、後遺障害の認定に困難をともないます。なので、むち打ち症で治療を受けるときには、完治を目指しつつも、万が一にも後遺症が残る場合に備え、後遺障害の認定を見据えて、次の点に注意が必要です。事故後すぐに病院で診療を受ける少しの違和感であっても医師に伝える通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上必要な検査を受ける整骨院・接骨院は避ける事故後すぐに病院(整形外科)に通うむち打ち損傷に限ったことではありませんが、交通事故で受傷したときは、事故後すぐ、病院にかかることが大切です。特に、むち打ち損傷は、2~3日経ってから症状が出現することも多いので、違和感を感じたら、速やかに病院で診療を受けることが重要です。事故から通院開始まで1週間も空いてしまうと、事故との因果関係や症状の程度が問題となり、保険会社が治療費を支払わなかったり、後遺障害の認定が難しくなったりします。少しの違和感であっても医師に伝える初診のとき、少しでも違和感が感じられるところは、漏らさず、自覚症状を医師に伝えることが大事です。違和感があるのに医師に伝えず、自分で症状が重いと感じている部分のみを医師に伝えていた、というケースはよくあります。急性期に症状を伝えていないと、診断書に症状も傷病名も記載されないので、あとから症状を訴えて記載されても、急性期に症状がないため、事故との因果関係が否定されてしまう恐れがあります。また、通院の都度、症状の部位と程度を医師にしっかりと伝えることも大事です。急性期以降、症状を訴えないと、途中から傷病名の記載がなくなってしまうこともあるので、そこで症状がなくなった、すなわち完治したと判断されてしまう恐れがあります。症状は、端的に、例えば「首のここが痛い」と訴えることが大切です。通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上むち打ち損傷による傷病の場合、受傷直後は安静を指示されることもありますが、その後は、リハビリ治療を行うことが一般的です。むち打ち損傷は、症状の客観的な評価が難しいため、後遺障害の認定のためには、通院期間や通院頻度が重要な判断要素の1つとなります。自賠責保険で後遺障害が認定されるのに必要な通院期間は、最低6ヵ月といわれています(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 84ページ)。通院期間が5か月だと、後遺障害に認定される可能性は極めて低くなります。さらに、むち打ち損傷の場合、通院頻度も重要です。自賠責保険で後遺障害に認定されるには、毎月10回以上、合計で60日~80日の通院日数が必要ともいわれます(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 85ページ)。通院頻度が少ないと、症状が軽かったと自賠責保険から評価されてしまうからです。逆に、毎日通院するなど通院日数が多すぎるのも問題です。治療費がかかりすぎることになるので、治療費打ち切りのリスクが高まります。また、通院を中断しないようにすることも大切です。通院に1ヵ月も2ヵ月もブランクがあると、その前後の通院日数が多くても、後遺障害の認定を受けることは難しくなります。もっとも、こうした後遺障害の認定基準が公表されているわけではなく、この通院期間・通院頻度をクリアすれば、後遺障害が必ず認定されるというわけではありません。それでも、重要な目安とされています。事故時の衝撃が大きく、後遺症が残りそうなときは、週2~3回(月10日程度)の頻度で通院し、事故から6ヵ月(半年)以上通院し、経過観察が必要です。必要な検査を受けるむち打ち損傷は、画像検査では異常所見がみられないことが多いのですが、後遺障害の認定には、画像検査が不可欠です。たいてい、レントゲン写真は撮影するでしょうが、できればMRI検査も行っておくとよいでしょう。MRIは骨以外の軟部組織の撮影に特化したもので、設備のない病院もあり、必ずしも撮影しなければならないものではありませんが、万が一、症状の原因が頸椎捻挫以外にあった場合に、早期発見・早期治療につながります。後遺障害の認定にも有効です。MRIまで撮影するということは、MRIによる精密検査をする必要があったと指摘することができます。後遺障害等級14級9号認定のためには、MRI画像での異常所見までは必ずしも必要ありませんが、12級13号認定のためには、頸椎MRIはほぼ必須化しています。レントゲン写真(単純X線)だけでは、最も低い14級9号しか認定されません。(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 25ページ)MRI撮影費用は比較的高額なので、後遺障害の認定に備え、保険会社が治療費を支払っている期間中に、主治医に相談し、MRI撮影をしておくとよいでしょう。整骨院や接骨院への通院は避ける整骨院や接骨院での施術は、整形外科での治療と異なり、損害賠償において評価が低くなります。整形外科の医師の許可や同意を得て、整骨院や接骨院へ補助的に通院するならまだしも、整骨院や接骨院への通院がメインになってしまうと、かえってマイナスとなることもあります。交通事故で整骨院や接骨院へ通院することには、例えば次のようなリスクがあります。交通事故で整骨院や接骨院に通院するリスク整骨院や接骨院の施術費は、整形外科での治療費よりも高額となりやすく、保険会社から治療費の支払いを打ち切られるリスクが高まります。整骨院や接骨院では後遺障害診断書が書けず、整骨院や接骨院への通院がメインとなっていたら、整形外科の医師も後遺障害診断書が書けません。結果、後遺障害の認定を受けることができず、後遺症に対する損害賠償を受けることができなくなります。整骨院や接骨院での施術は、病院での治療と同等に評価されないため、整骨院や接骨院に通って病院への通院日数が減ると、通院日数の不足で後遺障害が認定されなくなります。通院日数は、休業損害や傷害慰謝料の算定にも影響を及ぼすため、損害賠償額が減ってしまいます。こうしたリスクを避けるため、整骨院や接骨院への通院はおすすめできません。どうしても整骨院や接骨院へ通院したい場合は、整形外科の医師の許可や同意を得たうえで通うことが大切です。その際、整骨院・接骨院での施術部位が、整形外科での治療部位より増えないように気をつけましょう。施術部位が増えと、保険会社は、過剰診療として施術費の支払いを拒否することがあります。関連むち打ち症で保険会社が治療費の支払いに応じる平均的な治療期間治療費打ち切りを保険会社から宣告されたときの3つの対処方法MRIは万能の検査ではない?! XP、CT、MRIの違いとは?交通事故による捻挫や打撲で整骨院・接骨院に通う場合の注意点まとめむち打ち症(むち打ち損傷)は、大半は単純な頸部軟部組織の捻挫で、それほど重篤なものとは捉えられていません。しかし、むち打ち症の発症メカニズムは、いまだ明らかでありません。他覚的所見に乏しく、自覚症状のみのケースがほとんどなので、治療の必要性、症状固定時期や後遺障害の有無をめぐって争いになることが少なくありません。適正な損害賠償を受けるには、治療の段階から早めに、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~9ページ、49~59ページ・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~51ページ・『後遺障害入門 認定から訴訟まで』青林書院 164~169ページ・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房 16~23ページ・『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 63~67ページ、119~125ページ・『実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集―交通事故編―』第一法規 97~98ページ、239~240ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 26~35ページ、46~62ページ、127~128ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 176~181ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 105~132ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 300~304ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 11~28ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 132ページ
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  • むち打ち症の治療期間
    むち打ち症の平均的な治療期間と保険会社の治療費打ち切りの判断基準
    むち打ち症は、レントゲンなどの画像検査をしても他覚的所見がなく、被害者本人の自覚症状しか症状を示す要素が存在しないケースがほとんどです。そのため、治療期間や治療の必要性自体が問題になりやすく、保険会社は一定の時期が来ると治療費の支払いを打ち切ろうとします。それでは、むち打ち症の平均的な治療期間はどれくらいなのか? 保険会社が治療費の支払いを打ち切る判断基準とは? 詳しく見ていきましょう。むち打ち症の平均的な治療期間むち打ち症の治療期間は、症状の把握と診断・治療が適切にされた場合、一般的な医学的知見として、おおむね2~3ヵ月程度の期間が相当とされています。もちろん個人差があり、衝撃が強くある程度重篤なものについては、6ヵ月ないしそれ以上の治療期間を要する場合もあります。保険実務では、むち打ち症の治療期間を2~3ヵ月から6ヵ月程度の範囲で認めている例が多いようです。(参考:東京弁護士会法友全期会 交通事故実務研究会編集『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい(2024年) 178~179ページ)医学的に相当とされる治療期間むち打ち症について、医学的に相当とされる治療期間を示したものとしては、次のものが代表的です。なお、むち打ち症(むち打ち損傷)は、受傷の仕方を表す用語であって、臨床の現場では、頸椎捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群などの傷病名で呼ばれます。統計学上、本症患者の7割は受傷3ヵ月以内に軽快・治癒する。この事実は、アンケートによる臨床医の印象と、レセプトによる実際とよく一致している。通常、遅くとも6ヵ月以内で症状固定に至ると考えられており、6ヵ月を過ぎても尚、治療を続けている症例は慢性難治例とされる。(平林洌「外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドラインの提案」(1999年))軽傷例(頸椎捻挫症状)であれば、大部分は1ヵ月以内に症状軽快し、一般には全治2~3週間。重症例(頸椎運動制限あり)であっても、その大部分は3ヵ月以内に症状軽快し、残りも1年以内にほとんど症状が消失する。(日本賠償科学会編『賠償科学 改訂版―医学と法学の融合』民事法研究会(2013年)122ページ)一般的に、むち打ち損傷は長期化することは少なく、1ヵ月以内で治療終了例が約80%を占め、6ヵ月以上要するものは約3%であるという報告が多い。しかし、少数例ではあるが症状が持続する場合もあり病態の把握と治療に難渋する。(遠藤健司/鈴木秀和編著『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版(2018年)49~50ページ)治療期間に関する裁判例よく引用される裁判例としては次のものがあります。なお、ここに挙げている裁判例は、衝撃が軽度で、頚椎捻挫にとどまる場合です。むち打ち損傷(外傷性頚部症候群)は病態によって分類され、椎間板損傷や神経根症状、自律神経症状等が出現している場合など、治療期間が長引くケースもあり、1年程度の治療期間を認めている裁判例は多くあります。むち打ち症の分類についてはこちらをご覧ください。最高裁判所第一小法廷判決(昭和63年4月21日)最高裁判所は、昭和63年4月21日の判決において、原審(東京高裁判決・昭和58年9月29日)の次の認定を「原審が適法に確定した事実関係」であるとして是認しています。外傷性頭頸部症候群とは、追突等によるむち打ち機転によって頭頸部に損傷を受けた患者が示す症状の総称であり、その症状は、身体的原因によって起こるばかりでなく、外傷を受けたという体験によりさまざまな精神症状を示し、患者の性格、家庭的、社会的、経済的条件、医師の言動等によっても影響を受け、ことに交通事故や労働災害事故等に遭遇した場合に、その事故の責任が他人にあり損害賠償の請求をする権利があるときには、加害者に対する不満等が原因となって症状をますます複雑にし、治癒を遷延させる例も多く、衝撃の程度が軽度で損傷が頸部軟部組織(筋肉、靱帯、自律神経など)にとどまっている場合には、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、その後は多少の自覚症状があっても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せば、ほとんど1か月以内、長くとも2、3か月以内に通常の生活に戻ることができるのが一般である。大阪地裁判決(平成9年1月28日)本件事故に基づいて原告に生じた傷害は頸椎捻挫にとどまるものと考えられ、…右傷害(=頸椎捻挫)の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる。以上が、むち打ち症の一般的な治療期間です。それでは保険会社は、治療費の一括払いをする期間をどう判断しているのでしょうか?保険会社が治療費の一括払いを打ち切る判断基準前提として、次の点をおさえておいてください。保険会社は、被害者が通院を続けている限り、無条件で治療費を支払ってくれるわけではありません。治療費は、事故と相当因果関係があり、必要かつ相当な治療行為の費用が、損害賠償の対象となります。加害者が、被害者の治療費について損害賠償責任を負うのは、症状固定となるまでです。つまり、保険会社が治療費を一括払いするのは、事故と相当因果関係の認められる治療費の範囲であり、期間は症状固定となるまでです。もちろん完治したときは、そこで治療費の支払いは終了です。では、「事故と相当因果関係のある治療か?」「症状固定になったか?」ということを、保険会社はどう判断しているのでしょうか?一般的な治療期間を参考に個別事情を考慮むち打ち症(外傷性頚部症候群)は、発生機序や病態などの詳細はいまだ解明されていない部分が多いものの、一般的にどれくらいの期間で症状が改善するかは、臨床上の統計がありますから、保険会社も、そういったものを参考にします。ただし、そういう統計上の平均的な治療期間よりも、早く治ることもあれば、長引くこともあります。ですから、平均的な治療期間を参考にしつつ、「どんな事故だったのか?」「どんな怪我をして、どんな治療をしているのか?」「治療の経過はどうか?」といったことを個別・具体的に検討したうえで、いつまで治療費を支払うかを判断することになります。「○○の場合は、○ヵ月で一括払い終了」というように、傷病ごとに画一的に決まっているわけではないのです。誤解のないように言っておきますが、保険会社が個別事情をふまえて判断するというのは、決して被害者のためではなく、保険金(損害賠償額)の支払い額を少なくするためです。では、保険会社は「事故の状況」や「被害者の症状・治療内容・治療経過」をどのように把握し、検討しているのか、見ていきましょう。事故状況の把握・検討どんな事故だったのか(事故態様)は、保険会社が、いつまで治療費を支払うかを判断するうえで重要な要素です。なぜ事故態様の把握が重要かひと口に「追突」や「衝突」といっても、車両がつぶれてしまっているような重大事故もあれば、どこに当たったのか分からないような軽微事故もあります。一般に、大きな事故ほど身体への衝撃が強く、症状は重篤で、治療期間も長くなりやすいと考えられています。軽微な事故なら、短期間の通院治療で治るでしょう。場合によっては、治療すら必要ないかもしれません。なので、治療期間を判断するうえで、事故の状況を把握することが重要というわけです。特に、むち打ち症は、外傷所見がなく、被害者からの自覚症状のみというケースがほとんどなので、事故態様の把握を重要視しているのです。物損額(車両修理代)を参考にする事故態様の把握には、事故発生状況報告書やドライブレコーダーのほか、車両の損傷状況や修理額を参考にします。例えば、普通乗用車両の場合、修理費用が10万円程度だと損傷状況も軽微に見えることが多く、症状が残るほどの怪我だったとは評価されにくい傾向があります(『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 49ページ)。つまり、車両の修理費用が低額の場合には、軽微な事故だったと判断され、保険会社からの治療費の一括払いが、短期間で打ち切られる可能性がある、ということです。症状が残っても、後遺障害の認定を受けるのが難しくなります。近時、自賠責保険が、軽微事故で治療期間が長くなると、事故による受傷そのものを否認するケースがあるようですから、注意が必要です。お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。【相談無料】交通事故に詳しい弁護士事務所はこちら症状の経過や治療内容の把握・検討傷病名や症状、治療内容、治療経過などについては、病院から保険会社に毎月送られてくる「経過診断書」や「診療報酬明細書(レセプト)」などを参考に検討します。経過診断書病院が毎月発行する傷病名や症状などが記載される診断書です。診療報酬明細書病院の診療報酬の根拠として、どのような治療が行われているかが記録されているもので、治療内容を一通り把握できる資料です。経過診断書から情報を読み取る経過診断書には、「症状の経過・治療の内容・今後の見通し」や「主たる検査所見」などが記載されます。むち打ち症は、他覚的所見のないケースがほとんどですが、保険会社は、検査結果だけでなく、どんな検査をしているかもチェックしています。被害者がどんな症状を訴えているかを読み取ることができるからです。「症状の経過・治療の内容および今後の見通し」欄は、「保存的に加療した」とか「経過観察中」などの簡単な記載が毎月繰り返されているだけだったり、一見すると詳しく書かれているような場合でも、全く同じ記載だったりする場合があるようです。実は、このことが、あとで説明するように、治療費打ち切りの要因となってしまうこともあります。診療報酬明細書から情報を読み取る経過診断書から、症状の経過や治療内容が読み取れない場合でも、診療報酬明細書(レセプト)から、どのような治療がなされたかを推測することができます。例えば、どの部位の画像撮影をしたのか、どのような内服薬や外用薬を処方しているのか、消炎鎮痛処置は行っているのか、などの情報を読み取ることができます。こんな経過診断書やレセプトが治療費の打ち切りの要因にレセプトにおいて処置の内容に変化がなく、経過診断書においても症状や治療内容に変化が見られない状態が続くと、「治療を続けても特段の変化が見られない」すなわち「症状固定に至っているのではないか」と保険会社から判断されてしまいます。もちろん、保険会社も、推測だけで治療費の一括払いを打ち切るわけではありません。「そろそろ症状固定と見てよいのではないか」と判断したときは、担当医の意見を求めてきます。担当医が症状固定を判断したという形をとるのです。任意保険会社の一括払いとすることに同意した際、医療調査に関することも含めて同意書を提出したと思いますが、その同意書を盾に、担当医に状況を尋ねるのです。損保会社は、「医療アジャスタ」とか「MI(メディカル・インスペクター)」と呼ばれる医療調査のための専門スタッフを配置しています。症状が重篤で損害額が高額化すると予想されるケース、通院が想定よりも長期化しているケース、事故と症状との因果関係に疑問が生じるケースなどで、専門スタッフが医療調査を実施します。半年以上の治療は意味がない?むち打ち症で治療期間が長くなると、保険会社から「最高裁判例で半年以上の治療は意味がないとされている」と言ってくることがあるようです。しかし、そのような最高裁判例はありません。保険会社が、なぜ6ヵ月にこだわるかというと、治療期間6ヵ月以上であることが、後遺障害認定の1つの目安となるからです。治療期間が6ヵ月に満たなければ、自賠責保険の後遺障害認定がされにくくなります。自賠責保険において後遺障害が認定されると、後遺症に対する損害賠償が発生します。後遺症に対する損害賠償額は、大きな金額となります。保険会社としては支払額を抑えたいので、後遺障害等級が認定されないよう、6カ月未満で治療を打ち切りたいのです。もし保険会社が治療費の打ち切りを言ってきても、あなたが治療の継続を望み、主治医もまだ治療を継続すべきだと判断するなら、保険会社の担当者と話をして、治療費の支払いを継続してもらえるよう交渉することが大切です。まとめむち打ち症の治療期間は、事故から3ヵ月から6ヵ月程度が多く、長くとも1年程度といわれています。保険会社は、事故から6ヵ月程度を経過すると、症状固定になったとして治療費の支払い打ち切りを通告してくることがあります。この背景には、むち打ち症の治療期間について、「通常、遅くとも6ヵ月以内で症状固定に至ると考えられている」とする医学論文(平林洌「外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドラインの提案」(1999年))や、「頸椎捻挫にとどまる傷害の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる」とする裁判例(大阪地裁平成9年1月28日判決)などがあるからのようです。治療期間が6ヵ月に満たないうちに治療費の一括払いを打ち切られると、後遺症が残るほどの強いむち打ち損傷だった場合でも、後遺障害の認定を受けられなくなります。まだ痛みやしびれがあるのに、保険会社から治療費の打ち切りを通告され、お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。関連・治療費打ち切りを保険会社から通告されたときの3つの対処方法【参考文献】・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 178~179ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題』保険毎日新聞社 67~70ページ、74~83ページ・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~50ページ・『後遺障害入門』青林書院 167ページ・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~50ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 127ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 301~302ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 46~49ページ、124~125ページ・『交通事故損害賠償入門』ぎょうせい 85~91ページ
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  • 医師の指示・承諾
    むち打ち症の治療で接骨院・整骨院へ通うとき医師の指示が必要な理由
    治療費等の損害賠償には、医学的な見地からの診断が必要ですが、接骨院や整骨院の柔道整復師は、医師ではないため、医学的見地からの診断ができません。そのため、交通事故で接骨院・整骨院へ通う場合は、整形外科医師による医学的な見地からの診断が重要となります。接骨院や整骨院で施術を受けることにつき医師の指示があると、施術が治療の一環とみなされ、施術費を治療費とみなされやすくなります。ここでは、接骨院や整骨院の柔道整復師が行える施術の範囲や医師との関係について、損害賠償の実務で、どのように考えられているか、まとめています。「医師の治療」と「柔道整復師の施術」の違い「医師の治療」と「柔道整復師の施術」の違いについて、東京地裁判決(平成14年2月22日)において、次のような指摘があります。ここでは、柔道整復師としていますが、同判決では、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師も含めています。医師の治療特段の事情のない限り、その治療の必要があり、かつ、その治療内容が合理的で相当なものと推定され、それゆえ、それに要した治療費は、加害者が当然に賠償すべき損害となる。柔道整復師の施術その施術を行うことについて医師の具体的な指示があり、かつ、その施術対象となった負傷部位について医師による症状管理がなされている場合、すなわち、医師による治療の一環として行われた場合でない限り、当然には、その施術による費用を加害者の負担すべき損害と解することはできない。つまり、医師の治療は「必要性・合理性・相当性が推定される」ので、その治療費は、加害者が賠償すべき損害として原則認められるのに対して、柔道整復師の施術費は、「医師による治療の一環として行われた場合」という条件付きで認められるということです。もちろん現実には、医師の治療であっても、無条件に治療費の全額が認められるわけではありません。保険会社は「必要かつ妥当な範囲」しか支払いません。また、保険会社が一方的に治療費の支払いを打ち切ることはよくあります。しかし、損害賠償の実務においては、医師の治療費は原則認めるが、柔道整復師の施術費は条件付きで認めるという違いがあるのです。その条件とは「医師による治療の一環として行われる場合」ということです。なぜ、このような差が生じるのでしょか?それは、柔道整復師による施術は、医師の治療のように「必要性・合理性・相当性を推定できない」からです。同判決は、その理由として次の点を挙げています。柔道整復師の施術が、必要性・合理性・相当性を推定できない理由医師の治療と異なり、柔道整復師の施術は限られた範囲内でしか行うことができない。柔道整復師には、施術内容の客観性・合理性を担保し、適切な医療行為を継続するために必要な診療録の記載、保存義務が課せられていない。柔道整復師は、外傷による身体内部の損傷状況等を的確に把握するために重要な放射線による撮影、磁気共鳴画像診断装置を用いた検査ができない。外傷による症状の見方、評価、施術方法等にも大きな個人差が生じる可能性がある。施術者によって施術の技術が異なり、施術方法・程度が多様。自由診療で報酬規定がないため施術費が施術者の技術の有無、技術方法によってまちまちであり、客観的で合理的な施術費を算定するための目安がない。(参考:東京地裁判決・平成14年2月22日)柔道整復師の施術は、医師の治療と違い限定されています。レントゲンやMRIなど画像診断もできません。医師ではありませんから、医学的な見地から総合的な判断ができません。一方で、施術の技術や方法が多様で、症状の見方にも個人差があります。施術費も、報酬規定がないため目安がありません。こうしたことから、条件付きで施術費を損害として認めるという扱いがされているのです。もちろん、医師の指示がなくても、施術により症状が軽減するなどの効果が認められる場合は、施術の必要性が認定されるべきものです。しかし、そのためには、施術の必要性・合理性・相当性・有効性を立証しなければなりません。仮に施術費が認められたとしても、その何割かを事故と相当因果関係のある損害と認定されることが多く、施術費の全額が認められるのは稀です。そもそも柔道整復師は、どんな施術ができる?そもそも、接骨院や整骨院の柔道整復師の業務とは、どのようなものなのでしょうか?柔道整復師について定めた法律は、柔道整復師法です。柔道整復師法は、昭和45年に議員立法により制定された法律です。柔道整復師の医学的業務範囲について、法律に規定がない実は、柔道整復師の業務の範囲について、柔道整復師法には明確に定められていません。柔道整復の定義規定すらないのです。このことについて、国会で厚生労働省の医政局長が次のように答弁しています。法律には、柔道整復の定義を定める規定はございません。議員立法ということで出されて、全会一致で可決したという記録のみ残っておりますので、どのような定義づけがなされていたかということは、残念ながら承知しておりません。(平成16年3月1日・衆院予算委員会第5分科会での厚生労働省医政局長答弁)それでは、柔道整復師の業務について、法律でどのように定めているのでしょうか?柔道整復師法では「柔道整復師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、柔道整復を業とする者をいう」(第2条)とし、柔道整復師の業務について、次の3つの規定があるだけです。医師である場合を除き、柔道整復師でなければ、業として柔道整復を行なつてはならない。(第15条)柔道整復師は、外科手術を行ない、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない。(第16条)柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼きゆう又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。(第17条)このように、法律上、柔道整復師の医学的業務範囲の規定はないに等しいのです。柔道整復師の業務の範囲柔道整復師の業務の範囲について、法律には明確な規定がないのですが、根拠とされているのは、昭和45年の柔道整復師法の提案理由説明です。「その施術の対象ももっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など、新鮮なる負傷に限られている」(昭和45年3月17日衆院本会議 柔道整復師法の提案理由説明より)柔道整復師法が制定されるまでは、あんま・マッサージ・はり・きゅう・柔道整復等営業法として1つの法律でした。それが昭和45年に柔道整復業に関する部分を分離して、単独法として柔道整復師法が制定されました。柔道整復技術が、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等とは異なるというのが理由です。あんま・マッサージ・はり・きゅうが、慢性的に起きる病態を対象とするのに対して、柔道整復師が対象とするのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫といった、スポーツや事故などによる急性の傷害だからです。つまり、柔道整復師の業務の範囲は、骨折・脱臼・打撲・捻挫など、負傷原因のはっきりしている急性の傷害です。柔整療養費の支給対象柔道整復施術の保険対象(療養費の支給対象)は、平成9年の厚生省「留意事項通知」で示されています。平成9年の厚生省通知「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項」療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。(平成9年4月17日・厚生省保険局医療課長通知「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」より)この平成9年の厚生省通知によると、健康保険等を使って柔道整復施術を受ける場合、保険から療養費の支給対象となるのは、「急性または亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲、捻挫」となります。この内容は現在も生きていますが、通知が出された当時から、整形外科医師からは「亜急性の外傷」が問題視されていました。外傷はすべて「急性」であり、「亜急性の外傷」は医学的にあり得ないからです。「亜急性」というのは、医学的には傷病の時間的経過を指します。受傷時から順に急性・亜急性・慢性として使われます。「亜急性」は、急性と慢性の間の時期、つまり「亜急性期」と表記されるのが一般的です。一方、柔道整復学では、亜急性を時間軸で考えません。亜急性外傷とは、亜急性期(急性期、亜急性期、慢性期というふうに受傷からの期間によって分類している)の外傷という意味ではなく、外傷を起こす原因として急激な外力より起こる急性外傷に準ずるもので、軽度な外力でも反復や持続した外力により、急性外傷と同様に軟部組織などの損傷が見られる外傷を指すものです。(公益社団法人・栃木県柔道整復師会HPより)「亜急性」「外傷性」の定義については国会でも質問主意書が提出され、次のような政府答弁書が出されました。亜急性とは、身体の組織の損傷の状態が急性のものに準ずることを示すものであり、外傷性とは、関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態を示すものである。(平成15年1月31日・参院・政府答弁書より)。ただ、この説明では、亜急性が、受傷からの時間的経過を指すものなのか、軽度な反復・持続した外力によるものなのか、明確ではありません。柔道整復施術の保険適用範囲を広げることは、接骨院や整骨院にとっては死活問題であり、もちろん患者にとってもメリットがあることです。そのため、厚労省はファジーなままにしてきたのかもしれません。しかし、厚労省の見解は明瞭なのです。この平成15年の答弁書以前の国会答弁で「急性期のもの」とはっきり答えています。柔道整復で保険の対象になりますのは、骨折それから脱臼、打撲、捻挫の4つの外傷性の疾患でございます。このうち、骨折、脱臼につきましては医師の同意が必要である、こういうことになっているわけでございます。こういった一定の条件を満たす場合だけ療養費の支給対象になるわけでございまして、捻挫とか打撲というのを、いつの時点での打撲とかなんとかというのは確かに判定しがたいわけでございますけれども、制度の趣旨からいたしますと、当然のことながら急性期のものであると、こういうふうに私どもは理解いたしているわけでございまして、そうであるかないかという個々の認定というのは別にいたしまして、そういう考え方を持っているわけでございます。(平成12年11月16日・参院・国民福祉委員会での厚生省保険局長の答弁より)一方、「亜急性」について、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会・柔道整復療養費検討専門委員会で議論がなされ、平成29年3月21日の同専門委員会で、「留意事項通知」の改正案が示されました。現行療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。改正案療養費の支給対象となる負傷は、負傷の原因が明らかで、身体の組織の損傷の状態が慢性に至っていない急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。厚生労働省の保険医療企画調査室長は、「急性、亜急性、慢性と時期の問題として分けた場合に、その急性、亜急性であるということを、この通知の改正案で明確にしたい」と説明しています(平成29年3月21日柔道整復療養費検討専門委員会議事録より)。これにより、亜急性が受傷からの時期の問題であり、慢性に至っていない外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫が柔道整復の療養費の支給対象となることが明確となりました。もともと柔道整復師法の提案理由説明で「新鮮なる負傷」としていたのですから、急性期の外傷が柔道整復の施術の対象としていたことは明らかです。平成9年に当時の厚生省が「亜急性」という文言を入れたことが、複雑にしてきた元凶です。何らかの忖度があったことは容易に想像できます。その後、国会の答弁書で亜急性を定義づけたことにより、亜急性という文言を外せなくなってしまったと考えられます。いずれにしても、「亜急性」については一定の決着を見ました。保険会社からの施術費の支払いは、ますます厳しくなる問題は「留意事項通知」の改正が、交通事故の場合における保険会社からの施術費の支払いに与える影響です。「留意事項通知」は、社会保険からの療養費の支給に関するものですが、自賠責保険の施術費の支払いにも影響するでしょう。これまでも損保会社は、施術費の支払いには厳しかったのですが、亜急性の判断も絡み、ますます厳しくなることが予想されます。裁判になれば、より厳格に審理されることになるでしょう。損保会社から施術費の支払いを打ち切られた場合、これまでは健康保険などを利用して一部負担で施術を受けることができたようなケースも、これからは全額自己負担となることも予想されます。また、「留意事項通知」の改正案には、「負傷の原因が明らかで」という文言が盛り込まれました。事故との相当因果関係のある部位の施術に、これまで以上に限定されてくることが考えられます。接骨院や整骨院での施術が長期化する場合は、これまで以上に注意が必要です。医師の指示のもと施術を受けることが、正当な損害賠償を得る上で、ますます大切になってきます。医師の同意が必要な場合がある接骨院や整骨院で骨折や脱臼の患部に対する柔道整復施術を受ける場合は、医師の同意が必要ですから、注意してください。これは、法律で定められています(柔道整復師法第17条)。骨折や脱臼の患部に対する施術を整骨院や接骨院で受ける場合は、診断書や紹介状などで、医師が柔道整復による施術に同意したことを明らかにする必要があります。柔道整復師法第17条柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼または骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。例外とされている「応急手当」とは、「骨折または脱臼の場合に、医師の診断を受けるまで放置すると、生命または身体に重大な危害をきたす恐れのある場合に、柔道整復師がその業務の範囲内において患部を一応整復する行為」(日本整形外科学会『医業類似行為関連Q&A』)です。なお、実際に骨折・脱臼で接骨院や整骨院にかかっているケースはほとんどありません。厚生労働省の調査(平成24年10月サンプル調査)によると、柔道整復に係る療養費の負傷種類別の支給額割合は、骨折・脱臼はわずか0.6%、打撲が29.9%、捻挫が69.5%です。骨折・脱臼は、医療機関で正しい診察・検査・診断の上で治療しなければ、大きな障害を残す危険性があります。もし、骨折や脱臼の恐れがある場合は、接骨院や整骨院でなく、必ず整形外科を受診することが大切です。まとめ「整形外科より接骨院や整骨院がいい」という方もいるでしょう。確かに接骨院や整骨院の方が丁寧に診てくれるし、通いやすいというメリットはあります。しかし、交通事故の場合は損害賠償が絡みます。損害賠償の世界では、東洋医学は西洋医学に比べて、低く扱われる傾向があるのです。整形外科医師の指示のもと、接骨院や整骨院に通う方が損害賠償を受けられやすいので、まず、整形外科を受診して、医師の指示・承諾を得て、治療の一環として接骨院や整骨院に通うことをおすすめします。なお、損害賠償の面からだけでなく、頸椎捻挫の症例の中には脳脊髄液減少症を発症することもありますから、医師による正確な診断が絶対に必要です。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
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  • むち打ち症の損害算定
    むち打ち症(頸椎捻挫)の後遺障害等級と労働能力喪失期間
    むち打ち症(頸椎捻挫)は、後遺障害の等級認定がされにくく、非該当となるケースが多い後遺症です。等級認定されても多くは14級で、12級に認定されるのは稀です。しかも、労働能力喪失期間は、14級が3~5年、12級で5~10年程度に制限されるのが通例です。そのため、後遺障害に対する損害賠償額が認められなかったり、認められても過少になる傾向があります。そもそも「むち打ち症」とは?むち打ち症は、自動車の追突や衝突、急停車などの衝撃によって、頸部がムチのように「しなる」ことで起る様々な症状で、正式な医学上の診断名ではなく、受傷機転(傷害を受けたきっかけ)を示す用語とされています。臨床的には病態が明らかになっていないのが実情で、交通事故後に「骨折や脱臼をともなわない頸椎部症状を引き起こしているもの」が、総じてむち打ち症とされています。診断書には、むち打ち損傷、むち打ち関連障害、頸椎捻挫、頸部損傷、頸部挫傷、頸部外傷、外傷性頸部症候群など様々な診断名が書かれ、統一した診断名はありません。自覚症状には、頭痛、頸部痛、頸部運動制限、上下肢のしびれ、首や肩のこり、めまい、吐き気、疲労感などがみられます。このように自覚症状が多いにもかかわらず、レントゲン撮影しても客観的な症状が分かりにくいため、後遺障害の等級認定されにくいのが、むち打ち症の特徴です。むち打ち症(むち打ち損傷)について詳しくはこちらむち打ち症の後遺障害等級は「12級13号」か「14級9号」むち打ち症の後遺障害等級は、「12級13号」もしくは「14級9号」の該当の有無が問題となる場合がほとんどです。むち打ち症で「11級」以上が認定されることはありません。「13級」には該当する後遺障害はありません。「12級13号」と「14級9号」の違い「12級13号」と「14級9号」がどのような後遺障害か、認定基準はどのようなものか、まとめておきます。等級後遺障害12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの14級9号局部に神経症状を残すもの※自動車損害賠償保障法施行令「別表第二」より抜粋。等級認定基準12級13号他覚的所見によって医学的に証明される場合14級9号医学的に証明しうる精神神経学的症状は明らかでないが、頭痛、めまい、疲労感などの自覚症状が単なる故意の誇張でないと医学的に推定される場合非該当自覚症状に対して医学的に推定することが困難な場合、事故との因果関係がない場合※自賠責の後遺障害認定は、労災保険の『労災補償障害認定必携』に従ってなされます。むち打ち症の場合、よほどのことがない限り「12級」が認定されることはなく、認定されても多くは「14級」です。首が回らなかったり、絶えず頭痛に悩まされたりして、明らかに日常生活に多大な支障が出ていたとしても「14級」がほとんどで、後遺障害「非該当」とされることも珍しくありません。後遺障害等級「12級」と「14級」の違いは、神経症状が「頑固な」かどうかです。認定基準では、医学的に「証明される」か「推定される」かの違いです。12級13号が認定される要件「12級」の「他覚的所見によって医学的に証明される」というのは、レントゲンやCT、MRIなどから、傷みやしびれなどの症状が、何によって引き起こされているのかが医学的に証明できるということです。つまり、神経症状を引き起こしている物理的な損傷(器質的損傷)が存在し、画像所見として目に見える形で証明されなければ、「12級」認定は難しいということです。14級9号が認定される要件「14級」の「医学的に推定される」というのは、受傷状況、症状経過、治療経過、臨床所見などから、現在の自覚症状が医学的に説明が付くということです。画像から異常所見が認められず、後遺障害診断書で自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見に乏しい場合、症状経過や治療経過を勘案して、将来においても回復が困難と認められれば「14級」が認定されます。認定基準の問題交通事故で骨折したことが原因で神経を圧迫し、痛みやしびれを生じさせているのであれば、骨折という器質的損傷が画像としても残されるので、「12級」認定の条件を満たします。しかし、骨折や脱臼などがない場合は、いくら本人の自覚症状を訴えても、目に見える形での器質的損傷がないので、認定されても「14級」どまり、場合によっては「非該当」ということになるのです。神経の損傷は画像には映りません。神経症状の認定要件として、器質的損傷や画像所見を要求すること自体、そもそも矛盾しています。むち打ち症の労働能力喪失期間は、なぜ制限されるのか?むち打ち症のような局部の神経症状の後遺障害(後遺障害等級の12級13号または14級9号)は、労働能力喪失期間が制限される傾向にあります。裁判でも同じです。神経症状の場合の労働能力喪失期間は、12級で5年~10年。14級だと5年以下とされることが多いようです。このように労働能力喪失期間が制限される理由として、訓練や慣れによって次第にその影響が緩和されていく、症状に永続性がない、などが言われます。ですが、神経症状といっても、その原因や症状は一律ではありません。神経症状12級で、喪失期間が就労可能年限の67歳まで認められた裁判例や、神経症状14級でも、喪失期間を5年以下に制限しなかった裁判例もあります。労働能力喪失期間は、被害者の症状とその原因、後遺障害等級、年齢、職業などから、個別に判断することが大切です。むち打ち症(12級13号・14級9号)の後遺障害逸失利益の計算例まとめむち打ち症の後遺障害等級認定は難しく、症状に見合った適正な等級認定を受けるためには、そのための準備が必要です。交通事故の損害賠償問題に詳しい弁護士に相談し、自賠責に異議申立てすることで、非該当とされた後遺障害が認定されたり、後遺障害等級が引き上げられたりする可能性があります。まずは、弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
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  • むち打ち症の慰謝料計算
    むち打ち症12級13号・14級9号の逸失利益と慰謝料の計算例
    後遺障害による損害額の具体的な計算方法について、むち打ち症(頸椎捻挫)を中心にご紹介します。事例と計算方法次のような事例で、後遺障害等級が異なる3つのケースを考えます。被害者は、35歳の男性会社員で、年収400万円。加害者と被害者の過失割合は 9対1(すなわち、過失相殺率 10%)ここでは、後遺障害に関する損害(後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料)の計算例をご紹介します。治療費、休業損害、入通院慰謝料が、これに加算されます。後遺障害逸失利益の計算後遺障害逸失利益は、次の計算式で求めます。基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数計算式の説明はこちらをご覧ください。基礎収入は400万円です。労働能力喪失率は労働能力喪失率表より、ライプニッツ係数はライプニッツ係数表より、それぞれ求めます。ライプニッツ係数は、現行の年3%のライプニッツ係数を用いています。2020年3月31日以前に発生した事故については、年5%のライプニッツ係数が適用されます。後遺障害慰謝料の計算後遺障害慰謝料は、裁判所基準の後遺障害慰謝料表より求めます。後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて慰謝料の基準額があります。むち打ち症で「14級9号」が認定されたケース後遺障害14級の労働能力喪失率は5%です。労働能力喪失期間が5年認められたとすると、ライプニッツ係数は4.5797です。後遺障害逸失利益は、400万円 × 5/100 × 4.5797 = 91万5,940円逸失利益91万5,940円慰謝料110万円合計201万5,940円被害者の過失を10%としていますから、過失相殺後の額は、201万5,940円 × 0.9 = 181万4,346円自賠責保険の後遺障害14級の支払限度額は75万円ですから、差額は任意保険会社が支払います。むち打ち症で「12級13号」に認定されたケース後遺障害12級の労働能力喪失率は14%です。労働能力喪失期間が10年認められたとすると、ライプニッツ係数は8.5302です。後遺障害逸失利益は、400万円 × 14/100 × 8.5302 = 477万6,912円逸失利益477万6,912円慰謝料290万円合計767万6,912円被害者の過失を10%としていますから、過失相殺後の額は、767万6,912円 × 0.9 = 690万9,221円自賠責保険の後遺障害12級の支払限度額は224万円ですから、差額は任意保険会社が支払います。神経系統の機能障害で「9級10号」に認定されたケース後遺障害9級の労働能力喪失率は35%です。労働能力喪失期間が67歳まで認められたとすると、就労可能年数32年に対応するライプニッツ係数は20.3888です。後遺障害逸失利益は、400万円 × 35/100 × 20.3888 = 2,854万4,320円逸失利益2,854万4,320円慰謝料690万円合計3,544万4,320円被害者の過失を10%(過失相殺率10%)としていますから、過失相殺後の額は、3,544万4,320円 × 0.9 = 3,189万9,888円自賠責保険の後遺障害9級の支払限度額は616万円ですから、差額は任意保険会社が支払います。まとめ交通事故で後遺障害が残った場合、正当な損害賠償を受けられるかどうかは、適正な後遺障害等級が認定されるかどうかがポイントです。特に、むち打ち症のような神経障害は、後遺障害等級の認定がされず、非該当となることがよくあります。そんなときは、弁護士に相談すると解決できる場合があります。まずは、無料相談をおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
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