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    むち打ち症(むち打ち損傷)とは?発生メカニズム・症状・分類
    ここでは、むち打ち損傷(むち打ち症)とはどういうものか、むち打ち損傷の発生メカニズムや症状について、詳しく解説します。むち打ち損傷(むち打ち症)とは?まず押さえておきたいのは、むち打ち損傷(むち打ち症)とは、診断名・傷病名でなく、受傷の仕方(受傷機転)を示す用語である、ということです。もともと「むち打ち損傷」とは、頭部への慣性外力による頸部の連続的な過伸展(後屈)と過屈曲(前屈)を伴う「むち打ち運動」のために生じる特殊な損傷を意味しています(『賠償科学概説』民事法研究会 109ページ)。その損傷とは、「骨折や脱臼のない、頸部脊柱の軟部支持組織(靭帯、椎間板、関節包および頸部筋群の筋、筋膜)の損傷」(同前)との説明が一般的ですが、軟部組織が損傷したかどうかさえも明らかでありません。臨床的には、事故で「頸部が振られたことによって生じた頭頸部の衝撃によって、X線写真上、外傷性の異常を伴わない頭頸部症状を引き起こしているもの」(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6ページ)、つまり、「骨折や脱臼なく、頭頸部症状を訴えているもの」は、広く「むち打ち損傷」と捉えられています(『臨床整形外科2023 Vol.58 №11』医学書院 1303ページ)。診断名・傷病名としては、頸椎捻挫、頸部捻挫、頸部挫傷、外傷性頸部症候群、外傷性頭頸部症候群、むち打ち関連障害、むち打ち症候群など様々ですが、いずれも、ほぼ同じ病態を指しています。近時は「外傷性頚部症候群」を用いることが多くなっているようです。外傷性頚部症候群とは、自動車事故などの様々な外力によって発生した多様な頸部愁訴を包含する症候群です(『臨床整形外科2023 Vol.58 №11』医学書院 1304ページ)。むち打ち症(外傷性頚部症候群)は、自覚症状としては、頸部痛、頭痛、上肢や手指のしびれ、めまい、など多様ですが、他覚所見に乏しいため、保険金・賠償金めあての「詐病」を疑われやすい傷病でもあります。頸部の構造むち打ち損傷の発生メカニズムや症状の説明の前に、頸部の構造を簡単に見ておきましょう。人間の頭頸部は、「重たい頭」が「細い頸(くび)」にのっている状態で、非常に不安定な構造です。頸部に位置する頸椎は7個の椎骨からなり、その周りを筋肉や靭帯などの軟部組織が取り巻いて、「重たい頭」を支え、安定を保っています。むち打ち損傷は、椎骨の骨折を伴う骨傷ではなく、大半は単純な頸部軟部組織の捻挫であり、それほど重篤なものとは把握されていません。頸椎骨は、上から順に、第1頸椎(C1)から第7頸椎(C7)と呼ばれます。椎骨と椎骨は、軟骨組織である椎間板によって連結されており、椎間板は、骨同士の円滑な動きを確保するとともに、衝撃や圧迫を吸収する緩衝材として機能しています。頸椎骨が重なることで椎孔は管状の脊柱管を構成し、その脊柱管の中に脊髄が通っています。頸椎部分では、脊髄から左右8本の神経根が分岐しており、、神経根内には運動神経と知覚神経が併走しています。神経根が圧迫や刺激を受けると、その神経根の支配領域の身体部位に痛みやしびれ等の神経症状が現れます。(参考:『後遺障害入門』青林書院165~166ページ、『標準整形外科学第14版』医学書院505~509ページ)むち打ち損傷の発生メカニズム急激な加速度・減速度が加わると、頸部は「重い頭」をのせたまま前後に揺れ動きます。それは、あたかも鞭を振り上げて強く打ち付けたような動き(むち打ち運動)です。その結果、頸部が受傷します。これが、むち打ち損傷です。『最新医学大辞典 第3版』(医歯薬出版株式会社)では、むち打ち損傷を「過屈曲過伸展損傷」として説明しています。過屈曲過伸展損傷(むち打ち損傷)典型は、自動車事故での後方からの追突にみることができる。この場合、座席に固定されている体幹は、追突により自動車と同じように急速に前へ押し出されるが、細い頸部につながれた頭部は、慣性で後へ取り残され激しく後屈し、ついで反動で前方へ屈曲する。この一連の動きは、鞭の先の動きに似ているので、むち打ち損傷の名で呼ばれることが多かった。受傷外力を正確に説明する意味では、本名称のほうが正確である。(『最新医学大辞典第3版』医歯薬出版株式会社 267ページ)過伸展・過屈曲とは?頸椎の運動には、屈曲(曲げる運動)、伸展(うしろに反らす運動)、側屈(左右に曲げる運動)、回旋(左右を向く運動)の4種類があります。正常な頸椎の運動の範囲は、屈曲:顎が胸の前面に触れるくらいまで伸展:横から見て下顎の源が水平線から30~40度くらい上向きになる程度まで側屈:耳がかろうじて肩に触れるまで回旋:真横を向けるくらいまでといわれます(『むち打ち症教室』(同文書院55ページ)。『標準整形外科学』では、頸部の関節可動域について、次のように記しています。運動方向参考可動域角度屈曲(前屈)60度伸展(後屈)50度回旋左回旋60度右回旋60度側屈左側屈50度右側屈50度(『標準整形外科学第14版』医学書院942ページ)。車両の衝突などの外力により、屈曲・伸展の正常な可動範囲(生理的可動範囲)を超える運動が頸椎に生じると、過屈曲・過伸展となり、損傷が生じるのです。特に問題となるのが、過伸展です。なぜ過伸展の方が問題なのか?頸椎の屈曲(前屈)は、顎が胸に当たるところで一応は止まります。側屈も、頭が肩に当たるところで一応は止まります。頸椎の動きが、この範囲に止まるくらいの外力であれば、正常な頸椎の可動範囲に近いので、あまり重大な傷害は起こりません。もちろん、屈曲・側屈を強制する外力が強い場合は別です。これに対して、過伸展(後屈)を強制された場合は、頸の後方に、頭の動きを止めるものが何もありません。つまり、後頭部が背中にぶつかるまでは、過伸展を強制する力は止まりません。そのため、外力の程度によっては、骨折、さらには脊髄の損傷をともなう重大な結果を招きやすいのです。(参考:河端正也『むち打ち症教室』同文書院 61~62ページ)むち打ち損傷の発生機序それでは、むち打ち損傷の発生機序(発生メカニズム)について見ていきましょう。従来の説明従来、むち打ち損傷については、こう説明されていました。追突を受けると、その衝撃によって、躯幹(からだ)は座席によって前方へ急激に押し出されますが、重い頭は慣性の法則で後方に取り残され、のけぞるように頸部が過伸展状態(後屈)になり、次の瞬間には、その反動で前方に屈曲(前屈)します。続いてまた伸展というように、前後方向の振動が起こります。ちょうど、鞭を強く振った状態です。これが、むち打ち運動です。このときに、頸部の組織が、正常の限界を超えて引き伸ばされたり、部分的な断裂を起こします。また、このような鞭打ち現象が起こっているときに、頸椎は上下に強く圧縮され、椎骨と椎骨が互いに押しつけられるような状態となります。このため、椎骨と椎骨の間にある椎間関節やその他の部分が損傷されたり、ある場合には損傷された靭帯の間を椎間板が突出してヘルニアを起こすことがあります。(参考:『交通事故における むち打ち損傷問題第3版』保険毎日新聞社340ページ、『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 68~69ページ)むち打ち運動が起きなくても「むち打ち症」は生じる?現在は、頸椎の過伸展を抑制するために開発されたヘッドレストレイントがあり、適正な高さのヘッドレストレイントが装着されていれば、単なる追突事故では「むち打ち運動」は生じにくくなっています。ところが、追突事故などで、いわゆる「むち打ち症」の症状を訴える被害者は減っていません。その発症原因としては、頸部の過伸展・過屈曲(むち打ち運動)というよりも、頭部の急激な後屈を止めるために、後頚部の筋群が反射的に過緊張・収縮したり、後頭部や頸部をヘッドレストレイントで打撲したときなどに軽微な筋断裂や小出血が発生することの方が多いと考えられています(『賠償科学概説』民事法研究会109ページ)。また、ボランティアによる実験から、「低速度車両衝突が、頸椎の過伸展・過屈曲を惹起しないことが明らかになり、頸部のむち打ち状態にならなくとも、むち打ち損傷の症状が出現することがある」ということも分かっています(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版152ページ)。つまり、事故で頭頸部に「むち打ち運動」が起きていなくても、いわゆる「むち打ち症」の症状が発症することがあり得ます。むち打ち損傷の発生メカニズムは、医学的・工学的に明らかとなっているわけではないのです。むち打ち損傷といわれるようになった理由「むち打ち損傷(むち打ち症)」という言葉は、1928年に米国の整形外科医Crowe(クロウ)博士が、交通事故に起因する新たな頚部傷害例の報告として「whiplash injury(むち打ち損傷)」という言葉を使ったのが最初とされています。河端正也医師が『むち打ち症教室』(同文書院、1990年)で、次のように「むち打ち損傷という名のおこり」について紹介しています。むち打ち損傷という名のおこり1928年、サンフランシスコで開催された西部整形外科学会で、当時はまだ新進気鋭の若手整形外科医であったハロルド・ディー・クロウ博士は、治療に苦労している8例の交通事故によるくびの外傷について報告しました。これらの患者さんは、すべて普通の検査では何ら悪いところが発見されないのに、頑固な頭痛や、めまい、はきけ、頸部(くび)の痛みなどが、交通事故、おもに追突されて以来起こっているのでした。彼がこれらの症例を報告しようとした理由は、どうも自分の手には負えないので、多くの整形外科医の意見を聞きたいということだったのです。報告の中で彼は、これらの外傷の起こったメカニズムを説明するつもりで「whiplash injury(むち打ち損傷)」という言葉を使いました。当然のこととして、彼は、この言葉が病気の名前として受け取られるなどとは夢にも考えていませんでしたし、聴衆の整形外科医たちも、そうだったはずだったのです。ところがどうでしょう。この名前は一般の人々、ジャーナリスト、法律家、ひいては医師たちの間ですら、病名として猛威をふるい、以来40年近く数多くの議論と社会問題を巻き起こしながら、日本にもやってきました。(河端正也著『むち打ち症教室』同文書院 17~18ページ)この説明で注目してほしいのは、2つの点です。1つは、むち打ち損傷とは、外傷の発生メカニズムを説明するために用いた言葉であり、傷病名ではないということ。もう1つは、交通事故による頸部傷害例として、いろいろ検査をしても悪いところは発見されない(他覚的所見がない)のに、頑固な頭痛や、めまい、吐き気、頸部の痛みなどが続く症例が、古くからあったということです。ともすると、加害者・保険会社側は、他覚所見のない「むち打ち症」を賠償金や保険金めあての「詐病」や「神経症」などと決めつけがちですが、賠償金や保険金など全く関係のないケースでも、このような症状が長く続く症例は、古くから存在していたのです。では、むち打ち損傷は、どんな症状が出現するのか、詳しく見ていきましょう。むち打ち損傷の症状と分類日本整形外科学会のWebサイトでは、「外傷性頚部症候群」の症状として、「交通事故などで頸部の挫傷(くびの捻挫)の後、長期間にわたって頸部痛、肩こり、頭痛、めまい、手のしびれ、などの症状が出て、X線(レントゲン)検査での骨折や脱臼は認められません」と解説されています。「むち打ち症」については、同サイトで、「いわゆる “むち打ち症” は、追突や衝突などの交通事故によってヘッドレストが整備されていない時代に首がむちのようにしなったために起こった頚部外傷の局所症状の総称」と説明されています。なお、外傷性頚部症候群は、頸部が鞭のようにしならない(すなわち「むち打ち運動」が生じない)、軽微な外傷による病変も含まれます(『臨床整形外科2023 Vol.58 №11』医学書院 1341ページ)。したがって、正しくは、外傷性頚部症候群の症状・分類として説明すべきところですが、追突事故などによる頸部の外傷を(むち打ち運動の有無にかかわらず)、いまも一般に「むち打ち症」と呼ばれているため、ここでは、むち打ち損傷の症状・分類として説明します。むち打ち損傷の症状むち打ち損傷による症状の多くは、頸部痛や頭痛です。しかし、むち打ち損傷で生じる症状は、頸(くび)の痛みや頭痛だけではありません。むち打ち損傷による症状は多彩です。事故態様(衝突方向や速度、事故予測の有無、ヘッドレストの位置など)や、被害者の姿勢・頸椎の状態(頸椎症性変化・椎間板膨隆などの有無)など、多くの因子によって傷害発生部位は変化し、症状も異なります。受傷直後、急性期、慢性期、それぞれの症状の特徴を見ていきましょう。受傷直後~急性期むち打ち損傷による症状は、事故直後には痛み等の自覚症状がなく、事故の数時間後、あるいは、事故の翌朝に症状が現われることが多いようです。もっとも、いつ症状が出現するかは一概に言えず、事故から2~3日後に出現することもあれば、もう少し後になって出現することもあります。事故直後もちろん、事故直後から症状が出現することもあります。軽い脳震盪や頸部軟部組織損傷を原因とし、頭がボーッとした状態になったり、項部痛・圧迫感・緊張感、吐き気、意識混濁、頭痛、上肢のしびれ感・脱力感などを感じることがあります。これらの症状は、重症例を除き、大部分のものは数時間以内に消失するといわれています。急性期・初発症状(受傷後数時間~1週間)急性期・初発症状(受傷後数時間~1週間)の自覚症状としては、頸椎支持組織の損傷を原因とし、頸部痛・圧迫感・緊張感、頭痛・頭重感、頸椎運動制限、肩こり、吐き気、上肢のしびれ感、腰痛などがあります。他覚所見としては、頸椎運動制限、項頸部筋の圧痛などが見られます。急性期・後発症状(受傷後2~4週間以後)急性期・後発症状(受傷後2~4週間以後)の自覚症状としては、頭痛、めまい、悪心、耳・眼症状、上肢放散痛などがあります。バレー・リュー症状が出現します。バレー・リュー症状とは、頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、視力低下、聴力低下などの自律神経症状を呈するものです。むち打ち損傷では、自律神経症状を併発する場合があります。他覚所見としては、知覚障害や神経根症状などの神経学的陽性所見の増加、椎間板損傷によるX線検査上の椎間腔狭小化や変形性頸椎症所見の出現が見られます。(参考:『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規302ページ、『賠償科学概説』民事法研究会114ページ)慢性期慢性期における症状としては、頸部痛、頭痛、めまい、頭部・顔面領域のしびれ、眼症状、耳鳴り・難聴、吐き気・嘔吐、四肢症状、腰痛、バレー・リュー症候群による脳幹・自律神経症状があります。そのほか、不眠、集中力低下、易疲労感、微熱感、記銘力低下なども報告されています。これらの症状は不定愁訴と捉えられがちですが、軽微な脳損傷が発生している可能性も指摘されています。むち打ち損傷は、軽傷の部類に入るため軽視されがちなところがありますが、くびの痛みだけでなく、自律神経症状や認知機能障害、神経疾患まで幅広く合併する可能性がありますから、注意が必要です。(参考:『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~59ページ、『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル122~125ページ)なぜ、事故直後は痛みを感じず、あとから痛みを感じるのか?一般的には、「事故直後は、精神的に緊張状態にあり、肉体的にも、損傷を受けた頸(くび)の周囲の筋肉が自動的に緊張して副木をあてたような状態にあるのが、落ち着いてくると、事故のことよりも怪我のことを考える余裕が出てくることによる」と考えられています(河端正也著『むち打ち症教室』同文書院 71ページ)。事故によって器質的な損傷が生じていないにもかかわらず、数時間後に頸部痛が発生し、症状が遷延化するメカニズムとして、頸椎椎間関節内に介在する滑膜組織が、追突による衝撃によって損傷し、数時間後に滑膜炎が惹起され、疼痛・可動域制限を生じる、とする説があります(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版44ページ)。むち打ち症の平均的な治療期間と保険会社の治療費打ち切りの判断基準むち打ち損傷の分類臨床的には、「むち打ち損傷の診断をするときは、むち打ち損傷によって何が生じているかを考えることが重要」とされます(『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6ページ)。むち打ち損傷によって生じる傷病には、いくつかの分類方法があります。土屋分類日本で代表的な分類は「土屋分類」です。「土屋分類」によれば、むち打ち損傷は、次のような5類型に分類されます。頸椎捻挫型頸椎捻挫型は、頸部の筋の過度の伸長ないし部分断裂の状態で、頸部周囲の運動制限、運動痛が主症状です。神経症状は認められません。予後良好で、大部分がこのタイプです。根症状型根症状型は、頸神経の神経根の症状が明らかで、頸椎捻挫型に加え、知覚障害、放散痛、反射異常、筋力低下などの神経症状をともないます。バレー・リュー症候群型バレー・リュー症候群型は、自律神経症状や脳幹症状が出現し、頭痛、めまい、耳鳴、眼の疲労、悪心をともないます。神経根、バレー・リュー症状混合型根症状型の症状に加えて、バレー・リュー症状がみられるものです。脊髄症状型脊髄症状型は、深部腱反射の亢進、病的反射の出現などの脊髄症状をともなうものです。この型は、現在ではむち打ち損傷の範疇に含まれず、非骨傷性の頚髄損傷とされるのが一般的です。※ バレー・リュー症候群は、「椎骨神経(頸部交感神経)の刺激状態によって生じ、頭痛、めまい、耳鳴、視障害、嗄声、首の違和感、摩擦音、悪心、易疲労感、血圧低下などの自覚症状を主体とするもの」と定義されています。しかし、その発生原因に関して、定説は確立されていません。ただし、これらの分類は、臨床症状で明確に分類することが難しく、分類別の治療法も確立していません。また、近年は、これらの分類に加え、外傷性胸郭出口症候群、脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の病態を呈するむち打ち損傷が存在することが報告されています。(参考:土屋分類については『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~8ページ)ケベック分類海外では、1995年に発表されたケベック報告による分類(ケベック分類)が普及しています。むち打ち症関連障害(WAD)を症状・重症度により、5段階のグレードに分類したものです。ケベック報告とは、カナダのケベック州自動車保険協会の要請のもとに組織された「ケベックむち打ち症関連障害特別調査団」が、むち打ち症関連障害(WAD)の種々の問題について科学的解析を行い、まとめた報告書です。この報告書にある「むち打ち症関連障害の重症度分類」が、いわゆる「ケベック分類」と呼ばれるものです。頸部愁訴、理学神経学的所見、脊椎の骨折・脱臼の有無からなされた分類です。ケベック分類(WADの重症度分類)grade臨床所見0頸部の愁訴なし、理学的異常所見なしⅠ頸部の愁訴(痛み、こわばり、圧痛)のみ、理学的異常所見なしⅡ頸部の愁訴と、骨・筋肉症状の存在(関節可動域の低下、圧痛点など)Ⅲ頸部の愁訴と、神経学的所見の存在(深部腱反射の低下・消失、筋力低下、感覚障害など)Ⅳ頸部の愁訴と、骨折または脱臼*難聴、めまい、耳鳴り、頭痛、記憶喪失、嚥下障害、顎関節痛などの症状は、どのグレードにも出現し得るとされています。*6ヵ月以上症状を示している場合を慢性化と定義。。(参考:『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 8ページ、『交通事故における むち打ち損傷問題第3版』保険毎日新聞社18ページ、『臨床整形外科2023 Vol.58 №11』医学書院 1304ページ)ケベック分類の「grade0」~「gradeⅡ」が、いわゆる「むち打ち損傷」と認識され、「gradeⅢ」「gradeⅣ」は、外傷性頸髄損傷として分類されます。(『臨床整形外科2023 Vol.58 №11』医学書院 1341~1342ページ)むち打ち損傷で後遺症が問題となるケースむち打ち損傷は、ほとんどの場合、後遺障害を残さずに治癒するとされていますが、事故により受傷した後に、椎間板損傷、神経根症状、バレー・リュー症状、脊髄症状が出現した場合には、その症状が後遺する可能性があるといわれています(『賠償科学概説』民事法研究会 116ページ)。根症状型は、神経根への刺激や圧迫によって、頸部筋、項部筋、肩胛部筋などへの圧痛、頸椎運動制限、運動痛、末梢神経分布に一致した知覚症状、放散痛、反射異常、筋力低下などがみられます。これらの症状の発生原因が他覚所見によって認められれば、後遺障害の等級認定がなされる可能性があります(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 303ページ)。バレー・リュー症状型は、その発生原因について定説は確立されておらず、現在においても病態の詳細は不明です。そのため、バレー・リュー症状を他覚的所見によって説明・証明することは難しいとされています(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 304ページ)。まとめむち打ち症(むち打ち損傷)は、大半は単純な頸部軟部組織の捻挫で、それほど重篤なものとは捉えられていません。しかし、むち打ち症の発症メカニズムは、いまだ明らかでありません。他覚的所見に乏しく、自覚症状のみのケースがほとんどなので、治療の必要性、症状固定時期や後遺障害の有無をめぐって争いになることが少なくありません。適正な損害賠償を受けるには、治療の段階から早めに、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 6~9ページ、49~59ページ・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~51ページ・『後遺障害入門 認定から訴訟まで』青林書院 164~169ページ・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房 16~23ページ・『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 122~125ページ・『実例と経験談から学ぶ 資料・証拠の調査と収集―交通事故編―』第一法規 97~98ページ、239~240ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 26~35ページ、46~62ページ、127~128ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 176~181ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 105~132ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 300~304ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 11~28ページ・『新版 交通事故の法律相談』学陽書房 132ページ・『賠償科学概説』民事法研究会 108~123ページ
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  • むち打ち症の治療の注意点
    交通事故での「むち打ち症」の通院治療はココに注意!
    むち打ち症(むち打ち損傷)は、多くの場合、自覚症状のみで、他覚的所見がありません。そのため、保険会社との間で、治療費の支払いや後遺障害の有無などをめぐってトラブルになりがちです。むち打ち症の治療では、注意すべき点がいくつかあります。むち打ち症で治療を受けるときの注意点むち打ち症(むち打ち損傷)は、ほとんどの場合に自覚症状のみで他覚的所見に乏しいため、痛みなど症状の原因や存在を客観的に明らかにすることが困難です。そのため、保険会社による一括払いがされている場合には、治療費支払いの打ち切りのリスクがあり、後遺症が残る場合には、後遺障害の認定に困難をともないます。なので、むち打ち症で治療を受けるときには、完治を目指しつつも、万が一にも後遺症が残る場合に備え、後遺障害の認定を見据えて、次の点に注意が必要です。事故後すぐに病院で診療を受ける少しの違和感であっても医師に伝える通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上必要な検査を受ける整骨院・接骨院は避ける事故後すぐに病院(整形外科)に通う交通事故で受傷したときは、事故後すぐに、病院にかかることが大切です。これは、むち打ち損傷にも当てはまります。むち打ち損傷は、事故の翌日あるいはそれ以降に症状が出現することも多いので、違和感を感じたら、速やかに病院で診療を受けることが重要です。事故から通院開始まで1週間以上も空いてしまうと、事故との因果関係が問題となり、保険会社が治療費を支払わないことがあります。後遺障害の認定も難しくなります。少しの違和感であっても医師に伝える初診のとき、少しでも違和感が感じられるところは、漏らさず、自覚症状を医師に伝えることが大事です。自分の判断で症状が重いと感じている部分のみを医師に伝えるというケースはよくありますが、急性期に症状を伝えていないと、あとから症状を訴えて診療記録に記載されても、事故との因果関係が否定されてしまう恐れがあります。また、通院の都度、症状の部位と程度を医師にしっかりと伝えることも大事です。急性期以降、症状を訴えないと、途中から傷病名の記載がなくなってしまうこともあるので、そこで症状がなくなった、すなわち完治した、と保険会社に判断されてしまう恐れがあります。症状は、例えば「首のここが痛い」というように、端的に訴えることが大切です。通院は週2回~3回の頻度でブランクなく6ヵ月以上むち打ち損傷による傷病の場合、受傷直後は安静を指示されることもありますが、その後は、リハビリ治療を行うことが一般的です。むち打ち損傷は他覚的所見が乏しく、症状の客観的な評価が難しいため、後遺障害等級の認定を受ける際には、通院期間や通院頻度が重要な判断要素の1つとなります。自賠責保険で後遺障害が認定されるのに必要な通院期間は、最低6ヵ月といわれています(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 84ページ)。通院期間が5か月だと、後遺障害に認定される可能性は極めて低くなります。さらに、むち打ち損傷の場合、通院頻度も重要です。自賠責保険で後遺障害に認定されるには、毎月10回以上、合計で60日~80日の通院日数が必要ともいわれます(同前 85ページ)。通院頻度が少ないと、症状が軽かったと自賠責保険から評価されてしまうからです。逆に、毎日通院するなど通院日数が多すぎるのも問題です。治療費がかかりすぎることになるので、治療費打ち切りのリスクが高まります。また、通院を中断しないことも大切です。通院に1ヵ月も2ヵ月もブランクがあると、その前後の通院日数が多くても、後遺障害の認定を受けることは難しくなります。もっとも、こうした後遺障害の認定基準が公表されているわけではなく、この通院期間・通院頻度をクリアすれば、後遺障害が必ず認定されるというわけではありません。それでも、重要な目安とされているようです。事故時の衝撃が大きく、後遺症が残りそうなときは、週2~3回(月10日程度)の頻度で、6ヵ月(半年)以上通院することが必要です。必要な検査を受けるむち打ち損傷は、画像検査では異常所見がみられないことが多いのですが、後遺障害の認定を受けるには、画像検査が不可欠です。たいてい、レントゲン写真は撮影するでしょうが、できればMRI検査も行っておくとよいでしょう。MRIは軟部組織の撮影に優れています。むち打ち損傷は「頸部軟部組織の損傷」とされていますから、軟部組織の異常を見つけるのに、MRI撮像は有効なのです。ただし、むち打ち損傷は、MRI撮像でも異常が見られないことがほとんどです。MRIは、設備のない病院もあり、必ずしも撮影しなければならないものではありませんが、万が一、症状の原因が頸椎捻挫以外にあった場合に、早期発見・早期治療につながります。MRI検査は、後遺障害の認定にも有効です。MRIまで撮影するということは、「MRIによる精密検査をする必要があった」と、保険会社に対して主張することができるからです。むち打ち症による後遺障害等級は、14級9号か12級13号です。後遺障害等級14級9号認定には、MRI画像での異常所見までは必ずしも必要ありませんが、12級13号認定のためには、頸椎MRIはほぼ必須化しています。レントゲン写真(単純X線)だけでは、最も低い14級9号しか認定されません。(『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 25ページ)MRI撮影費用は比較的高額なので、後遺障害の認定に備え、保険会社が治療費を支払っている期間中に、主治医に相談し、MRI撮影をしておくとよいでしょう。整骨院や接骨院への通院は避ける整骨院や接骨院での施術は、整形外科での治療と異なり、損害賠償において評価が低くなります。整形外科の医師の許可や同意を得て、整骨院や接骨院へ補助的に通院するならまだしも、整骨院や接骨院への通院がメインになってしまうと、かえってマイナスとなることもあります。交通事故で整骨院や接骨院へ通院することには、例えば次のようなリスクがあります。交通事故で整骨院や接骨院に通院するリスク整骨院や接骨院の施術費は、整形外科での治療費よりも高額となりやすく、保険会社から治療費の支払いを打ち切られるリスクが高まります。整骨院や接骨院では後遺障害診断書が書けず、整骨院や接骨院への通院がメインとなっていたら、整形外科の医師も後遺障害診断書が書けません。結果、後遺障害の認定を受けることができず、後遺症に対する損害賠償を受けることができなくなります。整骨院や接骨院での施術は、病院での治療と同等に評価されないため、整骨院や接骨院に通って病院への通院日数が減ると、通院日数の不足で後遺障害が認定されなくなります。通院日数は、休業損害や傷害慰謝料の算定にも影響を及ぼすため、損害賠償額が減ってしまいます。こうしたリスクを避けるため、整骨院や接骨院への通院はおすすめできません。どうしても整骨院や接骨院へ通院したい場合は、整形外科の医師の許可や同意を得たうえで通うことが大切です。その際、整骨院・接骨院での施術部位が、整形外科での治療部位より増えないように気をつけましょう。施術部位が増えと、保険会社は、過剰診療として施術費の支払いを拒否することがあります。関連むち打ち症で保険会社が治療費の支払いに応じる平均的な治療期間治療費打ち切りを保険会社から宣告されたときの3つの対処方法MRIは万能の検査ではない?! XP、CT、MRIの違いとは?交通事故による捻挫や打撲で整骨院・接骨院に通う場合の注意点まとめむち打ち症(むち打ち損傷)は、大半は単純な頸部軟部組織の捻挫で、それほど重篤なものとは捉えられていません。しかし、むち打ち症の発症メカニズムは、いまだ明らかでありません。他覚的所見に乏しく、自覚症状のみのケースがほとんどなので、治療の必要性、症状固定時期や後遺障害の有無をめぐって争いになることが少なくありません。適正な損害賠償を受けるには、治療の段階から早めに、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通事故診療のピットフォール』日経メディカル 63~67ページ、119~121ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 26~35ページ、46~62ページ、127~128ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 176~181ページ・『賠償科学概説』民事法研究会 108~123ページ
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  • むち打ち症の治療期間
    むち打ち症の平均的な治療期間と保険会社の治療費打ち切りの判断基準
    むち打ち症は、レントゲンなどの画像検査をしても他覚的所見がなく、被害者本人の自覚症状しか症状を示す要素が存在しないケースがほとんどです。そのため、治療期間や治療の必要性自体が問題になりやすく、保険会社は一定の時期が来ると治療費の支払いを打ち切ろうとします。それでは、むち打ち症の平均的な治療期間はどれくらいなのか? 保険会社が治療費の支払いを打ち切る判断基準とは? 詳しく見ていきましょう。むち打ち症の平均的な治療期間むち打ち症の治療期間は、症状の把握と診断・治療が適切にされた場合、一般的な医学的知見として、おおむね2~3ヵ月程度の期間が相当とされています。もちろん個人差があり、衝撃が強くある程度重篤なものについては、6ヵ月ないしそれ以上の治療期間を要する場合もあります。保険実務では、むち打ち症の治療期間を2~3ヵ月から6ヵ月程度の範囲で認めている例が多いようです。(参考:東京弁護士会法友全期会 交通事故実務研究会編集『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい(2024年) 178~179ページ)医学的に相当とされる治療期間むち打ち症について、医学的に相当とされる治療期間を示したものとしては、次のものが代表的です。なお、むち打ち症(むち打ち損傷)は、受傷の仕方を表す用語であって、臨床の現場では、頸椎捻挫、頚部挫傷、外傷性頚部症候群などの傷病名で呼ばれます。むち打ち損傷の分類についてはこちらをご覧ください。統計学上、本症患者の7割は受傷3ヵ月以内に軽快・治癒する。この事実は、アンケートによる臨床医の印象と、レセプトによる実際とよく一致している。通常、遅くとも6ヵ月以内で症状固定に至ると考えられており、6ヵ月を過ぎても尚、治療を続けている症例は慢性難治例とされる。(平林洌「外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドラインの提案」(1999年))軽傷例(頸椎捻挫症状)であれば、大部分は1ヵ月以内に症状軽快し、一般には全治2~3週間。重症例(頸椎運動制限あり)であっても、その大部分は3ヵ月以内に症状軽快し、残りも1年以内にほとんど症状が消失する。(日本賠償科学会編『賠償科学 改訂版―医学と法学の融合』民事法研究会(2013年)122ページ)一般的に、むち打ち損傷は長期化することは少なく、1ヵ月以内で治療終了例が約80%を占め、6ヵ月以上要するものは約3%であるという報告が多い。しかし、少数例ではあるが症状が持続する場合もあり病態の把握と治療に難渋する。(遠藤健司/鈴木秀和編著『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版(2018年)49~50ページ)治療期間に関する裁判例よく引用される裁判例としては次のものがあります。なお、ここに挙げている裁判例は、衝撃が軽度で、頚椎捻挫にとどまる場合です。むち打ち損傷(外傷性頚部症候群)は病態によって分類され、椎間板損傷や神経根症状、自律神経症状等が出現している場合など、治療期間が長引くケースもあり、1年程度の治療期間を認めている裁判例は多くあります。むち打ち症の分類についてはこちらをご覧ください。最高裁判所第一小法廷判決(昭和63年4月21日)最高裁判所は、昭和63年4月21日の判決において、原審(東京高裁判決・昭和58年9月29日)の次の認定を「原審が適法に確定した事実関係」であるとして是認しています。外傷性頭頸部症候群とは、追突等によるむち打ち機転によって頭頸部に損傷を受けた患者が示す症状の総称であり、その症状は、身体的原因によって起こるばかりでなく、外傷を受けたという体験によりさまざまな精神症状を示し、患者の性格、家庭的、社会的、経済的条件、医師の言動等によっても影響を受け、ことに交通事故や労働災害事故等に遭遇した場合に、その事故の責任が他人にあり損害賠償の請求をする権利があるときには、加害者に対する不満等が原因となって症状をますます複雑にし、治癒を遷延させる例も多く、衝撃の程度が軽度で損傷が頸部軟部組織(筋肉、靱帯、自律神経など)にとどまっている場合には、入院安静を要するとしても長期間にわたる必要はなく、その後は多少の自覚症状があっても日常生活に復帰させたうえ適切な治療を施せば、ほとんど1か月以内、長くとも2、3か月以内に通常の生活に戻ることができるのが一般である。大阪地裁判決(平成9年1月28日)本件事故に基づいて原告に生じた傷害は頸椎捻挫にとどまるものと考えられ、…右傷害(=頸椎捻挫)の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる。以上が、むち打ち症の一般的な治療期間です。それでは保険会社は、治療費の一括払いをする期間をどう判断しているのでしょうか?保険会社が治療費の一括払いを打ち切る判断基準前提として、次の点をおさえておいてください。保険会社は、被害者が通院を続けている限り、無条件で治療費を支払ってくれるわけではありません。治療費は、事故と相当因果関係があり、必要かつ相当な治療行為の費用が、損害賠償の対象となります。加害者が、被害者の治療費について損害賠償責任を負うのは、症状固定となるまでです。つまり、保険会社が治療費を一括払いするのは、事故と相当因果関係の認められる治療費の範囲であり、期間は症状固定となるまでです。もちろん完治したときは、そこで治療費の支払いは終了です。では、「事故と相当因果関係のある治療か?」「症状固定になったか?」ということを、保険会社はどう判断しているのでしょうか?一般的な治療期間を参考に個別事情を考慮むち打ち症(外傷性頚部症候群)は、発生機序や病態などの詳細はいまだ解明されていない部分が多いものの、一般的にどれくらいの期間で症状が改善するかは、臨床上の統計がありますから、保険会社も、そういったものを参考にします。ただし、そういう統計上の平均的な治療期間よりも、早く治ることもあれば、長引くこともあります。ですから、平均的な治療期間を参考にしつつ、「どんな事故だったのか?」「どんな怪我をして、どんな治療をしているのか?」「治療の経過はどうか?」といったことを個別・具体的に検討したうえで、いつまで治療費を支払うかを判断することになります。「○○の場合は、○ヵ月で一括払い終了」というように、傷病ごとに画一的に決まっているわけではないのです。誤解のないように言っておきますが、保険会社が個別事情をふまえて判断するというのは、決して被害者のためではなく、保険金(損害賠償額)の支払い額を少なくするためです。では、保険会社は「事故の状況」や「被害者の症状・治療内容・治療経過」をどのように把握し、検討しているのか、見ていきましょう。事故状況の把握・検討どんな事故だったのか(事故態様)は、保険会社が、いつまで治療費を支払うかを判断するうえで重要な要素です。なぜ事故態様の把握が重要かひと口に「追突」や「衝突」といっても、車両がつぶれてしまっているような重大事故もあれば、どこに当たったのか分からないような軽微事故もあります。一般に、大きな事故ほど身体への衝撃が強く、症状は重篤で、治療期間も長くなりやすいと考えられています。軽微な事故なら、短期間の通院治療で治るでしょう。場合によっては、治療すら必要ないかもしれません。なので、治療期間を判断するうえで、事故の状況を把握することが重要というわけです。特に、むち打ち症は、外傷所見がなく、被害者からの自覚症状のみというケースがほとんどなので、事故態様の把握を重要視しているのです。物損額(車両修理代)を参考にする事故態様の把握には、事故発生状況報告書やドライブレコーダーのほか、車両の損傷状況や修理額を参考にします。例えば、普通乗用車両の場合、修理費用が10万円程度だと損傷状況も軽微に見えることが多く、症状が残るほどの怪我だったとは評価されにくい傾向があります(『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 49ページ)。つまり、車両の修理費用が低額の場合には、軽微な事故だったと判断され、保険会社からの治療費の一括払いが、短期間で打ち切られる可能性がある、ということです。症状が残っても、後遺障害の認定を受けるのが難しくなります。近時、自賠責保険が、軽微事故で治療期間が長くなると、事故による受傷そのものを否認するケースがあるようですから、注意が必要です。お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。【相談無料】交通事故に詳しい弁護士事務所はこちら症状の経過や治療内容の把握・検討傷病名や症状、治療内容、治療経過などについては、病院から保険会社に毎月送られてくる「経過診断書」や「診療報酬明細書(レセプト)」などを参考に検討します。経過診断書病院が毎月発行する傷病名や症状などが記載される診断書です。診療報酬明細書病院の診療報酬の根拠として、どのような治療が行われているかが記録されているもので、治療内容を一通り把握できる資料です。経過診断書から情報を読み取る経過診断書には、「症状の経過・治療の内容・今後の見通し」や「主たる検査所見」などが記載されます。むち打ち症は、他覚的所見のないケースがほとんどですが、保険会社は、検査結果だけでなく、どんな検査をしているかもチェックしています。被害者がどんな症状を訴えているかを読み取ることができるからです。「症状の経過・治療の内容および今後の見通し」欄は、「保存的に加療した」とか「経過観察中」などの簡単な記載が毎月繰り返されているだけだったり、一見すると詳しく書かれているような場合でも、全く同じ記載だったりする場合があるようです。実は、このことが、あとで説明するように、治療費打ち切りの要因となってしまうこともあります。診療報酬明細書から情報を読み取る経過診断書から、症状の経過や治療内容が読み取れない場合でも、診療報酬明細書(レセプト)から、どのような治療がなされたかを推測することができます。例えば、どの部位の画像撮影をしたのか、どのような内服薬や外用薬を処方しているのか、消炎鎮痛処置は行っているのか、などの情報を読み取ることができます。こんな経過診断書やレセプトが治療費の打ち切りの要因にレセプトにおいて処置の内容に変化がなく、経過診断書においても症状や治療内容に変化が見られない状態が続くと、「治療を続けても特段の変化が見られない」すなわち「症状固定に至っているのではないか」と保険会社から判断されてしまいます。もちろん、保険会社も、推測だけで治療費の一括払いを打ち切るわけではありません。「そろそろ症状固定と見てよいのではないか」と判断したときは、担当医の意見を求めてきます。担当医が症状固定を判断したという形をとるのです。任意保険会社の一括払いとすることに同意した際、医療調査に関することも含めて同意書を提出したと思いますが、その同意書を盾に、担当医に状況を尋ねるのです。損保会社は、「医療アジャスタ」とか「MI(メディカル・インスペクター)」と呼ばれる医療調査のための専門スタッフを配置しています。症状が重篤で損害額が高額化すると予想されるケース、通院が想定よりも長期化しているケース、事故と症状との因果関係に疑問が生じるケースなどで、専門スタッフが医療調査を実施します。半年以上の治療は意味がない?むち打ち症で治療期間が長くなると、保険会社から「最高裁判例で半年以上の治療は意味がないとされている」と言ってくることがあるようです。しかし、そのような最高裁判例はありません。保険会社が、なぜ6ヵ月にこだわるかというと、治療期間6ヵ月以上であることが、後遺障害認定の1つの目安となるからです。治療期間が6ヵ月に満たなければ、自賠責保険の後遺障害認定がされにくくなります。自賠責保険において後遺障害が認定されると、後遺症に対する損害賠償が発生します。後遺症に対する損害賠償額は、大きな金額となります。保険会社としては支払額を抑えたいので、後遺障害等級が認定されないよう、6カ月未満で治療を打ち切りたいのです。もし保険会社が治療費の打ち切りを言ってきても、あなたが治療の継続を望み、主治医もまだ治療を継続すべきだと判断するなら、保険会社の担当者と話をして、治療費の支払いを継続してもらえるよう交渉することが大切です。まとめむち打ち症の治療期間は、事故から3ヵ月から6ヵ月程度が多く、長くとも1年程度といわれています。保険会社は、事故から6ヵ月程度を経過すると、症状固定になったとして治療費の支払い打ち切りを通告してくることがあります。この背景には、むち打ち症の治療期間について、「通常、遅くとも6ヵ月以内で症状固定に至ると考えられている」とする医学論文(平林洌「外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドラインの提案」(1999年))や、「頸椎捻挫にとどまる傷害の治療に必要な期間は、個人差があることを考慮しても最大限6ヵ月程度とみられる」とする裁判例(大阪地裁平成9年1月28日判決)などがあるからのようです。治療期間が6ヵ月に満たないうちに治療費の一括払いを打ち切られると、後遺症が残るほどの強いむち打ち損傷だった場合でも、後遺障害の認定を受けられなくなります。まだ痛みやしびれがあるのに、保険会社から治療費の打ち切りを通告され、お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。関連・治療費打ち切りを保険会社から通告されたときの3つの対処方法【参考文献】・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 178~179ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題』保険毎日新聞社 67~70ページ、74~83ページ・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 49~50ページ・『後遺障害入門』青林書院 167ページ・『補訂版 交通事故事件処理マニュアル』新日本法規 49~50ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 127ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 301~302ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 46~49ページ、124~125ページ・『交通事故損害賠償入門』ぎょうせい 85~91ページ
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  • 軽微事故の治療費
    軽微事故のむち打ち症は自賠責保険が治療費の支払いを拒否する?
    軽微事故で、むち打ち症の治療費を保険会社に請求するときは、注意が必要です。物損が軽微(車両修理代が低額)だった場合、任意保険会社が治療費の一括払いを短期間で打ち切る可能性があります。しかも近時は、自賠責保険が、治療費の相当因果関係を否定するケースまで見られるようになってきているのです。軽微事故の場合、治療費の一括払いは短期間で打ち切りむち打ち症(外傷性頚部症候群)は、大半は単純な頚部軟部組織の捻挫で、外傷所見がなく、もっぱら被害者の訴える自覚症状のみです。それゆえ、詐病を疑われることも少なくありません。※ むち打ち症について詳しくはこちらをご覧ください。そのため、車両の損傷が軽微な事故の場合には、保険会社からの治療費の一括払いが短期間で打ち切られる傾向にあります。場合によっては、治療と事故との相当因果関係が否定され、治療費の支払いを拒否されることもあります。「事故による衝撃は小さく、治療を要するような怪我はしない」というわけです。治療費の相当因果関係が否定されやすい軽微事故とは?むち打ち症で、保険会社が治療費の相当因果関係を否定する傾向のある軽微事故とは、次のようなケースです。低速での衝突事故(クリープ現象による追突など)ドアミラー同士だけが接触したような事故車両修理費が10万円程度以下の軽微物損軽微事故で受傷を否認した裁判例裁判例でも、低速度での追突事故やドアミラー同士だけが接触したような事故で、事故態様や診療経過を理由に受傷を否認する判断を示したものがあります。低速(クリープ現象)での追突事故で受傷を否認した裁判例横浜地裁判決(令和2年2月27日)大型貨物を運転中、赤信号で停止していたところ、後方から乗用車が追突し、頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、中心性頸髄損傷等の傷害を負い、約9カ月間通院した事案です。裁判所は、追突事故の態様につき、後方の乗用車がクリープ現象により2メートルほど前進して、原告車(大型貨物)に追突したものであると認定したうえで、次のような判断を示しました。「本件事故により原告車両が受けた衝撃は微弱なものであったと推認される」、加えて、被害車両の損傷部位が主としてパワーゲートであり、被害車両の構造、長さ、後方から追突した乗用車との重量差、乗用車の運転者は格別の傷害を受けていない等の事情を踏まえれば、「原告車両の運転席にいた原告に頸椎捻挫、外傷性頸部症候群、中心性頸髄損傷の傷害を生じさせるほどの力が及んだとはおよそ考え難いというほかない」として、原告の受傷を否認しました。ドアミラーの接触事故で受傷を否認した裁判例横浜地裁判決(令和元年7月24日)対向進行する乗用車の右ドアミラー同士が接触し、運転していた夫が、頸椎捻挫、腰部挫傷の傷害を負い、助手席に同乗していた妻が、頸椎捻挫、腰部・右大腿部挫傷の傷害を負ったとする事案です。「車体の外に取り付けられ、折りたたみ可能とされるドアミラーの構造からすれば、原告車のドアミラーが受けた衝撃がそのまま車体にまで及ぶとは考えにくく、むしろ、原告車の右ドアミラーがその構造にしたがって内側に倒れ込んだうえ、鏡面の破損に至ったことによって、多くの衝撃は吸収されたはずであって、車両本体に及んだ衝撃は限られたものであったと推察される。……本件事故におけるドアミラー同士の衝突自体によって原告車の車体本体や車内の乗員に及んだ衝撃の程度はさほど大きなものではなく、それ自体が原告らの主張する各傷害の受傷機転となったものとは考え難いというべきである」と判示しました。また、診療経過についても、「原告らはレントゲン検査や神経学的検査による異常所見は認められず、受傷を示す客観的な裏付けが認められるものではない」、「原告らが病院または整骨院への通院を開始したのは、いずれも本件事故から2週間程度が経過した後であり、本件事故によって約7ヵ月もの通院治療を要する傷害を負った者の行動としては、不自然といわざるを得ない」と指摘し、受傷機転の不存在および診療経過の不自然さを理由に、原告らの受傷を否認しました。軽微事故と受傷との相当因果関係について自賠責の判断が変化以前は、任意保険会社が治療費の一括払いを拒否するような場合でも、自賠責保険に直接請求(被害者請求)をすれば、自賠責保険は治療費の支払いに応じていました。ところが、最近は、自賠責保険の判断が変化しています。軽微事故の場合に、自賠責保険が、治療費の相当因果関係を否定するケースが散見されるようになっているのです。自賠責保険制度の「被害者の保護・救済」という機能が弱まってきているといわざるを得ません。治療期間が長い場合は要注意特に、物損が軽微なのに、治療期間が長い場合は要注意です。物損が軽微(車両修理代が低額)なのに治療期間が長い場合は、すべての治療費について、事故との相当因果関係を否定する傾向にあります(『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 124ページ)。任意保険会社が治療費を一括払いしていたのに、後になって自賠責保険が、すべての治療費の相当因果関係を否定すると、被害者にとっては非常に困った事態になってしまいます。任意保険会社は、自賠責保険から治療費を回収できなくなるので、被害者に対して治療費の返還を求めてくることがあるのです。自賠責保険の判断が示されるタイミングとは?自賠責保険の判断が示されるのは、次のようなタイミングです。自賠責保険に治療費等を直接請求(被害者請求)したとき自賠責保険に後遺障害の認定を被害者請求したとき加害者側の任意保険会社が、自賠責保険に事前認定を請求したときこのような請求が自賠責保険に対してあったときに、自賠責保険は、事故の状況や物損額などを確認し、受傷と事故の相当因果関係を判断します。自賠責の判断が示される前に示談した方がよいケースも自賠責保険で、治療費の相当因果関係を否定する判断が出てしまうと、裁判でこれを覆すのは困難です。ですから、車両の修理代が10万円程度以下の軽微物損の場合には、任意保険会社が治療費の一括払いをしているとき、短期間で治療費一括払いの打ち切りを通告してきますが、そのタイミングで任意保険会社の一括払いによる治療を終了し、示談することも選択肢となります。あるいは、任意保険会社から治療費の打ち切りを言ってくる前に、早々に一括払いによる治療を終了し、示談手続に入ることも選択肢となるでしょう。もちろん、物損が10万円程度の軽微事故でも、むち打ち損傷で、後遺障害14級9号の等級認定を獲得できた事例はあります。重要なのは車両の修理額でなく、事故で受けた衝撃の大きさですから、車両修理代が10万円にも満たないからと諦めることはありません。まとめ軽微事故でのむち打ち症は、治療費の相当因果関係が争いになりやすく、任意保険会社から治療費の一括払いを短期間で打ち切られたり、受傷自体が否認される場合もあります。最近は、自賠責保険も、物損が軽微であるにもかかわらず、治療期間が長い場合は、事故と受傷との相当因果関係が否定される傾向があります。軽微物損で、短期間で任意保険会社から治療費一括払いの打ち切りを通告されるような場合は、あなたが思う以上に対応が難しいケースが多いので、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『後遺障害入門』青林書院 166ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社 49~51ページ、124~125ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 117~123ページ
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  • 低速度追突事故
    低速度追突事故はむち打ち症にならない?無傷限界値論・閾値論とは?
    保険会社側は、「低速度衝突では、むち打ち症の発症はあり得ない」として、治療費の支払いを拒否する場合があります。その根拠とされているのが、無傷限界値論(閾値論)です。現在は、無傷限界値論(閾値論)は否定され、低速度での追突という理由だけで、むち打ち損傷の受傷を否認することはできなくなっています。もっとも、低速度衝突の場合には衝撃が小さいのが通常ですから、保険会社側は、受傷を否定し、治療費の支払いを拒否したり、受傷を認めても、早期に治療費を打ち切ることは、今もあり得ます。無傷限界値論(閾値論)とは何か、どうやって否定されることとなったのか、詳しく解説します。無傷限界値論(閾値論)とは?従来、むち打ち症(むち打ち損傷)は、外力により頭頸部に「むち打ち運動」が生じ、頸部が生理的可動範囲を超えて過伸展(後屈)・過屈曲(前屈)することにより発生するとされてきました。むち打ち損傷の発生メカニズムをこのように捉え、頸部の過伸展・過屈曲を生じるような外力の閾値を設定し、外力がその閾値に達していなければ、受傷は絶対ありえないとするのが、「無傷限界値論(閾値論)」です。「無傷限界値理論(閾値理論)」とも呼ばれます。頸部の生理的可動範囲頸部の生理的可動範囲は、前屈で60度、後屈で50度とされています(一般財団法人 労災サポートセンター『労災補償障害認定必携(第17版)』295ページ)。シヴァリーらの実験(後掲)を初めて我が国に紹介した松野正徳「追突とムチウチ症(上)」(モーターファン1966年11月号)では、後方へ平均61度とされているようです(日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社154ページ)。無傷限界値(閾値)としては、次のような見解が有力です。シヴァリーらの実験結果にもとづき、「16㎞/h未満の追突では受傷しない」とする見解メルツらの実験結果にもとづき、「追突によって3g(G)の加速度が発生しなければ、どのような着座状態でも、むち打ち症は生じない」とする見解それぞれ詳しく見てみましょう。シヴァリーらの実験結果にもとづく無傷限界値シヴァリーらの実験(1955年)は、実際の車両同士を時速 7マイル(約11㎞/h)、時速 8マイル(約13㎞/h)、時速 9マイル(約15㎞/h)、時速 10マイル(約16㎞/h)、時速 20マイル(約32㎞/h)で追突させ、車両に搭乗させたダミーと生体の挙動を観測したものとされています。実験結果は、次のようなものです。追突速度被験体頭部加速度頭部後屈角度7マイル(約11㎞/h)ダミー2.5G15度8マイル(約13㎞/h)生体5G32度9マイル(約15㎞/h)生体2.9G34度10マイル(約16㎞/h)ダミー11.3G69度11マイル(約32㎞/h)ダミー11.4G84度※ 時速8マイルの実験では被験者を非緊張状態におき、9マイルの実験では緊張状態においた、とされています。時速10マイル(約16㎞/h)で、ダミーの頭部の後屈角度が、人体の頸部の平均的後屈限度(50度ないし61度)を超え、それ以下では限界を超えていません。このことから、時速16㎞未満の追突速度では、頸部の変形は生理的限界を超えないので、むち打ち症は発症しない、といわれているのです。「16㎞/h未満の追突では受傷しない」とする見解については、もともと「16㎞/h以上では首の生理的限界角度以上になるわけだから、むち打ち症の発生モーメントとなりうるであろう」という表現だったものが、「16㎞/h未満の追突では受傷しない」という公式として広まったようです。(東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判例タイムズ№737 20ページ注41)メルツらの実験結果にもとづく無傷限界値メルツらの実験(1967年)は、ボランティア(生体)1例と死体2例をスレッド(特定条件で加速・減速状態を発生させられるようにした実験用の台車)に乗せて動かし、頸部のトルク(回転力)や回転角度等を観測・算出したものとされています。前向きの加速度3.2G(時速10マイルの追突相当)を加えたときに、頭部の初期位置からの最大後方回転角が、死体1例で62度、他の死体1例では46度、ボランティアでは41度であったと報告されているようです。この実験結果から、無傷限界値論(閾値論)の立場で多くの鑑定をしてきた法医学者らは、「むち打ち症を受傷するには、頸部が50度以上後屈しなければならない……。この実験結果は、ヘッドレストのない座席に座っていて、追突を予知せずに追突された場合、前向きの加速度3G付近に、むち打ち運動による頸部損傷の下限があることを示している」と、平均加速度3Gを閾値として設定しているのです。しかも、「追突によって3Gの加速度が発生しなければ、どのような着座状態でも、むち打ち症は生じない」「3Gを超える衝撃が加わらないと、いくら頸椎に加齢的変化があっても受傷しない(閾値は下がらない)」と断定しています。加速度と衝撃の大きさとの関係加速度とは、速度の時間的変化のことで m/s²で表されます。g(大文字でGとも書かれます)は、9.8m/s²です。衝撃の大きさはg(またはG)で表されます。gは重力加速度のことです。地球上では、あらゆる物体に対し、下向きに1秒ごとに9.8m/sずつ速度が増すような力が働いているのです。負の加速度は、減速度ともいわれます。車両の衝突などでは、車両や乗員に生じる加速度に不規則な波(高低)があり、その波のピークに相当する部分を最大加速度といい、平均加速度と区別しています。最大加速度は、平均加速度の約2倍になり、乗員の頭部に生じる加速度は、車両に生じる加速度の約2倍~2.5倍になるとされています。(参考:北河隆之「いわゆる『鞭打ち症』に関する『賠償医学』的アプロウチに対する批判的検討」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究 第2巻』判例タイムズ社 161~162ページ注12)東京地裁民事交通部が、無傷限界値論・閾値論を否定低速度追突事案につき、保険会社側から、無傷限界値論(閾値論)にもとづき、被害者の受傷を否定する工学鑑定・医学鑑定を駆使して、債務不存在確認訴訟を提起する例が多発していました。そんな中、東京地裁民事第27部(交通部)において、無傷限界値論・閾値論を否定する注目の判決が出ました。停止中の被害車両に加害車両が追突した事故について、追突時の加害車両の速度を10㎞/hと認定したうえで、追突時の被害者の姿勢に注目し、外傷性頸椎症候群等の症状(従来、むち打ち症として理解されていた症状)の発生を認め、症状固定日まで約29ヵ月間の通院治療を認めたのです。無傷限界値論を否定した東京地裁判決(昭和63年1月22日)事案は、昭和57年11月17日、信号待ちで停止中の被害車両(普通乗用自動車)に加害車両(軽四輪貨物自動車)が低速度で追突した事故です。被害者(原告)は、この追突事故により傷害と後遺障害を負ったとして、損害賠償を求めて提訴しました。加害者側は、「衝突速度が時速15キロメートル以下では、頸椎に過屈曲・過伸展は生じず、むち打ち症は発生しない」「原告の傷病は詐病であり、そうでないとしても職業病であって、本件事故と因果関係はない」と主張して争いました。いわゆる無傷限界値論(閾値論)を根拠とする主張です。これに対し、裁判所は、追突時の加害車両の速度が約10㎞/hであったと認定したうえで、「原告は、赤信号のため停止中、運転席に座ったまま上体を伸ばしてかがみ、助手席前の床に落ちた荷物を取ろうとしたところ、加害車に追突された」とし、「通常の姿勢を取っていれば身体に傷害を生ぜしめるようなものではなかった」が「本件事故の際には、前記のように極めて不自然かつ無防備の態勢であったため、不意を突かれた原告は、外傷性頸椎症候群及び腰部捻挫」の傷害を負ったと判示しました。衝突速度10㎞/hで外傷性頸椎症候群等の傷害を負ったことを認め、「衝突速度が時速15㎞以下では、頸椎に過屈曲・過伸展は生じず、むち打ち症は発生しない」とする無傷限界値論(閾値論)を否定したのです。事故後の急性期症状とその後の症状の経過については、次のように事実認定しています。レントゲン写真等では頸椎、腰椎に明確な他覚的変性所見はみられなかったものの、事故後1週間を経たころから症状が悪化し始め、頸部・腰部痛、しびれ感等のほか、首が回らない、腰・肩が鉛のように重い、右足の痛み及びこれによる跛行等の症状を呈するようになった。生活を維持するため休業して安静療養を行うこともままならず、右症状を押して外回りの営業の仕事を続けざるを得ず、右業務の性質上長時間の自動車運転に従事することを余儀なくされる毎日であったこと、治療方法も投薬、理学療法以上に効果的なものはなかったことなどから治療期間も長引き、ようやく昭和60年4月5日ころには、通院当初ころ所見を得ていた頸椎部の自然湾曲の変性も改善され、症状固定に至った。症状固定時後もなお残存した頸部、後頭部、両肩、両肩甲骨の疼痛、しびれ感、両上肢特に右第1、第4指の知覚鈍麻、脱力感、頸部の運動痛、腰痛、両足背・足底のしびれ感等の自覚症状も当審における原告本人尋問の行われたころ(昭和61年12月5日)には消失した。これらのことから、「原告の症状は腰痛の点も含めすべて本件事故と相当因果関係があるというべきである」と判示しました。むち打ち運動が生じていない場合でも頸部損傷はありうるこの判決では、「むち打ち症」や「むち打ち損傷」という言葉は使われていません。この事故による被害者の頸部の傷病名は、外傷性頸椎症候群です。もともと「むち打ち症」や「むち打ち損傷」は、頭頸部が鞭のようにしなって過伸展・過屈曲することにより頸部痛等の症状が発生する、という受傷機転に由来する用語ですが、この「むち打ち症」や「むち打ち損傷」という言葉が、「追突による頸部捻挫」あるいは「追突ショックによる神経症状」と全く同義に使われるようになりました。「追突による頸部捻挫」や「追突ショックによる神経症状」のうち、頭頸部のむち打ち運動を受傷機転とするものを「むち打ち症」「むち打ち損傷」と呼ぶのであって、「追突による頸部捻挫」や「追突ショックによる神経症状」そのものではありません。本件のように、追突時の被害者の姿勢その他の条件によっては、頭頸部のむち打ち運動を生じなくても、他覚的所見のない頸部損傷(いわゆる「むち打ち症」の症状)が発生することがあるのです。支倉逸人 信州大学医学部教授(当時)によれば、①人間の上体が直立している状態で脊椎に前後方向から衝撃が加わる場合と、②脊椎が水平状態にある場合に腰から頸の方向に衝撃が加わる場合(特に、頭部が前方のダッシュボードなどに接していて前方に圧迫される場合)とを比較すると、②の方が脊椎が直接衝撃を受けるため、もともと脆い神経などは比較的軽微な衝撃によって損傷を受けやすい。①の場合には「むち打ち運動がなければ損傷が発生しにくい」が、②の場合には「むち打ち運動がなくても損傷は発生する」とのことです。(北河隆之「時速10キロメートルの追突で被害者の姿勢を重視し外傷性頸椎症候群の発生を認めた事例」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社 19ページ注9)自動車事故などで頚部を受傷した後に、画像上異常を認めないにもかかわらず、長期間にわたって頚部痛などの症状が続く事実があり、「むち打ち損傷」とも呼ばれてきました。現在は、外力によって発生した多様な頚部愁訴を包含する症候群として「外傷性頚部症候群」とされることが多くなっています。(参考:山下仁司「外傷性頚部症候群と脳脊髄液漏出症の歴史的背景」臨床整形外科 2023 Vol.58 No.11 医学書院 1303ページ)むち打ち症に関する医学鑑定・工学鑑定の問題点保険会社側からの無傷限界値論(閾値論)にもとづく「工学鑑定」や「医学鑑定」については、弁護士会、裁判所、臨床医(整形外科医)など各方面から批判的な見解が示されていました。「工学鑑定」「医学鑑定」の特徴無傷限界値論(閾値論)にもとづく「鑑定」は、基本的に次のような論理構成となっています。むち打ち症は、外力により頭頸部にむち打ち運動が発生し、頸部が正常可能範囲を超えて過伸展(後屈)、過屈曲(前屈)することにより発生する。頸椎の正常可能範囲は50度ないし61度である。過伸展、過屈曲を生じさせない外力の限界値を無傷限界値という。外力がその限界値に達していなければ、むち打ち症の受傷はありえない。「工学鑑定」は、追突速度や車体の変形量やスリップ痕の長さなどから、人体に働いた衝撃力を数学的に算定するのに主力が置かれます。「医学鑑定」は、工学的手法によって衝撃加速度などを導き出し、無傷限界値(閾値)を設定して、外力がその値に達していなければ受傷を否定する点では「工学鑑定」と同様ですが、さらに、症状の経過から後遺障害の存在を否定したり、医学的他覚所見のないからと「詐病」や「賠償性神経症」と決めつけて切り捨てたりします。東京三弁護士会が「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」を発表東京三弁護士会・交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会は、1990年に「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」(判例タイムズ№737(1990.11.15))を発表し、むち打ち症を否定する方向で行われていた工学鑑定や医学鑑定の問題点を指摘し、被害者救済の必要性を訴えました。むち打ち症事案に関する工学鑑定の問題点工学鑑定では、車両の損傷(車体の変形量)から被害者の受けた衝撃(加速度)を推定し、その加速度とダミー等による既存の実験データの数値とを比較して、受傷の可能性の有無を判定する手法がとられます。このとき参照される実験データが、シヴァリーやメルツの実験結果です。特にメルツらの実験は、ほとんどの鑑定や低速でのむち打ち症を消極的に解する論文で引用されています。この実験結果にもとづき無傷限界値(閾値)を設定することについて、東京三弁護士会・交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会は、次のような問題点を指摘しています。要点のみ挙げておきます。無傷限界判断の根拠となったデータは死体の実験例であり、死体の実験結果をそのまま生身の人間に置き換えることはできないのではないか。実験では、死体に損傷がみられなかった実験例の数値を論拠に、その数値では受傷しないという論を取るが、損傷の有無の確認はX線写真のみ。そもそも、むち打ち症は、X線写真では外傷所見がみられないケースがほとんどなので、X線写真上の所見から受傷の有無を判断した実験例を単純に参考にはできない。生体実験では、被験者が身体に衝撃があることをあらかじめ分かっているため、通常の追突事故のような「不意打ち」のときの人体の反応と同じものと安易には推定できない。標本数が少なく(死体は後屈実験で2体、前屈実験で4体、生体の被験者数は1人)、この数の実験結果から人体の無傷限界を断定し、絶対視するのは極めて乱暴な手法。追突時は停止中のことが多く、無防備の態勢では正しい着座姿勢の場合より受傷しやすい。特殊な姿勢の場合に、衝突の衝撃が人体にどのような影響を与えるかの実験はない。そもそも「頸部の変形(傾く角度の大きさ)が一定限度を超えなければ受傷しない」といえるのか、鞭打ち運動以外のメカニズムで傷害は起き得ないのか、基本問題の吟味も十分なされていない。むち打ち症に関する医学鑑定の問題点むち打ち症に関する医学鑑定の多くは、保険会社側の依頼により作成される「私鑑定」で、次の2つを理論的特徴としています。無傷限界値理論(閾値理論)による受傷の否定医学的他覚所見のないむち打ち症に関する否定的取扱い(すなわち法的保護の必要性の否定)それぞれの点について、東京三弁護士会・交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会は、次のような問題点を指摘しています。無傷限界値論(閾値論)による受傷の否定むち打ち症に関する医学鑑定の主流は、むち打ち症の発生メカニズムを重視し、無傷限界値(閾値)を中心とする考え方です。外力が無傷限界値(閾値)に達していなければ、受傷は絶対ありえないとします。本来、医学鑑定においてこそ、被害者の人体の個別性に応じた慎重な医学的検討が加えられるべきであるのに、工学鑑定の手法をそのまま援用するものにすぎません。無傷限界値理論(閾値理論)に対し、臨床医学、特に整形外科の立場からは、「むち打ち損傷の症状の強弱は、必ずしも物損の程度と比例しない」「無傷限界値を定めることなど、とても無理」との見解が大勢です。1990年4月13日に名古屋で開催された第63回日本整形外科学会学術集会のパネルディスカッション「頸部外傷性症候群(頸部捻挫)」において、整形外科の医師らは、次のように発言しています。清水淳医師(駿東整形外科医院)症状の強弱が必ずしも物損の程度と比例しない例もある。私は日常診療で、玉突き、女性、助手席、追突されると分かっていなかった例、多少とも横を向いていた例、無症状だったがレ線上頸部脊椎症がみられた例、などに本症が出やすいことを経験している。(車体が)ほとんど前に出なかった例でも、後席の荷物が床に落ちたり、頸部に疼痛を覚えている例もあるので、シート上の人体には鞭打ちメカニズムが生じているのではなかろうか。大塚訓喜助教授(信州大学医学部整形外科)(本症は)それほど大きな外力でなくても発生しうると考えられる。……この外傷の発生には一定の外力の閾値を定めることは、とてもとても考えられない。(北河隆之「『頚部外傷性症候群』再論」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社 189ページ、197ページ)(東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判例タイムズ№737 17ページ)医学的他覚所見のないむち打ち症を否定むち打ち症に関する医学鑑定のもう一つの特徴は、医学的他覚所見のないむち打ち症を「詐病」や「賠償神経症」と決めつけることです。しかし、他覚的所見がないからと、短絡的に、詐病あるいは心因性の賠償神経症、外傷性神経症と決めつける法医学鑑定については、臨床医の立場から重要な指摘がなされています。第63回日本整形外科学会学術集会のパネルディスカッション「頸部外傷性症候群(頸部捻挫)」における発言を挙げておきます。大塚訓喜助教授(信州大学医学部整形外科)ここで論じられている疾患は、交通事故に特有なものではない。労働災害、スポーツ、自損事故でも起こっており、その臨床の病態は全く同じものである。(難治例についても)ほとんど他覚所見がない。しかし、患者さんの言うことをじっと聞いていると、医学的知識のない患者さんが全く同じことを皆が言う。これはレントゲン写真撮っても把握できない……。いままでの我々は、何かがあるんだけれども、何かがつかめないという状態で対応してきたんです。寺内芳郎講師(信州大・麻酔科ペインクリニック)器質的なものがはっきりしない患者も含めて、たくさん治療しているんですけれども、賠償が全く関係ないという人がいます。……そういう人の症状をよく聞くと、賠償が絡んでいる人と症状の動きから、症状の性質、ほとんど変わらない。治療に対する反応も変わらない。非常に難航している経過も変わらない。……賠償問題に絡んで、賠償神経症だと鑑定するのは、実際に患者さんを診ていると、非常におかしいと思います。金田清志教授(北大・整形外科)他覚的所見の問題については、頸椎損傷の後に起こっている状況を、今、私たちが全て見つけられるわけではないということを念頭におかなければならない。……今のメソッドでは見つけられない、分からない範囲の損傷が起こっているということも一応念頭においておかなければならない。……他覚的所見ということで全てをつかむことができないということを、念頭に置かなければいけないと思います。木下医師整形外科的にレントゲンを見て何もないということから、他覚的所見がない(とされますが)、他覚的所見がないのではなくて、我々の今の医学の力ではとても発見できないようなものが、脳幹から内耳に至るまでいろいろあるのではないかという気がいたしております。このように臨床医の多くは、本症の医学的解明度について極めて謙虚な姿勢をとっており、他覚的所見を見出せないからといって、これを「日本の奇病」「打算病」などと避難し、法的保護の必要性を否定することは、科学的な態度からはほど遠いものである、と指摘しています。(東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判例タイムズ№737 19ページ)医学・工学鑑定書(意見書)に対する裁判所の認識保険会社から提出される医学・工学鑑定書(意見書)については、裁判所も一定の批判的判断をしていました。1990年5月19日に行われた東京弁護士会弁護士研修講座において、東京地裁民事27部(交通部)の原田卓裁判官が、次のように話しています。要旨のみご紹介します。賠償医学者の意見書について訴訟において証拠として提出される賠償医学者の意見書は、もっぱら保険会社側から依頼と報酬を受けて書かれたものである。その意見書は、被害者を直接診断することなく、主として保険会社から提出された、カルテ、看護日誌、診断書をもとにして判断したものが多く、保険会社に有利な意見であるからこそ、証拠として提出するのであろうが、決まって保険会社側に有利な意見である。保険会社から報酬を受けている限り、それに従属的になるのはやむを得ないかもしれないが、証拠として出される賠償医学者の意見は、当該被害者の治療を担当している臨床医(この中には一流大学病院の一流といわれる整形外科医もいる)の見解とは際立った対立を示すということがある。このような医学上の対立を見ていると、賠償医学者が言うような、むち打ち症についての医学水準というものが確立していると、とても思えない。工学的意見書について自動車工学にもとづく意見書は、これも決まって保険会社に有利な意見、すなわち「当該交通事故を解析した結果、むち打ち症は発症しない」という意見書が提出される。これらの工学的意見書を書く人には、名前を聞くだけでどういう内容かが分かる人もいる。というのは、書いてくる意見書というのは、定型文書のほんの一部を変えた程度のものだからである。使用している数式も高校の物理の教科書に出ている程度のもので、タイヤの状況、摩擦係数、あるいは積荷の状況などはあまり考慮されず、実にラフな意見書といってよいかと考えられるものもある。保険会社側から提出されるこれらの工学意見書の信頼性には、かなり疑いがあるのではないかと思われる。(参考:東京三弁護士会・交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会に「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判例タイムズ№737 5ページ注6、東京三弁護士会交通事故処理員会編集『新しい交通賠償の胎動』ぎょうせい 20~21ページ)2002年3月16日に行われた東京三弁護士会交通事故処理委員会創立40周年記念講演「交通事故賠償の実務と展望」において、東京地裁民事27部の河邉義典・部総括判事が、原田裁判官の講演内容を「10年以上を経過した現在における私どもの認識ともさほど異ならないもの」として照会し、医学的意見書と工学的意見書について、次のように話しています。医学的意見書に関する部分は、現在でも状況は変わっていません。むしろ、東京海上メディカルサービス株式会社のように、保険会社から依頼を受けて医療情報を提供する専門的な会社組織が現れており、依然として保険会社側が優位に訴訟を進めている実情にあります。……被害者側も、裁判所が認定判断を誤ることがないように、主治医の意見書など、自己に有利な証拠を提出するように努力する必要があります。工学鑑定ないし工学的意見書に関しては、今日では、裁判所の工学鑑定に対する不信感が広く知れ渡ったためか、むち打ち症の事件で工学的意見書が提出されることは、ごく稀となっています。(東京三弁護士会交通事故処理員会編集『新しい交通賠償の胎動』ぎょうせい 21ページ)事故解析共同研究会による衝突実験このように無傷限界値論・閾値論にもとづく工学鑑定書(工学的意見書)の信憑性に疑義が持たれていたことから、1994年に社団法人日本損害保険協会(現在の一般社団法人日本損害保険協会)の委託により「事故解析共同研究会」が組織され、衝突実験が行われました。研究結果について詳しくは、羽成守=藤村和夫共著『検証むち打ち損傷―医・工・法学の総合研究』(ぎょうせい 1999年3月)にまとめられています。事故解析共同研究会の目的「事故解析共同研究会」の目的は、東京三弁護士会論文が指摘した問題点の解明とともに、追突事故に関する工学的検討、それによる人体への影響に関する医学的検討、損害賠償面に関する法学的検討などの学際的研究であり、この結果により、現在まで発表されている教科書などで不足している情報を補充し、新たに解明が必要な因子を生理すること、とされました。実験目的については、車両の座席にヘッドレストレイントが装着され、シートベルトについても着用者が多い状況の中で、追突によって、いわゆる「むち打ち」機転が起きるのか低速度衝突によって、乗員の身体に傷害が発生することがありうるのか傷害が発生したとして、その内容や程度はどのようなものなのか従来から行われてきた「工学鑑定」の手法や判断が正当なものか否かなどについて検討を行うことにしたとされています。実験結果衝突実験は、72名の被験者に対し、衝突速度6.3~15.3km/hの範囲で行われ、実験後、自覚症状を訴えたのは14名で、衝突速度は8.0~15.3km/hだったようです。この14名のうち、13名は実験後3日以内に自覚症状も消失し、残り1名についても3週間で自覚症状が消失したとされています。この実験結果から、衝突速度が16㎞/h未満、車体の平均加速度が1.1~2.1G程度であっても、20%程度の確率で、いわゆる「むち打ち症」の症状が発症することが明らかとなりました。無傷限界値論(閾値論)は否定された損保側が主張していた「16㎞/h未満の追突では受傷しない」「追突によって3Gの(平均)加速度が発生しなければ、どのような着座状態でも、むち打ち症は生じない」とする無傷限界値論(閾値論)は、みずからの業界団体である日本損害保険協会が委託して行われた衝突実験により、明確に否定されたのです。この衝突実験の結果から、ある一定の重力加速度や一定の衝突速度では受傷しないとする無傷限界値論(閾値論)には、「すみやかに終止符が打たれるべきである」との見解が示されました。こうして無傷限界値論(閾値論)の総本山であった日本賠償科学会(旧・日本賠償医学会)も、「少なくとも現在の工学的問題状況としては、低速度追突事案ではむち打ち症が発症しないという一般的法則性は否定されているといってよい」と指摘するに至ったのです(日本賠償科学会編『賠償科学概説』民事法研究会137ページ(2007年))。今日、もっぱら無傷限界値論・閾値論のみ主張し、「無傷限界値論を示す工学鑑定書のみによる立証によって、むち打ち損傷を否定することはほぼ不可能」といわれています(『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 344ページ)。低速度追突だからという理由だけで、むち打ち損傷の受傷を否定することはできないとしても、だからといって、受傷の態様が、受傷内容や予後に影響を及ぼさないわけではありません。低速度追突であれば、身体に対する衝撃は小さいでしょうから、症状は重症化・遷延化しないのが通常です。このことまで否定されるわけではない、ということには注意が必要です。実験結果から明らかになったことこの実験により、低速度衝突でも「むち打ち症」が発症することのほか、次のことも明らかになりました。低速度の追突事故の場合、頸椎は屈曲が先行し、その後に伸展が生じる。これらの運動は、すべて生理的可動範囲内におさまっている。すなわち、生理的可動範囲を超える過伸展・過屈曲は生じない。ヘッドレストレイントが適正に装着されている車両に乗車しているときは、(追突を予測し)頸部を緊張させている場合の方が、(追突を予測せず)頸部を緊張させていない場合よりも、損傷が生じる。従前から言われてきた「不意打ちを受けたときの方が損傷を受けやすい」という内容とは異なる。この研究は、あくまでも低速度の衝突事故を実証したものですが、実験結果より得られた知見を紹介した内容は、従来の固定観念を吹き飛ばすものであり、国内はもとより海外の医学界でも発表され、高い評価を得ています(大内建資「ブック・レビュー『検証むち打ち損傷―医・工・法学の総合研究』」判例タイムズ№1010)。まとめ「低速度の追突事故の場合、むち打ち損傷は発生しない」とする保険会社側の主張は、絶対的なものではありません。乗車姿勢や衝突態様によっては、たとえ低速度追突でも、いわゆる「むち打ち症」の症状を発症する場合があります。日本損害保険協会の委託による衝突実験から、衝突速度16㎞/h未満、加速度3G未満でも約20%の確率で、いわゆる「むち打ち症」を発症することが明らかとなり、低速度衝突という理由だけで、むち打ち損傷の受傷を否定することはできなくなりました。損保会社が受傷否認の根拠としていた無傷限界値論(閾値論)は、みずから実施した衝突実験により否定されたのです。ただし、その事故により受傷したことの立証責任は、被害者の側にあります。「衝突時の速度が15㎞/h以下だったから、むち打ちになるはずがない」という理屈は成り立ちませんが、だからといって簡単に、むち打ち損傷の受傷が認められるわけではありません。あくまでも、受傷の立証責任は被害者側にあるので注意が必要です。低速度での追突であることを理由に、保険会社から受傷を否認され、治療費の支払いを拒否されるなど、お困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判例タイムズ№737 4~26ページ・北河隆之「時速10キロメートルの追突で被害者の姿勢を重視し外傷性頸椎症候群の発生を認めた事例」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社 6~28ページ・北河隆之「いわゆる『鞭打ち症』に関する『賠償医学』的アプロウチに対する批判的検討」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社 148~179ページ・北河隆之「『頚部外傷性症候群』再論」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社 180~201ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 116~119ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 342~348ページ・『交通事故損害賠償法第3版』弘文堂 209~210ページ・特集 外傷性頚部症候群 診療の最前線 『臨床整形外科 2023 Vol.58 No.11』医学書院 1301~1359ページ・ブック・レビュー 大内建資「羽成守=藤村和夫共著『検証むち打ち損傷―医・工・法学の総合研究』ぎょうせい」判例タイムズ№1010(1999.11.15)92~95ページ・日野一成「(超低速度衝突)むち打ち損傷受傷疑義事案に対する一考察ー工学的知見に対する再評価としてー」J-STAGE (https://www.jstage.jst.go.jp/article/giiij/79/1/79_159/_pdf/-char/ja)・日本賠償科学会編『賠償科学概説ー医学と法学との融合ー』民事法研究会 108~147ページ・日本賠償科学会編『賠償科学 改訂版ー医学と法学との融合ー』民事法研究会 116~155ページ・東京三弁護士会交通事故処理委員会編集『新しい交通賠償論の胎動』ぎょうせい 17~23ページ・『交通事故紛争とむち打ち症の診断』共栄書房 69~84ページ
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  • 他覚的所見
    他覚的所見(医学的他覚所見)とは?狭義の他覚所見、広義の他覚所見
    保険会社は、他覚的所見のない ”むち打ち症” を、「詐病」や「賠償性神経症」などと決めつけ、受傷を否認し、治療費の支払いを拒否する傾向があります。人身傷害保険では、保険約款において、医学的他覚所見のない場合は保険金の支払い対象から除外しています。医学的他覚所見(他覚的所見)とは何か、見ていきましょう。他覚所見(他覚的所見)とは?他覚所見とは、「他者が確認できる、当該患者の身体の変化や異常」または「これに関する医師の意見・判断」をいいます(東京弁護士会親和全期会編著『交通事故事件の実務用語辞典』第一法規 99~100ページ)。「医学的他覚所見」あるいは「他覚的所見」ともいわれます。他覚所見(他覚的所見)に対する語は、自覚症状(自覚的症状)です。自覚症状患者自身が感じ訴える症状のこと。例えば、痛み・しびれ・めまい・吐き気・耳鳴など。他覚所見患者の訴えのあるなしに関わらず、第三者にはっきり分かるもの。例えば、出血・皮下出血・腫れ・発赤・局所熱感(他人が触って感じる)・変形など。検査所見(検査によって確認される所見)も含まれます。他覚所見(他覚的所見)は、他覚症状(他覚的症状)といわれることもあります。他覚的症状とは、患者の訴えのあるなしにかかわらず、第三者にはっきりとわかるもので、たとえば、皮膚の着色や局所の熱感、触れて分かる雑音や、レントゲン検査、血液検査の結果などです。患者さんが無意識の状態にあっても、医師は他覚的症状から診断をつけることができます。どんな病気でもこれら自覚的症状と他覚的症状が入りまじって、全体としてのすがたをかたちづくっているのです。(河端正也『むち打ち症教室』同文書院69ページ)【他覚症状】医師など観察者が明白に認識できた症状や異常な徴候または他覚的所見をいう。これらのうち、医師が理学的検査によって見出した所見を理学的所見という。自覚症状との関係は時にあいまいなこともあって、時には症状とか徴候という名称で漠然とよばれることもある。(『最新医学大辞典』医歯薬出版)なお、症状と所見について、次のような指摘もあります。一般人に限らず保険業界でも、時には医師でさえ、「症状(自覚的訴え)」と「所見(徴候)」を混同している人を見受けます。英語では、symptom(症状)とsign(所見・徴候)といったようにしっかり区別されています。簡単にいうと、痛みやしびれ、だるさ、凝りなどは「(自覚)症状」であり、腫れや皮下出血、発赤、局所熱感(自分で感じるのではなく他人が触って感じる)、変形、筋委縮、さらに広義には検査所見などが「(他覚)所見」ということになります。(井上久『医療審査「覚書」』自動車保険ジャーナル80ページ)これが臨床医学上、一般的に他覚的所見といわれるものです。それでは、保険会社のいう「医学的他覚的所見」は、どういうものなのでしょうか?保険会社のいう「医学的他覚所見」とは?自動車保険標準約款では、「医学的他覚所見」を次のように定義しています(『自動車保険の解説2023』保険毎日新聞社88ページ)。医学的他覚所見理学的検査、神経学的検査、臨床検査、画像検査等により認められる異常所見をいいます。この「医学的他覚所見」の定義規定について、自動車保険の逐条解説では、「理学的検査、神経学的検査、臨床検査、画像検査などの医学的手段により、症状の存在を認める、医師などの第三者による判断・意見をいう」と解説しています(『自動車保険の解説2023』保険毎日新聞社90ページ)。つまり、保険会社のいう「医学的他覚所見」とは、「医学的検査により、症状の存在を認める医師の意見」であり、「症状を裏付ける客観的根拠」という意味で用いられます。保険約款で「医学的他覚所見」に関する規定が出てくるのは人身傷害条項(人身傷害保険)においてですが、対人賠償責任保険においても、医学的他覚所見についての捉え方は基本的に同じです。他覚的所見のないむち打ち症について、受傷を否認して治療費の支払いを拒否したり、後遺障害を否定することは、よくトラブルとなります。医学的他覚所見がなければ保険金は支払われない?人身傷害保険は、保険約款における「傷害」や「後遺障害」の用語の定義規定において、「被保険者が症状を訴えている場合であっても、それを裏付けるに足る医学的他覚所見のないものを含みません」と明記しています。つまり、たとえ被保険者が症状を訴えていても、その症状を客観的に裏付ける医学的他覚所見がなければ、人身傷害保険金の支払い対象の傷害に該当しない、後遺障害の認定対象としない、ということです。こうした規定について、次のように解説されています(『自動車保険の解説2023』保険毎日新聞社100ページ)。「被保険者が症状を訴えている場合であっても、それを裏付けるに足る医学的他覚所見のないもの」とは、患者が自覚症状を訴えている場合であっても、医学的な立場から見ると他覚所見のないものをいい、たとえば、ムチ打ち症や腰痛などで、他覚所見がないものはこれにあたる。これらを保険金支払いの対象外としたのは、モラルリスクが混入することを排除するためである。理学的検査・神経学的検査・臨床検査・画像検査とは?理学的検査・神経学的検査・臨床検査・画像検査について、保険約款に特段規定はありませんが、臨床医学的には次のようなものが挙げられます。理学的検査視診、打診、聴診、触診など臨床検査血液検査、脳波・心電図の測定検査など神経学的検査深部反射検査、神経根症状誘発検査、徒手筋力検査など画像検査XP、CT、MRIなどなお、これらの検査所見には客観性に差があり、保険会社は、画像検査による所見のように、異常所見が客観的に明らかであるものは他覚的所見として認めますが、被害者(患者)の主観の入る余地のある検査所見は、他覚的所見として認めることに否定的です。保険会社は、医学的他覚所見を「理学的検査、神経学的検査、臨床検査、画像検査等により認められる異常所見」と約款上規定していますが、これらの検査所見のすべてを医学的他覚所見として認めるわけでなく、実際には非常に狭く捉えています。この点について、東京三弁護士会等も厳しく指摘しています。狭義の他覚所見、広義の他覚所見東京三弁護士会の論文「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」や、北河隆之弁護士の「『頸部外傷性症候群』再論」において、次のような指摘があります。要旨を記しておきます。単純レ線所見、ミエログラフィ(脊髄造影)、ディスコグラフィ(椎間板造影)、CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴診断装置)などによる所見(いわゆる画像診断)が、他覚的所見にあたることに[賠償医学者も(=引用者)]異論がない。これを「狭義の他覚的所見」と呼ぶ。画像診断の他に、四肢反射検査や筋電図検査なども「狭義の他覚所見」に含まれる。臨床医学的には、このほかに、聴診・打診・触診・視診、あるいは角度を測るなど、機械を使わない理学的検査方法による所見(いわゆる理学的所見)も、他覚的所見と考えられている。これと狭義の他覚的所見を合わせて、「広義の他覚的所見」と呼ぶ。むち打ち症については、圧痛、知覚鈍麻、握力低下、スパーリングテスト・ジャクソンテストの陽性所見などは、「広義の他覚的所見」といえる。しかし、賠償医学者の多く(すなわち法医学鑑定の多く)は、これらは反応を教えてくれるのが患者自身であるから「他覚的所見」とはいえないとされており、特に、加害者=保険会社側においては、レ線上異常所見が見られないと「他覚的所見」がないという認識が強いといわれる。論者により、想定している「他覚的所見」の意味がやや異なっているかもしれないが、概ね「狭義の他覚的所見」が念頭におかれていると考えて大過ないであろう。・北河隆之「『頸部外傷性症候群』再論―第63回日本整形外科学会学術集会のパネルディスカッションを終えて」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社184~185ページ・東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判例タイムズ№737 18ページ保険会社が「医学的他覚所見」として認める検査・認めない検査医学的他覚所見の有無が問題となりやすいのは、外傷性頚部症候群(いわゆる「むち打ち症」)です。そこで、むち打ち症の場合に、保険会社が「医学的他覚所見」として認める検査・認めない検査について、具体的に見ていきましょう。むち打ち症の根拠となるのは、おもに画像所見と神経学的検査所見です。次のような検査方法があります。おもなものを挙げておきます。画像検査レントゲン検査レントゲン検査は、X線による撮像により、骨傷の有無、脊柱管のずれ、頸椎骨の並び方や曲がり方、骨棘等による神経根の圧迫の有無や程度などを診断しようとするものです。レントゲン検査には、単純撮影と造影剤を用いる椎間板造影(ディスコグラフィー)、脊髄造影(ミエログラフィ―)がありますが、造影検査は、造影剤を注入しなければならず侵襲的であるため、MRIの普及により施行頻度は減少しているようです。CT(コンピューター断層撮影)CT検査は、コンピューターにより断層撮影を行うレントゲン検査です。骨病変の描出に優れ、後縦靭帯骨化症など靭帯骨化症の診断に有用とされています。単純CTと脊髄造影後に行うCTM(CTミエログラフィ―)があり、CTMは、脊髄や神経根の観察も可能となります。MRI(核磁気共鳴画像撮影法)MRI検査は、時期と電波による核磁気共鳴現象により体内を撮影し画像化します。X線被曝はありません。MRIは、組織分解能が高いので、脊髄、靭帯、椎間板、神経根などの頸椎を支持する軟部組織の描出に有効であるとされ、神経組織の圧迫や椎間板ヘルニアの有無等の確認に有用といわれています。MRIとCTの違いについて詳しくはこちらをご覧ください。神経学的検査深部腱反射検査深部腱反射検査は、腱を打診することによって生じる反射を確認する検査です。腱反射は、末梢神経障害により減弱、消失することから、腱反射の異常を見ることにより、末梢神経の障害の有無等を確認しようとするものです。筋電図検査筋電図検査は、針電極を用いて運動単位の状態を調べる検査です。筋肉に針電極を刺し、筋肉が活動する際に発する電気信号の状態を確認するものです。徒手筋力検査(MMT)徒手筋力検査は、筋力の低下の有無や度合いを、徒手的に(つまり検者の手を使って)評価する確認する検査です。神経が障害された部位がある場合、神経障害部位に応じて筋力の低下がみられる部位が異なることから、筋力の低下の部分や度合いを検査することにより、末梢神経の障害の有無や部位等を確認しようとするものです。例えば、うつ伏せの状態で、医師が頭部を押さえつけ、患者がそれに対抗し、その反応を見たり、圧迫せずに患者の反応だけを観察して、頭部の活動状況を、0(活動なし)から5(正常)までの6段階で評価し、頸部の筋力を判断します。感覚検査感覚検査は、皮膚の触覚や痛覚の検査です。神経の障害部位に応じて、皮膚の感覚鈍麻や感覚消失のみられる部位が異なることから、皮膚の感覚障害を検査することにより、神経の障害の有無や部位等を確認しようとするものです。神経根症状誘発検査(スパーリングテスト・ジャクソンテスト)神経根症状誘発検査は、脊髄から分かれて上肢へ行く神経根の異常を調べるため、神経根に圧迫を加え、神経根の支配領域に疼痛・しびれ等の神経根症状が生じるかを確認する検査です。スパーリングテストは、痛みのある側(患側)に頭と頸を傾けさせ、やや後屈位で頭頂から軽い圧迫を加えます。ジャクソンテストは、頭部を背屈させ、頭部を軽く下方へ押さえます。いずれも圧迫を加えることにより椎間孔が狭められるので、そこを通る神経根に障害がある場合、その神経根の支配領域に疼痛・しびれ感が放散します。通常、これらはセットで実施され、上肢における痛みを誘発・増強すれば陽性として、神経根の異常(神経根症)が疑われます。放散痛を生じた部位により、障害根の高位を推測することができます。患者の意思に左右される検査は客観性が低いこれらの検査法は、大きく2つに分かれます。患者の意思と全く無関係に結果の得られる検査法患者の応答と協力が不可欠な検査法いうまでもなく、①の検査所見の方が、②の検査所見よりも「客観性が高い」と評価されます。すなわち、レントゲン撮像やMRI等の画像所見、および神経学的検査の中でも深部腱反射検査や筋電図検査などは、患者の意思が介在する余地がないので、症状を裏付ける客観的根拠となり得ます。一方、スパーリングテストやジャクソンテスト等の神経学的検査は、医師が患者の身体に軽い圧迫を加え、その際に痛みが生じるか否かを検査するもので、痛みが生じるかについては、結局は患者の申告によります。徒手筋力検査も同様で、患者の意思が介在する余地があります。そのため、この種の検査所見は、純粋な客観的所見とは評価されず、保険会社は医学的他覚所見として認めないのが普通です。なお、画像所見が「医学的他覚所見」として認められたとしても、後遺障害の認定に際し、画像所見上で確認される状態(たとえば頸椎の狭小化やヘルニア症状など)について、事故との相当因果関係や症状との関係性が問題とされることも多く、事故により生じたものであること、および被害者の症状の要因となっていることにつき、証明・説明する必要があります。まとめ他覚所見には、画像所見だけでなく、理学的検査や神経学的検査等の所見も含みます。他覚所見を症状を裏付ける客観的根拠として保険会社側に認めさせるには、他覚所見と自覚症状とが整合的であることが重要です。交通事故で「むち打ち症」となり、他覚所見がなく、「保険会社が治療費の支払いを拒否する」あるいは「後遺障害の認定を受けられない」などでお困りのときは、交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『後遺障害の認定と意義申立―むち打ち損傷事案を中心として―』保険毎日新聞社 5~9ページ、27~34ページ、44~54ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 287~300ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 196~201ページ・『後遺障害入門』青林書院 169~176ページ・『むち打ち症教室』同文書院 68~73ページ・『むち打ち損傷ハンドブック第3版』丸善出版 99~109ページ・『交通事故医療法入門』勁草書房 135~140ページ・『実例と経験談から学ぶ資料・証拠の調査と収集―交通事故編―』第一法規 241~242ページ・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房 25~28ページ・東京三弁護士会交通事故処理委員会むち打ち症特別研究部会「むち打ち症に関する医学・工学鑑定の諸問題」判例タイムズ№737 4~26ページ・北河隆之「『頚部外傷性症候群』再論―第63回日本整形外科学会学術集会のパネルディスカッションを終えて」日本交通法学会編『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社 180~201ページ・『自動車保険の解説2023』保険毎日新聞社 88~90ページ、96~100ページ・『交通事故事件の実務用語辞典』第一法規 99~100ページ
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  • 医師の指示・承諾
    むち打ち症の治療で接骨院・整骨院へ通うとき医師の指示が必要な理由
    治療費等の損害賠償には、医学的な見地からの診断が必要ですが、接骨院や整骨院の柔道整復師は、医師ではないため、医学的見地からの診断ができません。そのため、交通事故で接骨院・整骨院へ通う場合は、整形外科医師による医学的な見地からの診断が重要となります。接骨院や整骨院で施術を受けることにつき医師の指示があると、施術が治療の一環とみなされ、施術費を治療費とみなされやすくなります。ここでは、接骨院や整骨院の柔道整復師が行える施術の範囲や医師との関係について、損害賠償の実務で、どのように考えられているか、まとめています。「医師の治療」と「柔道整復師の施術」の違い「医師の治療」と「柔道整復師の施術」の違いについて、東京地裁判決(平成14年2月22日)において、次のような指摘があります。ここでは、柔道整復師としていますが、同判決では、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師も含めています。医師の治療特段の事情のない限り、その治療の必要があり、かつ、その治療内容が合理的で相当なものと推定され、それゆえ、それに要した治療費は、加害者が当然に賠償すべき損害となる。柔道整復師の施術その施術を行うことについて医師の具体的な指示があり、かつ、その施術対象となった負傷部位について医師による症状管理がなされている場合、すなわち、医師による治療の一環として行われた場合でない限り、当然には、その施術による費用を加害者の負担すべき損害と解することはできない。つまり、医師の治療は「必要性・合理性・相当性が推定される」ので、その治療費は、加害者が賠償すべき損害として原則認められるのに対して、柔道整復師の施術費は、「医師による治療の一環として行われた場合」という条件付きで認められるということです。もちろん現実には、医師の治療であっても、無条件に治療費の全額が認められるわけではありません。保険会社は「必要かつ妥当な範囲」しか支払いません。また、保険会社が一方的に治療費の支払いを打ち切ることはよくあります。しかし、損害賠償の実務においては、医師の治療費は原則認めるが、柔道整復師の施術費は条件付きで認めるという違いがあるのです。その条件とは「医師による治療の一環として行われる場合」ということです。なぜ、このような差が生じるのでしょか?それは、柔道整復師による施術は、医師の治療のように「必要性・合理性・相当性を推定できない」からです。同判決は、その理由として次の点を挙げています。柔道整復師の施術が、必要性・合理性・相当性を推定できない理由医師の治療と異なり、柔道整復師の施術は限られた範囲内でしか行うことができない。柔道整復師には、施術内容の客観性・合理性を担保し、適切な医療行為を継続するために必要な診療録の記載、保存義務が課せられていない。柔道整復師は、外傷による身体内部の損傷状況等を的確に把握するために重要な放射線による撮影、磁気共鳴画像診断装置を用いた検査ができない。外傷による症状の見方、評価、施術方法等にも大きな個人差が生じる可能性がある。施術者によって施術の技術が異なり、施術方法・程度が多様。自由診療で報酬規定がないため施術費が施術者の技術の有無、技術方法によってまちまちであり、客観的で合理的な施術費を算定するための目安がない。(参考:東京地裁判決・平成14年2月22日)柔道整復師の施術は、医師の治療と違い限定されています。レントゲンやMRIなど画像診断もできません。医師ではありませんから、医学的な見地から総合的な判断ができません。一方で、施術の技術や方法が多様で、症状の見方にも個人差があります。施術費も、報酬規定がないため目安がありません。こうしたことから、条件付きで施術費を損害として認めるという扱いがされているのです。もちろん、医師の指示がなくても、施術により症状が軽減するなどの効果が認められる場合は、施術の必要性が認定されるべきものです。しかし、そのためには、施術の必要性・合理性・相当性・有効性を立証しなければなりません。仮に施術費が認められたとしても、その何割かを事故と相当因果関係のある損害と認定されることが多く、施術費の全額が認められるのは稀です。そもそも柔道整復師は、どんな施術ができる?そもそも、接骨院や整骨院の柔道整復師の業務とは、どのようなものなのでしょうか?柔道整復師について定めた法律は、柔道整復師法です。柔道整復師法は、昭和45年に議員立法により制定された法律です。柔道整復師の医学的業務範囲について、法律に規定がない実は、柔道整復師の業務の範囲について、柔道整復師法には明確に定められていません。柔道整復の定義規定すらないのです。このことについて、国会で厚生労働省の医政局長が次のように答弁しています。法律には、柔道整復の定義を定める規定はございません。議員立法ということで出されて、全会一致で可決したという記録のみ残っておりますので、どのような定義づけがなされていたかということは、残念ながら承知しておりません。(平成16年3月1日・衆院予算委員会第5分科会での厚生労働省医政局長答弁)それでは、柔道整復師の業務について、法律でどのように定めているのでしょうか?柔道整復師法では「柔道整復師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、柔道整復を業とする者をいう」(第2条)とし、柔道整復師の業務について、次の3つの規定があるだけです。医師である場合を除き、柔道整復師でなければ、業として柔道整復を行なつてはならない。(第15条)柔道整復師は、外科手術を行ない、又は薬品を投与し、若しくはその指示をする等の行為をしてはならない。(第16条)柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼きゆう又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。(第17条)このように、法律上、柔道整復師の医学的業務範囲の規定はないに等しいのです。柔道整復師の業務の範囲柔道整復師の業務の範囲について、法律には明確な規定がないのですが、根拠とされているのは、昭和45年の柔道整復師法の提案理由説明です。「その施術の対象ももっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など、新鮮なる負傷に限られている」(昭和45年3月17日衆院本会議 柔道整復師法の提案理由説明より)柔道整復師法が制定されるまでは、あんま・マッサージ・はり・きゅう・柔道整復等営業法として1つの法律でした。それが昭和45年に柔道整復業に関する部分を分離して、単独法として柔道整復師法が制定されました。柔道整復技術が、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等とは異なるというのが理由です。あんま・マッサージ・はり・きゅうが、慢性的に起きる病態を対象とするのに対して、柔道整復師が対象とするのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫といった、スポーツや事故などによる急性の傷害だからです。つまり、柔道整復師の業務の範囲は、骨折・脱臼・打撲・捻挫など、負傷原因のはっきりしている急性の傷害です。柔整療養費の支給対象柔道整復施術の保険対象(療養費の支給対象)は、平成9年の厚生省「留意事項通知」で示されています。平成9年の厚生省通知「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項」療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。(平成9年4月17日・厚生省保険局医療課長通知「柔道整復師の施術に係る療養費の算定基準の実施上の留意事項等について」より)この平成9年の厚生省通知によると、健康保険等を使って柔道整復施術を受ける場合、保険から療養費の支給対象となるのは、「急性または亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲、捻挫」となります。この内容は現在も生きていますが、通知が出された当時から、整形外科医師からは「亜急性の外傷」が問題視されていました。外傷はすべて「急性」であり、「亜急性の外傷」は医学的にあり得ないからです。「亜急性」というのは、医学的には傷病の時間的経過を指します。受傷時から順に急性・亜急性・慢性として使われます。「亜急性」は、急性と慢性の間の時期、つまり「亜急性期」と表記されるのが一般的です。一方、柔道整復学では、亜急性を時間軸で考えません。亜急性外傷とは、亜急性期(急性期、亜急性期、慢性期というふうに受傷からの期間によって分類している)の外傷という意味ではなく、外傷を起こす原因として急激な外力より起こる急性外傷に準ずるもので、軽度な外力でも反復や持続した外力により、急性外傷と同様に軟部組織などの損傷が見られる外傷を指すものです。(公益社団法人・栃木県柔道整復師会HPより)「亜急性」「外傷性」の定義については国会でも質問主意書が提出され、次のような政府答弁書が出されました。亜急性とは、身体の組織の損傷の状態が急性のものに準ずることを示すものであり、外傷性とは、関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態を示すものである。(平成15年1月31日・参院・政府答弁書より)。ただ、この説明では、亜急性が、受傷からの時間的経過を指すものなのか、軽度な反復・持続した外力によるものなのか、明確ではありません。柔道整復施術の保険適用範囲を広げることは、接骨院や整骨院にとっては死活問題であり、もちろん患者にとってもメリットがあることです。そのため、厚労省はファジーなままにしてきたのかもしれません。しかし、厚労省の見解は明瞭なのです。この平成15年の答弁書以前の国会答弁で「急性期のもの」とはっきり答えています。柔道整復で保険の対象になりますのは、骨折それから脱臼、打撲、捻挫の4つの外傷性の疾患でございます。このうち、骨折、脱臼につきましては医師の同意が必要である、こういうことになっているわけでございます。こういった一定の条件を満たす場合だけ療養費の支給対象になるわけでございまして、捻挫とか打撲というのを、いつの時点での打撲とかなんとかというのは確かに判定しがたいわけでございますけれども、制度の趣旨からいたしますと、当然のことながら急性期のものであると、こういうふうに私どもは理解いたしているわけでございまして、そうであるかないかという個々の認定というのは別にいたしまして、そういう考え方を持っているわけでございます。(平成12年11月16日・参院・国民福祉委員会での厚生省保険局長の答弁より)一方、「亜急性」について、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会・柔道整復療養費検討専門委員会で議論がなされ、平成29年3月21日の同専門委員会で、「留意事項通知」の改正案が示されました。現行療養費の支給対象となる負傷は、急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。改正案療養費の支給対象となる負傷は、負傷の原因が明らかで、身体の組織の損傷の状態が慢性に至っていない急性又は亜急性の外傷性の骨折、脱臼、打撲及び捻挫であり、内科的原因による疾患は含まれないこと。厚生労働省の保険医療企画調査室長は、「急性、亜急性、慢性と時期の問題として分けた場合に、その急性、亜急性であるということを、この通知の改正案で明確にしたい」と説明しています(平成29年3月21日柔道整復療養費検討専門委員会議事録より)。これにより、亜急性が受傷からの時期の問題であり、慢性に至っていない外傷性の骨折・脱臼・打撲・捻挫が柔道整復の療養費の支給対象となることが明確となりました。もともと柔道整復師法の提案理由説明で「新鮮なる負傷」としていたのですから、急性期の外傷が柔道整復の施術の対象としていたことは明らかです。平成9年に当時の厚生省が「亜急性」という文言を入れたことが、複雑にしてきた元凶です。何らかの忖度があったことは容易に想像できます。その後、国会の答弁書で亜急性を定義づけたことにより、亜急性という文言を外せなくなってしまったと考えられます。いずれにしても、「亜急性」については一定の決着を見ました。保険会社からの施術費の支払いは、ますます厳しくなる問題は「留意事項通知」の改正が、交通事故の場合における保険会社からの施術費の支払いに与える影響です。「留意事項通知」は、社会保険からの療養費の支給に関するものですが、自賠責保険の施術費の支払いにも影響するでしょう。これまでも損保会社は、施術費の支払いには厳しかったのですが、亜急性の判断も絡み、ますます厳しくなることが予想されます。裁判になれば、より厳格に審理されることになるでしょう。損保会社から施術費の支払いを打ち切られた場合、これまでは健康保険などを利用して一部負担で施術を受けることができたようなケースも、これからは全額自己負担となることも予想されます。また、「留意事項通知」の改正案には、「負傷の原因が明らかで」という文言が盛り込まれました。事故との相当因果関係のある部位の施術に、これまで以上に限定されてくることが考えられます。接骨院や整骨院での施術が長期化する場合は、これまで以上に注意が必要です。医師の指示のもと施術を受けることが、正当な損害賠償を得る上で、ますます大切になってきます。医師の同意が必要な場合がある接骨院や整骨院で骨折や脱臼の患部に対する柔道整復施術を受ける場合は、医師の同意が必要ですから、注意してください。これは、法律で定められています(柔道整復師法第17条)。骨折や脱臼の患部に対する施術を整骨院や接骨院で受ける場合は、診断書や紹介状などで、医師が柔道整復による施術に同意したことを明らかにする必要があります。柔道整復師法第17条柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼または骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。例外とされている「応急手当」とは、「骨折または脱臼の場合に、医師の診断を受けるまで放置すると、生命または身体に重大な危害をきたす恐れのある場合に、柔道整復師がその業務の範囲内において患部を一応整復する行為」(日本整形外科学会『医業類似行為関連Q&A』)です。なお、実際に骨折・脱臼で接骨院や整骨院にかかっているケースはほとんどありません。厚生労働省の調査(平成24年10月サンプル調査)によると、柔道整復に係る療養費の負傷種類別の支給額割合は、骨折・脱臼はわずか0.6%、打撲が29.9%、捻挫が69.5%です。骨折・脱臼は、医療機関で正しい診察・検査・診断の上で治療しなければ、大きな障害を残す危険性があります。もし、骨折や脱臼の恐れがある場合は、接骨院や整骨院でなく、必ず整形外科を受診することが大切です。まとめ「整形外科より接骨院や整骨院がいい」という方もいるでしょう。確かに接骨院や整骨院の方が丁寧に診てくれるし、通いやすいというメリットはあります。しかし、交通事故の場合は損害賠償が絡みます。損害賠償の世界では、東洋医学は西洋医学に比べて、低く扱われる傾向があるのです。整形外科医師の指示のもと、接骨院や整骨院に通う方が損害賠償を受けられやすいので、まず、整形外科を受診して、医師の指示・承諾を得て、治療の一環として接骨院や整骨院に通うことをおすすめします。なお、損害賠償の面からだけでなく、頸椎捻挫の症例の中には脳脊髄液減少症を発症することもありますから、医師による正確な診断が絶対に必要です。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
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  • 後遺障害等級認定
    交通事故後遺症の損害賠償請求は後遺障害等級認定がカギ
    「後遺症が残った」というだけでは、後遺症に対する慰謝料等を請求することはできません。後遺症が残ったことで逸失利益や慰謝料を請求するには、自賠責保険において後遺障害等級の認定を受ける必要があります。ここでは、後遺症と後遺障害の違い、後遺障害等級の認定条件、適正な後遺障害等級の認定を獲得するためのポイントについて、解説します。自賠責保険における後遺障害の等級認定は、「原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」(自賠責保険の支払基準)とされています。また、勤務中の交通事故は、労災補償の対象です。ですから、労災保険の障害補償も参照しながら説明していきます。「後遺症」と「後遺障害」の違い治療しても完全に回復せず、身体や精神の機能に不完全な状態が残る場合があります。このような治療終了後に残存する身体・精神の不調を一般的には「後遺症」と呼んでいますが、損害賠償の分野では「後遺障害」と呼びます。「後遺障害」という呼び方が特別に意味をもつのは、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)や労災保険(労働者災害補償保険)の支払手続においてです。自賠責保険制度における後遺障害自賠法(自動車損害賠償保障法)は、後遺障害を「傷害が治ったとき身体に存する障害をいう」と定め(自賠法施行令第2条1項2号)、障害の程度に応じて第1級から第14級までの14等級に区分し、各等級ごとに保険金額(支払限度額)を決めています(自賠法施行令第2条別表)。「治ったとき」とは、症状固定に至ったときです。すなわち、症状固定後に残存する障害が後遺障害です。労災補償制度における後遺障害労働基準法は、「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、……障害補償を行わなければならない」と定めています(労基法77条)。この「傷病が治ったときに身体に存する障害」が後遺障害で、「治ったとき」とは症状固定に至ったときです。労災保険における障害補償も、障害の程度に応じて第1級から第14級までの14等級に区分し、各等級ごとに保険給付額を定めています。そもそも自賠責保険の後遺障害等級が、労災保険の障害等級に準拠したものです。後遺障害は補償対象を規定する法律上の概念後遺症が残った場合、それが自賠責保険や労災保険に定める後遺障害として認定されなければ、原則として保険金は支払われません。後遺症が残ったときは、それが後遺障害に該当するか、どの等級に認定されるか、が重要なのです。このように、「後遺障害」とは、労災補償制度や自賠責保険制度において、補償対象を規定する法律上の概念であり、「等級」は、支払限度額を決定するための格付けです。後遺症も後遺障害も、どちらも「症状固定後に残存する身体・精神の不調」を意味するものですが、後遺障害に該当するか否かによって、保険金(損害賠償額)の支払いを受けられるかどうかが決まります。後遺症が残ったとき、その後遺症が、後遺障害に該当すれば、保険金(損害賠償額)が支払われますが、後遺障害に該当しなければ、保険金(損害賠償額)は支払われません。さらに、認定される後遺障害の等級によって、支払われる保険金額(上限額)が決まります。後遺症と後遺障害の関係は、次のようなイメージです。後遺症後遺障害(保険による補償対象)では、後遺症のうち、どのようなものが後遺障害に該当するのでしょうか?後遺障害の認定条件自賠責保険の後遺障害認定は、労災保険の障害認定の基準に準じて行われます。労災保険における「障害補償の対象」は、「傷病(負傷または疾病)が治ったときに残存する当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる精神的または身体的毀損状態(=障害)であって、その存在が医学的に認められ、労働能力の喪失を伴うもの」としています(『労災補償障害認定必携第17版』労災サポートセンター69ページ)。これを交通事故の場合に当てはめると、①事故による受傷の結果発生した障害(精神的または身体的毀損状態)であって、②永続残存性があり、③その存在が医学的に認められ、④労働能力の喪失を伴うものが、自賠責保険による補償対象である後遺障害ということになります。すなわち、後遺障害に該当するためには、次の4つの条件を満たす必要があります。なお、この4つの条件は、後遺障害の該当性を判断する基本的事項であり、各障害等級ごとの認定基準は別途定められています。後遺障害 4つの条件事故による受傷との間に相当因果関係がある将来においても回復が困難と見込まれる医学的に存在が認められる労働能力の喪失を伴うそれぞれ見ていきましょう。事故による受傷との相当因果関係後遺障害の1つ目の条件は、事故による受傷が原因で残存した障害であるということ、すなわち、事故と相当因果関係があることです。事故により発生した損害の賠償ですから、事故との相当因果関係が要求されます。例えば、既存の障害のある人が、事故で増悪した場合、事故との相当因果関係が争いとなることがあります。永久残存性後遺障害の2つ目の条件は、永久残存性です。後遺障害という用語には、「回復しない」という性質が前提にあります。将来においても機能回復しないだろうと見込まれる状態を念頭においているのです。将来も回復せず障害が残るとして後遺障害が認められると、将来の逸失利益について損害賠償を受けることができます。逆にいうと、障害状態が永久には続かないだろうと見込まれる場合には、後遺障害とは評価されないということです。例えば、頸椎捻挫(むち打ち損傷)による神経症状などは、時間が経てば改善すると考えられ、後遺障害「非該当」と判断されることが多く、仮に後遺障害が認められても、永久残存性が否定され、逸失利益発生期間(労働能力喪失期間)を比較的短期間に限定されるのが一般的です。むち打ち症の後遺障害等級と労働能力喪失期間の問題医学的に存在が認められる後遺障害の3つ目の条件は、障害の存在が医学的に認められることです。医学的に認められるとは、障害の存在を「医学的に証明できる」あるいは「医学的に説明できる」ということです。医学的に証明できるというのは、レントゲン写真などの他覚的所見により、障害を他覚的に証明できることです。医学的に説明できるというのは、他覚的に証明することまではできないけれども、受傷態様や治療経過などから、障害が残存していてもおかしくはない、と医学的見地から合理的に推定できるということです。いくら自覚症状を訴えても、医学的に説明すらできなければ、後遺障害とは認められません。医学的に「証明できる」と「説明できる」の違いについて詳しくはこちら労働能力の喪失後遺障害の4つ目の条件は、労働能力の喪失を伴うということです。そもそも労災保険における障害補償は、障害による労働能力の喪失に対する損失填補を目的とした制度であり、自賠責保険の逸失利益に対する保険金(損害賠償額)の支払いも同趣旨ですから、労働能力の喪失を伴うということは大前提といえます。なお、ここでいう労働能力とは、「一般的な平均的労働能力」をいい、被害者の年齢・職種・利き腕・知識・経験等の職業能力的諸条件は、損害の程度を決定する要素とはなっていません(『労災補償 障害認定必携 第17版』70ページ)。その後遺障害によって労働能力がどの程度失われるのかについては、後遺障害等級に応じて、所定の労働能力喪失率が認められる仕組みです。自賠責保険と労災保険で、後遺障害等級の認定に差が出る?交通事故が労災事故でもある場合、同じ後遺障害であっても、自賠責保険と労災保険とで認定に差が出ることがあります。自賠責保険も労災保険も、同じ「労災補償の障害認定基準」を使用しますが、一般的に、自賠責保険による認定の方が、被害者にとって厳しい結果となるようです。これは、労災保険が本来的には「補償」の性格を有するのに対し、自賠責保険は「賠償」の性格を有する、という制度趣旨の違いに由来していると考えられています(『詳説 後遺障害』創耕舎60ページ注37)。適正な後遺障害等級の認定を受けるためのポイント適正な後遺障害等級の認定を受けるためには、次の点が重要なポイントとなります。提出書類が後遺障害を裏付けるものとなっているか事前認定でなく被害者請求する交通事故に詳しい弁護士に相談する提出書類が後遺障害を裏付けるものとなっているか自賠責保険における後遺障害等級の審査は、基本的に書面審査です。審査にあたって、被害者本人に状態を聞くこともなければ、診療医から話を聞くこともありません。提出する書類が全てです。ただし、外貌醜状障害などは、面接して醜状を確認します。ですから、後遺障害等級の認定を受けるには、自賠責保険に提出する書類が、後遺障害の存在を裏付けるものとなっていることが大事です。重要なのは、後遺障害診断書と他覚的所見です。自賠責保険において後遺障害として認定されるには、主治医に後遺障害診断書を作成してもらって、自賠責保険に提出します。この後遺障害診断書こそが、症状固定時の残存症状を記載した書類であり、後遺障害申請手続きにおいて最も重要な書類です。後遺障害診断書の見本後遺障害診断書の記載で注意が必要なのが、「自覚症状」と「①精神・神経の障害/他覚症状および検査結果」の欄です。むち打ち症など局部の神経症状の場合には、これらの記載が特に重要です。よくあるのが、簡単な記載にとどまっているケースです。後遺障害の認定が不利になります。もっとも、記載するのは医師ですから、医師に任せるしかありませんが、残存する自覚症状については、医師にしっかり伝えることが大切です。大事なのは、自覚症状が詳しく記載され、その自覚症状を裏付ける他覚症状や検査結果が整合性をもって記載されることです。さらに、それを画像検査などの他覚的所見で客観的に裏付けることができれば、後遺障害等級が認定される可能性が高まります。こういった点に注意しながら後遺障害診断書を作成してくれる医師ならよいのですが、現実には、そこまで後遺障害診断書の書き方を熟知している医師は多くありません。ここまでやるには、あとで説明するように弁護士の力が必要です。事前認定でなく被害者請求する自賠責保険における後遺障害等級の認定手続には、任意保険会社による「事前認定」と、被害者による「直接請求」(被害者請求)の2つの方法があります。事前認定は、任意保険会社が事務的に自賠責保険に書類を提出するだけです。任意保険会社は、積極的に後遺障害等級の認定獲得を目指すわけではありません。任意保険会社が必要な書類をそろえて手続をしてくれるので被害者は楽なのですが、提出した書類の内容を被害者側で把握することはできません。これに対し、被害者請求は、自賠責保険に提出する書類の内容を精査し、必要なら補足資料を追加で提出することもできるので、適切な後遺障害等級が認定される可能性が高くなるのです。事前認定と被害者請求の違いについて詳しくはこちら交通事故に詳しい弁護士に相談する後遺障害等級の認定には、医師の作成する後遺障害診断書等が重要な役割を果たします。ところが、ここで深刻な問題があります。医師は、傷病の治療については専門ですが、「どうすれば後遺障害等級が認定されるか」ということについては専門ではありません。また、治療費が保険会社から支払われますから、保険会社と揉めたくないという思いが先に立ちます。そのため、保険会社に逆らってまで、被害者のために行動してくれる医師は、残念ながら少ないのです。そもそも後遺障害は賠償上の概念ですから、この分野の専門は弁護士なのです。どのように後遺障害診断書や経過診断書が記載されていれば後遺障害等級が認定されるか、後遺障害等級の認定に必要な検査所見は何か、といったことを判断できるのは、医師ではなく弁護士なのです。ですから、弁護士に相談して的確なアドバイスを受けることで、適正な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が高まるのです。ただし、交通事故の問題は、弁護士にとっても特殊な法律分野となるため、弁護士なら誰でも対応できるわけではありません。交通事故の損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することが大切です。関連いつ・どのタイミングで弁護士に相談すればよいか弁護士に依頼する5つのメリット・1つのデメリット交通事故被害者が知っておきたい弁護士選び3つのポイントまとめ後遺症に対する慰謝料などは、後遺障害等級によって決まります。適正な後遺障害等級の認定を受けることが大切です。むち打ち症などは、後遺傷害の認定を受けるのが難しいので、治療中の早い段階で交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。自賠責保険で後遺障害「非該当」となったり、想定していた後遺障害等級よりも低い等級となった場合は、異議申し立てができます。後遺障害等級の異議申し立てについてはこちら交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『労災補償 障害認定必携 第17版』一般財団法人労災サポートセンター69~70ページ・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房4~14ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社91~100ページ・『詳説 後遺障害』創耕舎19~21ページ、60~63ページ・『後遺障害入門』青林書院3~5ページ、17~19ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規2~16ページ・『新・現代損害賠償法講座 5交通事故』日本評論社156~159ページ
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  • むち打ち症の損害算定
    むち打ち症(頸椎捻挫)の後遺障害等級と労働能力喪失期間
    むち打ち症(頸椎捻挫)は、後遺障害の等級認定がされにくく、非該当となるケースが多い後遺症です。等級認定されても多くは14級で、12級に認定されるのは稀です。しかも、労働能力喪失期間は、14級が3~5年、12級で5~10年程度に制限されるのが通例です。そのため、後遺障害に対する損害賠償額が認められなかったり、認められても過少になる傾向があります。そもそも「むち打ち症」とは?むち打ち症は、自動車の追突や衝突、急停車などの衝撃によって、頸部がムチのように「しなる」ことで起る様々な症状で、正式な医学上の診断名ではなく、受傷機転(傷害を受けたきっかけ)を示す用語とされています。臨床的には病態が明らかになっていないのが実情で、交通事故後に「骨折や脱臼をともなわない頸椎部症状を引き起こしているもの」が、総じてむち打ち症とされています。診断書には、むち打ち損傷、むち打ち関連障害、頸椎捻挫、頸部損傷、頸部挫傷、頸部外傷、外傷性頸部症候群など様々な診断名が書かれ、統一した診断名はありません。自覚症状には、頭痛、頸部痛、頸部運動制限、上下肢のしびれ、首や肩のこり、めまい、吐き気、疲労感などがみられます。自覚症状が多いにもかかわらず、レントゲン撮影しても客観的な症状が分かりにくいため、後遺障害の等級認定されにくいのが、むち打ち症の特徴です。むち打ち症(むち打ち損傷)について詳しくはこちらむち打ち症の後遺障害等級は「12級13号」か「14級9号」むち打ち症の後遺障害等級は、「12級13号」もしくは「14級9号」の該当の有無が問題となる場合がほとんどです。むち打ち症で「11級」以上が認定されることはありません。「13級」には該当する後遺障害はありません。「12級13号」と「14級9号」の違い「12級13号」と「14級9号」がどのような後遺障害か、認定基準はどのようなものか、まとめておきます。等級後遺障害12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの14級9号局部に神経症状を残すもの※自動車損害賠償保障法施行令「別表第二」より抜粋。等級認定基準12級13号他覚的所見によって医学的に証明される場合14級9号医学的に証明しうる精神神経学的症状は明らかでないが、頭痛、めまい、疲労感などの自覚症状が単なる故意の誇張でないと医学的に推定される場合非該当自覚症状に対して医学的に推定することが困難な場合、事故との因果関係がない場合※自賠責の後遺障害認定は、労災保険の『労災補償障害認定必携』に従ってなされます。むち打ち症の場合、よほどのことがない限り「12級」が認定されることはなく、認定されても多くは「14級」です。首が回らなかったり、絶えず頭痛に悩まされたりして、明らかに日常生活に多大な支障が出ていたとしても「14級」がほとんどで、後遺障害「非該当」とされることも珍しくありません。後遺障害等級「12級」と「14級」の違いは、神経症状が「頑固な」かどうかです。認定基準では、医学的に「証明される」か「推定される」かの違いです。12級13号が認定される要件「12級」の「他覚的所見によって医学的に証明される」というのは、レントゲンやCT、MRIなどから、傷みやしびれなどの症状が、何によって引き起こされているのかが医学的に証明できるということです。つまり、神経症状を引き起こしている物理的な損傷(器質的損傷)が存在し、画像所見として目に見える形で証明されなければ、「12級」認定は難しいということです。14級9号が認定される要件「14級」の「医学的に推定される」というのは、受傷状況、症状経過、治療経過、臨床所見などから、現在の自覚症状が医学的に説明が付くということです。画像から異常所見が認められず、後遺障害診断書で自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見に乏しい場合、症状経過や治療経過を勘案して、将来においても回復が困難と認められれば「14級」が認定されます。認定基準の問題交通事故で骨折したことが原因で神経を圧迫し、痛みやしびれを生じさせているのであれば、骨折という器質的損傷が画像としても残されるので、「12級」認定の条件を満たします。しかし、骨折や脱臼などがない場合は、いくら本人の自覚症状を訴えても、目に見える形での器質的損傷がないので、認定されても「14級」どまり、場合によっては「非該当」ということになるのです。神経の損傷は画像には映りません。神経症状の認定要件として、器質的損傷や画像所見を要求すること自体、そもそも矛盾しています。むち打ち症の労働能力喪失期間は、なぜ制限されるのか?むち打ち症のような局部の神経症状の後遺障害(後遺障害等級の12級13号または14級9号)は、労働能力喪失期間が制限される傾向にあります。裁判でも同じです。神経症状の場合の労働能力喪失期間は、12級で5年~10年。14級だと5年以下とされることが多いようです。このように労働能力喪失期間が制限される理由として、訓練や慣れによって次第にその影響が緩和されていく、症状に永続性がない、などが言われます。ですが、神経症状といっても、その原因や症状は一律ではありません。神経症状12級で、喪失期間が就労可能年限の67歳まで認められた裁判例や、神経症状14級でも、喪失期間を5年以下に制限しなかった裁判例もあります。労働能力喪失期間は、被害者の症状とその原因、後遺障害等級、年齢、職業などから、個別に判断することが大切です。むち打ち症(12級13号・14級9号)の後遺障害逸失利益の計算例まとめむち打ち症の後遺障害等級認定は難しく、症状に見合った適正な等級認定を受けるためには、そのための準備が必要です。交通事故の損害賠償問題に詳しい弁護士に相談し、自賠責に異議申立てすることで、非該当とされた後遺障害が認定されたり、後遺障害等級が引き上げられたりする可能性があります。まずは、弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
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  • むち打ち症の慰謝料計算
    むち打ち症12級13号・14級9号の逸失利益と慰謝料の計算例
    後遺障害による損害額の具体的な計算方法について、むち打ち症(頸椎捻挫)を中心にご紹介します。事例と計算方法次のような事例で、後遺障害等級が異なる3つのケースを考えます。被害者は、35歳の男性会社員で、年収400万円。加害者と被害者の過失割合は 9対1(すなわち、過失相殺率 10%)ここでは、後遺障害に関する損害(後遺障害逸失利益と後遺障害慰謝料)の計算例をご紹介します。治療費、休業損害、入通院慰謝料が、これに加算されます。後遺障害逸失利益の計算後遺障害逸失利益は、次の計算式で求めます。基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数計算式の説明はこちらをご覧ください。基礎収入は400万円です。労働能力喪失率は労働能力喪失率表より、ライプニッツ係数はライプニッツ係数表より、それぞれ求めます。ライプニッツ係数は、現行の年3%のライプニッツ係数を用いています。2020年3月31日以前に発生した事故については、年5%のライプニッツ係数が適用されます。後遺障害慰謝料の計算後遺障害慰謝料は、裁判所基準の後遺障害慰謝料表より求めます。後遺障害慰謝料は、後遺障害等級に応じて慰謝料の基準額があります。むち打ち症で「14級9号」が認定されたケース後遺障害14級の労働能力喪失率は5%です。労働能力喪失期間が5年認められたとすると、ライプニッツ係数は4.5797です。後遺障害逸失利益は、400万円 × 5/100 × 4.5797 = 91万5,940円逸失利益91万5,940円慰謝料110万円合計201万5,940円被害者の過失を10%としていますから、過失相殺後の額は、201万5,940円 × 0.9 = 181万4,346円自賠責保険の後遺障害14級の支払限度額は75万円ですから、差額は任意保険会社が支払います。むち打ち症で「12級13号」に認定されたケース後遺障害12級の労働能力喪失率は14%です。労働能力喪失期間が10年認められたとすると、ライプニッツ係数は8.5302です。後遺障害逸失利益は、400万円 × 14/100 × 8.5302 = 477万6,912円逸失利益477万6,912円慰謝料290万円合計767万6,912円被害者の過失を10%としていますから、過失相殺後の額は、767万6,912円 × 0.9 = 690万9,221円自賠責保険の後遺障害12級の支払限度額は224万円ですから、差額は任意保険会社が支払います。神経系統の機能障害で「9級10号」に認定されたケース後遺障害9級の労働能力喪失率は35%です。労働能力喪失期間が67歳まで認められたとすると、就労可能年数32年に対応するライプニッツ係数は20.3888です。後遺障害逸失利益は、400万円 × 35/100 × 20.3888 = 2,854万4,320円逸失利益2,854万4,320円慰謝料690万円合計3,544万4,320円被害者の過失を10%(過失相殺率10%)としていますから、過失相殺後の額は、3,544万4,320円 × 0.9 = 3,189万9,888円自賠責保険の後遺障害9級の支払限度額は616万円ですから、差額は任意保険会社が支払います。まとめ交通事故で後遺障害が残った場合、正当な損害賠償を受けられるかどうかは、適正な後遺障害等級が認定されるかどうかがポイントです。特に、むち打ち症のような神経障害は、後遺障害等級の認定がされず、非該当となることがよくあります。そんなときは、弁護士に相談すると解決できる場合があります。まずは、無料相談をおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。
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  • むち打ち損傷の後遺障害
    むち打ち症の後遺障害12級13号・14級9号の認定基準と認定獲得のポイント
    むち打ち症は、他覚的所見に乏しいため、後遺障害等級の認定を受けるのに困難を伴います、後遺障害「非該当」となることもよくあります。ここでは、交通事故による「むち打ち症」で、12級13号ないし14級9号の後遺障害等級の認定を受けるために知っておきたいポイントについて、お伝えします。むち打ち損傷による後遺障害むち打ち損傷(頸部捻挫・外傷性頚部症候群)による後遺症は、末梢神経障害として取り扱われます。後遺障害等級は、「局部の神経系統の障害」として、12級13号ないし14級9号該当性が問題となります。自賠責保険における後遺障害の等級認定は、原則として労災保険における障害の等級認定の基準に準じて行うとされていますから、労災保険の障害認定基準を参照しながら見ていきます。末梢神経障害の等級認定は、次のように行います。末梢神経障害の等級認定末梢神経麻痺に係る等級の認定は、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級により認定することとなる。(『労災補償障害認定必携第17版』158ページ)例えば、こうです。聴神経を損傷して難聴が残存した場合は、聴力障害の等級を適用する。視神経を損傷して視力障害が残存した場合は、視力障害の等級を適用する。腕神経叢の損傷にともない上肢の関節機能障害が残存した場合は、上肢の機能障害の等級を適用する。(参考:『詳説 後遺障害 等級認定と逸失利益算定の実務』創耕舎30ページ)末梢神経障害は、損傷した神経の支配する「身体部位の機能障害」が生じている場合には、その器官の機能障害として後遺障害等級を評価しますが、身体部位の機能障害として独立して評価できない場合には、「局部の神経系統の障害」として取り扱われます。むち打ち損傷による後遺症は、たいてい、このケースに該当します。局部の神経系統の障害は、後遺障害等級表(自賠法施行令2条別表第2)において、12級13号ないし14級9号(労災保険の障害等級表では12級の12ないし14級の9)に分類されています。つまり、むち打ち損傷(外傷性頚部症候群)の後遺障害認定は、残存症状が「局部の神経系統の障害」に該当するか、該当する場合、14級となるか12級が認定されるかが焦点です。後遺障害等級12級13号と14級9号の認定基準の違いとは?では、「局部の神経系統の障害」の12級と14級の認定基準の違いは何か?後遺障害等級表(自賠法施行令2条別表第2)では、12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」、14級9号は「局部に神経症状を残すもの」と規定しています。等級後遺障害12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの14級9号局部に神経症状を残すもの残存する神経症状が「頑固か、そうでないか」の違いですが、「頑固さの程度」に基準があって、12級か14級かが決まるわけではありません。自賠責保険の後遺障害等級12級13号ないし14級9号に該当するかどうかは、労災保険の障害等級認定基準に準じて判断します。後遺障害12級13号と14級9号の認定基準労災保険における「神経系統の機能または精神の障害」の認定基準では、12級は「通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの」、14級は「12級よりも軽度のもの」が該当するとされています(『労災補償障害認定必携第17版』141ページ)。これを、自賠責保険の後遺障害等級表に当てはめると、こうなります。等級後遺障害の程度認定基準12級13号局部に頑固な神経症状を残すもの通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの14級9号局部に神経症状を残すもの第12級より軽度なもの労災保険の障害認定基準は、労働災害を前提としたものですから、補償の対象は労働者であり、労務への支障の有無や程度が認定基準の中心となっています。自賠責保険の後遺障害認定の対象となる被害者は、労働者だけでなく、老若男女すべての属性の人が対象となり得ます。したがって、ここでいう「労務」には、家事や就学といった賃金を得る目的以外のものも当然に含まれます(『後遺障害入門』青林書院170ページ)。12級は「労務への支障」が判断の基準とされていますが、抽象的です。14級は「12級より軽度なもの」とあるだけで、何について、どれほど軽度であるか不明です。判断要素が、客観的に明確でありません。それでは、自賠責保険(正確には損害保険料率算出機構)では、むち打ち損傷による後遺症が、後遺障害等級12級13号ないし14級9号に該当するか否かを、どう判断しているのでしょうか?実は、現行の障害認定基準には明記していない大原則があります。それは、12級は「障害の存在が医学的に証明できるもの」、14級は「障害の存在が医学的に説明可能なもの」という判断基準です。後遺障害12級と14級の認定基準(改正前後の比較)労災保険の障害等級認定基準は、平成15年(2003年)に大幅な改正が行われました。平成15年8月8日に厚生労働省労働基準局長通知「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」として公表され、その後、数次の改正を経て現行に至っています。平成15年の改正で「神経系統の機能または精神の障害に関する障害等級認定基準」がどう変わったのか、12級と14級の関係部分をピックアップし、改正前後の認定基準を比べてみます。労災保険の障害等級「12級の12」「14級の9」は、自賠責保険の後遺障害等級「12級13号」「14級9号」に相当します。障害等級認定の基準「神経系統の機能または精神の障害」の等級認定の基準は、次の通りです。改正前改正後第12級他覚的に神経系統の障害が証明されるもの通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの第14級第12級よりも軽度のもの第12級よりも軽度のもの改正前の等級認定基準では、「他覚的に証明されるもの」が、第12級に該当するとされていました。末梢神経障害末梢神経障害の等級認定の仕方については、認定基準の改正前後において基本的に変わっていません。いずれも「損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級」によるとされています。改正前改正後根性及び末梢神経障害 根性及び末梢神経麻痺に係る等級の認定は、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級を準用すること。末梢神経障害 末梢神経麻痺に係る等級の認定は、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級により認定すること。中枢神経系(脳)の障害中枢神経系(脳)の障害については、MRI・CT等の画像診断技術の進歩や最新の医学的知見もふまえ、次のように説明が変わっています。等級改正前改正後12級の12労働には通常差し支えないが、医学的に証明しうる神経系統の機能又は精神の障害を残すもの 中枢神経系の障害であって、たとえば、感覚障害、錐体路症状及び錐体外路症状を伴わない軽度の麻痺、気脳撮影により証明される軽度の脳萎縮、脳波の軽度の異常所見等を残しているものが、これに該当する。 なお、自覚症状が軽い場合であっても、これらの異常所見が認められるものは、これに該当する。通常労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているものが該当する。14級の9労働には通常差し支えないが、医学的に可能な神経系統又は精神の障害に係る所見があると認められるもの 医学的に証明しうる精神神経学的症状は明らかではないが、頭痛、めまい、疲労感などの自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるものが、これに該当する。通常労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるものが該当する。※4能力とは、①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力の4つです。改正後の12級の12の認定基準では、MRIやCT等による他覚的所見についての記述はありませんが、実は、脳の器質性障害の認定について説明している前段部分に、「高次脳機能障害は、脳の器質的病変に基づくものであることから、MRI、CT等によりその存在が認められることが必要となる」とあります(『労災補償障害認定必携』142ページ)。つまり、高次脳機能障害について後遺障害等級の認定をする場合、MRI・CT等によりその存在が認められることが前提であって、例外的にMRI・CT等による他覚的所見が認められない場合でも、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測できるときは、14級該当性の評価対象となるということです。「医学的(他覚的)に証明できるもの」が12級に該当し、「医学的に説明可能なもの」「医学的に証明はできないが、自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの」「他覚的所見は認められないが、損傷のあることが医学的にみて合理的に推測できるもの」が14級に該当します。ちなみに、認定基準の見直しを行った専門検討会の報告書には、高次脳機能障害の評価について、次のような記載があります。本検討会としては、後遺障害として労働能力のそう失を伴うと認められる高次脳機能障害についても上記の各障害等級に区分して評価することが妥当であり、また、上記の各障害等級に相当する障害の程度は、以下のとおりとするのが適当であると考える。……(第1級~第9級)……第12級 MRI、CT等により他覚的に証明される軽度の脳挫傷、脳出血等又は脳波の軽度の異常所見が認められるものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力が「困難はあるが概ね自力でできる」に該当すると認められるものが該当する。第14級 MRI、CT、脳波等によっては、脳の器質的病変は明らかではないが、頭部打撲等の存在が確認され、脳損傷が合理的に推測されるものであって、4能力のいずれか1つ以上の能力が「困難はあるが概ね自力でできる」又は「多少の困難はあるが概ね自力でできる」ような状態に該当するものが該当する。この内容によれば、12級は「MRI、CT等により他覚的に証明される異常所見がみとめられるもの」であり、14級は「MRI、CT等により他覚的に確認はできないが、頭部打撲等の存在が確認され、脳損傷が合理的に推測されるもの」です。この判断基準は、他の神経症状の認定基準としても妥当すると考えられています(『後遺障害の認定と意義申立ーむち打ち損傷事案を中心としてー』保険毎日新聞社29ページ)。頭痛頭痛については、改正後の認定基準において、「頭痛については、頭痛の型の如何にかかわらず、疼痛による労働または日常生活上の支障の程度を疼痛の部位、性状、強度、頻度、持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる他覚的所見により把握し、障害等級を認定すること」という文言が、新たに加えられています。等級改正前改正後12級の12労働には通常差し支えないが、時には労働に差し支える程度の強い頭痛がおこるもの通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の強い頭痛がおこるもの14級の9労働には差し支えないが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの通常の労務に服することはできるが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの失調、めまい及び平衡機能障害失調、めまい及び平衡機能障害については、改正後の認定基準において、「失調、めまい及び平衡機能障害については、その原因となる障害部位によって分けることが困難であるので、総合的に認定基準に従って障害等級を認定すること」という文言が加えられました。等級改正前改正後12級の12労働には通常差し支えないが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状があり、かつ、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの14級の9めまいの自覚症状はあるが、他覚的には眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないもので単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるものめまいの自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないものの、めまいのあることが医学的にみて合理的に推測できるもの「検査の結果に異常所見が認められるもの」が12級に該当し、「他覚的には異常所見が認められないが、自覚症状が単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるもの」「検査の結果に異常所見が認められないが、症状の存在が医学的にみて合理的に推測できるもの」が14級に該当します。疼痛等感覚障害受傷部位の疼痛については次により認定し、疼痛以外の異常感覚(蟻走感、感覚脱失等)が発現した場合は、その範囲が広いものに限り、14級の9に認定するとしています。等級改正前改正後12級の12労働には通常差し支えないが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの通常の労務に服することはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの14級の9労働には差し支えないが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの12級と14級の認定要件このように「局部の神経系統の後遺障害」の認定においては、現行の認定基準と従前の認定基準に文言上の相違がありますが、文言が変わったからといって、12級と14級の認定要件が変更されたというわけではなく、実務上は従来と同様に取り扱われています(『後遺障害の認定と意義申立ーむち打ち損傷事案を中心としてー』保険毎日新聞社29ページ)。すなわち、自賠責保険実務において、現在も、12級は「障害の存在が医学的に証明できるもの」、14級は「障害の存在が医学的に説明可能なもの」という考え方が採用されているのです(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規289ページ)。12級13号・14級9号を獲得するためのポイント「医学的に証明できる」と「医学的に説明可能」はどう違うのか、さらに、12級13号ないし14級9号の認定を獲得するためのポイントについて、見ていきましょう。12級13号の認定基準と認定獲得における注意点後遺障害12級13号は「局部に頑固な神経症状を残すもの」が該当し、等級認定には、神経系統の障害を医学的(他覚的)に証明できることが必要です。他覚的に証明できなければなりませんから、当然、他覚的所見が不可欠です。「医学的(他覚的)に証明できる」とは?痛みや痺れなどの症状は、あくまで神経系統の障害による結果であって、神経系統の障害そのものではありません。神経系統の障害が証明されるということは、症状の原因となる神経組織・機能の異常の存在が証明されることです。例えば、「症状は、頸椎の神経根症によるもの」ということが、神経系統の障害の存在の証明に当たります(『新・現代損害賠償法講座5交通事故』日本評論社158ページ)。つまり、「医学的(他覚的)に証明できる」とは、残存している症状の原因が何か、他覚的所見にもとづいて判断できるということです。ここで重要なのは、他覚的所見の捉え方です。「画像所見」=「他覚的所見」ではないよくある誤解が、画像所見のみを他覚的所見と捉え、画像検査において異常が確認できれば、医学的(他覚的)に証明されたとするものです。もちろん、他覚的所見には画像所見を含みますが、画像所見だけが他覚的所見ではありません。他覚的所見とは、理学的検査、神経学的検査、臨床検査、画像検査等により認められる異常所見です。他覚的所見について詳しくはこちらをご覧ください。むち打ち症で、後遺障害認定の根拠となるのは、おもに画像所見と神経学的検査所見です。XP、CT、MRI等の画像検査は、患者の意思と無関係に結果が得られるので客観性が高く、神経学的検査は、検査結果が患者の意思に左右されうるため客観性が低いと評価されます。そのため、画像所見のみを他覚的所見と評価し、「医学的(他覚的)に証明できる」ことの意味を「画像で明らかになること」と考えてしまうのです。確かに、画像所見は、症状の存在を裏付ける有力な根拠となり得ますが、異常画像が確認されたからといって、それだけで「医学的(他覚的)に証明された」とはいえません。この点に注意が必要です。他覚的証明に必要なこと医学的(他覚的)に証明できるかどうかにおいては、「どのような検査が他覚的なのか、そうではないのか」ではなく、自覚症状を裏付けるため、どのような検査所見が、どういう具合にそろっているかが大事といわれます(『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規290ページ)例えば、神経根症状型であれば、画像上、神経圧迫の存在が考えられる所見があり、圧迫されている神経の支配領域に知覚障害などの神経学的異常所見が確認された場合には、神経障害が医学的(他覚的)に証明されたとして、12級13号と認定されやすくなります。しかし、画像所見があっても、画像所見において圧迫されていることが疑われる神経の支配領域と神経学的異常所見が一致しないと、神経障害が他覚的に証明されたとはいえません。もっとも、画像上の異常所見がない場合には、たとえ神経学的検査で異常所見が認められたとしても、神経障害が他覚的に証明されたということは困難です。すなわち、局部の神経系統の障害について「他覚的に証明された」といえるためには、他覚的所見として画像所見は必須ですが、画像所見さえあれば十分というわけではなく、画像所見と整合性のある神経学的検査所見が不可欠です。大事なのは、①自覚症状、②神経学的所見、③画像所見の整合性です。むち打ち症で12級13号を獲得するポイント残存する「頑固な神経症状」の原因を、画像所見と神経学的所見により整合性をもって裏付けることができれば、局部の神経系統の障害の存在を他覚的に証明できたといえ、12級13号の認定に近づきます。加えて、後遺障害の認定には、残存症状が事故による受傷を原因とすること(事故との因果関係)の立証が不可欠であることはいうまでもありません。14級9号の認定基準と認定獲得における注意点後遺障害14級9号は「局部に神経症状を残すもの」が該当し、等級認定には、障害の存在を他覚的に証明はできないが医学的に説明可能であること、あるいは、自覚症状が故意の誇張でないと医学的に推定されること、が要件です。「医学的に説明可能」とは?14級9号の認定には、必ずしも画像所見や神経学的検査所見などの他覚的所見は必要ありません。自覚症状を裏付ける他覚的所見がない場合には、14級9号の認定をねらうことになります。受傷状況・治療経過・臨床所見などから、事故による受傷と残存症状に整合性が認められる(=神経症状の存在を医学的に合理的に説明可能である)場合や、症状の一貫性・治療の継続性などから、神経症状が残存していても不自然でないと推測できる(=自覚症状が故意の誇張でないと医学的に推定される)場合は、14級9号が認定される可能性があります。14級の認定には、必ずしも画像所見や神経学的検査所見などの他覚所見を必要としない取扱いがされていますが、次のような指摘もあり、14級といえども、むち打ち症で後遺障害の認定獲得は簡単ではないのが実情です。自賠責保険を管轄する自動車保険料率算定会(現在の損害保険料率算出機構)の方から伺ったところでは、他覚的所見がなくても、被害者の愁訴が神経の流れに沿って合理的な内容であれば14級に認定する、とのことであった。しかし、一線の損害調査事務所において、そのような認定がなされているかは、はなはだ疑問というのが実感である。(北河隆之「いわゆる鞭打ち症に関する賠償医学的アプロウチに対する批判的検討」『人身賠償・補償研究第2巻』判例タイムズ社152ページ注7)14級9号認定のポイント14級9号の認定獲得のポイントは、医学的に見て、後遺症が残存していても「おかしくはない」と説明できる要素をそろえることです。症状を医学的に説明できる他覚的所見の存在画像所見や神経学的検査所見に、自覚症状があっても不自然でないといえる程度の所見がある場合には、14級9号の認定に近づきます。例えば、神経根症状型については、画像所見において明らかな神経圧迫の存在は認められないが、頸椎椎間板の膨隆等による神経圧迫を示唆する程度の画像所見があり、神経学的検査所見において、神経症状を示す異常所見が得られている場合には、14級9号に認定されやすいといえます。症状の一貫性・治療の継続性自覚症状が一貫して訴えられており、症状に対する適切な治療を症状固定まで継続して受けていたか、がポイントです。事故直後の症状、その後の症状の推移、治療内容、治療期間、治療頻度などにより、症状の一貫性・治療の継続性が認められれば、14級9号認定の要素となります。例えば、症状が受傷数日以内に発症して、症状固定まで一貫して持続し、それに対する治療が継続されていれば、その症状が事故による外傷を原因とするものであることは比較的明らかです。他方、事故後数週間を経過してから症状が現われた場合や、治療中いったん軽快した後に再び症状が増悪したような場合には、症状と事故との因果関係の認定が難しくなります。受傷態様事故により「後遺障害が残存するほどのダメージを受けた」ということを、実況見分調書や事故状況報告書、物損資料などにもとづき立証することができれば、14級9号認定の要素となります。事故の発生状況は、受傷の妥当性の判断要素となります。受傷自体が疑問視されるような軽微事故の場合には、自覚症状と事故との因果関係が問題となるケースも少なくありません。まとめ12級13号の獲得には、後遺障害の存在を医学的(他覚的)に証明できなければなりませんから、他覚的所見が不可欠です。むち打ち症の場合、おもに画像所見と神経学的検査所見が必要となります。大切なのは、自覚症状を裏付ける画像所見と神経学的所見の整合性です。なお、他覚的所見が存在し、医学的に証明できるとしても、事故との因果関係が否定されることも多いので注意が必要です。14級9号の獲得をめざすようなケースの場合には、他覚的所見がなく、自覚症状のみであることがほとんどです。こういう場合は、各要素を駆使して、医学的に説明可能であることを立証しなければなりません。当然、事案ごとに、どんな資料が有効であるか変わってきます。有利な事実・資料を見逃さずに用いることが重要です。むち打ち損傷(頸椎捻挫・外傷性頚部症候群)による後遺障害は、保険会社との間でよく争いになりやすいところです。むち打ち損傷による後遺症が心配な方、むち打ち症の後遺障害で保険会社と揉めている方は、交通事故の損害賠償に詳しい弁護士に相談してみることをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。【参考文献】・『交通事故医療法入門』勁草書房135~140ページ・『改訂版 後遺障害等級認定と裁判実務』新日本法規 287~319ページ・『裁判例と自賠責認定にみる神経症じぃおうの等級評価』新日本法規 1~9ページ・『交通事故における むち打ち損傷問題 第3版』保険毎日新聞社 190~194ページ・『後遺障害入門』青林書院 169~174ページ・『三訂版 交通事故実務マニュアル』ぎょうせい 179~180ページ・『詳説 後遺障害』創耕舎 29~31ページ・『賠償科学概説』民事法研究会 116~120ページ、130~137ページ・『新・現代損害賠償法講座5交通事故』日本評論社 155~164ページ・『交通事故案件対応のベストプラクティス』中央経済社91~117ページ・『弁護士のための後遺障害の実務』学陽書房24~32ページ・『労災補償障害認定必携 第17版』一般財団法人労災サポートセンター 137~163ページ
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