共同不法行為が成立するときの過失相殺には、「絶対的過失相殺」と「相対的過失相殺」という2つの方法があります。絶対的過失相殺の方法を採用するか、相対的過失相殺の方法を採用するかは、共同不法行為の内容によります。ここでは、共同不法行為がどんなものかを簡単に見たうえで、絶対的過失相殺と相対的過失相殺の特徴と違い、それぞれどんな事故に適用されるのか説明します。共同不法行為と過失相殺交通事故における共同不法行為とは、交通事故により被害者に生じた損害に、複数の不法行為と不法行為者(加害者)が関与していることです。共同不法行為者は、連帯して、被害者に対し損害を賠償する責任を負います(民法719条1項)。民法719条1項(共同不法行為者の責任)数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。交通事故の共同不法行為の例交通事故の共同不法行為には、大きく分けて、同時事故と異時事故があります。同時事故の例としては、自動車同士が衝突して、一方の自動車の同乗者が受傷したとき、その被害者に対して両方の自動車の運転者が共同不法行為者となり、損害賠償責任が生じます。異時事故の例としては、交通事故の被害者が、救急搬送された病院で診断を誤り死亡した場合も、交通事故の加害者と医師の過失行為が共同不法行為となることがあります。共同不法行為における過失相殺の例共同不法行為が成立するときも、被害者に過失がある場合には、各不法行為者から過失相殺が主張されます。上の例でいうと、同乗者がシートベルト不装着の場合や、病院から帰宅後に被害者が重篤な状態に至ったのに適切に対応しなかったような場合は、「被害者の過失」や「被害者側の過失」として、過失相殺されることがあります。「絶対的過失相殺」と「相対的過失相殺」の特徴と違い共同不法行為における過失相殺の方法には、「絶対的過失相殺」と「相対的過失相殺」の2つの方法があります。それぞれの特徴と違いについて詳しく見てみましょう。絶対的過失相殺絶対的過失相殺とは、各加害者の不法行為を一体と捉え、加害者の過失割合を合計し、これと被害者の過失割合を対比して過失相殺する方法です。加害者側の過失割合を加算することから「加算的過失相殺」ともいいます。絶対的過失相殺の計算例被害者Aが、加害者BとCの共同不法行為により被った損害額が300万円。過失割合は、A:B:C=1:5:4絶対的過失相殺の方法によると、加害者BとCが連帯して被害者Aに対して支払う損害賠償額は、次のようになります。300万円×9/10=270万円加害者BとCは、損害賠償額270万円をB5:C4の割合で按分し、負担することになります。相対的過失相殺相対的過失相殺とは、被害者と各加害者との過失割合をそれぞれ対比して過失相殺する方法です。相対的過失相殺の計算例被害者Aが、加害者BとCの共同不法行為により被った損害額が300万円。過失割合は、A:B:C=1:5:4絶対的過失相殺との違いを分かりやすくするため、各当事者の過失の割合(絶対的過失割合)を割り付けていますが、実際には「絶対的過失割合を認定できないとき」に、相対的過失相殺の方法が採られます。相対的過失相殺の方法によると、加害者BとCは、それぞれの過失割合に相当する負担を負うことになります。加害者Bが被害者Aに対して支払う損害賠償額は、300万円×5/6=250万円加害者Cが被害者Aに対して支払う損害賠償額は、300万円×4/5=240万円被害者Aが受け取ることができる賠償額の上限は、270万円(300万円×9/10)で、絶対的過失相殺の方法で計算した額と同額です。加害者BとCが連帯責任を負う範囲については、重畳する部分の240万円とする考え方、BとCの賠償額の合計490万円から上限額の270万円を引いた220万円とする考え方があります。絶対的過失相殺と相対的過失相殺の効果の違い計算例を見れば分かるように、絶対的過失相殺と相対的過失相殺の効果の違いは、絶対的過失相殺の方が、相対的過失相殺より「加害者が連帯して責任を負う範囲が広い」ことです。民法719条の規定は、被害者救済の見地から、共同不法行為が成立する場合、共同不法行為者に連帯責任を課すものです。絶対的過失相殺の方が、相対的過失相殺よりも、被害者救済に有効な方法といえます。「絶対的過失相殺」と「相対的過失相殺」の適用の振り分け絶対的過失相殺の方法によるか、相対的過失相殺の方法によるかは、共同不法行為の内容によって異なります。「どちらの過失相殺の方法を採用すべきか」を考える上で、最高裁の2つの判例があります。「相対的過失相殺の方法を採用する」とした判例「相対的過失相殺の方法によるべき」とした判例には、次の最高裁判例があります。交通事故と医療事故とが順次競合し、運転行為と医療行為とが共同不法行為にあたる場合の各不法行為者と被害者との間の過失相殺の方法について、最高裁は次のように判示しました。最高裁判決(平成13年3月13日)交通事故と医療事故とが順次競合し、そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって、運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において、過失相殺は、各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合を斟酌してすることは許されない。「絶対的過失相殺の方法を採用する」とした判例「絶対的過失相殺の方法によるべき」とした判例には、次の最高裁判例があります。複数の加害者の過失と被害者の過失が競合する1つの交通事故において、絶対的過失割合を認定することができる場合における過失相殺の方法について、最高裁は次のように判示しました。最高裁判決(平成15年7月11日)複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合(いわゆる絶対的過失割合)を認定することができるときには、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負う。「絶対的過失相殺」と「相対的過失相殺」のどちらを適用するかの判断最高裁判例によれば、各当事者の「絶対的過失割合」を認定することができるときは、絶対的過失相殺の方法により過失相殺を行うということは明確です。ただし、「絶対的過失割合が認定することができるとき」が、どういう場合かについては示していません。一方、交通事故と医療事故が順次競合した共同不法行為については、「相対的過失相殺の方法による」としています。一連の判例から、おおむね、「同時事故」の場合には絶対的過失相殺の方法を採用し、「異時事故」の場合には相対的過失相殺の方法を採用すると考えられます。なお、異時事故の場合であっても、ほぼ同時に同一場所で各不法行為があったときは、「同時類似事故」として、絶対的過失相殺の方法が採られます。「近時の下級審裁判例を概観しても、同時事故はもとより異時事故についても時間的・場所的近接性が認められる事故については、絶対的過失相殺の方法による裁判例が圧倒的に多い。」引用:『交通賠償実務の最前線』公益財団法人 日弁連交通事故相談センター編同時事故同時事故とは、各不法行為が、同一場所において同時に行われた事故の類型です。自動車同士が衝突して、同乗者や第三者が受傷したようなケースです。各不法行為の間に「強度の関連共同性」があり、各不法行為を一体として、つまり1つの事故として捉えることができるので、同時事故の場合には、絶対的過失相殺の方法が採られると考えてよいでしょう。異時事故異時事故とは、第1事故と第2事故の間に時間的経過が存在する事故の類型です。異時事故には、2つのケースがあります。玉突き事故や、車にはねられ転倒して後続車や対向車に轢かれた事故のように、第1事故と第2事故が同一場所で引き続いて(時間的に近接して)起きるケース。交通事故と搬送先の病院での医療事故(医療過誤)の競合のように、第1事故と第2事故が異なる場所で起きるケース。異時事故でも、「ほぼ同時・同一場所」であったときは、時間的・場所的近接性の観点から同時事故と同視することができ、絶対的過失相殺の方法が採られます。時間的・場所的近接性に照らして、各不法行為の関連共同性が強くなく、これらを一体的に捉えることが容易でないときは、相対的過失相殺の方法が採られる考えてよいでしょう。まとめ共同不法行為における過失相殺は、現実の共同不法行為の内容をふまえて、絶対的過失相殺の方法を採用するか、相対的過失相殺の方法を採用するか、を判断する必要があります。共同不法行為に関しては、判例も学説も錯綜している部分がありますから、交通事故の損害賠償問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響 へ弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!交通事故の被害者専用フリーダイヤル 0120-690-048 ( 24時間受付中!)無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。評判・口コミを見てみる公式サイトはこちら※「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。