交通事故と医療過誤の共同不法行為が成立するときの過失相殺の判例

交通事故と医療過誤の共同不法行為が成立するときの過失相殺

交通事故と医療事故(医療過誤)が競合し共同不法行為が成立する場合、交通事故の加害者と医療機関は連帯して賠償責任を負います。ただし、過失相殺するときには、加害者ごとに過失相殺率を定める相対的過失相殺の方法をとります。平成13年3月13日の最高裁判例をもとに解説します。

※当サイトでは記事内にアフィリエイト広告を含む場合があります。

 

交通事故と医療過誤が競合する事案は、従来、分割責任の考え方を採用する傾向がありましたが、平成13年3月13日に最高裁は、共同不法行為の成立を肯定し、連帯責任となる判決を出しました。

 

同時に、交通事故と医療過誤の共同不法行為が成立するときの過失相殺については、相対的過失相殺の方法を採用することも判示しました。

 

最高裁判例(平成13年3月13日)のポイント

交通事故と医療事故とが順次競合し、そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって、運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合、

 

  • 各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり、結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害額を案分し、責任を負うべき損害額を限定することはできない。
  • 過失相殺は、各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合を斟酌してすることは許されない。

平成13年の最高裁判例は、どんな事案か

平成13年の最高裁判例が、どんな事案か、見ておきましょう。

 

交通事故

被害者A(6歳)は、午後3時40分ころ、自転車に乗って一時停止せず、交通整理の行われていない交差点に進入。同交差点内に減速することなく進入しようとしたタクシーと接触し転倒しました。

 

医療事故

被害者Aは、救急車で医療法人Yが経営する病院に搬送されました。

 

病院長のB医師は、被害者Aを診察し、頭部と顔面に軽度の挫傷と出血を認めたものの、意識が清明で外観上異常が認められず、被害者Aが「軽く衝突した」と説明したため、軽微な事故と考えました。

 

B医師は、頭部レントゲン撮影で頭蓋骨骨折は発見されなかったため、頭部CT検査や病院内での経過観察は必要ないと判断し、被害者Aと母親に「明日も診察を受けに来るように」「何か変わったことがあれば来るように」と一般的な指示のみで帰宅させました。

 

午後5時30分ころ帰宅し、帰宅直後に嘔吐。眠気を訴えたため、母親は疲労のためと考え、そのまま寝かせました。

 

午後7時ころには、いびきをかいたり、よだれを流したりするようになり、かなり汗をかくようになっていました。両親は多少の異常は感じたものの、この容態を重大なこととは考えず、7時30分ころ、氷枕を使用させ、そのままにしておきました。

 

午後11時ころには、体温が39度まで上昇して、けいれん様の症状を示し、午後11時50分ころにはいびきをかかなくなったため、初めて重篤な状況にあるものと疑い、救急車を要請。

 

しかし、すでに脈は触れず呼吸も停止。救急車で搬送された別の病院で死亡しました(翌日の午前0時45分)。死因は、頭蓋外面線上骨折による硬膜動脈損傷を原因とする硬膜外血腫でした。

 

医師の過失

被害者が病院から帰宅した後の一連の症状について、裁判所は、次のように判断しました。

 

被害者Aが病院から帰宅したころには、脳出血による脳圧の亢進により嘔吐の症状が発現。

 

午後6時ころには傾眠状態を示し、いびき、よだれを伴う睡眠、脳の機能障害が発生。

 

午後11時ころには、治療が困難な程度であるけいれん様の症状を示す除脳硬直が始まり、午後11時50分には自発呼吸が不可能な容態になった。

 

判決では、医師の過失について次のように認定しています。

 

硬膜外血腫は、骨折を伴わずに発生することもあり、また、当初相当期間の意識清明期が存することが特徴であって、その後、頭痛、おう吐、傾眠、意識障害等の経過をたどり、脳障害である除脳硬直が開始した後はその救命率が著しく減少し、仮に救命に成功したとしても重い後遺障害をもたらすおそれが高いものであるが、早期に血腫の除去を行えば予後は良く、高い確率での救命可能性があるものである。

 

したがって、交通事故により頭部に強い衝撃を受けている可能性のあるAの診療に当たったB医師は、外見上の傷害の程度にかかわらず、当該患者ないしその看護者に対し、病院内にとどめて経過観察をするか、仮にやむを得ず帰宅させるにしても、事故後に意識が清明であってもその後硬膜外血腫の発生に至る脳出血の進行が発生することがあること及びその典型的な前記症状を具体的に説明し、事故後少なくとも6時間以上は慎重な経過観察と、前記症状の疑いが発見されたときには直ちに医師の診察を受ける必要があること等を教示、指導すべき義務が存したのであって、B医師にはこれを懈怠した過失がある。

 

被害者の過失割合

医療事故における被害者側の過失は、「除脳硬直が発生して呼吸停止の容態に陥るまで重篤な状態に至っていることに気付くことなく、何らの措置をも講じなかった点において、経過観察や保護義務を懈怠した過失がある」として、過失割合は1割が相当としました。

 

交通事故における被害者の過失については、事故が、タクシーが交差点に進入する際に、自動車運転手として遵守すべき注意義務を懈怠した過失によるものであるが、被害者Aにも,交差点に進入するに際しての一時停止義務、左右の安全確認義務を怠った過失があるとして、過失割合は3割が相当としました。

共同不法行為の成立と相対的過失相殺

原審(東京高裁・平成10年4月28日)は、上の事実認定にもとづき、次のように判断しました。

 

  • 被害者Aの死亡事故は、交通事故と医療事故が競合して発生したもので、原因競合の寄与度を特定して主張立証することに困難を伴うので、被害者保護の見地から、交通事故における運転者の過失行為と医療事故における医師の過失行為とを共同不法行為として、被害者は、各不法行為にもとづく損害賠償請求を分別することなく、全額の損害の賠償を請求することもできる。
  • しかし、個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し、その行為類型が異なり、行為の本質や過失構造が異なる場合には、各不法行為者は、各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張することができる。すなわち、被害者の被った損害の全額を算定し、各加害行為の寄与度に応じてこれを案分して割り付け、その上で個々の不法行為についての過失相殺をして、各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である。
  • 本件においては、交通事故と医療事故の各寄与度は、それぞれ5割と推認するのが相当である。

 

こうして、東京高裁は、全損害額4,000万円の5割に相当する2,000万円から、医療事故における被害者側の過失1割を過失相殺した額を医療機関に請求できる損害額としました。

 

※引用にあたり、損害額は100万円未満は切り捨て、弁護士費用・遅延損害金は除いています。

 

交通事故と医療過誤の競合で共同不法行為が成立

最高裁は、原審の「2」「3」は是認できないとして破棄しました。最高裁の判断は、次の通りです。

 

本件交通事故により、Aは放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの、事故後搬入された被上告人病院において、Aに対し通常期待されるべき適切な経過観察がされるなどして脳内出血が早期に発見され適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもってAを救命できたということができるから、本件交通事故と本件医療事故とのいずれもが、Aの死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にある。

 

したがって、本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから、各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。

 

本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから、被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当である。

 

けだし,共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、各不法行為者が賠償すべき損害額を案分、限定することは連帯関係を免除することとなり、共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、損害の負担について公平の理念に反することとなるからである。

 

※引用:最高裁判決(平成13年3月13日)

 

なお、平成13年の最高裁判決は、交通事故と医療事故のいずれもが、被害者の死亡による全損害について相当因果関係を有する関係にある、とする事実関係を前提とするものです。

 

つまり、交通事故により受傷し、放置すれば死亡に至るような傷害を受けた被害者が、適切な治療を受けていれば死亡を免れたのに、治療中に医療機関の過誤により死亡した場合に、関連共同性や因果関係が肯定され、加害者と医療機関の共同不法行為が成立するというものです。

 

したがって、交通事故と医療過誤が競合する全ての事故類型について、当てはまるものではないと解されています。

 

例えば、被害者が一命をとりとめ快復途上にあったのに、その後の治療過程で誤った薬を投与され死亡した場合や、死には至らない傷害を負った被害者が、搬送された病院で血液型不適合の輸血をされて死亡した場合などです。

 

共同不法行為が成立するときの過失相殺の方法

最高裁は、交通事故と医療事故の共同不法行為が成立するときの過失相殺について、次のような判断を示しました。

 

本件は、本件交通事故と本件医療事故という加害者及び侵害行為を異にする2つの不法行為が順次競合した共同不法行為であり、各不法行為については加害者及び被害者の過失の内容も別異の性質を有するものである。

 

ところで、過失相殺は不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれの過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、本件のような共同不法行為においても、過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合を斟酌して過失相殺をすることは許されない。

 

※引用:最高裁判決(平成13年3月13日)

 

相対的過失相殺の方法によると、加害者ごとに異なる過失相殺率を認めることになり、連帯債務といっても加害者ごとに賠償額が異なり、一部連帯の形になります。

 

加害者の過失の態様・性質が異なる場合に、ひとまとめに評価するのは困難なので、過失相殺の方法としては妥当と考えられますが、共同不法行為と認定しながら、連帯責任の範囲は小さくなることに注意が必要です。

まとめ

最高裁は、交通事故と医療事故が順次関与して被害者に重大な結果が生じ、いずれもが結果との間に相当因果関係が認められる場合に、共同不法行為の成立を肯定し、連帯責任となることを明らかにしました。

 

これは、交通事故と医療過誤が競合する場合全般について、共同不法行為の成立を認めたものではありませんが、共同不法行為が成立する場合は、各不法行為者が損害の全額に連帯責任を負います。

 

交通事故と医療過誤が競合する事案で共同不法行為が成立するとき、過失相殺にあたっては、相対的過失相殺の方法を採用します。これは、加害者の過失の態様・性質が異なり、ひとまとめに評価するのが難しいからです。

 

共同不法行為の絶対的過失割合を認定できるときは、絶対的過失相殺の方法を採用します。

 

共同不法行為が成立するか否か、過失相殺をどうするかは、個別に判断する必要があります。交通事故の損害賠償問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

 

交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響
 

弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。


交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!


交通事故の被害者専用フリーダイヤル

0120-690-048 ( 24時間受付中!)

  • 無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。
  • メールでも無料相談のお申込みができます。公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。

「加害者の方」や「物損のみ」の相談は受け付けていませんので、ご了承ください。

公開日 2018-04-30 更新日 2023/03/18 13:28:15