交通事故紛争処理センターの特徴とメリット・デメリット

交通事故紛争処理センターの特徴とメリット・デメリット

公益財団法人交通事故紛争処理センターは、交通事故の紛争で最も多く利用されているADR機関(裁判外紛争解決機関)です。その特徴と利用にあたっての注意点をまとめています。

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公益財団法人・交通事故紛争処理センター(略して「紛セ」といいます)は、嘱託弁護士が無料で法律相談や和解斡旋を行うADR機関(裁判外紛争解決機関)です。

 

和解斡旋が成立しないときは、審査の申立ができ、審査結果(裁定)には、損害保険会社に対する拘束力があります。

 

全国に11ヵ所の相談拠点(東京本部のほか、高裁所在地7ヵ所に支部(札幌・仙台・名古屋・大阪・広島・高松・福岡)、相談室3ヵ所(さいたま・金沢・静岡))があり、各所在地の弁護士会から推薦された弁護士を、相談担当弁護士として委託しています。

 

交通事故紛争処理センターの強み

交通事故紛争処理センターを利用するメリットは、無料で和解斡旋を受けられることです。

 

ですが、何より交通事故紛争処理センターの強みは、斡旋による和解が成立しない場合に、被害者が審査を申し立てると、相手方保険会社は、審査結果(裁定)に拘束され、従わなければならないということです。これを「片面的拘束力」といいます。

 

ですから、審査に回して裁定が出れば、その裁定案に被害者が同意すると、裁定の通り和解が成立します。相手の保険会社は、審査結果を尊重する義務を負っているからです。

 

審査結果に拘束されるのは保険会社の側だけで、被害者の側は拘束されません。被害者は審査結果に同意するかどうか自由で、不満なら訴訟を提起することができます。

 

審査結果(裁定)に拘束される保険会社とは?

審査結果に拘束されるのは、交通事故紛争処理センターと協定している損害保険会社や共済です。損害保険会社は、日本損害保険協会および外国損害保険協会に加盟する保険会社が対象ですから、ほぼ網羅されますが、共済は一部にとどまります。

 

交通事故紛争処理センターと協定している損害保険会社や自動車共済は次のところです。

 

日本損害保険協会に加盟する保険会社
外国損害保険協会に加盟する保険会社
全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)
全国労働者共済生活協同組合連合会(全労済)
全国トラック交通共済協同組合連合会(交協連)
全国自動車共済協同組合連合会(全自共)
全日本火災共済協同組合連合会(日火連)

交通事故紛争処理センターの手続の流れ

被害者が交通事故紛争処理センターに相談・申立てする場合の流れは次のようになります。

 

【1】相談申込み

交通事故紛争処理センターで和解の斡旋を受けるには、紛争処理センターの嘱託弁護士による法律相談を受ける必要があります。これは、まず被害者から状況を聞くためです。

 

相談担当弁護士が、和解の斡旋が必要だと判断すれば、次回に相手方保険会社を呼び出し、保険会社の言い分を聞きます。両者の主張と立証資料をふまえて、相談担当弁護士が、和解斡旋案を示すという流れになります。

 

法律相談は、予約が必要です。電話相談は行っていません。面接相談となります。あなたの住所地または事故地に対応したセンター(本部・支部・相談室)に電話して、相談の日時を決めてもらいます。

 

ただし、交通事故紛争処理センターは申立件数が多いので、例えば東京本部では 1ヵ月半ほど先でなければ予約できない状況です。かつては 3ヵ月待ちでしたから、改善はされましたが、時間がかかります。

 

法律相談だけなら、予約が不要で、電話相談も行っている日弁連交通事故相談センターの方がよいでしょう。

 

【2】和解の斡旋

双方が出席した相談日より、相談担当弁護士が和解の斡旋を行います。相談担当弁護士は、双方から意見を聞き、資料の提出を受けて、和解斡旋案を提示します。斡旋案は、裁判所基準で損害額を算定します。

 

和解斡旋手続きは、1回につき1時間以内とされています。人身事故の場合は通常3~5回、物損事故の場合は1~2回で和解が成立しているようです。物損事故の場合は、初回から保険会社も呼び出し、和解斡旋に入ります。

 

和解斡旋によって合意に至った場合は、相談担当弁護士が示談書を作成します。なお、相談担当弁護士は、原則として事件終結まで変わりません。

 

相談担当弁護士は、申立人である被害者の立場に立って事情を聴きますが、和解の斡旋は、あくまで中立公正な第三者の立場で行います。相談担当弁護士は、あなたの代理人ではないことに注意してください。

 

訴訟移行手続き

交通事故紛争処理センターでは、特に医学的に高度な判断を求めるような場合には、損害保険会社が、紛争処理センターに訴訟への移行を申し出ることができる制度が導入されています。

 

損保会社から「訴訟移行の要請」が出されると、和解斡旋手続きは一時中断し、紛争処理センター内に設置されている訴訟移行審査委員会で、訴訟移行の可否を判断します。

 

ただし、損保会社が「訴訟移行要請」を出せば、必ず訴訟に移行するわけではなく、紛争処理センターが「訴訟へ移行せざるを得ない」と判断したものだけ、訴訟移行が認められるという仕組みです。

 

紛争処理センターが、訴訟移行を認めなかった場合は、和解斡旋が再開されます。

 

【3】審査会による審査

斡旋による和解が成立しないときは、審査を申立てることができ、審査手続に移行します。原則として、和解斡旋が不可能となった場合には、審査に移行する運用がなされています。

 

審査が申し立てられた事案について、審査会が審査に適するものとして受理すると、審査会の期日が決められます。相手方保険会社や共済が紛争処理センターと協定していない場合などは、審査結果の遵守が確保されないおそれがあるため、受理するか否かが検討されます。

 

審査会は、紛争処理センター所属の審査員3名(学識経験者・元裁判官・弁護士)で構成されます。中立公正な審査を行うため、損害保険会社やその関係団体の役職員・経験者は審査員から除かれます。

 

審査会は、相手方と交渉を行う場ではないことに注意してください。事前に相談担当弁護士が審査会に争点や当事者双方の主張を説明します。審査においては、審査員が双方の主張を聴いた上で裁定を行います。

 

審査会は、通常2~3回程度行われ、審査を終結すると、合議による審査の結果(裁定案)を当事者双方に告知します。裁定案は、斡旋案と同様に裁判所基準で賠償金額を算定します。

 

保険会社は審査結果(裁定)に拘束されますから、被害者が裁定案を承諾すれば、和解成立となります。相談担当弁護士が裁定書にもとづき、示談書を作成し、紛争終結となります。

 

被害者は、裁定案を拒否する自由がありますから、裁定に不服の場合は訴訟を提起できます。

交通事故紛争処理センターで取り扱わない事案

交通事故紛争処理センターの法律相談や和解の斡旋、審査は、自動車事故の示談をめぐる紛争が前提です。そのため、次のような場合は、交通事故紛争処理センターでは取り扱いません。

 

交通事故紛争処理センターを利用できないケース

  1. 調停または訴訟手続に係属中であるとき
  2. 他のADR機関に和解(示談)の斡旋を申し込んでいる事案
  3. 自転車と歩行者、自転車同士の事故による損害賠償の紛争
  4. 人身傷害補償保険など、自分が契約している保険会社との保険金の支払いに関する紛争
  5. 後遺障害の等級認定に関する紛争
  6. 加害者が任意自動車保険(共済)に加入していない場合
  7. 加害者が契約している任意自動車保険(共済)の約款に被害者の直接請求権の規定がない場合
  8. 加害者が契約している任意自動車共済が、JA共済連、全労済、交協連、全自共、日火連以外の場合
  9. 事故直後や治療中、後遺障害等級が未定など、まだ示談に至らない段階での法律相談

 

①と②は、どのADR機関も同じです。調停や訴訟手続き中、他のADR機関で斡旋中のものは、取り扱いません。

 

③~⑤は、そもそも交通事故紛争処理センターの業務の対象外です。⑥~⑧は、和解斡旋や審査結果(裁定)の遵守が確保されないからです。

 

⑨は、紛争処理センターの法律相談が、和解斡旋を前提としているからです。治療終了後や後遺障害等級認定の結果が判明した後でなければ、法律相談の予約を受付てもらえません。

 

そのほか、事実関係(過失割合など)に争いがある場合は、交通事故紛争処理センターは馴染まないと考えた方がよいでしょう。過失割合や後遺障害等級などで争いがある場合は、和解斡旋を申し込んでも、途中で訴訟手続に移行するケースが大半で、和解に至らないからです。

交通事故紛争処理センターとは、そもそもどんな組織か

交通事故紛争処理センターは、「交通事故の損害賠償問題を公正・迅速に解決する」ことを目的に、損害保険会社が中心となって設立された組織です。

 

1974年(昭和49年)に和解斡旋の機能をもつ「交通事故裁定委員会」として発足しました。その後、1978年(昭和53年)に組織を拡充して「財団法人交通事故紛争処理センター」へ発展し、2012年(平成24年)に財団法人から公益財団法人へと移行しました。

 

「示談代行付き」自動車保険の販売にともない設立

そもそも、交通事故紛争処理センターの発足は、「示談代行付き」自動車保険(FAP)の販売と関係があります。

 

損害保険業界が「示談代行付き」自動車保険を売り出そうとしていた当時、2つの問題点が指摘されていました。

 

  • 日常的に交通事故の賠償事案を扱う保険会社が、賠償問題に不慣れな被害者と示談交渉することは公平性を欠く。
  • 保険会社による示談代行は、弁護士法72条で禁止する「非弁活動」にあたる。

 

こうした問題を解決するため、日弁連が 1973年(昭和48年)に、損害保険協会に対して「示談斡旋を行う中立的な第三者機関の設置」や「被害者救済の確保の措置の具体化」などを申し入れ、協議を重ねました。

 

そして、日弁連と損保協会との間で「交通事故損害賠償をめぐる紛争について和解の斡旋を目的とする中立機関(裁定委員会)を設置する」「保険会社は裁定案の尊重義務を負う」ことにつき、覚書が交わされました。。

 

この中立機関(裁定委員会)として、当初は、日弁連交通事故相談センターが予定されていました。ところが、結果的に日弁連の理事会での決議が得られず、それに代わるものとして、損保協会が 1974年(昭和49年)に「交通事故裁定委員会」を設立したのです。

 

交通事故裁定委員会は、損保協会と日弁連が交わした覚書の趣旨を生かし、和解斡旋と裁定制度を取り入れました。

 

こうした経緯から、損保協会に加盟している損害保険会社は、交通事故紛争処理センターの審査結果に拘束される仕組みになっているのです。

 

【関連】

 

交通事故紛争処理センターの運営と実績

交通事故紛争処理センターの運営資金は、自賠責保険の運用益が充てられているほか、損害保険会社、JA共済連、全労済、交協連、全自共、日火連から拠出されています。

 

2015年度(平成27年度)の実績

業務 実績
相談 全体 21,571件
(うち新規) 8,020件
(うち再来) 13,551件
和解斡旋 新規依頼件数 8,011件
(うち対人) 6,307件(79%)
(うち対物) 1,704件(21%)
斡旋終了 7,442件
和解成立(成立率) 6,517件(88%)
審査 審査件数 728件
審査終了 641件
和解成立(成立率) 597件(93%)

※交通事故紛争処理センターの平成27年度「事業報告書」「取扱事案分類」より作成。
※和解成立率は、斡旋終了件数、審査終了件数に対する和解成立件数から算出しています。和解成立以外には、斡旋不調・取り下げ、不同意・取り下げなどがあります。

 

交通事故紛争処理センターの和解成立に至る回数
※交通事故紛争処理センター「平成27年度取扱事案分類」より作成。

 

和解成立件数(審査による和解も含む)には物損事故も含まれますから、1回目で和解成立に至っているケースもあり、2回で和解に至るケースも多くあります。物損の場合は、第1回目から相手方も呼び出し、双方出席の下ですぐに和解斡旋が行われるからです。

 

人損の場合は、早くて第2回目から和解斡旋になります。ですから、人損の場合は、3~5回で和解成立に至るケースが多いと考えるとよいでしょう。

 

いずれにしても、おおむね5回までで、90%以上が和解成立に至っています。

まとめ

交通事故紛争処理センターは、最も多く利用されている交通事故ADR機関です。少額事件や事実関係に争いがない事件など、比較的簡易な事件に適しています。

 

メリット

相手方保険会社が、損保協会加盟の保険会社、あるいは5つの共済(JA共済連、全労済、交協連、全自共、日火連)の場合に、和解斡旋を申し込むと有効です。これらの保険会社や共済に対して審査結果の拘束力があるため、和解斡旋が成立しなかった場合でも、審査に回すことにより、和解が成立する可能性が高いからです。

 

相談担当弁護士も審査員も、交通事故の損害賠償問題に精通した弁護士等が当たります。相談費用、手続き費用は全て無料です。

 

デメリット

時間がかかるのが難点です。法律相談には予約が必要で、第1回期日まで約1ヵ月半待ちです。その後も1ヵ月に1回のペースでしか進行しません。

 

損保会社から「訴訟移行要請」が出されると、紛争処理センターで訴訟移行の可否を判断しますから、結論が出るまで、話し合いは棚上げです。3~4ヵ月程度、和解斡旋の進行はストップします。これも、「交通事故紛争処理センターは時間がかかる」という理由の1つです。

 

また、相手が自動車共済の場合、審査結果の片面的拘束力があるのは、一部の共済に限られます。紛争処理センターと協定していない共済の場合は、審査を行うことができません。

 

留意点

次の点には、留意してください。
交通事故紛争処理センターの嘱託弁護士は、あなたの代理人ではありません!

 

相談担当弁護士は、中立の立場で和解を斡旋するのが仕事です。あなたの代理人として、相手方保険会社と示談交渉してくれるわけではありません。

 

もし、示談交渉を委任することを含めて相談するのであれば、弁護士事務所に直接相談することが必要です。

 

過失割合や後遺障害等級認定など事実関係に争いがある場合は、交通事故紛争処理センターの扱う業務に馴染みませんから、弁護士事務所に相談し、委任することになります。

 

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公開日 2017-05-26 更新日 2023/04/26 06:39:01