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「後遺障害等級が認定されない」とか「加害者無責で自賠責保険から支払いがされない」など、自賠責の決定に納得できないときは、自賠責保険・共済紛争処理機構に、紛争処理(調停)の申立てができます。
ここでは、自賠責紛争処理機構がどんな機関で、どのように審査しているのか、さらに自賠責の判断を変更させる秘訣について、ご紹介します。
「一般財団法人 自賠責保険・共済紛争処理機構」は、自動車損害賠償保障法(自賠法)にもとづく指定紛争処理機関(民間型ADR機関)です(自賠法23条の5)。
自賠責からの「支払いに係る紛争の公正かつ適確な解決による被害者の保護を図る」(紛争処理業務規程第2条1項)ことを目的としています。
自賠責紛争処理機構は、自賠責保険・自賠責共済から支払われる保険金・共済金、損害賠償額に関する紛争を対象としています。
自賠責保険・自賠責共済に、保険金・共済金・損害賠償額の支払いを請求していることが大前提です。それに対する自賠責の判断に対し不服がある場合が、対象となります。
自賠責紛争処理機構が対象とする「支払いに係る紛争」とは、次の事案です(紛争処理業務規程第2条2項)。
具体的には、次のような場合に利用されます。
特に多いのが、後遺障害等級に関する紛争です。紛争処理申請のうち、およそ 9割近くが後遺障害関連です。
自賠責紛争処理機構では、次のような事案は、紛争処理を行いません。主なものを挙げておきます。
一度、自賠責紛争処理機構に申請して裁定が出たものは、再度、紛争処理申請できないので、注意してください。
調停に不服の場合は、裁判で解決することになります。交通事故紛争処理センターや日弁連交通事故相談センターに持ち込んでも示談斡旋できません。
自賠責紛争処理機構の業務は、自賠責の判断結果が妥当であるか否かを審理するものです。
当事者からの申請により「当該紛争の調停(紛争処理)を行う<」(自賠法第23条の6第1項1号)とされています。
ここが重要な点ですが、「調停」といっても、実際は書面審査です。
紛争処理機構の調停は、当事者が出席して主張・立証し、第三者が判断を示す仲裁型の調停ではありません。他のADR機関のように、話し合いの斡旋を行うわけではありません。提出された書類にもとづき、紛争処理委員会が審査し、裁定を出します。
自賠責紛争処理機構の下した調停には、片面的拘束力があります。自賠責保険・自賠責共済側は、調停を尊重する義務があり(自賠責保険普通保険約款 第17条4項)、調停を無条件に応諾しなければなりません。
一方、被害者側は、調停に不服なら、訴訟を提起することができます。
紛争処理申請は、所定の申請書類を自賠責紛争処理機構に郵送します。申請書類は、自賠責保険・自賠責共済紛争処理機構のホームページからダウンロードできます。
紛争処理の費用は無料です。ただし、申請書類の郵送料や必要書類を取り寄せるための費用は自費です。
申請を受理すると、紛争処理機構が保険会社・共済組合から関係書類を全て取り寄せ、争点を整理し、それを紛争処理委員会の審理にかけ、結論を出す流れです。
申請をして結論が出るまで、だいたい 3~4ヵ月程度かかります。
当事者の出席は必要ありません。審理は、傍聴が許可された場合を除き、原則「非公開」と法律で決められています(自賠法第23条の13)。書面審査であること、非公開を前提に専門家に委嘱していることが、非公開の理由です。
2014年度の実績は、申請件数1,016件(被害者1,013件、加害者3件)のうち、後遺障害が903件、有無責等が113件ですから、後遺障害等級に関する申請が89%を占めます。
「平成27年度事業報告」には申請の内訳がないので、「平成26年度事業報告」によります。
申請件数 |
1,016件 |
---|---|
受理件数 | 903件(28件) |
審査件数 | 871件(109件) |
※平成26年度事業報告より。
※( )内は、過年度申請受付分。
※不受理は、書類の不備、他のADR機関に持ち込まれている、民事訴訟に係属中などが理由です。
後遺障害 | 788件 |
---|---|
(うち変更) | 69件(変更率8.8%) |
有無責等 | 83件 |
(うち変更) | 2件(変更率2.4%) |
合計 | 871件 |
(うち変更) | 71件(変更率8.2%) |
※平成26年度事業報告より。
後遺障害は、後遺障害等級に関する争いです。
有無責とは、加害者に責任がない無責事案、免責の事案です。「有無責等」には、そのほか、減額割合が不満、死亡や傷害の因果関係がないということで支払いがされなかったものが含まれます。
自賠責紛争処理機構がスタートした初年度の2002年度(平成14年)は、申請件数250件、処理件数152件に対し、変更率は21.1%でした。
ところが、2015年度(平成27年度)は、申請件数1,092件、処理件数940件に対し、変更率は9.4%と、当初の半分以下に落ちています。
2002年度 (平成14年度) |
2015年度 (平成27年度) |
|
---|---|---|
申請件数 | 250件 | 1,092件 |
処理件数 | 152件 | 940件 |
変更件数 | 32件 | 88件 |
変更率 | 21.1% | 9.4% |
近年は、審査を申請しても、結果が変わらないケースが増えています。申請件数、処理件数が増え、処理体制が相対的に弱まっていることも背景にあるのかもしれません。
紛争処理機構がスタートした当初は、審査により2割(5分の1)程度は、自賠責の判断を変更していましたが、現在では、審査の結果、自賠責の判断が変更されるのは 1割にも満たない状況です。
「公正かつ適確な解決による被害者の保護を図る」という紛争処理機構の目的と機能が、きちんと果たされているのか、疑問に感じます。
重要なのは、こういった現状の下で、どうすれば自賠責の判断を覆すことができるのか、という点です。自賠責紛争処理機構を上手に利用し、紛争処理機構の審査で納得いく結果を得るための秘訣について、ご紹介しましょう。
どうすれば自賠責の判断を変えられるのか、どんな場合に自賠責の判断が変わるのか、押さえておきましょう。
自賠責の判断とは、損害保険料率算出機構の判断です。自賠責保険会社から委託を受けた損害保険料率算出機構が、損害調査・後遺障害等級の認定をします。異議申立も、料率算出機構が再調査します。
紛争処理機構の審査は、あなたが提出する申請書類以外は、基本的に自賠責と同じ書類にもとづいて判断します。後遺障害等級の認定基準も同じです。
紛争処理機構は、損害保険料率算出機構と同じ書類を見て、同じ基準で審査するのに、どうして判断が変わるのでしょうか?
その理由について、日弁連ADRセンターが2007年2月16日に行った「日弁連特別研修会」で、近江悌二郎・紛争処理機構専務理事(当時)が、2つの点を指摘しています。
(参考:『交通事故の損害賠償とADR』弘文堂)
ここで指摘しているのは、主に後遺障害の認定に関することですが、紛争処理機構は「審査委員が充実している」という点は、広く有無責などの判断にも当てはまるでしょう。
1つは、症状や所見に対する医学的な評価が異なる場合があるからです。例えば、「この所見はもっと重視していい」「これは明らかに器質的な障害を意味する所見だから採用するべき」といった具合です。
その背景には、紛争処理機構が損害保険料率算出機構に比べて、ドクター委員が充実していることがあります。
損害保険料率算出機構は、基本的に顧問医が一人で判断することが多く、異議申し立ての審査会で初めて複数となります。それに対して紛争処理機構は、最初から複数の医師委員が紛争処理委員会に入り、審理を担当するのです。
紛争処理機構の医師委員には、整形外科・脳神経外科・眼科・耳鼻科・口腔外科・歯科・形成外科・精神神経科・リハビリテーション科などの専門医が選任されていて、申請案件ごとに、ふさわしい 2~5名の医師委員が指名されます。
そのほか、弁護士委員2~3名、事故発生原因を機械工学・人間工学の観点から再評価するため大学教授など学識経験者も加わり、多くは5~8名で紛争処理委員会が構成されます。主任委員は、弁護士が担当します。
選任される弁護士は、交通事故の損害算定に弁護士などが必携の「青本」「赤本」に名前が出てくる弁護士が多くいます。
ですから、同じ資料を見ても、損害保険料率算出機構では「パターン的に過去の先例に照らして、あるいはドクターの個性で判断されてしまう」のに対して、紛争処理機構では複数の弁護士・医師・学識経験者が「何とか救済できないかという観点で見ていく」ので、「より多面的な評価ができる」(近江悌二郎・元専務理事)というわけです。
これは、紛争処理機構に提出する書類が、自賠責に出したのと同じ書類・同じ主張でもよい、ということではありません。審査による変更率が 1%にも満たないことが、そのことを示しています。
大切なのは、紛争処理機構の審査は、より適正に判断される可能性があるので、争点となっていることに対する的確な主張と立証があれば、自賠責の判断を変更できる可能性が高まるということです。
もう1つは、自賠責の判断(損害保険料率算出機構の判断)が示されて以降、一定期間が経過していることで、判断が変わる場合があることです。
自賠責の判断が示された後、さらに治療を継続している場合があります。そういう場合には、その間の新しい医療資料があります。その間の症状の経過を見て、「これは後遺障害として評価していいのではないか」という場合があるのです。
「必ずしも当初の自賠責保険あるいは共済の判断のミスであったということではなく、その間の判断の違い、あるいは時間の経過ということで誤差が出る」(近江悌二郎・元専務理事)というわけです。
たしかに、時間の経過とともに後遺症が悪化することはあります。
しかし、この問題は「誤差」として片づけられることでなく、保険会社等が早期の治療打ち切り・症状固定を迫ることの影響が大きいと思います。被害者が十分な治療を受けられていないことが、背景にあるのではないでしょうか。
医師が症状固定と判断すると、保険会社からそれ以降の治療費は支払われません。それでも被害者は、事故の後遺症に苦しみ、治療を続けることがあります。「誤差」は、こういう現実があるからこそ生じるのです。
紛争処理機構では、審査する委員が充実し、より多面的な評価ができる条件があるので、自賠責と同じ資料を見て、同じ基準で審査しても、異なる結果になることがあり得ます。しかし、そういうケースは、極めて稀です。
自賠責に出したものと同じ内容では、結果は同じです。自賠責の判断と異なる裁定が出されることはない、と考えておくべきでしょう。
重要なのは、次の点です。
確実に自賠責の判断の変更を勝ち取るには、自賠責が判断(異議申立も含む)した時点とは異なる「新たな立証」が必要だということです。つまり、争点となっていることに対する的確な主張と立証がなされたときに、自賠責の判断を変更できる可能性があるのです。
それでは、自賠責紛争処理機構を上手に利用し、自賠責の判断を変更させるための秘訣をご紹介しましょう。
まず、紛争処理機構の利用にあたって、押さえておくべきポイントは3つです。
これをふまえ、「紛争処理機構から納得できる結果を引き出す」ための大切なポイントは、次の3つです。
紛争処理機構の審査は、当事者が出席しない書面審査だけですから、申請書類が勝負です。異議申立を通して明らかになった論点や不足していた立証資料を、申請書類で補うことが決定的に重要となります。
争点となっていることに対する的確な主張、それを裏付ける新たな立証資料がなければ、紛争処理機構に調停申請しても、結果は変わりません。
もちろん、異議申立で自賠責の判断を変更できれば、それに越したことはありません。
しかし、異議申立で納得いく結果を得られない場合は、紛争処理機構への調停申請に備えて、争点や必要な立証資料、不足している医学的所見を洗い出すために、異議申立を活用するという姿勢が大事です。
そのためには、異議申立は1回だけでなく、何度か行うことが必要な場合もあります。
最近は、1回の異議申立で見切りを付けて、紛争処理機構に持ち込む方も増えているようです。「異議申立では話にならないから」と、たんに申立先を紛争処理機構に移行させるだけ、というケースが多いのです。それが、近年、変更率が低下している要因の1つとなっているとも考えられます。
争点や必要な立証資料を明確にしないまま、自賠責に対する異議申立と同じ主張で紛争処理機構に調停申請しても、良い結果は得られません。
自賠責保険・共済紛争処理機構は、裁判前の最後の砦です。
ただし、一度裁定が出ると、同一事案で二度と利用することができず、あとは、裁判を起こすしか手はありません。紛争処理機構への調停申請は、慎重に行うことが大切です。
そのためには、利用回数に制限のない異議申立制度を活用し、争点や不足している立証資料を洗い出しましょう。
紛争処理機構の審査は書面審査です。申請書類が勝負です。異議申立を通して争点や不足している立証資料を分析したうえで、的確な主張を申請書類に記載し、新たな立証資料をそえて提出することが、紛争処理機構の審査で納得いく結果を勝ち取る秘訣です。
被害者や遺族だけで、争点や不足している立証資料・医学的所見を分析するには限界があります。自賠責に対する異議申立や紛争処理機構の調停に詳しい弁護士に相談し、的確なアドバイスを受けながら進めるのがベストです。
弁護士に代理人になってもらい、申請を任せることもできます。
弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。
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