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民事に関して紛争を生じたときは、裁判所に調停の申立てをすることができます(民事調停法2条)。
民事調停の申立てを行うと、調停が終了するまでの間は、時効は完成しません。仮に、調停が不成立で終了した場合も、終了から6ヵ月間は時効の完成が猶予されます。調停が成立したときは時効が更新し、そこから新たに時効が進行します。
民法改正(2020年4月1日施行)により、旧民法の時効の停止・中断は、新民法では時効の完成猶予・更新に変わり、民事調停の申立てにより時効が完成しない期間についても規定が変わりました。詳しく見ていきましょう。
新民法では、民事調停の申立てによる時効の完成猶予・更新について、次のように定めています(新民法147条)。
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
ちなみに、旧民法では「調停が調わないときは、1ヵ月以内に訴えを提起しなければ時効中断の効力を生じない」と規定されていました。
民法改正により、時効の中断が、時効の完成猶予・更新に変わったほか、調停が調わなかったときは、終了後6ヵ月間は時効の完成が猶予されることになったのです。
和解の申立て又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、1ヵ月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。
民事調停法19条は、調停が不成立で終了した場合には、「申立人がその旨の通知を受けた日から2週間以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす」と規定しています。
また、民事訴訟費用等に関する法律5条1項は、「民事調停法第19条の訴えの提起の手数料については、調停の申立てについて納めた手数料の額に相当する額は、納めたものとみなす」と規定しています。
つまり、調停が不成立の場合は、調停打ち切りの通知を受けた日から2週間以内に訴えを提起すれば、調停の申立てのときに訴えの提起があったものとみなされ、訴訟の手数料についても、調停申立ての際に納めた手数料相当額は納めたものとみなされ、訴訟費用から差し引くことができます。
なお、この場合も、時効の完成猶予については、新民法147条の規定の通りです。調停手続き終了後6ヵ月間は、時効は完成しません。
ただし、調停打ち切り通知を受けた日から2週間を超えて訴えの提起をした場合は、民事調停法19条と民事訴訟費用等に関する法律5条1項の適用はありません。したがって、調停申立ての手数料額を訴訟費用の一部として控除することはできません。
調停が不成立の場合、民事調停法19条は「2週間以内に訴えを提起すれば、調停の申立てのときに訴えの提起があったものとみなす」と規定し、他方で旧民法151条は「1ヵ月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない」と規定していました。
このため、調停が成立しなかった場合、時効中断の効力を生じさせるには、2週間以内に訴えを提起する必要があるのか、それとも1ヵ月以内に訴えを提起すればよいのか、が問題となることがありました。
現行の民法の規定によれば、上で説明した通りで疑問の余地はないのですが、参考までに、旧民法151条に調停申立てによる時効中断効力が盛り込まれた経緯と、旧民法151条と民事調停法19条の関係について解説します。
旧民法151条に、調停申立ての規定が盛り込まれたのは、2004年(平成16年)の民法改正のときです。民法を現代語化(口語化)するとともに、確立された判例・通説の解釈との整合を図るため、条文の改正が行われました。
もともと旧民法151条には和解についての時効中断の規定しかなく、調停申立てに時効中断の効力があるか否かが争いとなり、1993年に最高裁が、民事調停法に基づく調停の申立ても民法151条が類推適用され「時効の中断事由となる」という判断を示しました。
民事調停法に基づく調停の申立ては、自己の権利に関する紛争を裁判所の関与の下に解決し、その権利を確定することを目的とする点において、裁判上の和解の申立てと異なるところがないから、調停の申立ては、民法151条を類推して時効の中断事由となるものと解するのが相当である。
したがって、調停が不成立によって終了した場合においても、1ヵ月以内に訴えを提起したときは、右調停の申立ての時に時効中断の効力を生ずるものというべきである。
こうした最高裁判例があり、2004年(平成16年)の民法改正で、第151条に調停の申立てによる時効中断効力の規定が盛り込まれたのです。
このことについて、法務省民事局参事官室の「民法現代語化案補足説明」に、「確立された判例・通説の解釈との整合を図るための条文の改正点」として、第151条について次のような説明があります。
裁判所に対する調停の申立てについて、和解の申立てと同様に、相手方が出頭せず、又は調停が調わなかった場合には,1ヵ月以内に訴えを提起すれば時効が中断する旨を明らかにしている。
※法務省民事局参事官室「民法現代語化案補足説明」(平成16年8月4日)より抜粋。
法務省のWebサイトにリンクしています。
平成5年3月26日の最高裁判決からも明らかなように、民事調停法に基づく調停の申立ては、旧民法151条により時効の中断事由になり、調停が不成立によって終了した場合にも、1ヶ月以内に訴えを提起したときは、調停の申立ての時に時効中断の効力を生じる、と解されてきました。
それでは、民事調停法19条の規定、すなわち、調停不成立の場合、2週間以内に訴えを提起したときは、「調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす」という規定との関係をどう解釈すればよいのでしょうか?
民事調停法19条の「2週間以内に訴えを提起したときは、調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす」という規定は、一定の条件の下に調停の申立てに訴え提起の効果を擬制したもので、調停の申立てそれ自体の実体法上の効力について規定するものではないと考えられています。
(参考:司法制度改革推進本部 ADR検討会・第4回(平成14年5月13日)配布資料4-4)
「実体法である民法」と「手続法である民事調停法」との関係から、実際に時効中断の効力が問題になった場合には、民法151条が適用されます。
民事調停法19条は、ただ「2週間以内に訴えを提起したときは、調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす」と規定しているだけで、調停の申立てによる時効中断の効力を規定するものではないのです。現民法との関係でいえば、時効完成猶予の効力を規定するものではない、ということです。
裁判所への交通調停・民事調停の申立てには、損害賠償請求権の消滅時効の完成を猶予させる効力があります。調停が成立した場合は時効が更新し、調停が不成立となった場合でも6ヵ月間は時効の完成が猶予されます。
また、調停が不成立だった場合には、調停打ち切りの通知を受けてから2週間以内に訴えを提起すれば、調停申立てのときに訴えの提起があったものと見なされ、訴訟費用(訴え提起の手数料)は、調停申立てのときに納めた手数料相当額を納めたものとして差し引くことができます。
民間ADR機関への申立てには、一部を除き、時効完成猶予の効力はありません。詳しくは、交通事故ADRのメリット・デメリットをご覧ください。
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【参考文献】
・最高裁判所「裁判手続 簡易裁判所の民事事件Q&A」
・法務省民事局参事官室「民法現代語化案補足説明」(平成16年8月4日)
・司法制度改革推進本部 ADR検討会・第4回(平成14年5月13日)配布資料4-4