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泥棒運転の場合は、原則として、車を盗まれた時点で所有者の運行支配が失われ、車両の所有者は運行供用者責任を負いません。
ただし、ドアの鍵をせず、エンジンキーをつけたまま道路上に放置していた場合のように、客観的に見て、その車を第三者が運転するのを車両の所有者が容認したのと同視しうる状況がある場合は、所有者に運行支配が残っており、運行供用者責任があるとされます。
なお、車両を盗まれた時点では所有者の運行支配が残っていたとしても、事故が起きたのが、盗難から時間が経ち、場所も離れているときは、所有者の責任が否定されることがあります。
さらに詳しく見ていきましょう。
泥棒運転事故は、無断運転事故よりも、所有者の運行供用者責任を追及することが難しくなります。それは、泥棒運転と無断運転の次のような違いにあります。
無断運転というのは、自動車の所有者の同意を得ずに運転することですから、広い意味では泥棒運転も無断運転です。
それでは、いわゆる無断運転と泥棒運転の違いは何かというと、①所有者と運転者との間に人的関係があるか否か、②あとで車を返す意思が運転者にあるか否かです。
無断運転の場合は、通常、所有者と無断運転者との間に、雇用関係があったり、家族・知人であるなど、人的関係があります。しかも、「ちょっとだけ拝借して、すぐに返そう」と、返還の意思があるものです。
そのため、無断運転は、車の所有者の運行支配が認められやすく、所有者の運行供用者責任が肯定される傾向があります。
それに対して、泥棒運転の場合は、所有者と泥棒運転者の間に人的関係がないのが普通です。また、あとで車を返すつもりで盗む泥棒などいません。たいてい乗り捨てます。
そのため、泥棒運転は、車を盗まれた時点で所有者の運行支配は失われたと考えられ、所有者の運行供用者責任を問うことは難しくなるのです。
所有者と運転者の間に人的関係があったとしても、返還の意思なく、無断で使用したり、だまして借りたような場合は、泥棒運転に近くなります。
泥棒運転事故の場合は、原則として、車を盗まれた時点で保有者(所有者)の運行支配は失われ、保有者は運行供用者責任を負いません。
しかし、車両保有者の運行供用者責任が認められないと、自賠責保険から保険金が支払われません。泥棒運転者には、通常、損害賠償資力がありませんから、被害者は損害賠償を受けられず救済されません。
ですから、泥棒運転事故の被害者が損害賠償を受けるには、加害車両(盗難車両)の保有者の運行供用者責任が認められるかどうか、が大事なポイントになります。
自賠責保険は、車両保有者に運行供用者責任が発生した場合に保険金を支払う仕組です。泥棒運転者本人は、運行供用者責任を負いますが、車両の保有者ではないため、自賠責保険から保険金は支払われません。
泥棒運転事故で、保有者の運行供用者責任を問えるのは、客観的に見て、第三者が車両を運転するのを保有者が容認したのと同視し得るような状況がある場合です。
このように「客観的容認があった」といえる場合は、盗難車両であっても、保有者の運行支配が残っているとみなされ、保有者は運行供用者責任を負います。
客観的容認があったかどうかを判断する際の重要な要素は、駐停車していた場所と、エンジンキーやドアロックの状況です。
例えば、ドアに鍵をかけず、エンジンキーをつけたまま路上に放置していた場合は、客観的容認が肯定されます。道路に面した空地や囲いのない青空駐車場など、第三者の自由な出入りが可能な場所に、エンジンキーをつけたまま、ドアロックをせず駐停車していた場合も、客観的容認が肯定される傾向にあります。
それに対して、周囲を塀等で囲まれ、第三者の自由な出入りが禁止されている場所に駐停車している場合には、エンジンキーをつけたままであったり、ドアロックをしていなかったとしても、客観的容認は否定されます。
タクシー会社の構内駐車場に、エンジンキーを差し込んだまま、ドアに鍵をかけず駐車していたタクシー車両を、第三者が盗み出して起こした事故について、所有者であるタクシー会社の運行供用者責任を否定した事例があります。
最高裁判決( 昭和48年12月20日)
客観的容認があり、盗まれた時点では保有者の運行支配が残っていたとみなされる場合でも、盗難に遭ってからの時間の経過や走行距離の拡大により、保有者の運行支配は次第に失われていきます。
どれくらい経過すれば、保有者の運行支配が喪失するか明確な基準はなく、盗難後の具体的な運行状況や所有者のとった措置などから、総合的に判断します。
距離的にはガソリン満タンでの走行範囲、時間的には3~4日が限界という指摘もあります(※)。それを超えると、保有者の運行支配は失われ、保有者の運行供用者責任が否定されます。
(※『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 9ページ)
警察へ盗難被害届を提出していることも、保有者の運行支配を否定する重要な要素となります。
泥棒運転事故(窃盗車両事故)の場合、原則として、車を盗まれた時点で所有者の運行支配が失われると考えられ、所有者の運行供用者責任を問うことは困難です。
ただし、車両の盗難に客観的容認があったと判断でき、盗難に遭ってから、あまり時間が経過しておらず、盗難場所からあまり離れていない所で事故が起きた場合は、保有者の運行支配が残っていると考えられ、保有者の運行供用者責任を追及することができます。
盗難車両の起こした事故の場合、加害車両の保有者の運行供用者責任が認められなければ、自賠責保険から保険金は支払われません。保有者の運行供用者責任が認められるか否かは、自賠責保険から保険金(損害賠償額)が支払われるか否かに関わる重要なポイントです。
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【参考文献】
・『交通事故損害賠償法 第2版』弘文堂 46~52ページ
・『別冊ジュリスト№152 交通事故判例百選 第4版』有斐閣 18~19ページ
・『別冊Jurist№233 交通事故判例百選 第5版』有斐閣 12~13ページ
・『実務精選100 交通事故判例解説』第一法規 8~9ページ
・『交通事故の法律知識 第4版』自由国民社 21ページ
・『交通事故と保険の基礎知識』自由国民社 83ページ