自動車の衝突事故による建物の修繕費・修理費用の損害賠償請求

自動車の衝突事故による建物の修繕費・修理費用の損害賠償請求

自動車事故で建物が損壊したときの修繕費用・修理費用は、必要かつ相当な費用につき全額損害賠償請求できます。

※当サイトでは記事内にアフィリエイト広告を含む場合があります。

 

自動車が突っ込んで来て、家屋が損壊した場合の建物の修理費・修繕費は、必要かつ相当な範囲であれば、原則として、全額を損害賠償請求できます。自動車の修理費の損害賠償のように、車両時価額が上限となり、時価額を超える修理費は支払われない、ということはありません。

 

ただし、修理・修繕により建物の耐用年数が延長する場合、延長される耐用年数分は、損益相殺により減額されることがあります。

 

建物の修理費用は、原則として全額請求できる

建物(不動産)と自動車(動産)とでは、修理費の損害賠償に対する考え方が異なります。

 

自動車の修理費に対する損害賠償は、事故時の車両価格(車両時価額)が上限となります。車両時価額を超える修理費は、損害賠償を受けられません。

 

自動車は動産です。修理費が車両時価額を上回るような場合は、修理に余計なお金をかけなくても、同等の中古車に買い替えることで損害を回復できるので、修理するより買替えの方が合理的というわけです。

 

それに対して、建物は不動産ですから、自動車のように簡単に買替えはできません。

 

建物の残存価値よりも修理・修繕費用が高額となるからといって、建物を取り壊し、そこに同価値の建物を建築したり、同等の中古物件を買って移設するといったことは、現実的ではありません。同価値の中古物件を買って、移転・引越しすればいい、というのは論外です。

 

ですから、建物の損壊については、必要かつ相当な範囲の修理費であれば、基本的に修理費用が全額、賠償すべき損害として認められるのです。

 

相当な範囲の修理であれば、原状回復がなされたにすぎない、と判断されます。経過年数を考慮して減額したり、建物の時価評価額を修理費用の上限とするようなことはありません。

 

例えば、次のような裁判例があります。

 

東京地裁判決(平成7年12月19日)

修理により耐用年数が延長され、あるいは、価値の増加により被害者が不当利得を得たような場合であれば格別、相当な範囲の修理を施しただけの場合には、原状回復そのものがなされたにすぎないというべきであるから、これについて、改めて経過年数を考慮し、減価償却をなすのは相当ではない。

 

前段で「修理により……被害者が不当利得を得たような場合であれば格別」とあるように、修理をしたことで耐用年数の延長や価値の増加があった場合は、事情が異なります。「被害者が不当利得を得たような場合」というと言葉は悪いですが、次のようなケースのことです。

修理や建替で建物の耐用年数が延長すると損益相殺もある

修理や建替えにより、耐用年数が延びたり、価値が増加したり、被害者が損害を上回る利益を得たと見なされる場合は、損益相殺により修理費・修繕費が減額されます。

 

耐用年数の延長を不当利得と認定し損益相殺した例

修理により耐用年数が延長されるして、損益相殺した例として、次のような裁判例があります。

 

名古屋地裁判決(昭和63年3月16日)

築26年の店舗兼住宅が自動車事故で損壊した事案で、修理により耐用年数が10年延長されると認定し、修理代から19%(1年あたりの減価率を1.9%とし、1.9%×10年=19%)減額しました。

 

耐用年数の延長にともなう不当利得を否定した例

「耐用年数の延長部分が不当利得になる」という加害者側の主張を否定した例として、次のような裁判例があります。

 

神戸地裁判決(平成13年6月22日)

大型貨物自動車が家屋に衝突した事故で、建物の修理費用につき、加害者から、修理工事にともなう耐用年数の延長部分が不当利得になる旨の主張がなされましたが、判決は「これを認めるに足る証拠はない」と否定しました。

 

しかも、判決は、建物の修理費の他に、建物の修理が完了するまで居住した賃貸アパートの家賃・仲介手数料・駐車料金・退去時修理費を損害として認め、長年住み慣れた自宅を離れて約半年もの間アパート生活を余儀なくされ、高齢の居住者に生活の不便があったこと等の諸般の事情を考慮して、精神的苦痛に対する慰謝料を損害として認めました。

新築建物の場合は評価損が認められることもある

損傷した建物が、新築後間もない建物であった場合、修理によって安全面や機能面で問題がなくなったとしても、心理的要因から不動産の価値が低下するため、評価損が認められる場合があります。

 

例えば、次のような裁判例があります。

 

大阪地裁判決(平成27年8月27日)

販売中の新築建売物件に自動車が衝突し、建物の通し柱の基礎部分に損傷が生じたり土台がずれたりし、壁など複数の箇所に亀裂が生じただけでなく、2階のバルコニーにもひび割れが生じた事案です。

 

本件建物は、修理工事によって安全面や機能の点では特に問題はなくなったとみられるものの、そのような大規模な修理が必要な損傷を受けたということは、不動産の評価に当たり考慮されるべきであるし、心理的な要因からもその不動産の価値は低下したといわざるを得ない。

 

新築建物の損傷という点を考慮した場合、その価値の低下は決して軽視することができず、本件建物の評価や修理費の額等を考慮して、270万円の評価損を認めました。

まとめ

建物の修理費用は、必要かつ相当な範囲で全額が損害として認められます。修理費用が建物の評価額を上回るからといって、修理費用の上限額が時価額となることはありません。

 

ただし、修理や建替えにより建物の耐用年数が延長され、被害者が利益を得るような場合は、耐用年数の延長部分が不当利得とみなされ、損益相殺により、損害額から減額されることがあります。

 

建物の修理費用のほかにも、修理期間中に借りたアパートの賃料等や、修理期間中の生活の不便に対する慰謝料が認められることもあります。

 

交通事故による被害・損害の相談は 弁護士法人・響
 

弁護士法人・響は、交通事故被害者のサポートを得意とする弁護士事務所です。多くの交通事故被害者から選ばれ、相談実績 6万件以上。相談無料、着手金0円、全国対応です。


交通事故被害者からの相談は何度でも無料。依頼するかどうかは、相談してから考えて大丈夫です!


交通事故の被害者専用フリーダイヤル

0120-690-048 ( 24時間受付中!)

  • 無料相談のお申込みは、こちらの専用ダイヤルが便利です。
  • メールでの無料相談のお申込みは、公式サイトの無料相談受付フォームをご利用ください。

※加害者の方や物損のみの相談は受け付けていませんので、ご了承ください。

 

【参考文献】
・『Q&Aと事例 物損交通事故解決の実務』新日本法規 140~141ページ、237~241ページ
・『物損交通事故の実務』学陽書房 84~85ページ
・『要約 交通事故判例140』学陽書房 292~293ページ
・『交通事故損害賠償の手引』企業開発センター 64ページ

公開日 2021-10-31 更新日 2023/03/18 13:28:15